Environmental Health News (EHN) 2023年8月28日
友達の生まれたばかりの赤ちゃんのために、
堆肥化できるぬいぐるみを縫ってみたが
うまくいかなかった

繊維製品では、プラスチックや合成化学物質は避けられない
アリソン・ガイ
(リポ―ティング・インターン EHN)
情報源:Environmental Health News, August 28, 2023
I tried to sew a compostable stuffed animal
for my friend's newborn. It did not go well.

In textiles, plastics and synthetic chemicals are inescapable.
By Allison Guy
A reporting intern at Environmental Health News
https://www.ehn.org/what-fabrics-release-microplastics-2664198681.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年9月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/news/230828_
EHN_I_tried_to_sew_a_compostable_stuffed_animal.html



 それは 2022 年 3 月のことで、親友のベビー シャワー(訳注:出産前に妊婦を祝うパーティー行事・イベントである。・・・シャワーとは、降り注ぐ、という意味で、妊婦に祝福の気持ちを降り注ぐ、という意味合いが込められている。/ウィキペディア)が近づいていたので、プレゼントに何を作ろうかと考えていた。クジラのぬいぐるみ を 1つか 2 つにしよう。

 私の友達はクジラが大好きで、私は裁縫が大好きである。 母親になる人はクジラのぬいぐるみを大喜びで受け取ってくれたが、私はいろいろ知るにつれて、私自身の満足感が薄れていった。

 ほとんどの子ども用おもちゃには寿命がある。 子どもたちは成長し、おもちゃはどこかに消えてしまう。 しかし、クジラの生地や詰め物に使われているポリエステル(訳注:多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)とを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成された縮合重合体である。合成繊維やペットボトルの材料として普及している。ウィキペディア)やスパンデックス(訳注:ポリウレタン弾性繊維の一般名称である。伸縮性に極めて優れ、混紡率が低くても特性を失わないため、様々な繊維との組合せで使用される。日本でエラステイン、エラスタインと呼ばれることもある。商品の取り扱い表示には、日本では主に「ポリウレタン」と表記される。ウィキペディア)の繊維は、数十年、数世紀、さらには数千年も長持ちするであろう。 ポリエステルは、水や飲料のボトルに使用されているものと同じポリエチレンプラスチックから紡がれる。 一方、スパンデックスの一部は低反発マットレスの主成分であるポリウレタンから作られている。 石油ベースの繊維は、ウールや綿のように容易に生分解されず、より小さなプラスチック片に分解される。 繊維製品はマイクロプラスチック汚染の主な発生源である。 2023年6月の調査によると、私たちは毎週、クレジットカード約1枚分の浮遊プラスチック繊維を吸い込んでいるという。

 私は、ポリエステルの単繊維が新生児の肺に漂ったり、排水溝に流れ込み、最終的には海に行き着き、オキアミのような小さな生き物やザトウクジラのような巨大な生き物に摂取されることを想像した。

 私は、プラスチックを使用せず、完全に家庭で堆肥化できる新しい、より優れた、改良されたクジラのぬいぐるみのセットを作ろうと決心した。 私がしなければならなかったのは、綿 100% の生地を調達し、綿とカポック (熱帯雨林の木の種さやから取れる天然繊維) を詰めて、綿糸で赤ちゃんに安全な目を刺繍することだけであった。 すべての切れ端は裏庭の堆肥の山に送られ、ゆっくりとオーガニックガーデンの土に変わるであろう。実に簡単なことに思えた。

柔らかくてふわふわ、そしてプラスチックがいっぱい

 ぬいぐるみは何よりも抱きしめたくなるものでなければならない。そして、私はクジラを作ろうとしていたのだから、クジラは青である必要があった。私は、青色で適度にふわふわした生分解性の生地を探した。

