SAFENANO Blogs アンドリュー・メイナード
2008年7月20日
早期警告からの遅ればせの教訓

情報源:SAFENANO Blogs - Andrew Maynard 2008/07/20
Late lessons from early warnings
http://community.safenano.org/blogs/andrew_maynard/
archive/2008/07/20/late-lessons-from-early-warnings.aspx


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年8月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/safenano/080720_Late_lessons.html

 技術進歩は速いが、我々は過去の成功や失敗の教訓を学んでいるであろうか? そして我々はこれらの教訓をうまくナノテクノロジーに適用しているであろうか?

 2001年、欧州環境庁(EEA)は新たな技術を責任を持って開発することに関する将来のための報告書を発表した。前世紀における14の事例研究を通じて、故 Poul Harremoes を長とする委員会は、過去に技術を導入するにあたり何が正しく何が悪かったのか、そして、新たな技術を可能な限り安全に成功裏に導入するにあたり何を学ぶことができるのか−について検証した。

 その報告書、”早期警告からの遅ればせの教訓 予防原則 1896-2000”(訳注1)(“Late lessons from early warnings: the precautionary principle 1896-2000” (PDF, 1.7 MB) [1])は、新たな技術への対応に直面した意思決定者のための 12の”遅ればせの教訓”を引き出した。

 この報告書はナノテクノロジーが脚光を浴びる前に書かれたが、その12の教訓(末尾に列挙)は、革新的で責任あるナノテクノロジーの促進という課題に力強く共鳴する。ところで、オンライン・ジャーナル Nature Nanotechnology に発表されたばかりの新たな評論は、ナノテクがこの報告書の結果に対しどのようになっているのかについて厳しく目を向けている。

 ”ナノテクノロジーのための早期警告からの遅ればせの教訓”(ハンセン、メイナード、バウン及びティックナー)(2008)(“Late lessons from early warnings for nanotechnology” (Hansen, Maynard, Baun and Tickner (2008), DOI:10.1038/nnano.2008.198))は、ナノテクノロジーとEEAの12の教訓を体系的に比較し、進歩したのはどこかか、もっとよくできたはずなのはどこかを評価している。

 そして結果は? 教訓のいくつかは理解され始めているが、全体としては、責任あるナノ技術について再履修する方がよいように見える。

 評論の中で我々は次の様に結論付けた。

 ”状況はそれほど厳しくはない。持続可能なナノテクノロジーの開発へ向けての進捗は遅いが、我々はいくつかの新たなコツを学んだように見える。より重要な疑問を早期に提起すること、領域、部門、国境を越えての協力を展開すること、関連する知識を開発するための研究を目標にするプロセスを開始すること、利害関係者を関与させること、既存の監視メカニズムが目的に適っているかどうか問うこと−などである。

 しかし、我々は十分なことをしているであろうか? この疑問は、我々が教訓を学んだかどうかではなく、我々は、現在はまだ導入されていない新たな技術のための事例研究対象に将来ならないようにするために、十分効果的に過去の教訓を適用しているかどうかということである。幸先のよいスタートにもかかわらず、ナノテクノロジーはそれを推進する組織と同一の政府組織によって監督されている、研究戦略は重要な疑問に対し明確な答を出していない、協力は必要とされるほどに生産的ではない、利害関係者は十分には関与していない−などについて我々は困惑し始めている。部分的にはこれは官僚的な仕組みが原因であるが、”リスク評価は革新を危うくする”とか”規制はビジネスにとってよくない”などという、ある筋からのコメントは、思考の透明性と行動が必要な時に、水を濁らせるだけである。

 もし我々が、危害の遺産を残さずにナノテクノロジーの商業的及び社会な利益を実現し、ナノテクノロジーが将来の世代がしてはならない教訓となることを防ぎたいなら、改めて教室に戻り、これらの早期の警告からの遅ればせの警告をもう一度学ぶべきである。

 ナノテクノロジーは将来のことである。しかし、成功のための最良の行動を取るためには、時には歴史を振り返ることが必要であるように見える。

EEAの12の遅ればせの教訓訳注2
  1. 技術の鑑定と公共政策策定においては、不確実性とリスクのみならず、無知に対しても認識し配慮すること。
  2. 早期警告が出されたら環境と健康についての長期的で適切なモニタリングと研究をすること。
  3. 科学の知識については“盲点”と欠落を明確にし、それを減らすように努めること。
  4. 異なる分野間の学び合いに障害となっているものを特定し、これを減らすこと。
  5. 規制政策を鑑定する際には、現実世界の条件が適切に考慮されていることが保証されること。
  6. 潜在的リスクと並んで、指摘された正当性と利益を系統的に精査するこ
  7. 現に鑑定されつつある方策と並んで、必要に見合う別の選択肢をも評価すること。そして、予期せぬ災害の損失を最小化し、かつ技術革新の利益を最大化することがより確実で、多様性と適応性のある技術を推進すること。
  8. 鑑定に当たっては、当該分野の専門家だけでなく、“普通の人”や地方の知識をも用いることを保証すること。
  9. ざまざまに異なった社会集団の受容と価値をすべて勘定に入れること。
  10. 情報と意見の収集に当たっては総括的な取組みをしながらも、規制者は利益集団から独立を保つこと。
  11. 事実を知ることと行動することに対する制度的障害をはっきりざせて、これを減らすこと。
  12. 懸念について合理的な基礎がある場合には、潜在的な被害を減らす行動を起こすことによって、”分析による麻痺”を避けること。
原注[1]
投稿時、“Late Lessons”の報告書への直接リンク(http://reports.eea.europa.eu/environmental_issue_report_2001_22)がダウンしていた。暫定的措置として、www.genok.orgに掲載されているこの報告書のコピーにリンクした。


訳注1
日本語訳版の紹介

レイト・レッスンズ
14の事例から学ぶ予防原則
欧州環境庁 編
松崎早苗 監訳、水野玲子・安間武・山室真澄 訳
定価 2800円+税
A5版 並製 376頁
ISBN ISBN4-8228-0508-5
発行:七つ森書館
〒 113-0033 東京都文京区本郷 3-13-3 三富ビル
Tel 03-3818-9311 Fax 03-3818-9312
e-mail:nanatsumori_mail@pen.co.jp
ウェブ http://www.pen.co.jp/

訳注2
EEAの12の遅ればせの教訓の日本語訳は上記日本語版による。
メイナードのブログに示される”EEAの12の遅ればせの教訓(英語)は、EEAの報告書に示されているものを若干、簡略している。

訳注3
アンドリュー・メイナード らの報告書を紹介したものとして、Nanowerk Spotlight 掲載の下記もある。
Nanowerk Spotlight, August 20, 2008 "Late lessons from early warnings for nanotechnology "



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