IPEN 2023年5月
IPEN INC-2 クイックビュー: プラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある 文書を開発するための政府間交渉委員会第2回会合(INC-2) 情報源:IPEN, May 2023 IPEN INC-2 Quick Views: Second Session of The Intergovernmental Negotiating Committee (INC-2) to Develop An International Legally Binding Instrument on Plastic Pollution https://ipen.org/sites/default/files/documents/ plastic_inc2_quick_views_final_web_0.pdf 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 更新 2023年5月22日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/INC2/ IPEN_230500_IPEN_INC-2_QUICK_VIEWS.html 背景 政府間交渉委員会第2回会合(INC-2)期間中、代表者らは、”要素の可能性のある選択肢に関する文書(potential options for elements as a basis for discussion)” UNEP/PP/INC.2/4 を議論の基礎として使用して条約の策定を進め、INC-2 と INC-3 の間に作成する文書の役割、及びこれらの会期 中に必要となるその他の作業を決定するであろう。 INC-2 の IPEN の主要なメッセージ プラスチック条約の要素について意見を提出した加盟国及び加盟国のグループは、大部分(提出書類の約74%)がプラスチック条約は人間の健康を保護すべきであると表明しており、提出書類の半数以上(64%)[1]がプラスチック中の化学物質に対する何らかの形の管理措置を求めている。 プラスチック条約が、プラスチックのライフサイクル全体にわたる影響から人間の健康と環境を守るためには、プラスチック中の化学物質に対処する必要がある。 したがって、IPEN は、プラスチック条約には次の要素を含める必要があると考えている。
UNEP 要素文書 (UNEP/PP/INC.2/4) には、目的や潜在的な重要義務など、条約の要素に関する選択肢が含まれている。 人間の健康と化学物質に関する言及がいくつか含まれている。IPEN は、人間の健康と環境を保護するという目的が極めて重要であり、特にプラスチックモノマーやポリマーを含む懸念化学物質の特定、制限、段階的廃止に関連して、管理措置全体に組み込まれるべきであると考える。 目的 UNEP 文書の目的は、その解釈を導く上で非常に重要である。 要素文書 (UNEP/PP/INC.2/4) では、条約の目的について 3 つの選択肢が提示されており、IPEN の見解は、パラグラフ 9(b) (訳注:Protect human health and the environment from the adverse effects of plastic pollution throughout the life cycle.) に基づく目的の策定が各国が表明するニーズを最もよく反映しているということである。すなわち、”ライフサイクル全体を通じて、プラスチック汚染の悪影響から人間の健康と環境を守る”。しかし、ストックホルム条約の場合のように、予防原則を参照し、プラスチックの生産、使用、排出を削減する必要性を参照することは、この目的にとって有益になるであろう。 (訳注:他の二つの目的選択肢) 9(a) End plastic pollution; protect human health and the environment from its adverse effects throughout the life cycle of plastic. プラスチック汚染をなくす;プラスチックのライフサイクル全体を通じて、人間の健康と環境をその悪影響から守る。 9(c) Reduce the production, use and discharge of plastics across their life cycle, including through the promotion of a circular plastics economy with a view to ending plastic pollution by X year and protecting human health and the environment from its adverse effects. プラスチック汚染を X 年までに終結させ、人間の健康と環境をその悪影響から守るという観点に基づき、循環型プラスチック経済の推進などを通じて、プラスチックのライフサイクル全体にわたる生産、使用、排出を削減する。 考えられる中心的な義務:”一次プラスチック・ポリマーの供給、需要、使用の段階的廃止及び/又は削減” プラスチックの生産量を削減することは、持続可能な生産と消費を達成するために必要なステップである。 プラスチックの生産と貿易の大幅な削減を達成するために、代表者らは、製造、輸入、輸出されるプラスチック・ポリマー、前駆体、原料の種類と量、並びにプラスチックに使用される化学物質の量と種類を透明性と報告要件を通じて追跡するための法的拘束力のある条項が条約に含まれていることに同意すべきである。法的拘束力のある削減目標について同意する必要がある。 さらに、プラスチック生産削減戦略では、有害化学物質(有害なモノマーやポリマーを含む)を含むプラスチックの削減と廃絶も優先する必要がある。 