ロチェスター大学医学センター 2004年3月31日
研究者らがナノ技術と健康の関連を探る

情報源: Rochester Medical Center, March 31, 2004
Researchers Probe Link Between Nanotechnology and Health


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年11月24日

 想像もできないほど小さな物質を扱う技術に専心する話題の科学分野であるナノ技術は健康に危険をもたらすかも知れず、もっとよく調査すべきであると、つい最近、そのような研究のために550万ドル(約6億円)の基金を授与されたロチェスター大学の科学者で、この分野の世界的専門家が警告した。

 ロチェスター大学環境医学毒物学教授で、同大学EPA粒子材料センター長のギュンター・オバドルスター博士(Gunter Oberdorster)は、吸入されたナノサイズの粒子がラットの鼻腔、肺、そして脳に蓄積するということを示す一つの研究を既に行っていた。科学者らはこの蓄積が有害な炎症と脳損傷のリスク、又は中枢神経系の疾病をもたらすかもしれないと推測している。オバドルスターの研究は『吸入毒物学(Inhalation Toxicology)』誌2004年5月号に発表される予定であり、科学界では広く関心を集めている。そのことはイギリスで今年の初頭に英国物理学会によって開催された国際ナノ技術/健康会議において引用された。

 ”私は、ナノ技術をやめることを唱道するものではないが、有害な健康影響について調査を続けるべきであると信じる”と、ロチェスター大学の呼吸器生物毒物学部門をもまた率いるオバドルスターは述べている。”60年前、科学者らは、霊長類において、ナノサイズの粒子が鼻から入り神経を通って脳に達することを示したが、このことはほとんど忘れ去られてしまった。今日との違いは、もっと多くのナノ粒子が存在するということであり、ナノ技術がそれらの新たな用途を求める方向に進んでいることであるが、しかし重要な疑問である健康影響についての答はまだ得ていない”。

 連邦政府の最近の基金6億ドル(約660億円)とブッシュ大統領の支援を受けて、ナノ技術はアメリカでは急成長の産業である。日本、台湾及びその他の諸国でもまたナノ材料の製造を競っており、それらは電子技術、光技術、医療ディバイス、及びその他の産業への適用が期待されている。

 ナノ技術が発展したのは、科学者らが、炭素、亜鉛、及び金の分子を顕微鏡的集合として取り扱い、超微細なほとんどどのようものの構築にも有効な方法を見出した時である。開発中の医療分野での適用にはドラッグ・デリバリー・システムとしての、あるいは赤外線ミサイルの精度で腫瘍を攻撃する放射線治療の最先端技術としてのナノ粒子の使用を含む。

 しかし、ある科学者らは産業があまりにも早く動きすぎることを懸念している。アメリカ国防省は昨日、オバドルスターと同僚らに基金の授与を通知したが、その基金は、あるナノ粒子毒性をを予測するひとつのモデルを開発するために用いられるであろう。オバドルスターは、3つの大学(ロチェスター大学、ミネソタ大学、ワシントン大学セントルイス校)の10学部からひとつの複合領域チームを編成し、その5年間研究を指導している。

 彼らは、ナノ粒子の化学的特性が最終的にはヒト又は動物の細胞にどのような相互作用を及ぼすかを決定する−という仮説をテストすることを計画している。否定的な細胞反応は、中枢神経系の機能を損ねるということを意味するのかもしれないと彼らは提案している。以前の研究でオバドルスターはラットの鼻に沈着していたナノサイズの粒子が嗅球 (訳注:嗅葉前端の隆起)にまで達したことを示した。

 この点について、このチームはナノ技術に完全に反対しているわけではないとオバドルスターは説明している。実際、研究者らはもし問題が生じたら解決を求めてアメリカ及びカナダ政府とともに、産業界とも一緒に働くことを望んでいる。もうひとつの目標は、将来の技術者や科学者らがナノ技術の健康影響を理解するよう教育的プログラムを開発することである。

 数十年間、オバドルスターは、自動車や火力発電所からの排出粒子や、世界貿易センター災害で発生した粉じんを含んで、大気中の超微粒子が体にどのような作用を与えるかについて研究してきた。ナノ技術との違いはナノ粒子は10億分の1メートルのサイズまで小さくした人工物質であり、生体細胞のエネルギー源であるミトコンドリアにまで浸透するように見えるということである。

訳注EHP 2004年10月号 Science Selections/細胞エネルギーの危機−微粒子ヒッチハイカーがミトコンドリアを傷つける

 ”我々はリスクに関する判断に至る前に多くの異なる問題を検討しなくてはならない。最も重要なことは、異なる経路−吸入、摂取、及び皮膚−による潜在的な人間と環境の曝露の評価である。それから、最終的に生体組織のどこに行くのか? そして、もしナノ粒子が大量に製造されるなら、それらの累積影響のリスクは何か? 現時点では、ナノ技術が潜在的な害を及ぼす可能性のあるおびただしい機会を比較検討しようと試みている”と彼は述べている。

訳注:本記事はNIEHS Center Program で紹介されている。
http://www-apps.niehs.nih.gov/centers/Public/news/nws400.htm


化学物質問題市民研究会
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