ケムセック 2024年2月26日
国内での PFAS 汚染発覚で日本の産業界は
EU の PFAS禁止政策に対峙

自国の PFAS 汚染が明らかになるにつれ、日本の産業界は
EU の PFAS 禁止に対して正面攻撃を開始した

情報源:ChemSec, 26 Feb 2024
Japanese industry confronts EU's PFAS ban
amid domestic contamination discovery

As Japan is uncovering the country's PFAS contamination,
its industry has launched a frontal attack on the EU's PFAS ban.
https://chemsec.org/japanese-industry-confronts-
eus-pfas-ban-amid-domestic-contamination-discovery/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2024年3月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/pfoa/JAPAN/240226_ChemSec_Japanese_
industry_confronts_EUs_PFAS_ban_amid_domestic_contamination_discovery.html



 昨年の秋、欧州化学物質庁(ECHA)は、EU 内で PFAS を禁止する提案に関する 6か月にわたる公開協議(訳注:EU の広範な PFAS 制限提案が公開された。複雑で重要なプロセスが始まる|BCLP 2023年2月9日)を終了した際、記録的な数の意見を得た。 同庁は 4,400の組織、企業、個人から5,600件を超える意見を受け取った。

 この禁止は EU に対してのみ提案されており、全世界的なものではないため、協議は主に欧州の問題になるであろうと考えるのも無理はない。 しかし、多くの PFAS 生産者と使用者は欧州外に拠点を置いており、世界のサプライチェーンの中でPFAS 化学物質の平静な流れ(an undisturbed flow)に依存しており、この公開協議には世界中から意見が寄せられた。

 しかし、EU 以外の他のどの国も、日本の産業界が提出した意見の数のレベルにさえ近づいていない。 実際、日本は PFAS 協議全体において 2 番目に意見の数が多い国(貢献国)である。 日本より多くの意見を提供したのはドイツの産業界だけである。

 ECHA が提示した協議の背景にある詳細によれば、意見提出国のトップ 3 は次のとおりであった。
  • スウェーデン (1,369 意見)
  • ドイツ (1,298 意見)
  • 日本 (938 意見)
 しかし、スウェーデンの意見の多くは、個人が禁止への支持を表明できるスウェーデン自然保護協会が主催するキャンペーンによるものである。 スウェーデンからの意見の 90 パーセント以上はこのキャンペーンからのものであるが、全ての意見が技術的なものというわけではないので、全体的な評価では考慮されないであろう。

 これは、ドイツが最も多くの意見を出したことを意味し、日本は 2位で 3 位のベルギー(303意見)を大きく引き離した。 合計すると、この協議における全ての意見のうち、日本の産業界からの意見がほぼ 20% を占める。 世界中で PFAS 化学物質の使用を停止させる取り組みにこれほど断固として反対している国内産業は日本の他にはほとんどない。

禁止に反対するための組織的な取り組み

 日本は化学物質汚染に無縁ではない。 この国には、その名に因んでミナマタ条約と名付けられた水俣市がある。同市は 1950年代に産業廃水が水俣湾に放出された後、深刻な水銀中毒を経験した。ミナマタ条約は、水銀の影響から人間と環境を守ることを目的とした国際条約である。

 しかし、そのような歴史にもかかわらず、日本は世界最大の化学産業のひとつを有するとともに、多くの日本企業が PFAS 化学物質を製造または使用していることもあって、これらの化学物質に対する注目は、少なくとも公の場では米国や EU に比べてはるかに低かった。

 化学産業界では、全く別の話になる。 PFAS 協議における多くの意見の背後にあるものを表面的にちょっと見れば、誰かが大量の意見を調整したことは明らかである。

”企業が禁止にどのように抗議すべきかを詳しく指南するウェビナー”

 2021年に設立されたフッ素化学メーカーの団体である日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)は、2023年3月に、企業が禁止にどのように抗議すべきかを詳細に指南するウェビナーを企画した。 また、”意見を提出しないということは、個々の企業/組織が提案された制限を受け入れることを認めたことになる”とも言われた。

 ウェビナーでは、数の力は要求の緊急性が高めるので、企業は統一した声を使うのではなく、独自に禁止に反対すべきであると強調された。 この戦略には、代替手段がないことを指摘し、PFAS 禁止の科学的証拠に疑問を呈することで、禁止にどのように反対すべきかの例も含まれている。 さらに、FCJ は PFAS 禁止についての見解に関する文書も作成し、この文書はプロセス(公開協議)に関係する人々の間に広く配布された。

この国は全国的なPFAS汚染に対処している

 日本の産業界がPFAS禁止を阻止する準備を進めていたのとほぼ同じ頃、2人の京都大学教授(訳注:小泉昭夫名誉教授と原田浩二准教授/ChemSec 引用のThe Japan TimesMay 28, 2023)によって 551人の血液を検査して PFOS、PFHxS、PFOA、及び PFNA の 4つの PFAS 物質を検査した日本の研究結果が発表された。

 その結果は驚くべきものであった。 これら 4 つの PFAS 化学物質を合わせた平均濃度は 1 ミリリットルあたり 24.2 ナノグラムであった。 さらに、観察された最大濃度は 124.5 ナノグラム/ミリリットルであった。

 日本では、PFAS 血中濃度に関する特定の国内基準はないが、全米アカデミーズ(科学、技術、医学)の 2022 年の報告書では、血中 PFAS 暴露量が 1 ミリリットルあたり 2 〜 20 ナノグラムの範囲にある人は、”潜在的有害健康影響”を受ける可能性があることを示している。 一方、1ミリリットル当たり 20ナノグラム以上の暴露レベルを持つ人々は、”健康への悪影響のリスクの上昇”に直面している。

”国際的に比較すると、日本の検査結果は非常に高い”

 欧州食品安全機関 (EFSA) は、さらに厳しいガイドラインとして 1 ミリリットルあたり 6.9 ナノグラムに設定している。

 国際的に比較すると、日本の検査結果は非常に高い。ケムセック(ChemSec)の職員が我々の血液を検査したところ、平均 PFAS は 1 ミリリットルあたり 7.1 ナノグラムであった。 日本人の血液はほぼ3倍、汚染されていた。

 ここ 1 年ほどで、日本は PFAS に関連する問題に気づき始めた。 市民団体が結成されており、特に泡消火剤を含む PFAS の使用が断固として行われている米軍基地周辺で懸念が高まっており、これについては複数の報道機関が取り上げている

 しかし、人々は日本の PFAS 汚染レベルを把握しようと懸命に取り組んでいるが、日本の産業自体が人々のPFAS を阻止する取り組みを妨害していることを彼らが知っているかどうかは定かではない。


訳注:参考情報


化学物質問題市民研究会
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