欧州環境庁 最終更新 2022年3月17日
【ブリーフィング】
繊維製品からのマイクロプラスチック:
ヨーロッパにおける繊維製品の循環経済に向けて


情報源:European Environment Agency
[BRIEFING] Last modified 17 Mar 2022
Microplastics from textiles:
towards a circular economy for textiles in Europe

https://www.eea.europa.eu/publications/
microplastics-from-textiles-towards-a


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年6月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/news/220317_EEA_Microplastics_
from_textiles_towards_a_circular_economy_for_textiles_in_Europe.html

 我々の海、陸、空気にマイクロプラスチックが存在すること、そしてそれらが生態系、動物、人々に及ぼす悪影響についての認識が高まっている。マイクロプラスチックは、環境に直接放出されるか、又はより大きなプラスチック片の分解から生じる可能性がある。合成(プラスチック)繊維から作られた繊維製品の摩耗と洗濯は、環境におけるマイクロプラスチックの知られた供給源のひとつである。線維製品とプラスチックは、EUの循環経済行動計画の主要な価値連鎖(バリューチェーン)(*)のひとつである。
訳注(*):価値連鎖(バリューチェーン)とは購買した原材料等に対して、各プロセスにて価値(バリュー)を付加していくことが企業の主活動であるというコンセプトに基づいたもの。(ウィキペディア)

キーメッセージ
  • 研究によると、世界の海底には 1,400万トンを超えるマイクロプラスチックが蓄積している。その量は毎年増加しており、生態系、動物、人々に害を及ぼしている。

  • 海洋に放出されるヨーロッパのマイクロプラスチックの約 8%は合成繊維製品からのものであり、世界的には、この数字は 16〜35%と推定されている。20万〜50万トンの繊維製品からのマイクロプラスチックが毎年地球の海洋環境に入る。

  • 線維製品からのマイクロプラスチックの大部分は、線維製品が洗浄される最初の数回で放出される。ファストファッション(*)の衣料は、使用期間が短く、品質が低いためにすぐに摩耗する傾向があり、最初の洗濯での放出割合が高いため、ファストファッションはこのような放出が特に高い。
    訳注(*):ファストファッションとは最新の流行を取り入れながら低価格に抑えた衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産・販売するファッションブランドやその業態。価格を抑えるために、製造小売業 (SPA) の形態をとっている会社が多い。ウィキペディア

  • たとえば、持続可能な設計及び製造プロセスと、使用中のマイクロプラスチックの放出を抑制する管理対策を実施し、廃棄及び使用済み処理を改善することにより、繊維製品からのマイクロプラスチックの放出を削減又は防止することができる。

 この【ブリーフィング】は、ヨーロッパの観点から繊維製品から放出されるマイクロプラスチックの理解を深め、この放出を低減又は防止するための方法を特定することを目的としている。このブリーフィングを支える繊維製品からのマイクロプラスチックに関する欧州環境庁(EEA)の”循環経済と資源利用に関する欧州トピックセンター(ETC/CE)”(*)による報告書も利用可能である。
訳注(*):European Topic Centre on Circular Economy and Resource Use (ETC/CE)
 循環経済と資源利用に関する欧州トピックセンター(ETC CE)は、2022年から2026年までの期間の枠組みパートナーシップ協定の下で欧州環境庁と協力して活動している欧州組織のコンソーシアムである。


環境中のマイクロプラスチックの供給源

 不適切に管理されたプラスチック廃棄物は、陸地や河川、水路、沿岸水域に行き着き、世界中の海や海岸を汚染する海洋ごみの量を増やしている。世界の生産量の 2〜4%に相当する 600〜1,500万トンのプラスチックが、毎年環境に入り込むと推定されている(Velis et al., 2017)。管理されていない廃棄物やごみの投棄などの陸上の発生源、その多くはプラスチック、は、海洋ごみの約 80%を占めている(Veliset al.、2017)。日光、風、波、その他の要因の影響下で、プラスチックは、サイズが 0.001〜5mmのマイクロプラスチック、又は0.001mm未満のナノプラスチックと呼ばれる小さな断片に分解される(Veliset al., 2017)。身体手入れ製品中のマイクロビーズやプラスチックペレットなどの一部のマイクロプラスチックは、意図的に製造され、その後、意図的又は意図せずに下水に放出される。他のものは、道路輸送から生じるタイヤの摩耗や合成繊維の洗濯によるマイクロファイバーの放出など、製品の摩滅の結果として意図せずに形成される。プラスチックごみをより小さな粒子に断片化することは、3番目の形成経路である(図1を参照)。

