DeSmog 2024年2月15日
報告書:プラスチックと石油業界は 50年以上
リサイクル利用で国民を騙していた

業界はプラスチックがリサイクルできないことを知っていたにもかかわらず、
可処分利益を増やすためにそれを宣伝し、大手タバコ社の欺瞞キャンペーンに同調した。
アダム M. ローウェンスタイン

情報源: DeSmog, February 15, 2024
Report: Plastics, Oil Industry Deceived Public
on Recycling Use for More Than 50 Years

Industries knew plastics could not be recycled,
yet they promoted it to boost disposability profits,
echoing Big Tobacco’s campaigns of deception.
By Adam M. Lowenstein
https://www.desmog.com/2024/02/15/recycling-plastic-
center-for-climate-integrity-report-fraud/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2024年2月28日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/news/240215_DeSmog_Report_Plastics_
Oil_Industry_Deceived_Public_on_Recycling_Use_for_More_Than_50_Years.html



『プラスチックリサイクルの詐欺(The Fraud of Plastic Recycling)』報告書は、大手石油会社とプラスチック業界が、プラスチックのリサイクルは大規模では技術的にも経済的にも実行不可能であるという長年の知識にもかかわらず、50年以上にわたってプラスチック廃棄物管理の解決策としてリサイクルを欺瞞的に推進してきたことを示している。クレジット: Flickr RawPixel
 衝撃的な新しい報告書では、プラスチック業界がプラスチック・リサイクルの実現可能性について数十年にわたり国民を誤解させ、メカニカルリサイクル(訳注:PET ボトルの例:回収された使用済み PETボトルを選別、粉砕、洗浄して表面の汚れ、異物を十分に取り除いた後に高温下で処理して、樹脂内部に留まっている汚染物質を揮発させ除染を行ない、更にボトル成形やリサイクル工程中に低下した分子量をボトル成形に適したレベルに回復する手法である。PET ボトルリサイクル推進協議会)が不可能であるにもかかわらず再利用を促進し、今日世界が直面しているプラスチック廃棄物の危機を永続させてきたことが判明した。

 化石燃料産業の責任を追及するための法的措置を主張する非営利団体、気候健全性センター (Center for Climate Integrity (CCI))の報告書によると、”プラスチック業界は、プラスチックを販売するためにアメリカ国民にプラスチックのリサイクルを『販売』してきた”という。 CCIは声明で、『プラスチックリサイクルの詐欺:巨大石油会社とプラスチック業界はどのようにして何十年も国民を騙し、プラスチック廃棄物危機を引き起こしたか(The Fraud of Plastic Recycling How Big Oil and the plastics industry deceived the public for decades and caused the plastic waste crisis)』と題されたこの研究には、”化石燃料やその他の石油化学会社の嘘や欺瞞の責任を追及する法的取り組みの基礎を提供できる証拠が含まれている”と主張している。

 石油化学会社とプラスチック業界は、プラスチックをリサイクル不可能にする技術的及び経済的な限界を半世紀以上前から認識していたが、”それらを克服できていない”と報告書は述べている。 ”このような知識にもかかわらず、プラスチック業界は、プラスチックのリサイクルに関して消費者、政策立案者、規制当局を欺くための綿密なキャンペーンを実施しながら、プラスチックの生産量を増やし続けてきた。”

 ”この証拠は、自社の製品がどのように気候変動を引き起こすかを知っており、何十年も嘘をついていた化石燃料会社の多くが、プラスチックのリサイクルについても知っており、国民に嘘をついていたことを示している”とCCIのリチャード・ワイルズ代表はプレスリリースで述べた。 ”石油産業の嘘は、人類史上で最も壊滅的な2つの汚染危機の中心にある。”

 世界最大手の石油・ガス会社を含むプラスチックメーカーや業界団体は、規制措置を回避するために50年以上資金を投入し、プラスチックリサイクルを推進してきたが、その一方で、プラスチック廃棄物のほんの一部しかリサイクルされないことを承知していた。

 使い捨てがプラスチック生産の需要の永続化に貢献したため、石油化学メーカーは 1950 年代の初めから使い捨てプラスチックに多額の投資を開始した。 CCIによると、その後数十年にわたり、業界は利益を維持しながら世間の圧力を軽減することを目的とした一連のだましでプラスチック廃棄物に対する国民の懸念に応え始めた。

 プラスチック廃棄物に対する業界の初期の「解決策」のひとつは、単に廃棄物を埋め立て地に集めることであった。 プラスチックは「生分解しない」と業界団体であるプラスチック産業協会(Society of the Plastics Industry /SPI)の会長は1970年代に明言した。 その結果、廃棄物は”ただそこに放置しておけばよい”。これで問題が解決した。

 埋め立てでは国民の不安を鎮めることができない場合、常に焼却が行われてきた。”プラスチック容器のリサイクル? 素晴らしいアイデアだ”とアメリカン・キャン(American Can Company)の幹部は1971年に語った。”しかし、それを焼却してエネルギーにリサイクルしよう。”

 埋め立ても、いわゆる「廃棄物をエネルギーに変える」焼却も消費者や政策立案者を満足させることができなかったとき、業界はリサイクルに全力を尽くした。

 1980年代初頭、プラスチック産業協会(SPI) は、石油化学メーカーがプラスチック廃棄物の課題を自ら解決しており、議員や規制当局が介入する必要はないという主張を広めるため、エクソン・ケミカルもメンバーであった業界団体、プラスチック・リサイクル財団(Plastics Recycling Foundation /PRF)を創設した。

 しかし、業界の科学者たちは、ほとんどのプラスチックはリサイクルできないこと、さらには、古いプラスチックを再利用するよりも新しいプラスチックを製造する方が費用効率が高いことを何十年も前から知っていた。