この文書のこの節では、一次プラスチック・ポリマー(primary plastic polymers)の使用を減らし、リサイクル材料の使用を増やすことが有益であり、より多くのプラスチックの流れが”二次プラスチック(secondary plastics)”として循環して市場に戻されることになることを示唆している。 ただし、このシナリオのマイナス面は認識されていない。 独立した科学的研究は、再生プラスチックには人間の健康と環境に害を及ぼす有害な化学物質が含まれていることを繰り返し示している。 リサイクルでは、さまざまなプラスチックからの有害な化学物質が結合及び濃縮され、新しい有害物質が生成される可能性があり、その全てが最終的にリサイクルされたプラスチック製品に含まれ、消費者への暴露につながる。 リサイクル作業員らは有害化学物質にさらされており、彼らの地域社会はプラスチックからの化学物質によって汚染されている。 一部のプラスチック・リサイクル技術は、大量の有害廃棄物の流れを生み出し、環境や健康への危害を引き起こす可能性がある。 したがって、有害な化学物質はプラスチックから段階的に廃止されるべきであり、安全で有害物質のない循環経済では有害な化学物質を含むプラスチックのリサイクルは容認できないため、代表者らがそのリサイクルを禁止することに同意することが重要である。 考えられる中心的な義務:”懸念される化学物質やポリマーの生産、消費、使用の禁止、段階的廃止、及び/又は削減” この要素文書は、ポリマーを含む有害化学物質の生産、使用、取引の禁止、制限、段階的廃止が必要であるという多くの国が提示した見解を反映している。 代表者らは、化学物質の管理措置に関する文書内の文言が強化され、循環性、排出、マイクロプラスチックに関する規定など、他の関連する管理措置案にも有害化学物質の影響の考慮が含まれるようにすべきである。 既存のアプローチの欠点から学び、化学物質毎に基準を適用することを目指すのではなく、化学物質のクラスベースのアプローチを開発することを目標とすべきである。 この要素文書では、透明性対策も提案されている。 代表者らはまた、バリューチェーン全体を通じて、世界的に調和されたアプローチに基づいて懸念化学物質を特定し、段階的に廃止するために必要な透明性対策について、提案された文言を保持すべきである。 これらには、ポリマーや化学物質の種類と量の追跡や、サプライチェーン全体にわたる完全な透明性の提供が含まれる。 INC-2 では、各国はプラスチックのライフサイクル全体を通じて使用される有害化学物質(モノマーやポリマーを含む)を特定し、段階的に廃止するための基準とメカニズムの確立に向けて取り組む必要がある。 ストックホルム条約の経験に基づいて、INC は”基準専門家グループ”を創設し、交渉の結果や INC-3 用に準備されるたたき台(ゼロドラフト)の結果を先取りすることなく、懸念される化学物質を特定するための基準について INC-2 と INC-3 の間で作業を開始すべきである。 考えられる中心的な義務:”マイクロプラスチックの削減” この要素文書は、マイクロプラスチックの意図的及び非意図的放出の両方の対策を提案している。これらの管理措置を議論する際、排出を完全には排除することができない場合、代表者らは、マイクロプラスチックを生成する可能性が高い材料が、人間の健康や環境に有害なポリマーや化学物質で作られていないことを確実にする必要がある。 考えられる中心的な義務:”廃棄物管理の強化” 廃棄物管理における INC の焦点は、プラスチック廃棄物の発生量の削減と既存のプラスチック材料の適切な廃棄にあるべきである。この要素文書では、リサイクルされるプラスチックの量を増やすために考えられる対策の候補リストを強調している。 参加者らは、残留性有機汚染物質を含む廃棄物のリサイクルに関するストックホルム条約の禁止と同様に、この管理措置に有害化学物質を含むプラスチックのあらゆる形態のリサイクルの禁止を含めるべきである。 さらに、代表者らは、この規制措置の下で提案されているように、特に低・中所得国に対するプラスチック貿易の増加を許可すべきではない。 この要素文書は、プラスチックのリサイクルを増やすためのツールとして拡大生産者責任 (EPR) の使用を提案している。 そうではなくて、EPR はプラスチック製品の生産を削減し、生産者がプラスチック汚染による社会的コストを負担することを保証するツールとして使用されるべきである。 要素文書で強調されているように、代表者らは、廃棄物ゼロ戦略や燃やさない技術など、利用可能な最善の技術に重点を置き、環境に配慮した廃棄物処理政策を優先すべきである。プラスチック廃棄物管理からの有害物質の生成と放出を防ぐために、政策は次のような危険な行為を防止する必要がある。野焼き、焼却、石炭火力発電所及び廃棄物エネルギープロセスでの混焼、セメントキルンでの混焼及び化学的リサイクル。 考えられる中心的な義務:”循環性を考慮したデザインの促進” プラスチックに有害な化学物質が含まれているため、プラスチックは持続可能ではなく、循環経済に適さない材料である。 この義務の根底にあるのは持続可能なデザインの推進の重要性であるため、この条約では、プラスチックの製造及びプラスチック材料から有害な化学物質が排除され、有害な化学物質を含むプラスチック(非循環プラスチック)がリサイクルされないことを確実にする必要がある。 代表者らは、循環経済への移行に向けてプラスチックを設計する際に、有害化学物質を排除することの重要性について特に言及すべきである。 プラスチックのライフサイクルを無害化することは、循環経済アプローチを実施し、人間の健康や環境に害を及ぼさない物質循環を生み出すための基礎となるべきである。 プラスチック材料及び製品の調和された設計基準には、化学物質に関する規定も含める必要がある。 さらに、代表者らは、リサイクル内容規定は、有害な化学物質や材料が含まれていないことが保証できるプラスチックにのみ許可されるべきであることを明記すべきである。 