図1. マイクロプラスチックの供給源、放出経路、沈下
出典:循環経済と資源利用に関する欧州トピックセンター(ETC / CE)及び EEA の持続可能な消費と生産に関する協力センター(CSCP)による図解

 環境に放出されるマイクロプラスチックの量を推定して測定することは難しい。マイクロプラスチックの一次及び二次供給源が多く、標準化されたサンプリング及び測定方法がないため、放出及び形成されるマイクロプラスチックの量の推定値は非常に不確実である 。調査によると、これまでに少なくとも 1,400万トンのマイクロプラスチックが世界の海底に蓄積しており(Barrett et al.、2020)、さらに年間約 150万トンが海洋に流入している(Boucher and Friot、2017)。

 マイクロプラスチックの放出は、プラスチックの価値連鎖(バリューチェーン)全体、製造、輸送、使用、そして製品寿命の終わりに発生する。一般に、マイクロプラスチックは、関与する形成プロセスに応じて、一次及び二次マイクロプラスチックの 2つの主要なタイプに分類できる。

 一次マイクロプラスチックは、プラスチック粒子として環境に直接放出される。それらは、例えば化粧品のスタビライザーやグリッター(ラメ)として、又は人工芝の競技場の粒状材料として製品に添加される。欧州化学物質庁は、意図的に製造されたマイクロプラスチックの 145,000トンがヨーロッパで毎年使用されていると推定している(ECHA、2021)。一次マイクロプラスチックはまた、製造中の流出、車のタイヤなど使用中のプラスチック製品の摩耗、塗料やコーティングの剥落や剥離、又は合成繊維の洗濯や摩耗などを通じても生成される。

 ある調査によると、主に廃棄物やごみの不適切管理から生じ、時間の経過とともに分解して二次マイクロプラスチックになる 530万トンの大型プラスチック品に加えて、年間約 300万トンの一次マイクロプラスチックが地球環境に放出されている(UNEP、2018年)。他の推定では、毎年 320万トンの一次マイクロプラスチックが家庭や商業活動によって放出され、そのうち 150万トンが海洋に放出されている(Boucher and Friot, 2017)。世界的には、これは平均して、1人あたり毎年 400グラムの一次マイクロプラスチックが環境に放出されていることに相当する。これは 80個のレジ袋に相当し、そのうちの半分は海に流れ込む。

 二次マイクロプラスチックは、環境中のより大きなプラスチック品目の分解により形成される。通常、廃棄された漁具、散逸したプラスチック包装、又は開放型埋め立て地に捨てられたプラスチックなど、不適切に管理されたプラスチック廃棄物である。風は、プラスチック廃棄物を埋め立て地やゴミ捨て場から最大 10 km 離れた川に運ぶことができる(Parker、2021)。 Meijerらによる研究(2021)は、世界的に、海に流れ込むプラスチックの 80%は、1,000を超える河川からの流出によって説明できると推定しており、特にアジアでは、人口密度の高い都市部を流れる小さな河川がプラスチック廃棄物によって最も汚染されている。世界中で年間約 50万トンと推定される廃棄された漁網も、海洋に直接放出される二次マイクロプラスチックの供給源である(Boucher and Friot, 2017; UNEP, 2018)。プラスチック廃棄物が海洋に放出される量の推定値は、年間 115万トンから 1,270万トン、又は世界中で 1人当たり最大 1.8kg のプラスチック海洋ごみと、大きく異なる(Jambeck et al., 2015; Sherrington、2016; Boucher and Friot 、2017; Lebreton et al., 2017; UNEP、2018)。

 ヨーロッパレベルでは、2021年の調査の推定によれば、毎年 3億700万から 9億2,500万品目のごみが海洋に放出されている。プラスチックは観察された海洋ゴミの 82%を占めた(Gonzalez-Fernandez et al., 2021)。欧州化学物質庁(ECHA、2021)の計算によれば、プラスチック製品の摩耗と風化により、意図せずに形成されたマイクロプラスチックが年間 176,000トン、ヨーロッパの地表水に放出される。さらに製品に意図的に追加されたマイクロプラスチックが毎年 42,000トン、環境に放出される。人工芝競技場(ピッチ)で使用される粒状の充填材は、これらのマイクロプラスチックの主な供給源であり、16,000トンを占めている。他の供給源には、化粧品、洗剤、肥料への添加物がある。 Eunomia and ICF(2018)は、ヨーロッパの地表水に毎年 72,000〜280,000トンの一次マイクロプラスチックが放出されていると推定してる。

