モンガベイ(Mongabay) 2022年4月28日
プラスチック汚染を止めるために、我々は
プラスチック生産を止めなくてはならないと
科学者らが言う

情報源:Mongabay, 28 April 2022
To stop plastic pollution, we must stop
plastic production, scientists say
https://news.mongabay.com/2022/04/to-stop-plastic-pollution-
we-must-stop-plastic-production-scientists-say/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年5月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/news/220428_Mongabay_
To_stop_plastic_pollution_we_must_stop_plastic_production_scientists_say.html

 概要
  • プラスチックの分野で働いている科学者らのチームは、プラスチック汚染問題を解決するために新しいプラスチックの生産中止を要求する手紙を科学誌 Science に発表した。
  • プラスチックは廃棄に関して問題であるだけでなく、その生産は大量の温室効果ガス排出を生み出し、気候危機の一因となると彼らは主張している。
  • 今年初め、各国はプラスチック汚染を阻止するための世界条約を採択することに合意したが、この合意の詳細はまだ決定されていない。
  • 交渉担当者らは来月、合意案の作成に着手するであろう。

 科学誌サイエンス(Science)に掲載された手紙の中で、国際的な科学者らのグループは、人間と環境の健康を守り、温室効果ガスの排出を削減するために、新しいプラスチックの生産に世界的上限を設けるよう求めている。彼らは、この動きが現在我々の地球が直面しているプラスチック汚染問題を解決する上で重要になると主張している。

 2022年3月、175 か国が、プラスチック汚染を止めるために世界プラスチック条約を採択することに全会一致で合意した。この条約は、プラスチック廃棄物の問題に対処するだけでなく、化学物質の抽出から、プラスチックの生産に使用される化合物への化学物質の「分解」という高度な汚染段階まで、「プラスチックの完全なライフサイクル」にも対処する。しかし、この条約の詳細は来月開始される交渉プロセスの中で明確にされる必要がある。

 ”決議はなされたが、条約が採択され、適切な説明責任を持って実施されるまでには何年もかかる”と、手紙の共著者でありスウェーデンのイェーテボリ大学の生態毒性学者でマイクロプラスチック研究者でもあるベサニー・カーニー・アルムロスはモンガベイにメールで語った。”プラスチックの問題は複雑であり、安全性と公平性を確保するために、製品や状況に固有の多面的な解決策が必要になる。”

 手紙には、現在約 4億5,000万トンのプラスチックが毎年生産されており、2045年までに生産量が 2倍になると書かれている。プラスチックの生産は大量の温室効果ガスを排出することが知られている。米国だけでも、プラスチック産業は毎年 2億 3,200万トンの温室効果ガスを排出し、これらの排出量は 2030年までに石炭燃焼によって生成されるものを上回る可能性があると推定している。しかし、特にその多くが現在グローバル・ノース(北の先進国)からグローバル・サウス(南の発展途上国)に輸出されているため、プラスチック廃棄物の問題も増大していると科学者らは手紙の中で述べている。

 科学誌 Scienceに発表された最近の研究によると、プラスチックを他の材料に代替したり、リサイクルや廃棄物管理を改善したりするなど、問題に対する全ての可能な解決策が完全に実行されても、プラスチック汚染は今後 20年間で約 80%しか削減できないことが示唆されている。しかし、この行動をもってしても、約 7億 1,000万トンのプラスチック廃棄物が、陸域と水域の両方の生態系に流入することになると同研究は示唆している。

 ”たとえ、より良いリサイクルを行い、可能な限り廃棄物を管理しようとしても、年間 1,700万トン以上のプラスチックを自然界に放出することになる”と、ドイツのアルフレッド・ウェゲナー研究所のプラスチック汚染及びマイクロプラスチックの専門家であり、手紙の起草者であるメラニー・バーグマンは述べた。”生産がどんどん増え続けるとしたら、我々は本当にシジフォスの果てしない徒労(訳注1:シーシュポス(シジフォス)の神話)に直面するであろう。”

 ”科学は非常に明確である”と彼女は付け加えた。”プラスチック生産の上限設定などの上流側対策のみが、我々の生命を支える生態系のさらなる劣化を防ぎ、同時に、世界の CO2 排出量の 4.5%を占めるプラスチックの二酸化炭素排出量を削減することができる。”

 プラスチックは世界で最も問題ある汚染物質のひとつになっているが、他にも約 35万種類の人工化学物質や合成汚染物質(総称して「novel entities「新規物質」と呼ばれる)が世界中に流通している。プラスチックやその他の新規物質が次々に生産されるために、そしてそれらのリスクと影響についての我々の理解がほとんどないために、研究者らは最近の研究で、化学汚染の「惑星限界」を超え、地球と人類の居場所の安定性を危険にさらしていると宣言するに至った。

 ”指数関数的に増加する生産は本当に問題の根本的な原因であり、我々がこれまでに生産したプラスチックの量はすでに惑星(地球)の限界を超えている”と手紙の共著者カーニー・アルムロスは述べた。”もし我々がそれに取り組まなければ、他のどのような対策でも環境へのプラスチックの放出を大幅に減らすという目標を達成することができない。”

 手紙の執筆者らは、問題に本質的に対処するためには、新しいプラスチックの生産を停止することが不可欠であると主張している。そうしないと、”欠陥のある不十分な戦略への依存度が高まるだけである”と彼らは言う。

 オレゴン州立大学の生態毒性学者である共著者のスーザン・ブランダーは、プラスチックの適切な規制は”全体としての合成化学製品のより効果的な規制への入り口”を生み出す可能性があると述べた。

 ”プラスチック生産を制限する拘束力のある世界的合意で地球と人々の健康を優先する一方で、汚染物質の「逃げ道」はないし、かつてもなかったことを認めることは、全ての人々にとってより持続可能な未来に向けた重要な一歩である”と彼女は述べた。

引用:
  • Bergmann, M., Carney Almroth, B., Brander, S. M., Dey, T., Green, D. S., Gundogdu, S., … Walker, T. R. (2022). A global plastic treaty must cap production. Science. doi:10.1126/science.abq0082
  • Lau, W. W., Shiran, Y., Bailey, R. M., Cook, E., Stuchtey, M. R., Koskella, J., … Palardy, J. E. (2020). Evaluating scenarios toward zero plastic pollution. Science, 369(6510), 1455-1461. doi:10.1126/science.aba9475
  • Persson, L., Carney Almroth, B. M., Collins, C. D., Cornell, S., De Wit, C. A., Diamond, M. L., … Hauschild, M. Z. (2022). Outside the safe operating space of the planetary boundary for novel entities. Environmental Science & Technology. doi:10.1021/acs.est.1c04158
  • Vallette, J. (2021). The New Coal: Plastics and Climate Change. Retrieved from Beyond Plastic website:

訳注1:シジホス(シジフォス)の神話



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る