欧州放射線リスク委員会(ECRR)2011年4月24日報告書
ECRRの手法による
チェルノブイリ事故の
世界的な健康影響の予測


情報源:European Committee on Radiation Risk
April 24th 2011
Predicting the global health consequences of the Chernobyl accident
according to the methodology of the European Committee on Radiation Risk
C. Busby, University of Ulster European Committee on Radiation Risk
Summary
http://www.euradcom.org/2011/chernhealthrept.htm

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2011年5月1日
更新日:2011年5月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nuclear/articles/
ECRR_Predicting_Health_Consequence_Chernobyl.html


 2011年4月26日、チェイノブイリ大災害25周年にあたり、健康への影響の程度についての不一致が継続していることを心にとどめ、福島からの放射能の影響を受けた地域の公衆の安全性についての不一致が示唆されていることを心にとどめ、欧州放射線リスク委員会(ECRR)はチェルノブイリ事故の世界的な健康影響の評価を発表した。
 過去25年、チェルノブイリ事故後の曝露の広範な予測される健康影響が目撃されている。委員会はこれらの推定のいくつかに立ち戻り、がん発症数とその他の健康影響の予測に対し、委員会自身のアプローチを適用した。

 チェルノブイリ反応器の内容物のうち、どのくらいが放出されたのか(ソースターム(訳注1))についての不確実性が、影響についての不一致のひとつの原因である。

 委員会自身の評価は、二種類の入力データに基づいている。
  • 第一は、39カ国の人口、合計23億4,200万人の個人に及ぼした効果的な最初の1年間の被曝線量。
  • 第二は、セシウム137による平均地域汚染。これは標準的手法を用いつつ線量に変換された。
 がん発症は次の二つの手法で算出された。
  • 絶対的 ECRR 2010 手法。これは、内部及び外部被曝の比率のための UNSCEAR(訳注2)データに照らして修正された線量を必要とする。結果は曝露後50年のがん発症である。
  • トンデル手法。Cs-137 の汚染 100kBq/m2 毎にがん発症が11%増加するというスウェーデンのがん研究に基づいている。結果は曝露後10年のがん発症である。
(これらの計算は、がんがセシウム137によって引き起こされるということは想定していない。セシウム137は、ある範囲の有害な核種の存在を示すフラッグとしてみなされる。)

結果
 これらふたつの手法は曝露後10年で約492,000、50年で140万のがん発症を示している。これらの結果は、互いによく一致している。全世界で約140万件のがん発症という結果はまた、John Gofman, Rosalie Bertell 及び Alexey Yablokovによる独立した計算ともよく一致する。

 ECRR手法は、トンデルらがスウェーデンでがん研究の結果を発表する前の2003年に開発されたということに留意すべきである。ECRR 2003年手法はトンデルらが発見したことを高い精度で予測していた。トンデルらの発見に関連するセシウム汚染レベルは、約3mSvの年間外部線量を周囲のバックグランドに与えるが、ICRP モデルに従うとすると、そのレベルは、どのようながん発症の増加も観察されなかったはずのレベルになるということに、留意すべきである。 (青字部修正:11/05/30)

 この研究はがんだけに焦点を合わせた。しかしECRR2010はまた、心臓障害、卒中、糖尿病、子どもの先天性障害、幼児死亡、精子や卵子へのダメージによる不妊を含んで、死をもたらす広範な病気と病因が及ぼす著しい害を予測する。一般的に、放射能は早期老化を通じて寿命の短縮を引き起こし、したがって、チェルノブイリから激しく汚染された地域のように直線的ベースで予測された全体的ながんの増加は、早期の死亡の競合する原因により高い線量のところで切り取られるかもしれないということは明らかである。

 採用された ECRR2003 手法と、チェルノブイリにより汚染されたソ連地域外、核兵器の降下物、及びチェルノブイリ後のスウェーデンの、がんに関する真のデータとの一致は、日本の原爆被爆生存者コホートの外部被曝に依存するICRPに基づく放射線リスク・モデルへの現在のアプローチは間違っているということを示唆している。委員会は以前にICRPモデルを批判した(訳注3)。これらのことは、福島での事故での政策に重要な影響を及ぼす。

 委員会は、これは重要な問題であり、したがってその報告書を自由にPDFファイルでダウンロードできるようした。


訳注1:ソースターム(source term)
緊急被ばく医療研修のホームページ
 炉心損傷事故時、燃料は溶解し核分裂生成物が炉心から放出され、一定の漏れ率で環境へ放される。環境への影響を評価するには、核分裂生成物の種類、化学形、放出量を明らかにする必要があり、これらを総称してソースタームと呼ぶ。

訳注2:UNSCEAR (原子放射線による影響に関する国連科学委員会)
United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation
http://www.unscear.org/

The Chernobyl accident
UNSCEAR's assessments of the radiation effects
http://www.unscear.org/unscear/en/chernobyl.html

訳注3
2009年5月6日 欧州放射線リスク委員会(ECRR) レスボス宣言



化学物質問題市民研究会
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