 ”リサイクルは、物品が廃棄されるまでの時間を単に延長するだけなので、永続的な固形廃棄物解決策とみなすことはできない”と、別の業界団体であるビニール協会(Vinyl Institute)のファクトシート草案は 1986 年に結論付けていた。数年後、同団体の創立取締役は会見で”リサイクルは永久に続けることはできず、固形廃棄物問題は解決しないと認めた。

 しかし、ほとんどのプラスチック廃棄物を実際にリサイクルする方法を科学者たちがまだ解明していないという事実よりも、公共政策の方が業界の利益にとってはるかに大きな脅威であった。

 ”それは間違いない。私たちがリサイクルを検討する最大の理由は法律である”とプラスチック・リサイクル財団(PRF)の常務取締役 (兼デュポンの営業責任者) のウェイン・ピアソンは 1988 年に述べた。

 CCIの報告書は、1990年代初頭までに、”業界はメカニカルリサイクルが実行可能な解決策ではないことを知っていたが、プラスチック廃棄物とその環境への影響に対する新たな懸念により、リサイクルが懸念を解決できると国民に信じてもらう必要があった”としている。

 業界が支援する連合組織、研究機関、業界団体、及び隠れ蓑団体の数は急速に増加した。 1988年、SPI は表向き、消費者がプラスチックをさまざまなグループに分別するのを支援するために、リサイクルのシンボルである『追いかける矢』の三角形で数字を囲んだ、今ではどこにでも普及しているラベル表示システムを導入した。 CCIによれば、規制当局やリサイクル団体は、この制度を”必要としなかったし、場合によっては積極的に反対した”という。

 ある業界団体は、番号付けを義務付ける法律に対する業界の支持は、プラスチック使用の「禁止を阻止する」ための明確な努力だったと述べた。

 環境汚染を緩和するためのリサイクルの失敗に関する真実を隠すことが、現在世界中で水路を詰まらせているプラスチック廃棄物危機を引き起こした。

 ”石油大手とプラスチック業界によるプラスチックのリサイクルについて国民を騙す数十年にわたるキャンペーンは、消費者と国民を企業の不正行為や環境汚染から守ることを目的とした法律に違反している可能性が高い”と CCI の副代表で法務顧問のアリッサ・ジョールはプレスリリースで述べた。

 プラスチックリサイクルに関するこの錯乱状態と誤った情報の歴史を文書化した CCI 報告書は、新世代の消費者にその物語を広めようとする業界の取り組みに関する新たな暴露と並行して行われている。

 たとえば、最近のワシントン・ポストの調査では、人類は継続的なプラスチック生産に依存しており、プラスチック廃棄物の解決策は禁止ではなく、リサイクルなどの取り組みであることを生徒に説得するために、業界の科学者や代表者を学校に派遣するプラスチック技術者協会財団(Society of Plastics Engineers Foundation)によるキャンペーンが明らかになった。

 ワシントン・ポストによると、このプログラムの「PlastiVan」は年間100以上の学校を訪問し、”プラスチック伝道者のチームがポリマーの素晴らしさを若い聴衆に説いている”という。

 一方、保守系メディア運営のPragerUは、”少なくとも 5つの州の公立学校の教師に対し、プラスチックは実際に環境に貢献するため、プラスチックを大量に使用することに罪悪感を感じるべきではないと生徒たちに確信させる授業ビデオを提供している”とワシントン・ポストは報じた。

 プラスチック禁止や石油化学産業の利益を脅かすその他のキャンペーンへの支持を弱体化させようとするこうした取り組みは、少なくとも 1990 年代半ばにまでさかのぼる。当時、米国プラスチック協会(American Plastics Council (APC) )などの業界団体が、学校が独自にプラスチック リサイクルの取り組みを始めるのを支援する資料を学校に配布していた。 CCI 報告書は次のように述べている。 (「中級レベルの科学学生」を対象とした APC の 1994 年のプログラムは、「プラスチック実践: 科学調査キット」と呼ばれていた。)

 この時点までに、規制ではなくリサイクルをプラスチック廃棄物の解決策として表現する業界の取り組みはおおむね成功していることが証明されており、一部の経営幹部は、それ以上何もしなくてもプラスチックのリサイクルについて話し続けることができると結論づけた。

 エクソン・ケミカル社の重役アーウィン・レボウィッツは、1994年のAPCスタッフ会議で、プラスチックのリサイクルに関して”我々は活動には熱心だが、結果はコミットしていない”と語った。

 それ以来、新しいプラスチック生産の利益を倍増させながらリサイクルの約束を促進する業界の取り組みは、ほとんど中断されることなく続けられている。

 CCIの報告書は、プラスチック廃棄物に対する国民の新たな懸念への対応として、過去 10年間に業界主導のリサイクルキャンペーンが強化されたのは偶然ではないと示唆している。

 石油化学メーカーの最新戦略であるケミカル(化学的)リサイクル、または「高度な(advanced)」リサイクルは、CCIが説明するように”プラスチックを化学成分にまで分解”できると主張するプロセスである。

 しかし、DeSmogが昨年報告したように、高度なリサイクルは業界の概念であり、科学的な概念ではない。 実際、CCI によれば、”『高度なリサイクル』は、石油化学会社が引き起こしたプラスチック廃棄物危機に伴う反発から石油化学会社を守ることを目的とした業界の最新の誤った解決策である。”

 ”企業や業界団体が自社の製品が社会に重大なリスクをもたらしていることを知り、それについて国民や政策立案者に嘘をついた場合、責任を問われなければならない”と CCI のワイルズは述べた。 ”説明責任とは、嘘をやめ、真実を語り、彼らが引き起こした損害を支払うことを意味する。”


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