IUCN 2023年6月2日
小島嶼開発途上国は野心的な
世界プラスチック条約を求める − INC-2 パリ

情報源:IUCN, 02 Jun, 2023
Small Island Developing States call for
ambitious Global Plastics Treaty - INC-2 Paris
https://www.iucn.org/story/202306/small-island-developing-states-
call-ambitious-global-plastics-treaty-inc-2-paris


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
更新 2023年6月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/INC2/IUCN_230602_Small_Island_
Developing_States_call_for_ambitious_Globa_Plastics_reaty-INC-2_Paris.html

 プラスチックが海洋、気候、経済、健康にもたらす脅威に対処するため、小島嶼開発途上国(SIDS)は、パリでのプラスチック汚染に関する政府間交渉委員会第2回会合 (INC-2)で、プラスチックのライフサイクル全体にわたって機能する野心的な国連条約の制定を求めた。

 6月1日に開催された公式な INC-2 UNEPサイドイベントで国際自然保護連合(IUCN)は、ドミニカ共和国、フィジー、パラオの島嶼国、SIDSの代表団体である小島嶼国同盟(AOSIS)とともに、解決、公正な移行、そして能力向上のための知識交換に焦点を当てた前進のための方法求めるいくつかの団体と連帯した。 この呼びかけを支援する組織には、コモン・シーズ(Common Seas)、モーリシャス大学国際科学会議、オーシャン・クリーンアップ(Ocean Cleanup)、シリアス・ビジネス(Searious Business)、ブルー・キーパーズ(Blue Keepers)、持続可能性に取り組む企業のトップを代表する国連グローバル・コンパクト(United Nations Global Compact)(訳注:国連と民間(企業・団体)が手を結び、健全なグローバル社会を築くための世界最大のサステナビリティ イニシアチブである/グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン)などが含まれる。

 この声明では、以下を含む 小島嶼開発途上国(SIDS)独自の要件が確実に反映されるように協力することについて議論されている。
  • 気候変動交渉中に1.5℃(訳注:2021年11月13日英国で開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)は、産業革命前からの気温上昇を「1・5℃」に抑える努力を追求するとした合意文書を採択した。2015年に採択されたパリ協定では、気温上昇を2度よりかなり低くし、できれば1・5℃に抑える目標を掲げてきた。朝日新聞 2021年11月14日)を維持するのに小島嶼開発途上国(SIDS)が果たした重要な役割からインスピレーションを得て、強固な条約に向けた支持を推進すること

  • 国境を越えるプラスチック汚染の特質への対処と、海洋に残されたプラスチックを管理するための法的手段

  • 放棄、逸失、投棄された漁具(Abandoned, Lost or Discarded Fishing Gear / ALDFG)による汚染への取り組み

  • 観光によって発生する大量のプラスチック廃棄物への取り組み

  • プラスチック生産者の資金提供を受けて、小島嶼開発途上国(SIDS)のための効果的な廃棄物管理解決策の開発
  • 公正な移行(just transition)(訳注:気候変動や生物多様性などの環境問題の解決に取り組むにあたり、すべての利害関係者にとって公正かつ平等な方法により持続可能な社会への移行を目指す概念である。IDEAS FOR GOOD
 ここでは、多くの視点の中から 4 つの視点を取り上げる。

 太平洋小島嶼開発途上国の議長であるパラオ政府代表部のイラナ・セイド大使は次のように述べた。 ”小さな島々は、多くの大きな海流の交差する場所に近い位置にあり、遠隔地であり、経済が小規模であり、十分な廃棄物及びリサイクル施設を備えた大規模市場への交通の便が十分ではないので、プラスチック汚染の影響を過度に受けている”と述べた。新しい協定には、私たち自身の利益のためだけでなく、国際社会の利益のためにも、既存の海洋プラスチックを除去する義務を含める必要がある。 特に太平洋は、プラスチックやマイクロプラスチックによって汚染されている世界の漁業や水産物の多くを供給している。 海洋プラスチック汚染の修復は我々全員にとって優先事項であるべきである”。