線維製品からのマイクロプラスチック:環境と健康への影響

ライフサイクル全体を通しての放出

 線維製品はマイクロプラスチック汚染の主な原因である。線維製品に由来するマイクロプラスチックは、通常、繊維の形状をしているため、しばしばマイクロファイバーと呼ばれる(Roos et al., 2017)。マイクロプラスチックの放出を引き起こす合成繊維と同様に、天然由来の繊維で作られた繊維製品もマイクロファイバーを生成する。
(訳注:ただし生分解性が高い。DOES COTTON SHED MICROFIBRES?〈Australian Cotton〉) さらに、線維製品は、プリント、コーティング、ボタン、ラメ(キラキラ)など、衣服や線維製品に使用されるさまざまな種類の素材やアクセサリーに由来する、他の形状のマイクロプラスチックの供給源にもなり得る。合成繊維製品は、毎年 20万トンから 50万トンのマイクロプラスチックを海洋に放出する供給源であると推定されている(Sherrington, 2016年; Ellen MacArthur Foundation, 2017年)。

 Boucher and Friot(2017)によると、世界の海洋に放出されるマイクロプラスチックの約 35%は合成繊維製品の洗浄に由来し、国連環境計画(UNEP)はこの数値を約 16%と推定している1(UNEP、2018)。ほとんどの家庭が下水及び廃水処理システムに接続されているヨーロッパでは、毎年 13,000トンの繊維製品由来のマイクロファイバー(1人あたり 25グラム)が地表水に放出され、一次マイクロプラスチックの水への総放出量の 8%を占めると推定されている(Eunomia and IC, 2018)。

 ほとんどの研究は、廃水が水生環境への漏出の主な経路であると考えて、合成繊維製品の洗濯によるマイクロファイバーの放出に焦点を合わせている(Boucher and Friot、2017)。ただし、マイクロファイバーは、繊維の製造、衣服の摩耗、及び使用済み廃棄物からも放出され、水、空気、及び土壌に分散する。

 マイクロファイバーの[繊維製品からの]脱落(shedding)は洗濯を重ねるとともに減少するが、一方衣服が古くなるにつれて生地が摩耗し、マイクロファイバーの脱落も増加する(Hartline et al., 2016)。その結果、ファストファッションの衣服は通常、合成繊維を多く含み、また短期間だけ使用されるので洗浄の割合が高く、すぐに摩耗する傾向があるので、ファストファッションは特にマイクロファイバーの放出レベルが高い。

 マイクロファイバーは洗濯機内に留まっているわけではなく、それらは洗濯機の排水とともに放出される。廃水処理プラントは、マイクロプラスチックの大部分(全てではない)をろ過することができる。しかし、適切な下水及び廃水処理システムが整備されていない場合、マイクロプラスチックは水生環境に放出される(Eunomia and ICF、2018)。マイクロファイバーの脱落の原因となる洗濯条件を解明するために、多くの研究が行われている。初期の研究では、長い洗濯サイクルは摩耗を増加させ(long wash cycles increase wear and tear)、高温を使用すると布地の構造を損傷する傾向があり、どちらも比較的多くのマイクロファイバー放出をもたらすことが示されている。粉末洗剤は液体洗剤よりも脱落を誘発する傾向がある。これはおそらく、粉末洗剤が研磨剤として機能し、繊維に損傷を与えるためである。一方、柔軟仕上げ剤を使用すると、おそらく洗浄中の摩擦と繊維の損傷が減少するため、マイクロファイバーの脱落が少なくなる。

 さらに、洗濯機のタイプはマイクロファイバーの放出量に影響を及ぼす。トップローディングモデル(上面操作/縦型)はフロントローディングモデル(前面操作/ドラム式)よりも大幅に多くの脱落を引き起こす。これはおそらく前者の回転中の摩耗が大きいためである(Hartline et al., 2016)。

