Neuroscience News 2023年4月21日
わずか2時間後にマウスの脳内で
小さなポリスチレン粒子が検出される


情報源:Neuroscience News, Apr 21, 2023
Tiny Polystyrene Particles Detected in the Brain
Just Two Hours After Ingestion

By Karin Kirschbichler, University of Viennar
https://neurosciencenews.com/polystyrene-brain-23079/

オリジナル研究:
Micro- and Nanoplastics Breach the Blood-Brain Barrier (BBB):
Biomolecular Corona’s Role Revealed” by Lukas Kenner et al.


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年6月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/news/230421_NN_Tiny_Polystyrene_
Particles_Detected_in_the_Brain_Just_Two_Hours_After_Ingestion.html

概要

 摂取から 2 時間後には、食品の包装に広く使用されているプラスチックであるポリスチレンの小さな粒子が脳内で検出される可能性がある。これらのプラスチック粒子は、神経炎症や神経変性のリスクを高める可能性がある。(情報源:ウィーン大学)

 この研究は、食品包装にも使用されているプラスチックであるポリスチレンのマイクロ及びナノプラスチック粒子 (MNPs) をマウスに経口投与して実施された。

 ルーカス・ケナー(Lukas Kenner) (オーストリア、ウィーン医科大学病理学部門及び獣医大学実験動物病理学部門)とオルダムル・ホロツキ(Oldamur Holloczki)(ハンガリー、デブレツェン大学物理化学部門) が率いる研究チームは、小さなポリスチレン粒子が摂取後わずか2時間で脳内で検出できることを実証した。

 それらが血液脳関門を突破することを可能にするメカニズムは、これまで医学では知られていなかった。

 ”コンピュータ・モデルの助けを借りて、プラスチック粒子が脳に侵入するのに特定の表面構造(生体分子コロナ)が重要であることを発見した”とオルダムル・ホロツキは説明した。

健康への影響を研究中

 血液脳関門(blood-brain barrier)は、病原体や毒素が脳に到達するのを防ぐ重要な細胞関門である。 さまざまな科学的研究が証明しているように、腸にも同様の保護壁 (腸関門 intestinal barrier) があり、MNPs によっても突破される可能性がある。

 体内のプラスチック粒子の健康への影響について、集中的な研究が行われている。 消化管における MNPs は、局所的な炎症反応や免疫反応、がんの発症とすでに関連付けられている。

 ”脳内ではプラスチック粒子が炎症、神経障害、さらにはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患のリスクを高める可能性がある”とルーカス・ケナーは述べ、この分野ではさらなる研究が必要だと指摘した。

MNPs の使用を制限

 ナノプラスチックは 0.001 ミリメートル未満のサイズを持つものとして定義されるが、0.001〜5 ミリメートルのマイクロプラスチックの中にはまだ肉眼で見えるものもある。 MNPs は、包装廃棄物を含むさまざまな発生源を通じて食物連鎖に入り込む。

 しかし、役割を果たすのは固形食品だけではなく、液体も同様である。ある研究によると、ペットボトルから1日に推奨される1.5〜2リットルの水を飲む人は、その過程で年間約90,000個のプラスチック粒子を摂取することになる 。

 しかし代わりに水道水を飲むと、地理的な場所によっては、この数字を 40,000個に減らすことができる。

 ”MNPs の影響についてさらなる研究が行われているが、マイクロ及びナノプラスチック粒子が人間や環境に及ぼす潜在的な害を最小限に抑えるためには、暴露を制限し、その使用を制限することが重要である”とルーカス・ケナーは述べた。

 MNPs が体内の保護障壁を突破する新たに発見されたメカニズムは、この分野の研究を決定的に前進させる可能性を秘めている。

オリジナル研究アブストラクト
 マイクロ及びナノプラスチックの血液脳関門(Blood-Brain Barrier / BBB)突破:生体分子コロナの役割が明らかに ルーカス・ケナーら
Micro- and Nanoplastics Breach the Blood-Brain Barrier (BBB):
Biomolecular Corona’s Role Revealed” by Lukas Kenner et al.


 人間は繊維製品、自動車のタイヤ、包装などのポリマー材料に継続的にさらされている。 残念ながら、それらの分解生成物は環境を汚染し、マイクロプラスチック及びナノプラスチック(MNPs)による広範囲の汚染をもたらす。

 血液脳関門 (BBB) は、脳を有害な物質から保護する重要な生物学的関門である。 我々の研究では、マウスにポリスチレン・マイクロ/ナノ粒子(9.55μm、1.14μm、0.293μm)を経口投与して、短時間摂取の研究を実施した。

 我々は、ナノメートルサイズの粒子(それより大きな粒子ではない)が強制投与 (gavage)後、わずか 2時間以内に脳に到達することを示した。 輸送メカニズムを理解するために、さまざまなコロナの存在下及び非存在下で、DOPC 二重層とポリスチレン・ナノ粒子との相互作用に関する粗視化分子動力学シミュレーションを実行した。

 我々は、プラスチック粒子を取り囲む生体分子コロナの組成が、BBB を通過するために重要であることを発見した。

 コレステロール分子はこれらの汚染物質の BBB膜への取り込みを促進したが、タンパク質モデルはそれを阻害した。 これらの相反する効果は、脳への粒子の受動的輸送を説明できる可能性がある。



化学物質問題市民研究会
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