本稿では、経済産業省が2008年11月から2009年2月の間に3回実施た「ナノマテリアル製造事業者等における安全対策のあり方研究会」に基づき、2009年2009年3月31日に発表した「同研究会報告書」の内容を理解しやすくするために概要をリスト形式で紹介し、経済産業省の当面のナノ政策を知るために検討書に述べられている内容を分析した。
■分析結果
1.化学物質問題市民研究会が提起する問題点
「2. 報告書の分析」に基づき、当研究会は経産省の報告書について下記の問題点を提起する。
- 報告書は、検討対象とした6物質は、現時点において国内で生産されているナノマテリアルの生産量の99%以上を占めているとしているが、実際には6物質中に占めるカーボンブラックの生産量は90%以上であり、シリカを加えると99.8%以上を占める。これでは多種多様なナノマテリアルを代表しているとは言えず検討対象としての妥当性に欠ける。もっと広範なナノマテリアルを対象とし、それらが持つ多種多様な特性を検討して対応方針を策定すべきである。
- 対応の基本的方向を”事業者の自主管理”としているが、化学物質及びナノ物質の下記に示す過去の自主的情報収集制度が、自主的ではうまく機能しないことを実証している。米国及び英国ではナノデータ収集制度を義務的なものにするようにとの勧告が出ている。日本でも法的強制力のある”規制”とすべきである。
- 米HPV チャレンジプログラム(化学物質)
- Japanチャレンジプログラム(化学物質)
- 米ナノスケール物質スチュワードシップ・プログラム(NMSP)
- 英工業的ナノスケール物質自主的報告計画(VRS)
- 表3に事業者が提供・発信すべき項目が示されているが、”※上記項目は情報提供・情報発信を行う際に参考とするべきものであり、必ずしも全ての項目について情報提供・情報発信を行う必要はない”との但し書きがある。このような強制力のない”自主的なデータ”提出ではうまく機能しないことは、例えば米TSCAの例を見ても明らかである。
- 報告書は、”ナノマテリアルの安全性評価のための試験研究施設を整備することは多額かつ重複投資となる懸念があるので、国がナノ試験評価施設を提供したり、外部の試験機関等に委託する等の方法により、効率的に試験が実施できるようにすることも視野に入れるべきである”としており、この提案自身は妥当かもしれない。しかし、安全性評価がなされていないナノマテリアルを市場に出すことは禁止すべきである。
- 報告書には、提案されている対応の実施スケジュールが示されていない。
- 報告書には、政策策定への市民参加、パブリックコメントの実施等の既述がない。
- 報告書は、”研究会で検討対象とする安全対策は、ナノマテリアルを構成する化学物質が持つ物理化学的性状や生物学的影響に加えて、ナノサイズの粒径等に起因した特有な有害性に関する懸念に対応するための対策とする”としながら、新しく開発されたナノマテリアルが既存の化学物質からなるナノサイズのものである場合、現行の化審法では形状や大きさに着目して化学物質を区分していないことから、ナノサイズのものであっても、あくまでも既存化学物質としか取り扱われず届出の対象とならないことについて言及していない。
(厚労省労働基準局の報告書は労安法における同様な問題について問題提起をしている。)ナノ物質は全て新規物質とすべきである。
- アメリカでは多くのカーボンナノチューブはTSCAの第5条に規定される新規化学物質とし規制されており、またナノ銀についても連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(FIFRA)の下に殺虫剤として規制するこが検討されていると言われている。しかし日本ではナノ物質について現在、何も規制が行なわれていない。
- 報告書は、事業者はMSDSを発行しているとしているが、一方、”これらのMSDS には、物理化学性状、有害性情報、ばく露防止対策等が記載されているが、ナノマテリアルであることに着目した情報は一部の物質を除き、多くの場合は不十分である”としている。 このようなMSDSはではナノ情報が川下に伝わらない。MSDSの記載内容も自主的ではなく強制力をもってナノ情報を記載させるべきである。
- 報告書は、”事業者は労働安全衛生法や廃棄物処理法等の関係法令に基づく対策を実施しているとしているが、これらは一般的な粉じん対策等として行われており、ナノマテリアルについてはそれ以上の対策が必要となる可能性がある”としている。既存の法規の見直しを早急に行なうべきである。