環境と健康への影響

 近年、マイクロプラスチック汚染に伴う環境や健康への影響についての懸念が高まっている。これらの影響については多くの不確実性があるが、マイクロプラスチックへのある程度の慢性的な暴露は、残念ながら現代の生活の不可欠な部分である(Henry et al., 2019; OECD, 2020)。マイクロプラスチックは、プランクトン、魚、海洋の大型哺乳類から陸上動物や人間に至るまで、あらゆる種類の生物に摂取される。水と土壌からのマイクロプラスチックの摂取に加えて、屋内と屋外の両方で浮遊粒子が吸入される(Henry et al., 2019; SAPEA, 2019)。マイクロプラスチックの存在は、魚介類、飲料水、ビール、塩、砂糖など、さまざまな人間の食品や飲料で報告されている(WHO, 2019; Shruti et al., 2020; Ghosh et al., 2021)。

 農業、水産業、その他の生計手段の経済的実行可能性を含むマイクロプラスチックの長期的な影響は、まだほとんどわかっていない(Gasperi et al., 2018; Waring et al., 2018; OECD, 2020)。マイクロプラスチックの物理的影響とは別に、懸念されるもうひとつの要因は、マイクロプラスチックに含まれる潜在的に有害な化学物質(添加剤、モノマー、触媒、製造からの反応副産物)である。マイクロプラスチックが環境に放出されると、これらが浸出する可能性があり、粒子の分解と断片化により、化学物質の浸出の可能性がさらに高まると予想される(Wang et al., 2018)。マイクロプラスチックへの高レベルの暴露は、炎症反応と毒性を誘発すると考えられており、マイクロプラスチックは病原体と微生物の拡散の媒介物となる可能性がある(Henry et al., 2019; SAPEA, 2019)。

 図2 は、淡水、海水、空気、土壌中の繊維製品からのマイクロプラスチックの放出経路と運命を示している。そこに示されているとおり、マイクロプラスチックは、製造から使用、管理、廃棄に至るまで、繊維製品の価値連鎖(バリューチェーン)のどの時点でも放出される可能性がある。

図2.繊維製品からのマイクロプラスチック繊維の放出と運命
出典:EEAの循環経済と資源利用に関する欧州トピックセンター(ETC/ CE)(2021)

水中のマイクロファイバー

 淡水及び海洋環境のマイクロプラスチック汚染は、地表水への直接放出と、風、流出水、廃水、廃棄物処理による粒子の輸送の両方の結果である。主に合成繊維製品に由来するマイクロファイバーは、そのサイズと形状により水生生物が容易に消取り込めるため、他の繊維よりも食物連鎖に入る可能性が高く、腸内部の大きな塊に巻き込まれ、腸閉塞を引き起こす傾向がある。(Jemec et al., 2016)。

 世界保健機関(WHO)は、飲料水中のマイクロプラスチックに関する研究を 2019年に発表し、水、淡水、水道及びボトル入り飲料水中のマイクロプラスチック粒子を分析した研究をレビューした(WHO, 2019)。 Shruti etal, (2020)はソフトドリンク、コールドティー、栄養ドリンクの 57 サンプルの約 84%にマイクロプラスチックが含まれていることを発見した。

空気中のマイクロファイバー

 線維製品はまた、マイクロプラスチックを空気中に放出し、それが衣服の摩耗で土壌に沈着することが報告されている(De Falco et al., 2020; Napper et al., 2020)。ある研究では、マイクロプラスチックの最大 65%が、衣服の乾燥及び摩耗で空中に放出される可能性があることが示唆されている(OECD, 2020)。

 濃度は不明であるが、マイクロプラスチックは周囲空気と屋内空気の両方に存在し、繊維製品から放出されるマイクロファイバーが優勢であるように見えることが示されている(Dris et al., 2017; Gasperi et al., 2018; SAPEA, 2019)。いくつかの研究では、たとえば衣服の摩耗や乾燥から家庭内の表面に付着したマイクロファイバーの量と家庭内繊維製品は、線維製品を洗ったとき、同じ程度の濃度であることが示されている(Henry et al., 2019)ため、最高レベルは屋内で見つかる可能性がある(Dris et al., 2017)。

