IPEN 2022年11月
IPEN INC-1 クイックビュー:
プラスチック汚染を終わらせるためのプラスチック条約


情報源:IPEN, November 2022
IPEN INC-1 QUICK VIEWS:
A PLASTIC TREATY TO END PLASTIC POLLUTION

https://ipen.org/sites/default/files/documents/
2022_plastic_inc1_quick_views_web.pdf


訳:安間武(化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
更新 2022年12月1日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/INC1/
IPEN_221100_IPEN_INC-1_QUICK_VIEWS.html

 国際汚染物質排除ネットワーク(IPEN) は 120 以上の主に低所得国と中所得国で世界及び国内の化学物質政策及び廃棄物政策の強化に取り組んでいる 600 以上の非政府組織 (NGO)のネットワークである。ストックホルム条約の交渉に貢献するために 1998 年に設立された IPEN はほぼ 25 年間にわたり化学物質と廃棄物に関する主要な国際文書の全ての分野に貢献しており、またプラスチック条約のための新しい交渉の開始とともに野心的な合意に向けて尽力することを楽しみにしている。

背景

 ”プラスチック汚染を終わらせる: 国際的な法的拘束力のある文書に向けて” と題する2022年3月2日の「決議 5/14」中で、国連環境総会 (UNEA) は、国連環境計画 (UNEP) の事務局長に 2024 年末までに交渉を完了することを目指して政府間会議((INC)を招集するよう要請した。INC の第1回会議は、2022年11月28日から12月2日まで、ウルグアイのプンタ・デル・エステで開催される。

 IPEN は、プラスチック条約は、人間の健康、他の生物の健康、及び環境をプラスチックのライフサイクル全体にわたる有害な影響から保護する上で重要な前進を遂げるための重要なステップであると考えている[1]。 IPEN はさらに、この条約はプラスチックの全ライフサイクルを通じてプラスチック汚染に焦点を当て、プラスチック材料の目に見える影響と目に見えない影響の両方に対処すべきであると考えている[2]。そのために、条約は次の 3 つの基本原則に基づいて構築されるべきである。
  1. ) プラスチックは炭素と化学物質の混合物である:プラスチックは化石燃料 (石油とガス) と化学物質の混合物から作られている。 プラスチックは、特定の特性のために追加された他の化学物質と組み合わされたポリマーで構成されている。 プラスチックには 10,000を超えるさまざまな化学物質が使用されており、そのうちの約 4 分の 1 は懸念化学物質として認識されている。(一方で、何百もの化学物質の有害性データは不完全、又は全く判明していない)。

  2. ) 条約はプラスチック中の化学物質による健康への有害な影響に対処する必要がある:人々は、プラスチックの製造、輸送、使用、及び廃棄中に、有害な化学物質類にさらされているが、プラスチックにはラベルが付けられていないため、消費者らはどのような化学物質がその中に存在するのかを知ることができず、プラスチックが廃棄物になると、人々の知る権利が妨げられ、プラスチックの安全な管理が危険にさらされる[3]。

  3. ) 有害化学物質がプラスチックを循環経済と相容れないものにすることを認識する:プラスチックの使用とリサイクルは、特にほとんどのプラスチックが公認されていない業者ら(informal sector)によってリサイクルされている諸国では、有害化学物質の制御不能な放出と、リサイクルに関与する労働者への暴露につながる可能性がある。今までにリサイクルされたプラスチックは非常に少なく、これらのリサイクルされたプラスチックは有害な化学物質を新たな消費者製品にもたらし、より多くの人々を有害な化学物質に暴露させている。
クイックビュー

 次の節には、INC-1 議題(INC-1 agenda )のいくつかの重要な項目に関する INC-1 代表者らに対する IPEN の考慮事項が含まれている:

