DW(ドイツ国際放送) 2015年8月12日
原子力エネルギーの動向を探る

情報源:Deutsche Welle, August 12, 2015
Taking the pulse of nuclear energy
http://www.dw.com/en/taking-the-pulse-of-nuclear-energy/a-18641860

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2015年8月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nuclear/articles/
150812_DW_Taking_the_pulse_of_nuclear_energy.html


 原子力発電は最も重要なエネルギー源のひとつであり、また最も議論のあるもののひとつである。その議論の背景にあるものは何か?

Relaunched_Sendai.jpg(17718 byte)
 日本は、8月11日、2年間の中断の後、原発を再稼働した(川内原発)。政府は、この原子力エネルギーを利用したいと望んでいるが、日本の市民の多くはこの動きに反対である。国家のエネルギーの必要を原発でまかなうという決定は、日本だけの議論ではない。原発の開発はその技術的な問題のために世界中で抵抗にあっている。

 原発のメルトダウンは、1986年のチェルノブイリ、そして2011年の福島の大災害の原因である。この科学は軍事利用という理由のためにも恐れられている。

 原子力エネルギーにはリスクが伴うにもかかわらず、気候変動に関する政府間パネルの2014年報告によれば、原発は全ての発電の中で(温暖化ガスの)排出が最も少ない。

原子力エネルギーとは何か?

 原子力発電は、原子の連続的な分裂で放出されるエネルギーにより産み出される。このプロセスで放出されるエネルギーは、ガス又は水の熱として利用される。この熱が、電気を生成するタービンを駆動する蒸気を発生させる。

世界各国の稼働可能な原発保有数
アルゼンチン:3、アルメニア:1、ベルギー:7、ブラジル:2、カナダ:19、中国:28、チェコ共和国:6、フィンランド:4、フランス:58、ドイツ:8、ハンガリー:4、インド:21、日本:43、メキシコ:2、オランダ:1、パキスタン:3、ルーマニア:2、ロシア:34、スロバキア:4、スロべニア:1、南アフリカ:2、韓国:24、スペイン:7、スウェーデン:10、スイス:5、台湾:6、ウクライナ:15、イギリス:16、アメリカ:99
(出典:IAEA, August 82015)

 原子力(核)エネルギーはまた、原子爆弾だけでなく、軍事技術として広く利用されている。

 ”潜水艦に、航空母艦に、砕氷船に、原子炉が搭載されている”と、Ecologic Institute(訳注:ドイツの非営利民間の環境研究所)の創設者であり、名誉ディレクターであるアンドレアス・クレーマーは DW (ドイツ国際放送)に述べた。

 2015年の世界原子力産業状況報告によれば、このエネルギーは、2014年における世界の電力需要の10.8%を供給した原発電源である。

なぜ議論があるのか?

 原発はその軍事利用のために議論の泥沼にはまっている。クレーマーによれば、原子力エネルギーに反対する大衆デモは1950年代にさかのぼる。

 ”それは、この技術とその戦争と死への関連がもたらす論争である”と彼はDW に述べた。”それは主に1950年代中にかたがつけられるという約束を満たすことができなかったという理由のために、その影から逃れることができない”。

 また核燃料から生成される核廃棄物処分という問題がある。この問題は現在二つの方法が取り組まれている。使用済み核燃料をそのまま保管する方法と、燃料棒からウランとプルトニウムを抽出・分離する再処理という方法である。

 ”どの様な原発でも、廃棄物が生じる”と、グリーンピースの核問題上席活動家シャウン・ブルニエは DW に述べた。”世界中で約250トンの分離されたプルトニウムが保管されている。ひとつの核爆弾を作るのにわずか5kgのプルトニウムで十分である”。

地球温暖化に果たす原子力エネルギーの役割りは何か?

 気候変動との戦いにおける原子力エネルギーの役割は不確実である。原子力産業は、原子力エネルギーは原発建設の間だけしか有害な炭素を大気に排出しないので、それは化石燃料から再生可能エネルギーへの転換の橋渡しであると主張している。

 核エネルギー研究所(NEI)の上席メディア担当ディレクター、スティーブン・ケレケスは、原子力エネルギーは信頼性があり、経済的に利用可能な電力を確実にしつつ、環境を保護するために重要であると述べた。

 ”原子力エネルギーは、化石燃料を燃やさずウラン原子を分裂させることにより、経済成長に拍車をかけ、炭素排出のない電力を24時間365日、生成することが立証された方法である”と、グリーンピースの核問題上席活動家シャウン・ブルニエは、核エネルギー研究所(NEI)の主張に同意しない。そうではなくて、原発の所有者らは、衰退しつつある原子力産業が生き残るために再生可能エネルギーの信用を傷つけようとしていると、彼は述べている。

 ”彼らは、再生可能エネルギーは、非効率なので必要なレベルの電力を供給することができないと主張している”と、ブルニエは DW に述べた。”しかし、ドイツのように再生可能エネルギーが発展している場所を見れば、再生可能エネルギーが信頼性のあるエネルギーを原発事故のリスクなしに供給しているのを見つけるであろう”。

 ”原子力は、市場が求めている再生可能エネルギーとは全く比較にならない”と彼は付け加えた。

原子力に関するドイツの立場は?

 ドイツは、2000年に始まった原子力エネルギーから再生可能エネルギーへの移行の真最中である。福島の事故の後、ドイツ政府は2022年までに原発をなくすことを目標とする取組みを加速させることを選んだ。

 連立政府は2011年に国内で稼働中の原発17基のうち8基を直ちに停止することに同意した。残りの原発は、スケジュールより早く本年5月に閉鎖されたグラーフェンラインフェルト原発のように、徐々に停止される。

   ドイツ緑の党の原子力エネルギー担当シルビア・コッティングウールは、ドイツではそれぞれ 29%と16%と、再生可能エネルギーの方が原子力エネルギーより大きな市場を確保している。

 ”このことは我々グリーンの主張が正しいことを証明している。我々は原子力エネルギーを容易に再生可能エネルギーで置きかえることができる”と、コッティングウールは DW に述べた。

 ブルニエは、地球規模のエネルギー転換は、”石油、石炭、そして原子力の既得権益”のために、実際には速やかに行えないと述べた。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る