WICS 2006年5月4日
デービッド・リジェスキー 上院ナノテク商業化委員会で証言
商業化の成功は適切な予見、リスク研究戦略、及び公衆の参加にかかる


情報源:Woodrow Wilson International Center for Scholars
Project on Emerging Nanotechnologies
Project Director David Rejeski Addresses Senate Committee on Commercialization of Nanotech
Successful Commercialization Depends
on Adequate Oversight, Risk Research Strategy, and Public Engagement
May 4, 2006
http://www.wilsoncenter.org/index.cfm?topic_id=166192&fuseaction=topics.item&news_id=183774

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年5月16日


【ワシントン】 本日、アメリカ上院商務委員会の商業旅行経済開発小委員会でウッドロー・ウィルソン国際学術センターの新規出現ナノ技術プロジェクトのディレクター、デービッド・リジェスキーが、この国の”医療からエネルギー及び食品製造にいたるまでの広範な分野で、ナノ技術の長期的な利益を収穫することができるかどうかは、我々が第一世代のナノ技術製品の導入をいかに管理するかにかかっている”と証言した。

 リジェスキーは、最近発表したプロジェクト目録(訳注1)によれば、現在、製造が確認された230のナノ技術消費者製品−日焼け止めや化粧品から自動車のバンパーまであらゆるもの−が市場に出ていると指摘した。これには600種以上の原材料、中間成分、及び EmTech Research (訳注:http://www.emtech.net/index.shtml)のプロジェクトが現在使用中の産業用装置品目は含んでいない。

訳注1(参考):ウィルソン・センターのナノ技術消費者製品目録(当研究会訳)

 NanoBiotech News (訳注:http://www.nanobiotechnews.com/)もまた、臨床研究用、臨床用、又は商業用の開発現場に、130種のナノベースのドラッグ・デリバリー・システムと125種の医療装置又は診断テスト装置が存在すると推定しており、それは昨年に比べて68%の増加である。国立科学財団は、2015年までにナノ技術は世界の経済に1兆ドル(約110兆円)の効果と200万人の雇用をもたらすと推定している。

 リジェスキーによれば、”我々のまわりは、数千とは言わなくとも数百のナノ新製品で溢れようとしているが、政府はそれへの対応の準備ができていない。産業や商業グループも準備ができていない。ナノテクの人の健康と環境へのリスクに対する現在の研究戦略は適切ではなく、公衆はその内容を知らされていない。”

 この証言で、リジェスキーはこれらの課題に目を向けるための多くの勧告を提案した。それらには注意深く計画され適切にリソースが裏付けられた次のような分野への研究が含まれる。すなわち、可能性ある環境健康と安全のリスク、透明性があり、効率的で予測可能な統合された監視制度、ナノ技術の商業化を援助するべきビジネスのためのワンストップショップ(訳注:もともとは関連するすべての商品やサービスをそろえた総合店舗の意味)、特に中小規模の会社、及び、公衆のもっと大きな関与などである。

 ”政府の都合で推進することができる技術的革新には、研究、テスト、政策審議、又はもう少し多くの公聴会のための時間を作り出すための’休止ボタン(pause button)’がない・・・。もっと先を見通さないと、今日の答えは昨日のナノ技術の疑問に対するものとなってしまうであろう”。

 リジェスキーの書面による証言は下記にて入手可能である。
 http://www.nanotechproject.org 又は
 http://www.wilsoncenter.org/nano

 ナノ技術は原子又は分子のスケールでものを測定し、観測し、予測し、作るための能力であり、通常、1〜100ナノメートルの領域である。1ナノメートルは10億分の1メートルである。人の髪の毛の幅は約100,000ナノメートルである。


証言のダウンロード: 開会の言葉 http://www.nanotechproject.org/file_download/62
証言の要点 http://www.nanotechproject.org/file_download/61
全文     http://www.nanotechproject.org/file_download/60