項目 3(a). 組織上の事項: 手続規則の採用

 2022 年 5 月にダカールで開かれた作業部会 (OEWG) によって作成された手続き規則の草案を採択するにあたり、決議 5/14 に規定されているように、INC プロセスはすべての関係者の可能な限り広範な参加を保証する必要があることを再確認することが重要である。 プラスチック汚染を終わらせるための法的文書を作成するための国主導のプロセスであるため、UNEAメジャーグループシステムの下でグループを組織する慣行は、包括性が低く、多くの利害関係者の参加を切り捨てるため、放棄する必要がある。

項目 3(c). 組織上の事項:作業の組織4

 委員会がINC 会期中にコンタクト・グループを設立することを決定した場合、IPENは、このブリーフで特定された問題が適切に対処されることを確実にするために、作業は次の方法で組織されるべきであると考えている:
  • 特定の目的のための集団(クラスター)は、将来の法的文書の範囲、定義、及び目的を検討できる。
  • バーゼル条約などの他の文書との相互作用を考慮して、プラスチックのライフサイクルのさまざまな段階に個別のクラスターを作成することができる。
項目 4. 海洋環境を含んでプラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある文書の作成

 この議題項目の下で、INC は、決議の第3節 及び 第4節 で取り上げられている問題を検討する。注釈付きの暫定議題 (UNEP/PP/INC.1/1/Add.1) は、議論に以下が含まれることを予見している。

文書の構造のための広範なオプションの検討 (UNEP/PP/INC.1/4)

INC 事務局の文書 UNEP/PP/INC.1/4 では、次の 2 つのオプションが提供されている:
  • 特定の条約:文書本体に規制措置を含み、附属書で補足できる。または、
  • 枠組み条約:一般的な目的を実施する具体的な実質的な義務がひとつ又は複数の議定書に含まれる。
 IPEN は、枠組み条約がプラスチックに関する行動を大幅に遅らせると考えている。プラスチック汚染危機の緊急性と、全ライフサイクルを通じてプラスチックの害に対処するために UNEA5.2 決議によってすでに提供されているオプションは、技術的及び科学的知識の発展に合わせて、簡単に修正及び調整できるテキストの本文と付属書で提供される規制を伴う特定の条約を持つオプションを明確に支持している。 ただし、条約は、たとえば特定の用途や部門を規制するために、追加の議定書を採用する可能性がある。

文書に含まれる可能性のある要素の範囲、目的、及びオプション[5] (UNEP/PP/INC.1/5)

目的:IPEN は、この条約の目的には、プラスチックのライフサイクルの各段階における有害化学物質による影響を含む、プラスチックの有害な影響から人間の健康と環境を保護することを含める必要があると考えている。 文書 UNEP/PP/INC.1/7 は、プラスチック汚染の実用的な定義を「プラスチック材料と製品の調達、製造、消費から生じる悪影響と排出量」として提供している。

範囲:IPEN の見解では、範囲には少なくとも、すべてのプラスチック材料の製造、設計、使用、及び適切な廃棄が含まれる必要がある。プラスチックの抽出と製造に使用される有害な化学物質とポリマーを排除し、不要なプラスチックも排除するために上流で機能する必要がある。

プラスチックの定義:IPEN は、プラスチックを、その特性と機能を提供するために添加されたポリマーと化学物質の組み合わせでできている材料として定義することが重要であると考えている。INC 用に作成された「主要用語集」(UNEP/PP/INC.1/6) には、MARPOL 条約から取られたプラスチックの定義が含まれており、同条約は、運用上または偶発的な原因による船舶による海洋環境の汚染に対処している。この定義は、ライフサイクルを通じてプラスチック汚染に対処することを目的とした文書の目的には適さない。

指針原則:条約は、予防原則と汚染者負担の原則によって周知されるべきである。条約は、プラスチックの危険性に関する情報を得る権利やプラスチック政策に関する意思決定に参加する権利などの人権を実現することを目的とすべきである。これは、UNGA 決議 A/RES/76/300 に謳われているように、清潔で健康的で持続可能な環境への権利を含めることの実現に貢献するために不可欠である。