土壌中のマイクロファイバー

 マイクロプラスチックは、陸域の生態系で検出されている。マイクロプラスチックを土壌にもたらす可能性がある経路はたくさんある。空中のマイクロプラスチックは道路や舗装に沈着し、その後、雨水などにより道路脇や下水道に運ばれ、下水処理場に運ばれ、そこから下水汚泥が畑の肥料として使われる。使い捨てのフェイスマスク、ロープ、防水シート、廃れた衣服など、ごみとして投棄された、又は埋め立て地に廃棄された繊維廃棄物は、分解して土壌にマイクロファイバーが漏出する可能性がある(Henry et al., 2019)。これらは全て重要なマイクロプラスチック暴露経路であり(SAPEA, 2019)、ミミズなどの生物は、土壌表面からより深い層に大量のマイクロプラスチックを運ぶ能力があると想定されている(Henry et al., 2019)。

ヨーロッパにおける繊維製品からのマイクロプラスチックの放出を防ぐための道筋

 知識ベースは急速に進化しているが、マイクロプラスチックの形成とその放出メカニズム、及びそれらが環境と人間の健康に及ぼす影響は複雑であり、まだ多くのことが未知であると繰り返し言われている。これは特に、繊維製品源からのマイクロファイバーに関連する放出メカニズムと影響が代表的な例である。それらの組成、繊維形状、及び添加剤のために、これらのマイクロプラスチックは、それ自体の幅広い挙動及び影響に関連している可能性がある(Jemec et al., 2016; Henry et al., 2019)。残念ながら、それらの運命と影響は現在ほとんど不明であり、問題の重大性と必要な対策を判断することは困難である。

 ヨーロッパの繊維製品からのマイクロプラスチック、特にマイクロファイバーの放出と放出メカニズムに影響を与える要因、マイクロファイバーの移動と運命、関連する生態系と健康への影響、及び大規模で実現可能な潜在的な解決策について、より多くの知識が必要であることは明らかである。知識が開発され、予防原則を考慮している間、繊維製品からのマイクロプラスチックの放出を最小限に抑えるための政策がすでに検討され、EU で実施されている。

 2018年に採択されたプラスチックに関するヨーロッパの戦略は、マイクロプラスチックを対処すべき課題のひとつとして特定した(EC, 2018年)。 2年後、2020年の EU 循環経済行動計画において、欧州委員会は、たとえばマイクロプラスチックの環境への放出に関連しているという理由で、繊維製品の価値連鎖(バリューチェーン)を重要な優先事項として特定した(EC. 2020)。同行動計画は、持続可能な繊維製品のための包括的な EU 戦 略を想定している。

 EU のプラスチックと線維製品の政策に沿って、この EEAブ リーフィングでは、線維製品からのマイクロファイバーの放出を防ぐための 3つの道筋に焦点を当てている。 (1) 持続可能な設計と製造;(2)使用中のマイクロプラスチックの放出を抑制するための管理措置;そして(3)廃棄及び使用済み製品の処理の改善である。これらの道筋を図3 に示す。

図3.線維製品からのマイクロファイバーの放出を防ぐための道筋
出典:ETC/CE及びEEA

設計と製造の道筋

 線維製品の設計を天然繊維に切り替えることは、マイクロファイバーの脱落に取り組むための道筋として提案されている(Henry et al., 2019)。しかし、そのようなアプローチが、現在使用されている繊維の約 60%を占める合成繊維を使用する代わりに実行可能な代替を提供できるかどうかについて疑問が投げかけられている(ETC/CE, 2021b)。天然繊維を使用した場合、繊維製品の特性が大幅に変化するだけでなく、天然繊維は摩耗の結果としてマイクロファイバーを脱落させる可能性があるため、代替によって必ずしもマイクロファイバーの形成が減少するわけではない(Gesamp,2015年)。天然繊維の急速な生分解が、染料などの化学添加物の放出に悪影響を与える可能性があるかどうかについても、いくつかの懸念が提起されている(Henry et al., 2019)。最後に、天然資源から作られた全てのマイクロファイバーが生分解性であるとは限らないことに注意することが重要である。たとえば、バイオベースのポリエステルは化石ベースのポリエステルと化学的に同等であり、生分解しないため、環境中のマイクロファイバーの蓄積に影響を与える(ETC/CE, 2021b)。
(訳注 (参考):デンマークの会社 Fiberpartner ApS 【世界初】サステナブルな生分解性ポリエステル繊維が日本初上陸!(日刊工業新聞 2021/5/13