追記:デービッド・リジェスキーの証言の要点
  • 医療からエネルギー及び食品製造にいたるまでの広範な分野で、ナノ技術の長期的な利益を収穫することができるかどうかは、我々が第一世代のナノ技術製品の導入をいかに管理するかにかかっている。製品は規制と監視が弱い分野の市場、例えば化粧品や栄養補助食品の市場にすでに入り込んでいる。

  • 3月下旬、ドイツにおいて、世界はおそらく初めて消費者製品が関わるナノ技術の重大事件を経験し、その結果、有害な健康影響を見た。製品中の成分に関する情報公開の欠如がこの事件のタイムリーな解決を妨げ、ドイツ国民に高く信頼されていた第三者機関によるテスト保証が、伝えられるところによれば、この製品に関し悪用された。

  • ナノ製品が商業化されているということで、うまくいっていることもあるが、しかし、もし我々が適切な監視をしていなかったとすれば具合が悪い。成功が見込まれる市場が出現するかどうかは消費者の信頼にかかっている。

  • 三つのステップが、ナノ技術の商業化のための全体的な風土を改善し、企業、投資家、及び消費者を支援することができる。
    • 戦略的な環境健康と安全についての調査:我々は、監視と規制戦略に健全な科学をもたせ、公衆にリスクと便益に関する重要な情報を供給するために、製品を前にして、環境健康と安全の調査をする必要がある。

    • 効果的な監視:商業化を成功させるために、我々は透明で効率的で予測可能で公衆に信頼される監視システムを必要とする。

    • 公衆参加のための改善:公衆の参加のためのリソースが格段に増強され、参加活動が促進される必要がある。

  • さらに、多くの目的意識のある活動がナノテクの商業化を支援する。
    • 産業データ:我々の商業化政策とプログラムは、ナノテク会社、彼らの製品、彼らの問題、及び必要としていることについての強固なデータによって情報を得る必要ある。

    • ワンストップショップ:連邦レベルのワンストップショップが、商業化政策に目を向け、会社と投資家を支援するために作られるべきである。

    • グリーン・フォーカス:アメリカは、ナノベースの環境技術の新たな世代はもとより、環境に優しい”グリーン”なナノ技術製造プロセスと製品の開発と商業化において世界のリーダーとなることができる。

    • ナノ調達:我々は、重要なナノテクベースの製品、特にエネルギー分野において、政府(連邦、州、及び地方)の購買力を利用すべきである。

    • 輸出の促進:我々は、困難で厳しい競争の世界市場にいるアメリカのナノテク会社を支援するために輸出促進戦略の開発を開始する必要がある。


 新規出現ナノ技術プロジェクト(Project on Emerging Nanotechnologies)は、ウッドロー・ウィルソン国際学術センター及びピュー・チャリタブル・トラストによって2005年4月に立ち上げられた。それは、ビジネス、政府、及び公衆がナノ技術の人と環境への影響を予想し管理するのを助けることを目的としている。

 ピュー・チャリタブル・トラスト(Pew Charitable Trusts)は、公衆への情報提供、政策解決の推進、及び市民生活の支援を行うことにより、公衆の利益を進める全国的慈善団体である。同団体の全国的な健康社会福祉政策プログラムは、里親制度、生殖遺伝技術、退職所得保障など広範な課題に取り組んでいる。専門家を雇うための投資、多様な見解の探求、選択肢の特定、政策解決に関する合意形成など−その全てはアメリカ人の健康と幸福を推進するという目標−で折り紙がつけられている。

 ウッドロー・ウィルソン国際学術センター(Woodrow Wilson International Center for Scholars)は、ウィルソン大統領を記念して1968年に議会により設立され、本部はワシントン D.C. にある。同センターは自由でオープンで情報与えられた対話のための中立なフォーラムを確立し維持する。党派に属さない機関であり、公共及び私的な基金によって支えられており、国内及び国際的な問題の研究を行っている。



化学物質問題市民研究会
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