ジュネーブ大学 プレスリリース 2020年11月25日
藻類がナノ粒子により乱される
情報源: University of Geneva
PRESS RELEASE November 25th, 2020
Algae disturbed by nanoparticles

https://www.unige.ch/communication/communiques/files/
3116/0630/0210/Algae_disturbed_by_nanoparticles.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年11月27日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/research/
201125_UNIGE_Algae_disturbed_by_nanoparticles.html


 その抗菌特性のため、ナノ銀は繊維製品から化粧品まで幅広い製品で使用されている。しかし、ナノ銀は高濃度で存在する場合、水生食物網ダイナミクスと地球の酸素生成に欠かせない藻類の代謝も乱される。
 ナノテクノロジーから派生した製品は効率的で高い需要があるが、それでも環境への影響はまだよくわかっていない。スイスのジュネーブ大学(UNIGE)の研究チームは、アメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校と共同で、現在その抗菌特性のためにほぼ 450種の製品で使用されているナノ銀の影響を黄色べん毛そう類(Poterioochromonas malhamensis)という名の藻類を使って調査した。
 ジャーナル、Scientific Reports に発表されたその結果は、ナノ銀とその誘導体であるイオン銀が、藻類の代謝全体を乱すことを示している。その膜の透過性を高め、細胞の活性酸素種(ROS)を増加させ、光合成の効果を低下させる。
 スイスとアメリカの共同チームは、淡水藻の食物胞(food vacuole)への取り込み後にナノ銀によって誘発される代謝摂動(metabolic perturbations)(訳注1)を初めて実証することができ、生理学的に発現する前に代謝変化の早期発見への道を開いた(訳注2)。


 ナノ銀は抗菌性を有するために、とりわけ繊維製品や化粧品に使用されている。 さらに、農産食品、生物医学、および生物医薬品の各業界は、医薬品、デバイス、および農薬の開発に関心を持っている。 ”ナノ銀はバクテリアなどの有害生物を破壊、撃退、または無害にするように設計されているため 、科学者らはそれが我々の環境にとって重要な生物にも害をもたらす可能性があることに気づいていた。ジュネーブ大学理学部環境水生科学 F.A. Forel ((フランソワ=アルフォンス・フォーレル)学部のベラ・スラベイコバ教授に話を聞いた。

 植物プランクトン(訳注3)に対するナノテクノロジー製品の影響を評価し、水生環境への影響を評価するために、研究者チームは、モデル植物プランクトン種として黄色べん毛そう類(Poterioochromonas malhamensis)を選択し、研究を実施した。

 ”植物プランクトンは湖や海のいたるところに存在する”とスラベイコバ教授は続ける。”全体として、植物プランクトンは私たちが呼吸する酸素のほぼ半分を生成するということが最も重要な役割である。次に植物プランクトンは食物連鎖の根底にあるということが、2番目に重要な役割をである。もし植物プランクトンがナノ粒子を蓄積すると、ナノ粒子が水生食物連鎖に組み込まれる”。

様々なの悪影響

 スラベイコバ教授が主導した研究では、藻類をナノ銀で処理すると、細胞タンパク質の生成に不可欠なアミノ酸の代謝、遺伝子にとって重要なヌクレオチド代謝、光合成と光呼吸の要素はもとより、膜を構成する脂肪酸とトリカルボン酸が破壊されることが示されている。

 研究結果は、銀ナノ粒子によって放出された銀イオンが主な毒性要因であることを示唆している。 ”ナノ銀は、細胞に有機物を供給するために使用される食作用メカニズムによって藻類細胞に内在化される”とスラベイコバ教授は続ける。この研究は、ナノ粒子が植物プランクトンの種においてそのような内在化経路をたどることができることを実証した最初のものである。 ”これらの測定は、透過型電子顕微鏡を使用してリュー博士によってジュネーブで実施された。この侵入メカニズムは、黄色べん毛そう類(Poterioochromonas malhamensis)でのみ知られている。他の植物プランクトン種がそれを発現するかどうかは、まだ不明である”とジュネーブの研究者リュー博士は説明している。

 ナノ銀の毒性の実証を終えるために、国際的な研究チームは、代謝障害が生理学的機能障害を誘発するという事実を強調した。 スラベイコバ教授は、脂質の過酸化が膜の透過性を高め、酸化ストレスを増加させ、光合成の効率を低下させ、その結果、酸素生成が減少したことを観察した。

実施する必要のあるアプローチ

 この研究は、観察された破壊の分子的基盤に向けたメタボロミクス(metabolomics)(訳注4)の全潜在能力を強調している。”これはこの分野への根本的な貢献である。メタボロミクス・アプローチは医学及び製薬科学で適切に実施されているが、植物プランクトンのメタボロミクスがまだ初期段階にある環境毒性学の場合はまったくそうではない。したがって、メタボロミクスは、藻類の成長阻害や酸素生成への影響など、より地球規模の影響の上流で、毒素によって誘発される変化を早期に検出する可能性を提供する。複雑な環境で原因と結果の関係を示すことは決して容易ではないため、現在はこのようなアプローチを使用することが重要である”。


訳注1:代謝摂動
  • 摂動(実験医学 online)
     一般に攪乱,変化のこと.ここでは反応をつかさどる酵素の量や活性を,人為的に変化させること.あるいは,人為的でなくとも酵素量や活性の変化に相当する作用のこと.
訳注2:オリジナル論文
訳注3:植物プランクトン
訳注4:メタボロミクス

化学物質問題市民研究会
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