 合成繊維、毛糸、布地、及び繊維製品の製造プロセスが、マイクロファイバーの放出の増加に関与している可能性がある。特に、製造中の擦れ摩擦は、マイクロプラスチックの形成の重要な要素である(Cai et al., 2020)。代替の製造プロセス又は繊維工法を使用することにより、使用中のマイクロファイバーの放出を減らすことができる。多くの研究が家庭での洗濯中のマイクロファイバーの放出に焦点を合わせているが、特に工業廃水処理が不十分な場合、繊維製造業もマイクロファイバー汚染の主な原因である。

 合成繊維は最初の 5〜10 回の洗浄で最も多くのマイクロプラスチックを放出する傾向があるため、製造工場での事前洗浄により、放出されたマイクロファイバーの大部分を捉えることができる(Roos et al., 2017; Mermaids, 2019; OECD, 2020)。産業プラントでは、特にヨーロッパでは、プラントは一般に廃水処理設備に接続されているため、マイクロファイバーが捕捉される可能性が高くなる。

使用と管理の道筋

 洗濯機の製造に関して、ひとつの選択肢は、マイクロファイバーの放出を防ぐためのフィルターを含めることである。 2020年、フランスは 2025年 1月の時点で、全ての洗濯機に専用のマイクロファイバー・フィルターを装備する義務を導入した最初の国であった(Sanchez, 2020)。ある研究によると、洗濯機のフィルターを使用することで、マイクロファイバーの放出を最大 80%削減できることが示されている(Williams, 2020)。

 洗剤と柔軟仕上げ剤の使用も、マイクロファイバーの放出に影響を及ぼす。洗剤メーカーは、低温で効果的で、布地の仕上げを洗い流さない非攻撃的な液体洗剤を開発することで、マイクロファイバーの脱落を減らすことに貢献できる。その一部は、繊維の破損を防ぐ。合成繊維に粉末洗剤を使用することは、摩擦を増加させ、繊維の破損を引き起こすため、推奨できない。

 多くの研究が強調しているように、マイクロファイバーの放出は、新しい衣服の最初の数回の洗濯中に特に高くなる(Lant et al., 2020)。そのことは、着用期間が短かく、しばしば買い換えられるファストファッションはマイクロファイバー放出のレベルが高いことを意味する。したがって、新しい衣料品がマイクロプラスチック汚染に与える影響を認識するとともに、消費者の購買行動を変える必要がある。このような転換は、消費の削減と使用期間の延長を促進する、より循環的なビジネスモデルによって促進される可能性がある。これにより、新規購入数と廃棄物の発生量の両方を減らすことができるが、再利用された物品は、一般に、新しいものよりも洗濯時に放出されるマイクロファイバーが少なくなるという追加の利点もある。さらに、再利用のために古い物品を準備することは、新しい類似のものを製造するよりも少ない資源しか必要とせず、したがって、さらなる環境上の利益をきたもたらす。最近の EEA ブ リーフィングと、循環経済と資源利用に関する欧州トピックセンターの Eionet レポート(EEA、2021; ETC / CE、2021a)は、さらなる循環型線維製品システムのいくつかのビジネスモデルについて議論している。

廃棄及び寿命の尽きた製品処理の道筋

 生産中及び使用中のマイクロプラスチックの放出を減らすであろう線維製品の再利用とリサイクルの増大だけでなく、線維製品廃棄物の収集と寿命の尽きた製品の処理が、ポイ捨てや、ごみ管理の行き届かない廃棄物や線維製品が開放型埋め立て地から飛散するのを防ぎ、二次マイクロプラスチック汚染を減らすことができる。しかし、繊維製品廃棄物の大部分は再利用又はリサイクルのためにヨーロッパから輸出されていることに注意することが重要である。しかし、これらの輸出された繊維製品の運命は不明であり、多くの受け入れ国は高品質の廃棄物管理システムを持っていない。このことは、合成繊維衣料の洗濯に由来する未処理の廃水を介してマイクロファイバーの拡散、開放型埋め立て地からの廃棄物の放出、又は不適切な処分、のリスクをもたらす。

 廃水処理は、繊維製品の洗濯から放出されるマイクロプラスチックを捕捉する上で重要なステップである。従来の廃水処理プラントはマイクロプラスチックを完全に除去する設備が整っていないが(Salvador Cesa et al., 2017)、廃水からマイクロプラスチックを最大 98%除去できる技術と技量が利用可能である(Poerio et al., 2019)。しかし EU では廃水処理への接続が広まっているが、このような高性能の「三次」処理プロセスに接続している世帯は約 56%にすぎない(CriniとLichtfouse, 2018年、Eunomia and ICF, 2018年)。さらに、マイクロプラスチックの残りの割合、特に 0.02mm 未満の粒子を除去するには、多くの課題を克服する必要がある(Iyare et al., 2020)。

