2007年5月23日 クラレンス・デービスの報告書
EPA とナノ技術:21世紀の監視
エグゼクティブ・サマリー


情報源:Woodrow Wilson International Center for Scholars
Project on Emerging Nanotechnologies
EPA and Nanotechnology: Oversight for the 21st Century
A Report by J. Clarence (Terry) Davies
May 23, 2007
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訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年5月30日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/wwics/070523_clarence_davies_EPA.html

エグゼクティブ・サマリー
 ナノ技術は人々の生活を改善する大きな可能性を持っている。その可能性を実現するために、この新しい技術は、ナノの健康と環境に及ぼすどのような有害影響をも特定し防ぐよう設計された適切なステムで監視されるなくてはならない。

 2014年までに世界中で製造される全ての商品の15%はナノ技術が関係しているであろうと推定されている。ナノ技術の開発と新規商品出現が加速されるということは、監視システムの確立が間に合わなくなることを意味する。今、行動を起こす必要がある。

 この論文は、取られるべき多くの行動を特定している。それは特に米環境保護庁(EPA)に目を向けているが、それはEPAが多くの規制権限及び環境と人の健康の保護という使命に関わっているために、どのような監視の取組においても中心的な機関となるであろうからである。

 既存のEPAの権限を検証してみると多くの弱点が明らかになる。特に、ナノ技術の一般的な監視を行える可能性を持つ唯一の既存の法律である有害物質規制法(TSCA)は多くの点で非常に不十分であり、改正される必要がある。しかし、TSCAからはなれても、実際、EPAの裁量範囲のどのような権限もナノ技術の監視という観点からは弱点を持っている。

 ナノ技術革命は、既存の規制に比べて効果的であるがわずらわしさが少なく、また公共及び民間双方からのリソースが少なくてすむナノ監視システムを作り出すために、新しい種類の規制を制定する機会を与えるものである。この報告書は、ひとつのナノ監視システムに統合される必要のある様々なツール、すなわち情報ツール、自主的取組、経済的ツール、そして責任などについて議論する。また州と地方政府、及び公衆の参加についても議論する。また、それらのツールの使われ方について異なる9つの例の概要を示す。最適な組み合わせは、製造者、非政府組織、EPA及び消費者などを含む影響を受ける関係者団体と対話することによって決定される必要がある。

 ナノ技術はまた、EPAの再活性化のための触媒となり、EPAを21世紀の舞台に押し出す機会を与える可能性がある。強化が求められる主要な分野は、科学、プログラムの統合、人事、国際的な活動、そしてプログラムの評価である。不適切なリソース、金と人は全ての連邦規制機関と同様にEPAにとっても問題である。

 この報告書は結論として、ナノ技術の監視を改善するために必要な25以上の行動を含む行動提案を示している(表 ES-1)。EPA、議会、大統領、国家ナノテクノロジーイニシアティブ(NNI、及びナノ技術産業)のそれぞれがとるべきステップがある。多くのステップは、ナノの健康と環境への影響に関する研究の量と中心の両方を増やすことを目的としている。もっと多くの研究が緊急に必要とされるが、知識のギャップが監視システムに関する仕事を遅らせることの言い訳に用いられるべきではない。知識のギャップというものは常にある。監視システムはこのギャップを埋めために役に立つ。最も重要な次のステップは第一に、法と現在のTSCA規制の両方を変えることによってTSCAがナノを扱えるようにすること、そして第二に、21世紀の技術に相応しい次世代の監視システムの骨格を形成するために利害関係者の会議を開催することにより新しい規制的アプローチに着手することである。

 毎週市場に投入されている新しいナノ製品について、我々そのような製品がリスクを及ぼすかどうか検討するために今、新しいシステムが必要である。この報告書はそのようなシステムを創造し社会がナノ技術の進歩に準備ができることを確実にするための議題を提供する。

TABLE ES.1. 行動提案
今後1〜2年で実施されるべき項目の提案
研究1. NNI は、ナノの健康と環境への影響のための研究計画を変更する。
2. 議会は、3年毎にナノの健康と環境への影響のための研究計画を出すようNNI に求めるために、「21世紀のための国家ナノ技術法」を改正する。
3. EPA及び/又はNIEHSは、政府産業共同ナノ影響研究所の創設についてナノ関連会社との討議を開始する。
4. 政府は、ナノの健康と環境に関する戦略的目標研究のための資金調達を、少なくとも年間5,000万ドル(約60億円)まで増やす。
規制5. 産業界、環境団体、その他の利害関係者は、対話を開始する。
6. EPA は、ナノ自主プログラムを立ち上げる。
7. EPA は、TASCAがナノを扱えるよう体系的に改正する。
8. EPA は、TSCAの下で全ての物質をカバーする新規用途のルールを公表する。
9. EPA は、ナノのための内部調整計画を作成し実施する。
10. EPA は、政府機関間ナノ調整グループを作るためにFDA, OSHA, CPSC, USDAと作業する。
11. 議会は、GAOに対し他の諸国がナノ規制と監視に関して何をしているか調査を実施することを求める。
12. NNI は、評価基準を確立し発表する。
13. NNI は、ナノの経済性に関する調査を委託する。
14. NNI は、ナノ物質及びナノ製品の表示に関する賛否の調査を委託する。
15. 議会は、ナノの規制メカニズムの選択肢を検討するために、両院に暫定的委員会を設立する。
その他16. 大統領と議会は、EPA現代化委員会を招集する。
17. 議会は、ナノの健康と安全に関する研究と規制に連邦機関が現在どのようなリソースをあてているのかを調査し、これらのリソースは適切であるかどうか検討するためにヒアリングを実施することをGAOに委託する。
18. NNI は、主としてNSFからの資金により公衆の教育と参加の取組を拡大する。
19. EPA は、EPAのプログラムを調整し、プログラムを評価し、EPAの目標に向けての進捗を測定することに責任を持つ政策事務所を再設立する。
20. 議会は、公衆の参加に役立てるために連邦諮問委員会法を改正するための公聴会を実施する。
今後2〜5年で実施されるべき項目の提案
研究21. 議会は、NNIが優先度の高いものに資金を出せるよう国家ナノ技術法を改正する。
22. ナノ技術影響研究所は、運営を開始し、議会はEPA又はNIEHSの予算の中に同研究所への資金を別途設ける。
規制23. 議会は、法案作成者にとってほとんど不可能となるような制約を取り除き、司法審査の任意基準”を変更し、製造者に十分なデータを生成させ、企業秘密情報が適切に保護されるならEPAにそれらを州及び外国政府と共有する権限を与えるために、TSCAを改正する
24. ホワイトハウスは、EPA現代化委員会の実施勧告を考慮する。
25. 通商協会は、ナノに関連する産業用管理コードを確立する。
26. EPAは、州の部局及び他の関連機関と協力して、ナノ研究結果の情報交換のためのOECDメカニズムを十分に支援する。
Note: For further detail on these agenda items, see Chapter V. For acronyms used, see list at end of report.


化学物質問題市民研究会
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