 綿とアンゴラヤギの毛で作られたドイツのテディベア生地は魅力的な選択肢であったが、1ヤード(約0.91メートル)あたり 150ドル(約22,000円)かかった。 私が見つけた他の適切な毛皮のような綿生地には、何らかのプラスチックが含まれていた。 愛らしくて撫でられるオーガニックコットンのビロード? ポリエステル 5パーセント。 あのウーリーコットンの”シェルパ”生地?(訳注:羊のようにモコモコしたボリューム感のある見た目と、優れた保温性を特徴とする、ポリエステル製のボア素材のこと/グラミチ) ポリエステル 20%。 ついに、信じられないほど素晴らしいものを見つけた。それは、ふわふわした淡青色の綿 100% 生地である。 私は 1ヤード分を注文し、到着を待って裁断と縫製を始めた。

 何かがおかしい。 作業をしていると、生地の繊維が伸びたり、綿らしくない状態で切れたりした。 困惑して、私はライターを手に取り、切れ端を燃やした。 綿のように燃えて灰になるのではなく、溶けてしまった。 生地の取り扱い業者に手紙を書いたところ、その布地のラベルが間違っていたという悪い知らせを受け取った。それは重量で 5%のスパンデックスであった。

 方向転換するには遅すぎた。 4月に友人の赤ちゃんが誕生し、ほとんどプラスチックを使用していないクジラは丁重に歓迎されたが、私は化石燃料産業に勝利宣言をさせるつもりはなかった。新しい知識を武器に、私は本当に堆肥化可能なおもちゃを作ることに夢中になった。 あるいはそう思った。

抱きしめたくなる危険

 実験から 1年後、私はどこで間違ってしまったのかを理解するために、持続可能性の専門家であるオールデン・ウィッカーさんに話を聞いた。 ウィッカーさんは、ファッション業界におけるほぼ完全に規制されていない合成化学物質の世界を調査した”To Dye For”の著者である。

 ウィッカーさんによると、私の最初の間違いは、生地のラベルにその生地の製造に関わるすべての全体像が記載されていると思い込んでいたということであった。 ”綿 100% と正しく表示されている生地には、実際にはほとんどの場合、染料や仕上げ剤が加えられている”と彼女は述べた。 ”生地の染料と仕上げ剤は、その内容とその目的に応じて、生地の重量の最大 8% になる場合がある。”

 ウィッカーさんは洗えるウールの例を挙げた。 このプロセスでは、ウール繊維を塩素ガスで処理し、石油由来の樹脂でコーティングする。 この樹脂の製造に使用されるエピクロロヒドリンは、米国環境保護庁によってprobable carcinogen(おそらくヒト発がん性がある)物質として分類されている。 時間の経過とともに、このコーティングは剥がれ落ち、空気、水、家庭内の塵の中に入る。

 環境と人間の安全性に関して高い基準を満たしていると認定されているエコテックス生地でさえ(訳注:エコテックス( OEKO-TEX)は、日本の安全基準をはるかに超える、350種以上の有害物質を対象とした世界最高水準の安全な製品の証明をはじめ、生産にたずさわる人や環境への負荷にも配慮したサステナブルな工場の認証など、繊維ビジネスにおける、世界に通ずる安全の証です。OEKO-TEX/エコテックスの日本公式サイト)、危険とされるレベルを下回るとはいえ、合成化学物質が含まれている可能性があるとウィッカーさんは説明した。 ”あなたは有機栽培の庭にそれらを望まないでしょう”とウィッカーさんは言った。

 ”線維製品に合成化学物質がまん延しているため、私のようなファッションデザイナーや工芸家には選択肢がほとんどない。石油化学物質を含まない、すべて天然の繊維が必要な場合は、潜在的に無染色、無漂白の綿、または非常に最小限の加工で地元で育てられたウールを探す必要がある”とウィッカーさんは言った。

 ここでの問題はそれを入手できるかどうかであった。私が探した限り、ウール 100% のテディベア風の生地は存在しない。 そして、ウィッカーさんが勧めた、自然に生彩のある(naturally colorful)、染料を必要としない綿については、ゴージャスではあったが、適切な青やふわふわではなかった。

悔しさを染める

 2022 年の夏、私は解決策を見つけたと思っていた。 何日もかけて生地のウェブサイトを探し回った後、私はその条件に合いそうなものを見つけた。毛むくじゃらのティールブルー(鴨の羽色、緑がかった青色)のオーガニックコットン 100% 生地で、1 ヤードあたり 40 ドルというほぼ手頃な価格の生地だった。