考えられる中心的な義務:”安全で持続可能な代替品の使用を促進する” 生分解可能や堆肥化可能なプラスチックなど持続可能な代替プラスチックを促進するための措置を議論するとき、代表者らは科学的アプローチに基づいて導かれるべきである。 いくつかの研究によると、生物由来及び生分解性プラスチックから作られた材料は、従来のプラスチックと同様の有害特性を持っていることが示されている[2]。したがって、代表者らは、人間の健康と環境に害を及ぼす化石燃料由来のプラスチックから、同様な影響を有する生物由来のプラスチックへの移行を可能にする条項の導入を避けるべきである。 考えられる中心的な義務:”プラスチック汚染の悪影響から人間の健康を守ること” 要素文書には、プラスチック汚染の悪影響から人間の健康を保護するための潜在的な条項が含まれており、これにはライフサイクル全体にわたる全ての排出と悪影響が含まれる必要がある。 しかし、提案されている管理措置は弱く、効果がない。 健康は、条約の管理措置全体を通じて取り組むべき横断的な問題であると考えられるべきである。 水俣条約 第十六条(訳注:第十六条 健康に関する側面/水銀に関する水俣条約(和文)環境省)に基づく経験から、”健康面”に特化した条項は、管理措置全体を考慮しなければ効果がないことがわかっている。 考えられる中心的な義務:”既存のプラスチック汚染への対処” 要素文書は、既存のプラスチック汚染と備蓄に対処するための管理措置を講じることを提案している。代表者らは、過去の汚染を構成する物質を製造した企業からの寄付で”プラスチック汚染レガシー基金(Plastic Pollution Legacy Fund)”など、過去の汚染に対処するための資金を動員し集める仕組みを含めるべきである。 プラスチック条約は、農薬で汚染された場所や高濃度汚染地を修復するための活動への資金提供に関連企業を関与させるというような、最早使用されていない廃棄農薬に対処するためのストックホルム条約のアプローチの例に基づいて構築することができる。 プラスチック廃棄物で汚染された現場に対処する技術は、非燃焼技術(non-combustion technologies)などの利用可能な最良の技術 (BAT) 及び環境のための最良の慣行(BEP) に従う必要がある。 BRS 条約及び他の MEA との調整 INC に権限を与える UNEA 決議 5/14 (訳注:UNEA Resolution 5/14 entitled “End plastic pollution: Towards an international legally binding instrument” 10 May 2022 UNEP)は、有害なプラスチックによる人間の健康と環境への脅威を防ぐ重要性を指摘し、バーゼル、ロッテルダム、ストックホルム(BRS)の各条約及び国際化学物質管理への戦略的アプローチ (SAICM) との調整を求めている。したがって、管理措置を議論する代表者らは、化学物質と廃棄物に関する既存の MEA (Multinational Environment Agreement/Multinational Environment Agreement/多国間環境協定))とのガバナンスのギャップを埋める方法、及び重複を回避する方法を検討する必要がある。 これには以下が含まれる可能性がある。
各国は、加盟国やその他の資金源が支援資金を拠出する形で、専用のプラスチック多国間基金又は新たな制度を通じての基金を設立すべきである。 化学物質及び廃棄物分野は深刻な資金不足であり、2022 年から 2026 年の期間に向けて GEF (訳注:地球環境ファシリティ(Global Environment Facility: GEF)は、開発途上国で行う地球環境保全のためのプロジェクトに対して、主として無償資金を供与する国際的資金メカニズムである。/環境省)が大幅に補充されるにもかかわらず、資金は既存の MEAs (多国間環境協定)の実施をカバーするには不十分である[3]。プラスチック条約の実施に適切な資金が提供されることを確実にするために、 プラスチック条約やその他の関連化学物質や廃棄物 MEAs (多国間環境協定)に対して十分かつ予測可能な資金を提供する多国間基金の創設が急務である。汚染は地球の危機として認識されているが、気候や生物多様性とは異なり、必要な対策を実施するための独自の資金がない。 さらに、多くの加盟国が、汚染者負担の原則が条約の基本原則のひとつであるべきであると指摘しているように、基金の少なくとも一部は、手数料、税金、及びコストの内部化を保証する拡大生産者責任制度を通じて、プラスチック、化学、及び関連産業からの資金から補充されるべきである。 確実な実施には、条約に基づく義務の履行に必要な活動を可能にする財政的支援が必要となる。これらの活動を可能にするためには、能力構築、監視、報告、利害関係者の参加などに対する財政的支援が必要となる。 追加情報
1. Calculation made by CIEL and EIA. 2. Lisa Zimmermann, Andrea Dombrowski, Carolin Volker, Martin Wagner, "Are bioplastics and plant-based materials safer than conventional plastics? In vitro toxicity and chemical composition", Environment International, Volume 145, 2020, https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412020320213 3. 例えば、ストックホルム条約に基づいて 2028年までに PCB類 の備蓄をゼロにするためには 23億9,000万米ドル(約3,230億円)が必要と推定されているが、2022年から 2026年の期間でストックホルム条約の実施に割り当てられるのは 4億600万米ドル(約548億円)のみである。 |