IPEN 2022年12月13日
プラスチック条約 INC-1 における IPEN
化学物質と健康の重要性を力説する

情報源:IPEN November 13, 2022
IPEN at the Plastics Treaty INC-1
Advancing the Importance of Chemicals and Health
https://ipen.org/news/ipen-plastics-treaty-inc-1-0

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
更新 2022年12月22日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/INC1/
IPEN_221213_IPEN_at_the_Plastics_Treaty_INC-1.html

 プラスチック条約の最初の政府間交渉委員会 (INC-1) は、2022年11月28日から12月2日までウルグアイのプンタ デル エステで開催された。 IPEN はグローバル・サウス(発展途上国)の全て地域からの約30の公益参加組織を支援し、45人以上の IPEN 参加 NGO メンバーをまとめることにより、彼らの声が会議に確実に届くようにし、プラスチック中の化学物質による人の健康と環境への脅威を説明する我々の見解を提案し、条約での採用を促進するために共同で取り組んだ。

 IPEN は、プラスチック中の化学物質による健康への脅威について代表者らに情報を提供し、プラスチック条約を通じて解決策に対処するために、彼等のためにいくつかの資料を作成した。 我々の新しいレポート『An Introduction To Plastics & Toxic Chemicals: How Plastics Harm Human Health And The Environment And Poison The Circular Economy(プラスチックと有害化学物質の紹介: プラスチックがいかに人間の健康と環境に害を与え、循環型経済を害するか)』は、人間の健康に脅威を与える物質としてのプラスチックに関する背景を提供し、プラスチックと化学製品の生産がすでに「惑星の境界(プラネタリー・バウンダリー)」(訳注1)を超えている可能性があることを示す最近の研究を共著した科学者らによる序文を含んでいる。 『Enhancing Controls to Protect Human Health from Plastics(プラスチックから人間の健康を保護するための管理の強化)』に関する代表者向けの解説では、健康と化学物質が条約にどのように関連しているか、および条約がこれらの問題にどのように対処すべきかについて説明している。

 INC-1 に対する IPEN の主な目的のひとつは、これらの健康への脅威に対処する条約を策定することの重要性について代表者に情報を提供することであった。 3 月に、プラスチック条約の任務を採択した国連会議(訳注2)で、化学物質や健康について言及した政府はほとんどなかった。 しかし、7 か月後の INC-1 では、60 か国以上が正式に化学物質と健康問題を提起した。 さらに、現在 45 カ国以上が署名している政府主導の High Ambition Coalition (高い野心連合)も、プラスチック中の有害化学物質に対処する必要性を明確に述べている。

 メディアの報道も、変化する展開を強調した。AP 通信で、IPEN 共同議長のタデッセ・アメラは、[プラスチックは]廃棄物管理の問題ではないと述べた。 これは化学物質の問題であり、健康問題であり、人間の健康の問題であり、生物多様性の問題でもあると述べた。そしてロイターで IPEN の政策顧問であるヴィト・ブオンサンテは、”プラスチックは最早海洋ゴミの問題だけとしては見られていない。人々はプラスチックを化学物質から成る物質として議論している。物語が変化してきている”と述べた。

 INC-1 の初日に、IPEN は、”我々の健康はあなた方の手中にある - プラスチック中の有害化学物質の禁止”と訴える人目を引く横断幕を掲げて代表団を迎えた。 さらに、ウルグアイ政府は IPEN に対し、”健康、化学物質、プラスチック、および有害性のない循環型経済”に関する代表者向けの多人数が出席する情報説明会を開催するよう要請した。 このイベントは、ウルグアイ政府とスイス政府、および内分泌学会により正式に共催された。

 最も重要なことは、市民社会、特に低所得国および中所得国からの我々のメンバーグループが、1 週間にわたる交渉中に意見を述べることができるようにすることであった。 我々は国連事務局および議長室と協力して参加手続きを進め、将来の条約の実施に向けた透明性と強力な科学に基づくプラスチックの世界的な管理の必要性を強調するいくつかの IPEN 総会発言を行なった。 また、マルチステークホルダー フォーラムの一環として開催された 2 つのパネルディスカッションにも参加し、フィリピンとインドネシアの IPEN メンバーらは、プラスチックのリサイクルという約束が、自国のコミュニティに不釣り合いなほどの有害な影響をもたらすことを強調した。

 プラスチック条約交渉の次回会合(訳注:INC-2)は、2023 年 5 月にフランスのパリで開催され、プラスチックの調達、生産、使用、廃棄によって引き起こされる健康と環境の危機に条約が実際にどのように対処するかについて、各国政府が詳細な議論を開始する。条約の実施に必要な財政的および技術的リソースへの取り組みについての重要な議論もまた開始される。

 25 年前の IPEN の発足以来、我々は、ストックホルム条約、水俣条約、SAICM など、他の国連協定に関する数十の交渉に積極的に参加してきた。我々の深い経験に基づくプラスチック条約の交渉において IPEN は、代表者らに信頼できる科学的情報を提供し、IPEN 参加組織が自国で練り上げた科学的でプラスチック条約を推進する活動を途上国の市民社会の主要な声として、IPEN メンバー グループを支援し続けている。

 IPEN には、プラスチック、化学物質、及び健康に関する取り組むべき多くの仕事がまだ先にある。 一部の条約交渉参加者らは依然としてリサイクルを重要な解決策と見なしており、リサイクルが有害化学物質やその健康への影響、特に脆弱な人々にどのように及ぼすかについて言及していない。 リサイクルはまた、リサイクル部門で雇用されている人々の生活と、耐久性があり、より安全で、さまざまな健康問題に関連する化学物質を含まない材料への移行との間の誤った二分法(false dilemma)(訳注3)を引き起こす。 すべての資源がより効率的に使用される経済への移行は、環境と人間の健康に利益をもたらすだけでなく、プラスチックを含むすべての材料を分別し、分類し、リサイクルする労働者の経済的機会を増加させる。 IPEN は、有害性のない循環型経済(non-toxic circular economy)の目標を条約の目的として確立するために取り組んでおいる。 (少なくとも 3か国と 1 つの地域が、総会での表明にこの文言を含めている。) IPEN はまた、世界中のネットワークからデータを生成し続け、途上国のメンバーの作業を支援し、世界中のほとんどのプラスチック廃棄物を分別しており、プラスチックの化学的影響を最も受けやすいウェイスト ピッカー(訳注:廃棄物の最終処分場などで有価物を収集する人々)との協力を拡大する。


訳注1:プラネタリー・バウンダリー
  • プラネタリー・バウンダリー(EIC ネット 2017.07.19)
     地球の環境容量を科学的に表示し、地球の環境容量を代表する9つのプラネタリーシステム(気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染)を対象として取り上げ、そのバウンダリー(臨界点、ティッピング・ポイント)の具体的な評価を行ったもの・・・。

  • プラネタリー・バウンダリー (ウィキペディア)
    プ ラネタリー・バウンダリーは、安全域や程度を示す限界値を有する9つのプロセスを定めている。人間活動が限界値を超えた場合、地球環境に不可逆的な変化が急激に起きる可能性がある。定量化できていないプロセスもあり、研究が進められている・・・。
訳注2:3月の国連環境総会再開セッション
訳注3:誤った二分法
  • 誤った二分法(ウィキペディア)
     誤った二分法(英: false dichotomy)あるいは誤ったジレンマ(英: false dilemma)は非論理的誤謬の一種であり、実際には他にも選択肢があるのに、二つの選択肢だけしか考慮しない状況を指す。 )

化学物質問題市民研究会
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