予防管理措置:IPEN は、人間の健康と環境に対するプラスチックの悪影響を最小限に抑えることを目標に、プラスチックのライフサイクル全体に予防管理措置を適用する必要があると考えている。バーゼル、ロッテルダム、ストックホルム事務局が発行するグローバル ガバナンスに関する文書 UNEP/PP/INC.1/INF/6 では、プラスチックとそれに関連する化学物質の持続可能性基準の必要性について説明している。 IPEN は、そのような基準を策定することが、次のことに向けた重要なステップになると考えている。
  • プラスチックのライフサイクル全体での懸念ある化学物質の排除
  • 懸念あるポリマーを排除
  • ラスチック材料及び製品の全ライフサイクルを通じて、化学物質のトレーサビリティも可能にする透明性要件の設定[6
  • プラスチック汚染の遺産に対処するための対策の確立
付録 I
シナリオノートの質問へのクイックアンサー (UNEP/PP/INC.1/2)

 シナリオ ノート (UNEP/PP/INC.1/2) は、次の質問が INC-1 での議論を促進する可能性があると予測している。

法的拘束力のある文書に関する考慮事項:

UNEP/PP/INC.1/2 パラ 26 (a): 文書はどの問題に対処することを目指しているか? 狙いはどのように文書に反映されるのか?

 IPEN は、この条約が調達段階から廃棄段階まで、あらゆる種類のプラスチックの健康と環境への影響に対処するべきだと考えている。 この条約は、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、熱エラストマー、及びバイオベースのポリマーを含んで全てのタイプのプラスチックをライフサイクル全体で使用または生成される関連化学物質とともにカバーする必要がある。

 プラスチック汚染を終わらせるためには、マイクロプラスチックやナノプラスチックを含め、あらゆる形態のプラスチック汚染を条約でカバーする必要がある。

UNEP/PP/INC.1/2 パラ 26 (b) 1 つまたは複数の問題に対処するための包括的なアプローチを提供する中核的な義務、管理手段、及び自発的なアプローチはどれか?

 IPEN は、ライフサイクル全体を通じてプラスチックの有害な健康への影響を取り除き、防止するために、プラスチック条約は次のことを行う必要があると考えている。
  • 有害化学物質のグループまたはクラスの使用を特定し、段階的に廃止する。優先事項には、添加剤、モノマー、及びポリマーが含まれる。この条約は、ビスフェノール類、臭素化及び塩素化難燃剤類、塩素化パラフィン類、フタル酸エステル類、ベンゾトリアゾール UV 安定剤類、及び PFAS を含むが、これらに限定されない化学物質の優先グループまたはクラスを特定し、対象とすることができる。
  • ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン類、ポリスチレン、及びフッ素化ポリマー類など、毒性があり、ほとんどリサイクルされず、廃棄すると危険な汎用プラスチックを段階的に廃止する。
  • 有害な化学物質を含む既存のプラスチック類の有毒なリサイクルを終わらせ、無害な循環経済への公正な移行を確実にする。
  • 非循環型プラスチック(有害な添加物を含むもの)を特定し、分別し、安全に廃棄する。
  • リサイクル業者や一般市民を含め、プラスチックのライフサイクル全体を通じて、プラスチックの製造に使用される化学物質、及び材料や製品のプラスチック成分として使用される化学物質に関する情報の透明性について、調和の取れた要件を確保する。
UNEP/PP/INC.1/2 パラ 26(c) 義務を履行することがすべての人の利益になるような、インセンティブに基づくアプローチとそれを可能にする環境をどのように文書で作成できるか? 

 IPEN は、この条約が、プラスチックとその前駆体の製造とプラスチックの消費を最小限に抑えるシステムへの移行を促進し、プラスチックの不要な使用を排除して、有害性性のない循環型経済のためのより安全な素材への革新を促進する必要があると考える。

 この移行は、公正、安全、人間の尊厳の条件で「働きがいのある人間らしい仕事(decent work)の機会を提供するために、プラスチック・サプライ・チェーンとライフサイクル全体の労働者に公正かつ包括的である必要がある。無害な循環経済のための技術と知識は、開発途上国が特許制限なしで簡単にアクセスできるようにして、プラスチック汚染に対する技術的解決策が先進国にとって単なる経済的機会に過ぎないようにする必要がある。

合意に達するためのプロセスの構造化に関する考慮事項:

UNEP/PP/INC.1/2 パラ 27. (a) どのような問題について早期合意は想定できるか?