 問題もあった。 この生地を販売していた唯一の会社は、繊維工場が価格を値上げしたため、その生地を提供しなくなっていた。 私はモンタナ州の地元の生地店に、地球上にあと数ヤード残っていたであろう生地を急いで注文した。

 何度も縫ったり、詰め物をしたり、指を刺したりした後、ドイツ製のガラスの目から韓国綿のコール天のお腹までプラスチックを一切使用していない、本当に堆肥に安全なクジラだと思われるものがついに完成した。 小さな生地が山ほど残っていたので、売ってお小遣いにしようと大小のクジラを縫い始めた。 その間ずっと、私の堆肥はふわふわした青い端切れとコール天のほつれの破片でいっぱいになった。 私は、高潔ではないにしても、少なくとも少し独りよがりな気持ちになった。 それを受け入れてください、ビッグオイル。

 生地の美しい青緑の色合いが気になり始めるまでは、この色は染料から来ているが、その染料が赤ちゃんや庭に安全かどうかは全くわからなかった。 当初私は、染料は生地のごく小さな成分なので、大きな害を及ぼすことはないと考えていた。 しかし、知れば知るほど私の思い込みは消えていった。

 ”特に明記されていない限り、ほとんどすべての染料は化石燃料から作られる石油化学染料であり、合成染料です。あなたはそれらを堆肥に入れたくないでしょう?”とウィッカーさんは言う。

 合成染料は生分解性が低く、繊維労働者を病気にしたり、地元の水路を汚染したりする可能性があり、皮膚疾患やがんなどの健康被害につながる。 これらのリスクに加えて、色をより鮮明にするために鉛やカドミウムなどの有毒な重金属が染料に添加される可能性があるとウィッカーさんは述べた。

 もし私が本当にシロナガスクジラ( blue whale)が欲しかったなら、最も安全な選択肢は、おそらくいくつかの植物種のうちのひとつに由来する色素、天然インディゴを使用することであったとウィッカーさんは言った。

 1年前、私も同じ結論に達したが、最終的には諦めた。インディゴ(訳注:アメリカにおける主な用途は綿製の服やジーンズの染色である。天然インディゴの大部分は熱帯植物のコマツナギ属から得られる。1900年ごろに合成インディゴがとって代わり、今日ではほぼ全てが合成品である。ウィキペディア)での染色は、長くて面倒で不快なプロセスである。 材料費と人件費を考慮すると、藍染めの場合、小型クジラ 1 頭の価格は 100 ドル以上に跳ね上がるであろう。 私は、女性一人の織物工場になるのではなく、かわいいクジラ類を数匹縫い合わせたかったのである。

個人の行動だけでは不十分な場合

 私は、パターンの作り方、曲線でステッチする方法、長さ 4 インチの人形針を使って目を刺繍する方法 (痛い) など、縫製についてもっと学ぶことを期待してこのプロセスに取り組んだ。 しかし私が学んだ教訓は、虫ずの走るようなものであった。

 化学産業は私たちの生活の隅々にまで浸透しており、最も無害な品目さえも私たちの健康に潜在的な危険をもたらすものに変えている。 現在世界中で使用されている 35 万種の合成化学物質を政府がより適切に規制するまで、私たち消費者は、がん関連の食品包装やホルモンかく乱性の住宅などの世界を右往左往することになる。

 私自身が堆肥になったずっと後も、私のクジラの実験は何らかの形で残り続けるであろう。 マイクロプラスチックの散布。 にじみ出る怪しい染料。 誰も残したくない遺産。

著者について:

 アリソン・ガイ(Allison Guy)は、Environment Health News のインターン記者で、プラスチック汚染、石油化学産業、有害物質と慢性疾患の交差点をカバーしている。 過去 10 年間、彼女は人権および環境非営利団体のライターおよびコミュニケーターとして働いており、最近ではアメリカン フォレストで働いている。



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