(化学物質問題市民研究会コメント:厚生労働省労働基準局長 平成21年3月31日発出 発行の都道府県労働局長宛て「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について」の実施は本報告書発行後なので、その実施状況は不明)
2.報告書の分析
1) 選定された6物質についての分析
- 主要なナノマテリアルについての対応を先行させるため、生産量が一定程度以上であるか今後生産量が増加する可能性の高いナノマテリアルであるカーボンナノチューブ、カーボンブラック、二酸化チタン、フラーレン、酸化亜鉛及びシリカの6物質を検討対象とした。
- 現時点において国内で生産されているナノマテリアルの生産量の99%以上を上記6物質が占めている。
化学物質問題市民研究会コメント
表1 に示される6物質の生産量を比較すると、カーボンブラックの量が圧倒的に多く、カーボンブラックは全体の90%、さらにシリカを加えると99.8%になる。これでは多種多様なナノ物質全体を把握することはできない。
・カーボンブラックを除く5物質の合計生産量:92,072トン
・カーボンブラックとシリカを除く4物質の合計生産量:2,072トン
・カーボンブラックの生産量:800,000トン
・シリカの生産産量:90,000トン
・全6種類の合計生産量:892,072トン
・カーボンブラックを除く5種類と全6物質合計生産量との比:0.10(10%)
・カーボンブラックとシリカを除く4物質と全6種類合計生産量との比:0.0022(0.22%)
2) 事業者の対応についての分析
6物質の事業者は全て次のように報告している。
- 労働安全衛生法、廃棄物処理法等の関係法令に基づいた対策が行われている。
- 暴露対策として製造工程を基本的に密閉系にし、密閉系でない場所は局所排気をしている。
- 運転員には適切な保護具を着用させている。
- 排出防止対策として排気をバグフィルタで処理している。
- 廃棄物は、廃棄物処理法に則って処理されている。
- 出荷先にはMSDS(化学物質等安全データシート)の配布している。
3) 対応の基本的方向についての分析
- ”研究会で情報収集した6種類のナノマテリアルについては、現在判明している主なばく露経路である労働環境、環境への排出、廃棄については、関係法令に基づいた一定の対策がすでに行われているところであるが、ナノマテリアルについては、そのサイズに由来した特有の有害性やばく露経路が存在することも否定できない。
- 現状ではナノマテリアルが環境中に大量に排出される状況ではないと考えられるが、今後とも排出等の状況について注視する必要がある。
- ナノマテリアルは、その物理化学的性質やそれらに伴って発揮されうる機能が多様であるため、環境中での挙動やばく露の可能性、生じる可能性のある健康や環境に対する影響もまた多様であると考えられ、事業者ごとに各種条件を踏まえたきめ細かい対応が必要である。
- そういった柔軟な対応が可能となるよう、現時点では事業者の自主管理によって安全対策を講じながら製造・使用・廃棄を行うことが望ましい。
- 自主管理の透明性、実効性を高めるために、今後事業者と国は、ナノマテリアルの健康や環境への影響や安全性に関する科学的知見、生産量・用途情報等について積極的に情報収集、情報提供及び情報発信を行い、知見の集積に努めるべきである。
- 研究会で検討対象とする安全対策は、ナノマテリアルを構成する化学物質が持つ物理化学的性状や生物学的影響に加えて、ナノサイズの粒径等に起因した特有な有害性に関する懸念に対応するための対策とする。
4) 具体的対応についての分析
- ナノマテリアル製造事業者等は、労働環境におけるばく露防止対策、環境への排出防止対策について、リスク評価に関する取組(安全性情報の収集・把握と環境測定等による作業環境でのばく露状況の調査等)やリスク管理に関する取組(密閉化や局所排気等による排出防止、保護具の着用等によるばく露防止等)について、自らの製造や使用実態を踏まえて取り組むことが期待される。
- ナノマテリアル製造事業者等は、使用事業者に対してナノマテリアルについての情報伝達と使用事業者との情報共有を行うべきである。
- 一部のナノマテリアルについては、関係法令に基づいて、あるいは製造事業者等が自主的に、譲渡・提供時にMSDS を添付している。これらのMSDS には、物理化学性状、有害性情報、ばく露防止対策等が記載されているが、ナノマテリアルであることに着目した情報は一部の物質を除き、多くの場合は不十分である。
