SAFENANO 2010年2月26日
海水中のナノ粒子
カキとムラサキガイにより摂取される


情報源:SAFENANO 26/02/2010
Study indicates uptake of nanoparticles in seawater by oysters and mussels
http://www.safenano.org/SingleNews.aspx?NewsId=984

オリジナル研究:
Marine Environmental Research Volume 68, Issue 3, September 2009, Pages 137-142
J. Evan Ward and Dustin J. Kacha
Department of Marine Sciences, University of Connecticut
アブストラクト(日本語訳)

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年3月14日


 新たな実験室での研究で、コネティカット大学の研究者らが海水のカキとムラサキガイは、いわゆる”マリンスノー(marine snow)”(訳注1:肉眼で観察可能な海中懸濁物)が存在する海水から大量の工業ナノ物質を摂取し体内に保持することが出来ることを発見した。

 工業ナノ物質は、電子機器、化粧品、塗料、そして医薬品など多様な応用分野で見出すことが出来るが、それらの環境に及ぼす影響はほとんどわかっていない。ナノ物質の科学及び技術への応用が高まるにつれ、生態毒性学的影響を理解することの必要性はますます重要となっている。

 ”ナノ物質はその使用が増大しており、海洋を含んで環境中への放出量が増大しているようである”とコネティカット大学アベリー・ポイント・キャンパスの海洋科学教授エバン・ワードは述べている。”我々がこれらの技術を開発するときには、注意深いことが必要であり、それらの粒子がどこに行くのかを知ることが必要であり、それらがどのように海洋生物に影響を与えるのかを知る必要ががる”。

 いくつかの魚や無脊椎動物に関する最近の調査が有害影響があり得ることを示唆するデータを提供している。しかし、ナノ粒子が水生生物によって摂取される方法はほとんど研究されていない。
 ワードによれば、海洋では物質が粒子単独で存在することはほとんどない。そうではなくて、海流が粒子や粘着性の有機物質をを結合させて”マリンスノー”と呼ばれる懸濁物にする。”これらの懸濁物はその後海底に沈み、二枚貝のような濾過摂食(訳注2)生物が摂取する。

 『Marine Environmental Research』に最近発表された研究で、ワードと元コネティカット大学大学院生ダスティン・カチは、天然の海水を使用して蛍光標識されたポリスチレンナノ粒子を含んだ懸濁物を作り出した。そして、これらのナノ粒子の摂取は二種類の懸濁物食二枚貝(ムラサキガイとカキ)を用いて調査された。その結果、懸濁物が存在すると100-nmの粒子の摂取を著しく強化することが示された。ナノ粒子は10-μmポリスチレン・ビードより消化器官中の滞留時間が長いことが発見されたが、ナノ粒子は中腸腺(digestive gland)(訳注3)に運ばれることを示唆している。
 ワードは、ナノ粒子は動物によって食物として扱われ、消化細胞に取り込まれているのではないかと考えている。このことは、小さなナノ粒子が生体細胞のもつ自然の防衛能力をかいくぐることが出来るという点で特に危険であると彼は言う。

 ”表面積が大きいので、工業ナノ物質は他の化合物から電子を奪い、フリーラディカル(訳注4)を作り出すことが出来る。このような粒子は細胞内に大混乱を引き起こすことが出来る”とワードはコメントした。

 ワードは自身の研究を工業ナノ粒子に関連する潜在的な問題を理解する上で最初のステップであると見ているが、海水中の工業ナノ粒子の量と、それらの生物への毒性のレベルを調べるために更なる研究が必要であることを強調している。

 ”工業ナノ物質は驚くほどに小さいので、自然環境中でそれらを特定するための技術は現在、わずかしかない”とワードはいう。”これらの研究により、我々はナノ物質の使用とともに生じる潜在的な問題を明らかにしたい。そして、自然界でそれらをサンプリングするための技術が利用できるようになったときに、我々は心配すべきかどうかを言う準備が出来る出あろう”。

発表論文のアブストラクトはここをクリック
情報源: コネチカット大学(University of Connecticut)


海洋混濁物は濾過摂食二枚貝による
ナノ粒子の摂取を促進する

アブストラクト
Marine Environmental Research
Volume 68, Issue 3, September 2009, Pages 137-142
J. Evan Ward and Dustin J. Kacha
Department of Marine Sciences, University of Connecticut, Groton, CT 06375, United States
Received 13 February 2009; revised 12 May 2009; accepted 15 May 2009. Available online 24 May 2009

 ナノ物質の科学及び技術への応用が高まるにつれ、生態毒性学的影響を理解することの必要性はますます重要となっている。いくつかの魚や無脊椎動物に関する最近の調査が有害影響があり得ることを示唆するデータを提供している。しかし、ナノ粒子が水生生物によって摂取される方法はほとんど研究されていない。我々はナノ粒子の摂取を二種類の懸濁物食二枚貝(ムラサキガイとカキ)を用いて研究した。それらの貝は15%以下の保持効率で1μm以下の個々の粒子を捕捉する。この制限があるとすれば、ナノ粒子は大量には摂取されないことは明らかであるように見えた。しかし年間のある期、70%以上の浮遊粒子がサイズが100μm以上の懸濁物に結合する。そこで、我々は蛍光標識をつけた 100-nm ポリスチレン・ビードを(1)分散、叉は(2)実験室で生成された懸濁物中に埋め込んだ。
 結果は、懸濁物は100-nm粒子の摂取を著しく強化することを示した。ナノ粒子は10-μmポリスチレン・ビードより消化器官中の滞留時間が長く、中腸腺(digestive gland)(訳注3)に運ばれることを示唆している。我々のデータは著しいナノ粒子摂取のメカニズムを示唆し、ナノ物質の毒性学的影響と高次捕食生物への移動の意味合いを示している。


訳注1:マリンスノー 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
肉眼で観察可能な海中懸濁物のこと。

訳注2:濾過摂食 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注3:中腸腺 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
節足動物や軟体動物の消化管の中腸の部分に開口する盲嚢状の器官

訳注4:ラジカル (化学) 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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