 プラスチック汚染に対処するには、問題の規模を明確に理解する必要がある。製造、輸入、輸出されたプラスチックの種類と量(プラスチックとそれに関連する化学物質のすべての越境移動に対する国際取引 HS コードの使用の強化を含む)、及びプラスチック廃棄物の発生、収集、廃棄に関する報告-生命管理は、合意を達成するための最初のステップであるべきである。

UNEP/PP/INC.1/2 パラ 27. (b) 事務局または委員会の議長がさらに作業を行う必要がある分野は? そしていつまでに?

 IPEN は、取り組みの重複を避けるために、プラスチック、化学物質、汚染、及び廃棄物を扱う規定を含む既存の条約との一貫性が必要であると考えている。そのような他の条約との協力と一貫性は、これらの文書の目的を達成するのに役立ち、プラスチック汚染を終わらせるための上流の措置にプラスチック条約の努力を集中させることができる。

UNEP/PP/INC.1/2 パラ 27. (c) 政府間交渉委員会は、すべての利害関係者の利益が考慮され、文書を作成するプロセスに貢献することをどのように確保できるか?

 INC は、市民社会のオープンで透明性のある包括的な参加を確保し、特に低中所得国からの幅広い、ジェンダーおよび地域的にバランスの取れた一般市民の参加を確保するためのリソースを提供し、公益団体が条約の実施とさらなる発展の中で政府と協力して協力的な複数の利害関係者へのアプローチを確保できるようにする必要がある。

 プロセスにおけるすべての利害関係者に対するより高い説明責任は、プラスチックのライフサイクルのすべての段階に対処し、次の 4 つの政治物語を検討することによって達成される。
 ・化石燃料への依存
 ・リソースの非効率性
 ・汚染
 ・毒性

 プラスチック条約に関する IPEN の見解と、プラスチックがどのように私たちの健康と環境を害するかを強調する世界中の IPEN メンバーによって生成された科学的データの詳細については、我々のウェブサイトを参照してください。さらにプラスチックの世界的管理の必要性をまとめた 2分間のアニメーションもご覧ください。

REFERENCES

1 IPEN's views on Global Controls on Plastic is that the overarching goal of plastic related policies should be to "Eliminate the toxic impact of plastics throughout their life cycle - production, use, and disposal." The position paper is available at:https://ipen.org/documents/global-controls-plastic

2 The briefing "How the Plastic Pollution Resolution relates to chemicals and health" explains why Resolution 4/15 provides a strong basis for addressing the health impacts of plastics and their hazardous chemicals ingredients. The briefing is available at: https://ipen.org/documents/how-plastic-pollution-resolution-relates-to-chemicals-and-health

3 See CIEL et al, Plastic & Health: The Hidden Costs of a Plastic Planet (February 2019). Available at: https://www.ciel.org/reports/plastic-health-the-hidden-costs-of-a-plastic-planet-february-2019/

4 See also, CIEL, Greenpeace, EIA, "Intergovernmental Negotiating Committee (INC) Submissions: Quick View of Submissions on Clustering and Sequencing of Work" available at: https://www.ciel.org/wp-content/uploads/2022/11/Quick-View-of-INC-Submissions.pdf

5 IPEN Plastics Treaty Platform details 17 actions that the Plastics Treaty needs to do to protect human health and the environment from toxic chemicals in the lifecycle of plastic materials. The platform is available at: https://ipen.org/documents/ipen-plastics-treaty-platform

6 See also HEJ Support, SSNC, GroundWork, "Global Plastics Treaty - transparency requirement for chemical constituents in plastic is a must". Available at: https://www.globalchemicaltransparency.org/wp-content/uploads/2022/11/Submission-Chemical-Transparency.pdf


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