- このため、ナノマテリアル製造事業者等は、表3に示す項目の中から、事業者自らが、ナノマテリアルの特性、使用状況を踏まえて提供できる項目を使用事業者に提供することが期待される。
- ナノマテリアル製造事業者等が行う自主管理の取り組みは、法令に基づくものではないため、その透明性をどのように担保するかが重要である。
- よって、安全性に関する製造事業者等としての考え方を広く示すために、ナノマテリアル製造事業者等が持つ試験データや自主管理の取組等を積極的に発信することが期待される。
- ナノマテリアルの適切な管理のためには、ナノマテリアル製造事業者等における自主的取組に加えて、国としても事業者における自主管理の透明性を担保するとともに、技術開発等の安全対策のためのインフラ整備についての積極的な取組が必要である。
- ナノマテリアル製造事業者等が行う自主管理の透明性を担保するためには、主に次の3つの手法が考えられる。
- (手法1)ナノマテリアル製造事業者等が自ら情報発信を行う。(具体的には、ナノマテリアル製造事業者等のホームページでの情報発信等が想定される)
- (手法2)国が情報発信を行う。(具体的には、経済産業省がナノマテリアル製造事業者等から情報提供を受け、情報発信を行うこと等が想定される)
- (手法3) 手法2とともに、第三者機関においてレビューを行う。(具体的には、審議会等の専門家が集まる機関でのレビューが想定される)
- 手法1、2及び3が全て行われることが望ましい。具体的には、一定以上のナノマテリアルを取り扱うナノマテリアル製造事業者等は自ら情報発信を行うとともに、表3に示す項目から可能な情報を国に提供し、国が関係行政機関等と連携して積極的に情報を公開する(例えば、経済産業省ホームページの活用等)
- また、提供された情報について専門家の集まる審議会等でレビューを行うことが望ましい。
- 現在、ナノマテリアルの安全性評価が可能な研究機関は少なく、ナノマテリアル製造事業者等が安全性等に関する情報収集を行うためには、試験・評価法の確立およびその実施が可能な試験研究施設の整備が必要である。
- 各社が各々試験研究施設を整備することは、現段階では多額かつ重複投資となる懸念がある。
- したがって、例えば国がナノ試験評価施設を提供したり、試験手法の明確化を行い、ナノマテリアル製造事業者等はその施設を活用したり、当該手法を用いた評価を行う外部の試験機関等に委託する等の方法により、効率的に試験が実施できるようにすることも視野に入れるべきである。
■報告書の内容
構成と目次
経済産業省の報告書は80ページからなり、そのうち本文(I〜VI)は22ページ、残りの58ページは参考資料である。
全体の構成
I.はじめに(趣旨・目的)
II .検討対象とする「ナノマテリアル」の定義
III.主なナノマテリアルについて
1.カーボンナノチューブ
2.カーボンブラック
3.二酸化チタン
4.フラーレン
5.酸化亜鉛
6.シリカ
7.まとめ
IV.ナノマテリアルの安全対策に係る国内外の主な取り組みについて
1.国内における取り組み
2.海外の公的機関における主な取り組み
3.国際機関における主な取り組み
4.海外の事業者における主な取り組み
5.まとめ
V.対応の基本的方向
1.対応のあり方
2.検討対象
VI.具体的対応
1.ナノマテリアル製造事業者等の取組
2.政策的対応について
VI.今後の検討課題
参集者名簿
検討経過
参考資料
|
本文の概要
本文(I〜VI)をなるべく原文に近い形でリスト形式にしたが、省略した部分もある。
注記及び太字は、留意点/覚えとして当研究会が記したものである。
I.はじめに(趣旨・目的)
- ナノテクノロジーは、次世代の産業基盤技術として期待されている。特に、ナノテクノロジーを用いた材料であるナノマテリアルは、従来の材料にはない新たな機能が発現することが期待されている。
- 一方、ナノマテリアルは、その粒径等が小さいため、従来の材料とは異なる特性や形状を有することによって人への健康影響を及ぼすという指摘もある。
- 人の健康や環境に対するナノマテリアルの影響については、現状では十分明らかになっているわけではなく、従来の毒性評価手法では十分に対応できない可能性が指摘されている。
- また、人の体内や環境中でのナノマテリアルの挙動についても現状では十分解明されていない。
