憂慮する科学者同盟(UCS)ブログ 2013年9月10日
人々のためになる化学物質安全法

情報源:Union of Concerned Scientists (UCS)
The Equation, September 10, 2013
A Chemical Safety Law That Works for the People
Celia Wexler, senior Washington rep., Scientific Integrity
http://blog.ucsusa.org/a-chemical-safety-law-that-works-for-the-people-234

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年12月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/UCS/130910_usc_A_Chemical_Safety_Law_for_People.html


 予防原則を思い起こそう。それは、ある製品又は技術が引き起こすかもしれない危害について、たとえ科学的に不確実性があっても、我々はその安全性が示されるまで、公衆と環境をその危害への暴露から防止する措置を取るべきであるとするアプローチであると言われている。それが有害ではないということを証明するのは、それを使用又は販売したいと望む事業者の仕事である。

 10年前、欧州連合は、この予防原則を市場に出ている化学物質に対するアプローチの要(かなめ)にしようと考えた。

 当時、ブッシュ政権は予防原則が大嫌いであった(Precaution Is for Europeans: By SAMUEL LOEWENBERG : NYT, May 18, 2003 )。”我々はそれを神話的な、おそらく一角獣のような概念であるとみなしている”と、当時の大統領府行政管理予算局情報規制問題室長であったジョン・グラハムは2003年にEUの規制当局に述べた。

 確かに、予防原則はアメリカの法が化学物質を規制するやり方では機能していなかった。1976年に制定された有害物質規制法(TSCA)では、本質的に市場にある全ての化学物質は、有罪であると証明されるまでは無罪であると考える。そして証明するのは化学物質製造者ではなく、環境保護庁(EPA)であるとしている。

安全には届かない(Safety isn’t a reach)

 しかしヨーロッパでは2007年に、一角獣への信頼に固執した。2007年に EU は REACH(化学物質の登録、評価、認可、及び制限)を立ち上げた。REACHは、年間1トン以上製造される全ての化学物質は登録され、安全情報を含めなくてはならないと求めている。新規化学物質はすぐに登録され安全データが提供されなくてはならない。年間1トン以上製造される既存化学物質も登録され情報が提供されなくてはならないが、その期限は11年以内で、製造量と潜在的な有害性により異なる。年間10トン以上製造される高生産量化学物質はもっと厳しい報告要求を満たさなくてはならない。
REACH.png(106288 byte)
spacer2x2.gif(809 byte)
欧州聯合は REACH を通じて、いかにして正当な安全保護と経済権益とのバランスをとるかを世界に示した。(photo:欧州連合)
 ”非常に高い懸念のある化学物質(高懸念化学物質)”は、販売するためには欧風委員会からの認可が必要である。認可されるためには、その化学物質の製造者は、そのリスク管理計画が人の健康に及ぼす潜在的な危害を管理することができることをEUが満足するよう示さなくてはならない。たとえいくらかのリスクが残っていても、もしその化学物質の社会経済的な便益がそのリスクに勝るとEUが決定すれば、EUは認可するかもしれない。プラスチック製品、化粧品、洗剤、その他の消費者製品など広範に使用されているフタル酸エステル類は、体内のホルモンレベルへの影響及び我々の生殖系への潜在的な有害性について科学者らの間に深刻な懸念を提起している。EPAはそれらの使用を制限することはできなかったが、EUの規則当局は、3種類のフタル酸エステル類を”高懸念化学物質”と指定し、使用のために特別の認可をすることを勧告した

TSCAと正反対(The opposite of TSCA)

 REACH は事実上、TOSCAの正反対のものである。REACHは、会社に安全性を示すことを求め、それらの立証責任の大部分を彼らに求める。一方TSCAは、ある化学物質が安全ではないことを示すいくらかの証拠を集めてから初めて、会社に対して特定の化学物質について2年から10年かけて、もっと多くの情報を提供するよう求める規則の開発に着手することを求める。新規化学物質については、手持ちのデータをEPAに提出することだけが求められる。その結果、アメリカでは数万の化学物質がその安全性又は可能性ある有害性(ハザード)について不十分な情報のまま販売され、使用されている。

 REACHは、アメリカ及びヨーロッパの化学産業による激しいロビーイング・キャンペーンの標的であった。ドイツの化学産業はコンサル会社 Arthur D. Little にREACHの経済的影響を見積もるよう依頼した。その調査はドイツで200万以上の失業を予測した。その調査は後にドイツの経済学者によりその誤りを非難されたが、それは新たな規則による便益を一切含めなかったことがその理由の一部である。非常に有害な化学物質に替わるより安全な物質を見つけることを確実にするというREACHの当初の目標のひとつは、最終的なREACH立法において薄められた。それにもかかわらず、環境と健康分野の活動家による活発な草の根キャンペーンのおかげで、REACHはすぐさま殺されることななく、力を発揮し始めた。

 REACHはまだ実施中であるが、今年、欧州委員会は、そのより厳しい規則がヨーロッパの化学物質を”かなり安全”なものにしたとの声明を発表した。EUは、ヨーロッパで市場に出ている8,000近くの化学物質に関する安全性及びその他のデータを収集した。そしてヨーロッパの化学物質産業界は、REACH が経済的活力をもって共存できることを示しつつ、不況から立ち直った。

著者について:Celia Wexler は、UCSの科学の健全性イニシアティブの上席ワシントン代表である。先の受賞ジャーナリストWexler は、2012年に McFarland から出版されたOut of the News: Former Journalists Discuss a Profession in Crisis の著者である。 UCS におけるWexlerの取り組みは、食品と医薬品の安全性、不正を告発する科学者 の擁護、及び政府の透明性と説明責任である。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る