2006年1月13日 クラレンス・デービスの報告書
「ナノ技術の影響を管理する」
ウッドロー・ウィルソン国際学術センターによる紹介

元EPA高官 ナノ技術には新たな監視と資源が必要と述べる

情報源:Woodrow Wilson International Center for Scholars
Project on Emerging Nanotechnologies
Managing the Effects of NANOTECHNOLOGY
A Report by J. Clarence (Terry) Davies
January 13, 2006
Download the Report
http://www.wilsoncenter.org/index.cfm?topic_id=166192&fuseaction=topics.item&news_id=165552

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年3月26日

 本年1月11日に、ウッドロー・ウィルソン・インターナショナル・センターの新規出現ナノ技術プロジェクトは、環境についての研究と政策に関しアメリカで最も権威のある一人による報告書を発表したが、それはナノ技術の現状の規制の枠組みの長所と短所を検証し、ナノ技術の監視に対する新たなアプローチを求めている。

 ジョージ H.W. ブッシュ政権時代の元米EPA副長官 J. クラレンス(テリー)・デービスによる『ナノ技術の影響を管理する』は、ナノ技術の潜在的な有害影響を管理しその継続的な開発を推進するために、より良くより積極的な監視と新たな資源が必要であると主張している。

 ”公衆と環境を保護する一方、取組と革新を促進するナノ技術のための正しい規制の枠組みを持ち出すのはよい時機である”−とデービッドは述べている。”この報告書の中で示されたアイディアは、ビジネスと政府に対し協力してナノ技術を育み促進し、またその有害影響も予測し目を向けるよう促している。”

 ”ナノ技術は、ヘルスケアにおける改善、清浄な水とエネルギーの製造、及びIT基盤の継続的な進歩に対しとてつもない可能性を持っている”−と元EPA長官ウィリアム K. ライリーはこの報告書にコメントしながら述べた。”しかしナノ技術は、産業と政府が労働者、消費者、及び環境に及ぼす可能性あるリスクを特定し管理することの責務を引き受けた場合にのみ、繁栄をもたらすことができる。デービスの連邦政府規制システムの分析と勧告は、ナノ技術発展の方向に動くための−ビジネス、政府、及び市民団体の間に−必要な対話を引き起こすであろう。”

 ”経済的革新と環境への配慮を促進するナノ技術規制に関する合意に達することは容易なことではないが、それは無視することのできない我々の挑戦である”−とデービスは述べている。

 デービス博士は現在の規制アプローチのあるものはナノ技術に適用して機能するであろうと主張している。”食品医薬品局(FDA)は医薬品と生物医学装置の分野でのナノ技術の適用を検証し規制する権限を持っている”−とデービスは述べている。”しかし、既存のほとんどの適用プログラムはひどく欠陥があり、リソースが不足しており、新たな考え方と基金が必要である”。

 この報告書はナノ技術に適用する既存の規制の長所と短所を分析し、新たな規制が含むべき内容の概要を示している。

 ”ナノ技術はいまだ揺籃期であり、その初めから我々が正しい選択する明確な機会を提示している”−と新規出現ナノ技術プロジェクトのディレクター、デービッド・リジェスキーは述べた。このプロジェクトはウッドロー・ウィルソン国際学術センター及びピュー慈善財団(Pew Charitable Trusts)の取組である。

 ”我々はナノ技術が提示する価値と便益を学び続けながら、我々が産業と政府からナノ技術を次の大きな経済的推進力としてうまく位置づけるという約束を取り付けることは重要であろう。ナノ技術が成功するためには、デービスが示唆する先を見越したアプローチをめぐる対話が必要である。政府、ビジネス、及び市民団体は、健康及び環境へのどのような有害な影響も確実に特定し防止し管理するために意見を交換し、討議する必要がある”−とリジェスキーは指摘している。

 リジェンスキーによれば、”ナノ技術によってもたらされるリスク、及びナノ製品が研究室から工場に、そして市場にどのように移動するのかを理解することによって情報を与えられるもっと深い世論分析が必要である。この新規出現ナノ技術プロジェクトはナノ技術周辺の必要な対話を容易にすることに役立て、適切な政策選択を提供することを約束するものである。”

 ナノ技術の市場での機会は相当なものである。国立科学財団(NSF)はナノ技術を使用した製品とサービスの世界市場は、2015年までに1兆ドル(約110兆円)に成長すると予測している。アメリカはナノ技術の研究と開発に年間30億ドル(約3,300億円)を投資しているが、その額は世界の公共及び民間による全投資の約3分の1になる。

 ナノ技術は通常、1〜100ナノメートルのサイズのものを測定し、観察し、操作し、製造する技術である。1ナノメートルは10億分の1メートルであり、人間の髪の毛の径は概略100,000ナノメートルである。

 ”デービッド博士はナノ技術製品の便益とリスクに興味を持つ全ての人々に、熟考すべき思慮深い疑問と一連の選択肢を提案している”−とピュー慈善財団の健康福祉プログラムの政策ディレクターであるジム・オーハラは述べた。”そのような選択肢と結果として起こる政策対話は、社会がナノ技術の潜在的有害影響を管理し、その便益を収穫することを確実にするために本質的に重要である。”


 J. クラレンス・デービスは、新規出現ナノ技術プロジェクトの上席顧問であり、将来のリソース(Resources for the Future)の上席研究員である。彼は環境についての研究と政策に関しアメリカで最も権威のある一人である。彼は米環境保護庁(EPA)を創設するための企画者の一人であり、後に政策、計画、及び評価担当のEPA副長官になった。環境品質協議会の上席スタッフとして、デービスは後に有害物質管理法(TSCA)となる原著を作成した。

 新規出現ナノ技術プロジェクトは、2005年にウッドロー・ウィルソン国際学術センター及びピュー慈善財団によって立ち上げられた取組である。それは、ビジネス、政府、及び公衆がナノ技術の可能性ある健康と環境への影響を予測し管理するのを助けることに特化している。このプロジェクトの詳細については下記ウェブサイトを参照のこと。
http://www.nanotechproject.org


訳注:
ナノ技術の影響を管理する/J. クラレンス(テリー)・デービス (当研究会部分訳)

UPI ナノワールド ナノテク規制法が求められる/チャールス・チョイ (当研究会部分訳)



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る