- このような未解明の状況を放置しておけば、ナノテクノロジーに関する社会的懸念が拡大し、生産・利用の自粛等が行われることによりナノテクノロジーの持つ便益が十分に活用されないおそれがある。
- したがって、本研究会は、現時点での科学的知見を基にナノマテリアルに関する留意点を整理し、労働現場でのばく露防止対策にとどまらず、事業者による自主的な安全性調査やサプライチェーンにおける情報共有等を含めた広範な安全対策について検討することを目的とする。
II.検討対象とする「ナノマテリアル」の定義
- 「ナノマテリアル」の定義は、国際機関(OECD、ISO)等において、「元素等を原材料として製造された固体状の材料であって、大きさを示す三次元のうち少なくとも一つの次元が約1nm〜100nmであるナノ物質及びナノ物質により構成されるナノ構造体(ナノ物質の凝集した物体を含む。)であること」とされている。
- 「ナノマテリアル」の定義については、国際機関等において引き続き検討が行われている。
- ナノマテリアルを従来の材料とは別に定義する理由は、原子や分子そのものが持つ物理化学的性状や生物学的影響に加えて、ナノサイズに起因する機械的、光学的特性等の特有の性質が発現する場合があるためである。
- 本研究会では、一次粒径等を意図的にナノサイズに制御して特有の機能を発現させているナノマテリアルを対象とし、自然由来や製造工程において非意図的に生成されたり粉体にごく微量含まれるナノマテリアルについては対象としない。
- 本研究会では、主要なナノマテリアルについての対応を先行させるため、生産量が一定程度以上であるか今後生産量が増加する可能性の高いナノマテリアルであるカーボンナノチューブ、カーボンブラック、二酸化チタン、フラーレン、酸化亜鉛及びシリカの6物質を検討対象とした。
- 現時点において国内で生産されているナノマテリアルの生産量の99%以上を上記6物質が占めている。
化学物質問題市民研究会(注)
- カーボンブラックを除く5物質の合計生産量:92,072トン
- カーボンブラックとシリカを除く4物質の合計生産量:2,072トン
- カーボンブラックの生産量:800,000トン
- 全6種類の合計生産量:892,072トン
- カーボンブラックを除く5種類と全6物質合計生産量との比:0.10(10%)
- カーボンブラックとシリカを除く4物質と全6種類合計生産量との比:0.0022(0.22%)
図1 本研究会で情報収集したナノマテリアルの生産量と粒径2 (略)
III.主なナノマテリアルについて
- 今回検討対象とした6物質については、物質毎に業界団体が存在するため、物質毎の特性や取組状況を把握することを目的として、それぞれの業界団体の代表者から研究会の場で情報提供を受けた。
- ナノマテリアルのばく露・排出防止対策等に関しては、労働安全衛生法、廃棄物処理法等の関係法令において一般的な粉じん対策や廃棄物処理方法が規定されている他、ナノマテリアルのばく露防止対策については、平成20 年2 月に厚生労働省労働基準局長通知「ナノマテリアル製造・取扱い作業現場における当面のばく露防止のための予防的対応について」が発出されているところである。
1.カーボンナノチューブ(ナノテクノロジービジネス推進協議会)
1)ナノマテリアルの特性・生産量等について
- カーボンナノチューブは一般的に凝集性があり、製造工程から凝集状態で取り出されるが、そのままでは分散性が悪いことから、いかに工業的に分散させるかが技術課題となっている。
- 生産量は、単層カーボンナノチューブは約100kg/年、多層カーボンナノチューブ(繊維径10-70nm)は約60-70t/年、カーボンナノファイバー(繊維径最大150nm程度)は約60-70t/年である。
- 単層カーボ
ンナノチューブは、トランジスタ、燃料電池、機能材料等への用途開発が行われており、多層カ
ーボンナノチューブは半導体トレイ等、カーボンナノファイバーはリチウムイオン二次電池等に使用されている。
2)ばく露・排出防止対策等について
- 安全管理の例として、ばく露防止対策については、製造工程を基本的に密閉系にするとともに、運転員には適切な保護具を着用させている。
- 製造設備内での環境測定を実施している。
- 排出防止対策としては、排気をプレフィルタ・HEPAフィルタ等を用いて除じんしている。
- カーボンナノチューブは樹脂に混練、リチウムイオン二次電池では電極に固定されているため使用中におけるカーボンナノチューブの放出は考えにくい。