 コモン・シーズのジョー・ロイル最高経営責任者(CEO)は次のように述べた。 ”プラスチック汚染に対する小島嶼開発途上国(SIDS)の大規模な国家的取り組みにも関わらず、ますます多くのプラスチックが海岸に到達しており、プラスチック生産量は 2040年までに倍増する見込みだ。我々が必要とすることは この問題を上流から阻止するための包括的な国連プラスチック条約である。 この世界的な政策により、プラスチック生産に上限を設け、急速に削減し、使い捨てプラスチックを禁止または厳しく制限し、プラスチックの化学的複雑性の軽減を義務付け、そして、拡大生産者責任についての世界標準を求めなくてはならない”。

 オーシャン・クリーンアップの法務顧問兼グローバル広報ディレクターのジョアン・リベイロ=ビダウイは次のように述べた。 ”公海から規制海(open to regulated seas)へ移行する中で、公海(high seas)を世界的な責任として捉えることが極めて重要だ。 差し迫った問題は、各国が管轄権を超えて海洋プラスチック汚染に対処する義務があるかどうかだけでなく、これをどのように正式に行うかということである。 新しい世界プラスチック条約は、既存及び将来のプラスチック汚染を浄化することを各国に義務づけ、共同管理の改善が必要な公共財産としての公海の地位を強調すべきである”。

 国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources / IUCN)の上級政策顧問カリーヌ・ジークヴァルトは次のように述べた。 ”三重惑星危機(triple planetary crisis) (訳注:気候崩壊、自然と生物多様性の喪失、そして汚染と廃棄物という「惑星としての三重の危機」・・・(国連広報センター 2022年9月20日)の一部として、プラスチック汚染は陸域、淡水域、海洋の生物多様性と生態系に悪影響を及ぼしている。 健康な環境は、人類の支援、福祉、経済の基盤であるだけでなく、人権でもある。 特に小島嶼開発途上国(SIDS)に対する脅威は生活と環境のあらゆる側面に関係しており、そのライフサイクル全体にわたるプラスチック汚染に対処するには、国際的な法的対応が必要である。 各国政府は野心的にプラスチック生産量を削減し、懸念される製品や化学物質を排除し、2030年までにすべてのプラスチック汚染を終わらせる条約に合意しなければならない。これは世界的な生物多様性と持続可能な開発目標、そして公海条約(訳注:2023年3月4日、約20年にわたる協議の末、190の国連加盟国が「公海条約(High Seas Treaty)」の文言について合意した。この条約により、公海の30%が海洋保護区(MPA)として扱われる。・・・UK P&I CLUB)の約束を達成するための重要な一歩となるだろう”。

 このイベントは、小島嶼開発途上国(SIDS)が世界のプラスチック生産と環境汚染の原因にはほとんど関係ないにもかかわらず、そのブルーエコノミー(訳注:ブルーエコノミーとは、海を守りながら経済や社会全体をサステナブルに発展させることを前提とした海洋産業。IDEAS FOR GOOD)がプラスチック汚染とその気候/環境への影響によって不釣り合いな影響を受けていることを強調した。 SIDS には低地や遠隔地もあり、効果的な廃棄物管理が妨げられている。 市場規模が小さいため、上流関係者への影響力が制限されているが、上流関係者は海岸に到着して海岸線を汚染するプラスチック製品の生産を加速させ続けている。 そのため、SIDS は 2022年、プラスチック汚染を終わらせ、プラスチック生産量の削減、使い捨てプラスチックの段階的廃止、循環経済への移行に焦点を当てた国際的な法的拘束力のある文書に向けて取り組む UNEA 5.2決議5/14(訳注:プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて(決議概要)環境省)を支持した。

 プラスチック条約に関する国際自然保護連合(IUCN)からの更なる情報については下記をご覧ください。
組織について:

 Common Seas は、新しい政策の推進、循環経済への投資、そしてプラスチックの製造、使用、廃棄方法における文化的変化の促進を通じて、プラスチック汚染危機に取り組む国際的な社会的企業である。 Common Seas は、政府、企業、地域社会と連携して、経済、身体、海洋の健全性のために、プラスチック汚染に対する有意義な行動を推進する解決策を提供している。 Common Seas は、意思決定者がベースラインを設定し、政策を設計し、プラスチックに取り組むことを支援し、小島嶼開発途上国 (SIDS) に役立つ国連プラスチック条約の提唱を支援することで、小島嶼開発途上国 (SIDS) を支援している。 これは、hospitality businesses がプラスチックの削減を評価して実行し、教育を可能にし、次世代がプラスチックの課題を解決できるようにするのに役立つ。 画期的な研究を通じて、プラスチックによる人間の健康リスクに対する世界的な認識を高める。