 廃水から除去されたマイクロプラスチックの大部分は、最終的に下水汚泥になることに注意することが重要である(Iyare et al., 2020)。この下水汚泥は、EU 全体で農業用肥料としてよく使用されており、マイクロプラスチックが水生及び陸生の生態系に侵入するための重要な経路である。マイクロプラスチックを考慮に入れて、汚泥の処理と使用に関する知識と規制が必要である。後処理と汚泥処理、栄養物の回収、マイクロプラスチックの拡散防止には、革新的な解決策が必要である。

 十分な耐用年数を経た繊維製品廃棄物の収集と処理を実施することは重要であるが、それらは防止策に取って代わることはできない。なぜなら廃水処理によって全てのマイクロファイバーとナノファイバーをろ過できそうにはなく、また海洋からのマイクロプラスチックの費用効果の高い大規模な除去は現実的であるようには見えないからである(Gesamp, 2015年)。

知識と意識の向上

 線維製品から放出されるマイクロファイバーの知識をさらに広げるために必要な、さらなる研究のためのいくつかの優先分野には以下が含まれる。
  • 環境サンプル中のマイクロ及びナノファイバーの識別と定量化のための標準化されたサンプリング方法と測定基準の開発
  • 繊維製品の製造、使用、洗濯、廃棄物処理に起因するナノファイバーの脱落を研究するための標準化された研究方法の開発
  • 線維製品のライフサイクル全体でマイクロプラスチックを防止、削減、捕捉する革新的な製造プロセスと廃棄物処理技術に関する研究
  • マイクロファイバーの環境への広がりと空気と土壌の汚染、そしてマイクロファイバーの生態毒性と健康への影響、特に食物連鎖への蓄積、長期的な慢性的影響、マイクロプラスチックから放出される繊維化学物質の影響を明らかにするための研究
  • 持続可能な購入と使用行動、洗濯習慣、寿命の尽きた製品の管理など、繊維製品の持続可能な消費を促進する方法の研究
 ナノ及びマイクロプラスチックの放出、拡散、影響に関するこれらの知識のギャップを埋めることを目的とした研究を進めるためには、継続的な公的及び業界の支援が必要である。さらに、繊維製品に由来するマイクロファイバー汚染に関連する複雑な問題に対処するには、技術的、行動的、規制的措置の間の緊密な学際的協力が必要である。

 持続可能な線維製品に関する EU の戦略は、線維製品のより持続可能な生産、使用、及び寿命管理に向けた動きと、ファストファッション、短い衣服の寿命、廃棄物の発生からの段階的な移行を促進する上で重要になる。さらに、EU の循環経済行動計画は、表示と標準化によって、及び測定方法の調和によって、マイクロプラスチックの意図しない放出に取り組む必要性を強調することにより、マイクロプラスチックを目標に定めている。

ノート(Notes)

 [1] UNEP(2018)は、環境へのマイクロプラスチックの放出に対する繊維製品の洗濯の寄与を 9%と推定している。しかし、もしタイヤの摩耗、道路標識、都市のほこりからのマイクロプラスチックの 50%が土壌、アスファルト、川岸に閉じ込められて海に到達しないと仮定すると、海に放出される繊維製品由来のマイクロプラスチックの割合は 16%に増加すると推定している。

参照(References)

 原文末尾の References をご覧ください。

識別子(Identifiers)
  • Briefing no. 16/2021
    Title: Microplastics from textiles: towards a circular economy for textiles in Europe
  • HTML: TH-AM-21-016-EN-Q - ISBN: 978-92-9480-415-0 - ISSN: 2467-3196 - doi: 10.2800/512375
  • PDF: TH-AM-21-016-EN-N - ISBN: 978-92-9480-414-3 - ISSN: 2467-3196 - doi: 10.2800/863646

服に使われる化学物質のこと、どれだけ知ってる? (VOGUE 2020年3月26日) https://www.vogue.co.jp/change/article/why-we-should-be-worried-about-chemicals-cnihub


化学物質問題市民研究会
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