- 廃棄物は、廃棄物処理法に則って処理されており、大部分は産業廃棄物として焼却処理さ
れている。
- 出荷先にはMSDS(化学物質等安全データシート)の配布と取扱の注意喚起を
行っている。
2.カーボンブラック(カーボンブラック協会)
1)ナノマテリアルの特性・生産量等について
- 製品中でも空気中でもアグリゲートの状態で存在することはなく、アグロメレートの状態であると考えられる。
- 国内生産量は約80 万t/年、輸入量が約20 万t/年である)。世界全体では生産が約953 万t/年。
- ゴムの補強剤や黒色の着色剤、導電付与剤等として使用される。
2)ばく露・排出防止対策等について
- ばく露防止対策としては、原則密閉構造とするとともに、粉じんが発生し易いシュートや製品出荷用排出口等には、系外への漏えいを防ぐため、粉じん吸引装置を設置する等の方法で発じんを抑えている。
- また、適切な保護具を使用する等、労働安全衛生法(粉じん障害防止規則)に基づいた対策を行っている。
- 排出防止対策としては、排気をバグフィルタで処理してカーボンブラックを捕集している。
- 廃棄物は可能な限り再利用し、再利用できないものは廃棄物処理法に則って焼却処理されている。
- MSDS を配布し、安全対策を徹底している。
3.二酸化チタン(日本酸化チタン工業会)
1)ナノマテリアルの特性・生産量等について
- 二酸化チタンは、化学的に安定であり、ルチル型とアナタース型という2 つの結晶形がある。
- ナノサイズ二酸化チタンは、100nm以下の一次粒子が凝集して200nm前後のアグリゲートを形成し、さらにアグリゲートが凝集してアグロメレートを形成している。
- 最終製品中や大気中での存在形態については確認されていないが、アグロメレートの状態
と考えられる。
- ナノサイズ二酸化チタンの生産量は、国内向けが950t /年、海外向けが1,450t/年と推計
されている。
- 用途については、ルチル型は化粧品、塗料、トナー外添剤等、アナタース型は光触媒等である。
2)ばく露・排出防止対策等について
- 労働安全衛生法(粉じん障害防止規則)に則って、作業者が直接粉末に触れる可能性がある包装工程では局所排気装置を設置するとともに、作業者にはマスクを着用させている。
- 排出防止対策としては、排気からバグフィルタによって二酸化チタンを捕集除去している。
- 廃棄物については、廃棄物処理法に則って汚泥として埋立処分している。
- 出荷先に対してはMSDS を配布している。
4.フラーレン(ナノテクノロジービジネス推進協議会)
1)ナノマテリアルの特性・生産量等について
- 凝集性が強く、レーザー回折型の粒度分布装置、動的散乱方式の粒度分布装置では1μm程度の凝集体しか検出されていない。
- 生産量は、国内で約2 t/年、世界では3 t/年程度と考えられるが、正確な統計データではない。
- スポーツ用品(ゴルフ、テニス関係)、電子材料(有機EL 等)、化粧品等に使用されている。
2)ばく露・排出防止対策等について
- ばく露防止対策としては、製造工程では局所排気を行うとともに、作業者は保護具として防じんマスクと専用の上着、ゴーグルを使用している。
- フラーレンを取り扱う作業時においても、バックグラウンドで検出される自然由来のナノ粒子よりもフラーレンのナノ粒子は少なく、区別がつきにくいという結果がある。
- 廃棄物については、廃棄物処理法に則って処理されており、容器や保護具等を含めて焼却処分されている。
- 各種安全性試験が実施されており、その結果はMSDS に記載して出荷先に配布している。
5.酸化亜鉛(日本無機薬品協会)
1)ナノマテリアルの特性・生産量等について
- ナノサイズの酸化亜鉛は、一次粒子が非常に強く結合してアグリゲートを形成しており容易に分散しない。アグリゲートはさらに凝集してアグロメレートを形成している。
- ナノサイズの酸化亜鉛の生産量は約480 t/年であり、用途はほとんどが化粧品用である。
2)ばく露・排出防止対策等について
- ばく露製造工程を可能な範囲で閉鎖系としており、閉鎖系でない場所は局所排気装置で対応。
- 作業者には適切な保護具を着用させている。
- 排出防止対策としては、排気中の粉じんをバグフィルタで回収。
- 廃棄物は可能な限り再利用し、再利用できないものは廃棄物処理法に則って汚泥として廃棄物処分場で埋立処分。
- ナノサイズの酸化亜鉛が付着した着衣や包装資材は焼却処理されている。
- 出荷時には、予めMSDSを出荷先に配布。