小島嶼国連合 (AOSIS)
 1990年以来、AOSIS は、国際的な気候変動、持続可能な開発の交渉及び過程において、39 の小島嶼国及び沿岸低地開発途上国(small island and low-lying coastal developing states)の利益を代表してきた。 弱者の代弁者としてのその任務は、疎外された声を増幅させるだけでなく、これらの国々の利益も擁護するものである。 規模の点では AOSIS は世界舞台で代表する国々によく似ているが、温室効果ガス排出削減などの歴史的な世界的公約を交渉し、しばしばその重みをはるかに上回る成果を上げている。

Serious Businessは、削減(reduce)、再利用(reuse )、リサイクル(recycle )の手法を通じてプラスチック廃棄物を防止するための戦略を策定し、SIDS の企業に導入の支援を提供する。 この作業は通常、組織的変化のアプローチで行われ、手段となる政策、廃棄物管理関係者、管理団体なども関与し、例えば国際自然保護連合(IUCN)とのプラスチック廃棄物のない島々(Plastic Waste Free Islands)プログラムに参加している。

オーシャン・クリーンアップ × イノベーション・アライアンス
 オーシャン・クリーンアップ(The Ocean Cleanup)は、世界の海洋からプラスチックを除去する技術を開発及び拡張する国際的な非営利プロジェクトである。 これを実現するために、彼らは二重の戦略を実行している。すなわち川からのプラスチックの排出を阻止すること、及び、すでに海に流出しているものを回収することである。 後者については、オーシャン・クリーンアップは、定期的に除去するためにプラスチックを効率的に集める大規模システムを開発した。 このプラスチックは、新しい製品にリサイクルする際に原産地を証明するために、DNV (訳注:自主独立財団として1864年に設立された DNV は、第三者認証機関、オイル&ガス分野のリスクマネジメント、風力/電力送配電分野のエキスパート、船級協会を主とする世界有数のサービス・プロバイダーである/DNV について)の加工流通モデルを通じて追跡される。 河川を介した排出を抑制するために、オーシャン・クリーンアップは、河川プラスチックが海に到達する前に阻止して回収する Interceptor(TM) ソリューション(訳注:インターセプターは、自走して河川からプラスチックを回収する、太陽電池駆動の浮動式ソリューションであり、その主要な目的は、プラスチックの海洋への流入を防ぐことにある。GARD INSIGHT 19 NOVEMBER 2019)を開発した。 2013 年にボーヤン・スラット(Boyan Slat)によって設立されたオーシャン・クリーンアップは、現在約 140 人の幅広い分野のチームを擁している。財団の本部はオランダのロッテルダムにあり、地方事務所はマレーシアのクアラルンプールにある。オーシャン・クリーンアップは、rePurpose Global Inc.(訳注:「rePurpose Global (リパーパス・グローバル)」は、世界規模でプラスチック・ニュートラルを推進するプラットフォームだ。企業が、より簡単に多くのプラスチック廃棄物の削減を行えるように支援する。その一環として、プラスチック・フットプリントを測定・相殺し、将来的な削減計画を立てている企業に付与する「プラスチック・ニュートラル認証」が消費財業界に新風をふき込もうとしている。/プラスチック・ニュートラル認証:若き起業家が開発したブランド選択の新基準) とともに、世界プラスチック条約におけるイノベーション・アライアンス(Innovation Alliance for a Global Plastics Treaty)の共同招集者である。このアライアンスは、世界プラスチック条約におけるイノベーション、テクノロジー、起業家精神の役割を推進し、発生源から海までのプラスチック汚染のライフサイクル全体にわたって世界全体のシステム変革を加速するための分野横断的なアライアンスである。


化学物質問題市民研究会
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