EHP 2004年10月号 Science Selections
細胞エネルギーの危機
微粒子ヒッチハイカーがミトコンドリアを傷つける


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 112, Number 14, October 2004
Cellular Energy Crisis / Particulate Hitchhikers Damage Mitochondria
http://ehp.niehs.nih.gov/docs/2004/112-14/ss.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年11月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_04_oct_Cellular_Energy_Crisis.html

 ロサンゼルスのカリフォルニア大学と南カリフォルニア大学の研究者らのチームによれば、体の最も重要なプロセスのひとつである細胞中のミトコンドリア(訳注)によるエネルギー生産は、超微粒子に曝露することにより著しく損なわれることがある[EHP 112: 1347-1358]。さらに、研究者らは、主要な犯人は微粒子に付着する物質であると述べた。これらの発見は、環境中の悪漢としてみなされてきている微粒子がミトコンドリアを損傷する特定のメカニズムを初めて明らかにしたものである−と主任研究員のアンドレ・ネルは述べている。

訳注ミトコンドリア フリー百科事典 『ウィキペディア(Wikipedia)』

エネルギー流出。マウスの肝臓細胞で行われた新たな研究は、微粒子上の”ヒッチハイカー”がミトコンドリアのネネルギー生成能力を著しく妨げることを示している(枠の部分)。
Source: Li N, Sioutas C, Cho A, Schmitz D, Misra C, Sempf J, et al. Ultrafine particulate pollutants induce oxidative stress and mitochondrial damage. Environ Health Perspect 111:455-460 (2003).
 研究者らは、ロサンゼルス地域で集めた大気中のディーゼル排気微粒子(DEPs)と超微粒子、及び化学物質が付着していない人工ナノ粒子のそれぞれがマウスの肝臓細胞のミトコンドリアに及ぼす影響を評価する一連の実験を行った。ロサンゼルスで収集したディーゼル排気微粒子(DEPs)と超微粒子を用いて、研究チームは粒子コアーに付着していた多環芳香族炭化水素(PAHs)とキノン化合物のような有機”ヒッチハイカー”物質を分離した。これらの化学物質は、細胞とミトコンドリアに及ぼす様々な影響についてテストが行われた。

 観察された有害影響としては、ミトコンドリア構造の分解、増大する細胞膜孔と破裂に起因するミトコンドリアの膨張、フリーラジカル生成の増大、及び細胞死の誘発などがある。これらの影響のあるものはカルシウムの存在に依存していたが、その他のものはミトコンドリア膜に対する直接的損傷によって引き起こされた。

 ミトコンドリア影響は、テストされた特定のヒッチハイカー物質によって変化した。例えば、polar fractions high in quinones は細胞死の誘発に強い影響を及ぼすが、aromatic compounds high in PAHs はもっと穏やかな影響、脂肪族化合物は影響を及ぼさない。

 化合物のひとつのクラスの中で全ての物質が等しく破壊的であるというわけではない。例えば、キノン化合物の中で、phenanthraquinone と 1,2-naphthoquinone はミトコンドリアの膨張を引き起こしたが、anthraquinone は起こさなかった。この相違は活性酸素種(ROSs)を生成する反応へ関与する特定のキノン化合物の能力に依存するかもしれない。

 研究チームは観察された影響の背後に、将来の研究の課題としての生物学的メカニズムを推測する。キノン化合物の場合には、物質はミトコンドリア内部膜中の電子移動を酸素分子に向け、それによって炎症誘発性効果を刺激するとともに、ミトコンドリアを損傷することができる活性酸素種(ROSs)を生成する。これらの影響はぜん息の悪化に重要である。

 特定のメカニズムに関係なく、ミトコンドリアを損傷する一貫した犯人は粒子コアに付着した有機物質である。それとは対照的に、有機物が付着していない人工ポリスチレンのナノ粒子は明白な影響が見えず、研究チームは、人工ナノ粒子のサイズが小さいことがそれだけではミトコンドリアと細胞の損傷をもたらすことはないと推測するにいたった。これは、ナノ粒子はそのサイズが小さいこと自体が有毒であるかもしれないという懸念があるナノ技術開発の分野に少なからぬ関心を呼び起こすものである。

 研究者らは、サイズがより小さい物質は、それだけ面積/容積の比率が大きいので、大きな粒子より組織を通過しやすく、恐らく、生物学的有効性が高くなる(more bioavailable)であろうことを認めている。これらの特性は、粒子の表面に付着した有機化学物質は大きな搬送車(粒子)で運ばれる場合よりも組織を通過しやすくするのかも知れない。

ボブ・ウィンホールド(Bob Weinhold)


化学物質問題市民研究会
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