「原子力科学者の報告」 2016年2月18日
気候変動は原発ではとても防止できない
ルッツ・メッツ (ベルリン自由大学)

情報源:Bulletin of the Atomic Scientists (「原子力科学者の報告」), 18 February 2016
Climate protection through nuclear power plants? Hardly.
Lutz Mez, Berlin Centre for Caspian Region Studies, Freie Universitat Berlin
http://thebulletin.org/commentary/climate-protection-
through-nuclear-power-plants-hardly9170


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年2月22日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nuclear/articles/
160218_Climate_protection_through_nuclear_power_plants_Hardly.html

 発電分野は世界の人為的な二酸化炭素(以降 CO2)排出の約28%を占め、温室効果ガスの最大排出源として群を抜いている。そのことが、CO2 フリーであるといわれる原子力発電プラント(以降 原発)が気候変動への対応の万能薬として、しばしば称賛される理由であろう。しかし2013年には、原発は世界の総発電量の10.6%を占めるだけであり、また電力は世界の最終的エネルギー消費の18%を占めるだけなので、原子力が世界の最終的エネルギー消費に占める割合はわずか1.7%だけである。たとえ原発による発電量が著しく増加しても、原発はやはり脇役のエネルギー源にとどまる。従って、エネルギー・システムの転換は、エネルギー効率と原発以上には CO2 排出を引き起こさない再生可能なエネルギー技術及びコジェネレーション(熱電併給)の利用を優先しなくてはならない。

 全体的に見れば、原発は決してCO2 フリーではない。今日、原発は大規模な現代的ガス火力発電プラントが生成する温室効果ガスの最大3分の1を生成する。国際持続可能性分析戦略研究所(International Institute for Sustainability Analysis and Strategy)の共同設立者ウーヴェ・フリッチェによれば、原子力エネルギーの製造に関連するCO2排出量は、原子炉で使用されるウランがどこで採掘されて濃縮されるのかにより、7〜126 グラム CO2 相当/キロワット時の範囲である。ドイツにおける典型的な原発について、28グラムという具体的な排出見積り量が計算されている。2014年における原発による世界のCO2排出の最初の見積りは、約 110,000,000 トン CO2 相当であり、これは概略チェコ共和国のような一国のCO2排出量と同等であった。そしてこのデータは核廃棄物の保管により引き起こされる排出は含んでいない。

 今後数十年間で、高品位ウラン鉱が払底し、ウラン採鉱にもっと多くの化石燃料を使用しなくてはならないので、原発からの間接的なCO2排出はかなり増加するであろう。この傾向を見ると、原発にはエネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの使用増大は言うまでもなく、原発には現代的なガス火力発電に対するCO2排出の優位性は最早ない。

 原発はまた、トリチウム(水素3)又は炭素14 のような放射性同位体(訳注1)及び放射性希ガスガスであるクリプトン85 (訳注2)の排出により気候変動に寄与しているかも知れない。クリプトン85 は原発内で生成され使用済み燃料の再処理工程で大量に排出される。地球大気圏のクリプトン85 の濃度は、過去数年で核分裂の結果急騰し、新記録に達している。クリプトン85 は、大気の天然の放射線誘起電離作用を増大する。従って、地球大気圏の電気的バランスが変化し、気象パターンと気候に著しい脅威を及ぼす(訳注3)。クリプトン85 は”気候にとって最も有害な物質のひとつ”であるのに、ドイツの物理学者であり有力な政治家であるクラウス・ブーフナーによれば、これらの排出には国際気候保護会議で現在に至るまで関心が寄せられていない。

 気候保護を促進するために原発は必要であるとする主張に関し、全くその逆が真相であるように見える。原発は、持続可能で社会的に矛盾しないエネルギー技術及び特にスマートエネルギーの利用の開発における新機軸に向けた取り組みを倍加するするよう電力会社及び電力産業に圧力をかけるために、早急に閉鎖しなくてはならない。

 この評論は原発及び気候変動に関する専門家らによりなされている。


訳注1:放射性同位体
訳注2:希(貴)ガス(noble gas)
訳注3:参考情報



化学物質問題市民研究会
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