6.シリカ(日本無機薬品協会)
1)ナノマテリアルの特性・生産量等について
- シリカは、一次粒子が融着や分子間力によりアグリゲートを形成しており、これが最小構成単位である。アグリゲートはさらに物理的に凝集してアグロメレート(数十〜数百μm)を形成している。
- 生産量は、国内生産量が9 万t/年、世界生産量が159 万t/年。
- インクへの添加、合成ゴム、タイヤの充填剤、シリコンシーラント、つや消し剤、プリンターのトナー等に使用。
2)ばく露・排出防止対策等について
- ばく露防止対策としては、製造工程を基本的に密閉工程とし、包装工程等の密閉ではない場所についても局所排気装置を設置している。
- 作業員は防じんマスク等の保護具を着用している。
- 一部自主的に粉じんの環境測定を実施している。
排出防止対策としては、排気をバグフィルタ等の集じん装置で処理している。
- 廃棄物は、廃棄物処理法に則って埋立処分、セメント原料等として処理されている。
- シリカは労働安全衛生法の通知対象物質であるため、MSDSを出荷先に配布している。
まとめ
- 各ナノマテリアルについての発表内容では、製品中や大気中では、ナノマテリアルは1nm〜100nm程度の一次粒子として存在するのではなく、それ以上の大きさである凝集体として存在する場合が大半であるとのことである。
- 製品中や大気中でナノサイズの粒径が存在しないことは証明されていないため、引き続き知見の集積が必要である。
- 労働安全衛生法、廃棄物処理法等の関係法令に基づいた対策が行われているが、これらは一般的な粉じん対策等として行われており、ナノマテリアルについてはそれ以上の対策が必要となる可能性がある。
- 平成20 年2 月に発出された厚生労働省の通知を受けて、ナノマテリアルのばく露防止についての予防的対応として、製造設備や作業管理等に関する対策が実施され始めているとのことである。
IV.ナノマテリアルの安全対策に係る国内外の主な取り組みについて
1.国内における取り組み
- 経産省:略
- 厚労省労働基準局:略
- 厚労省医薬品食品局:略
- 環境省:略
2.海外の公的機関における主な取り組み
- オーストラリア:略
- 英国(Defra/VRS):略
- 米国
- @「ナノマテリアルスチュワードシッププログラム(NMSP):略
- A EPAは、TSCAはカーボンナノチューブにも適用でき、カーボンナノチューブはTSCAのインベントリ上のグラファイトや他の炭素の同素体とは区別できる化学物質であることから、多くのカーボンナノチューブはTSCAの第5条に規定される新規化学物質であることを確認した。
- 商用目的でカーボンナノチューブの製造・輸入を行う業者は、カーボンナノチューブの製造・輸入を90日前に届け出ることが必要である。
3.国際機関における主な取り組み
4.海外の事業者による主な取り組
略
5.まとめ
- 国内においては、ナノマテリアルのリスク評価・管理手法の開発が行われているとともに、関係省庁において安全対策のあり方が検討されている。
- 海外においては、各国における自主的報告制度が実施されるとともに、一部の物質については規制が行われ始めており、大手の化学企業を中心として、規制に先立った事業者による自主的な取組も行われているところである。
- 国際機関においては、各国が協力して有害性情報の収集や安全性試験等が行われているところである。
V.対応の基本的方向
1.対応のあり方
- 研究会では、主要なナノマテリアルについての対応を先行させるため、生産量が一定程度以上であるか今後生産量が増加する可能性の高いナノマテリアルであるカーボンナノチューブ、カーボンブラック、二酸化チタン、フラーレン、酸化亜鉛及びシリカの6物質を検討対象とした。 現時点において国内で生産されているナノマテリアルの生産量の99%以上を上記6物質が占めている。
- 研究会で情報収集を行った6種類のナノマテリアルについては、現在判明している主なばく露経路である労働環境、環境への排出、廃棄については、関係法令に基づいた一定の対策がすでに行われているところであるが、ナノマテリアルについては、そのサイズに由来した特有の有害性やばく露経路が存在することも否定できない。
- ナノマテリアルの主な用途(樹脂に練り込まれて使用される等)を踏まえると、現状ではナノマテリアルが環境中に大量に排出される状況ではないと考えられるが、今後とも排出等の状況について注視する必要がある。
- ナノマテリアルは、その物理化学的性質やそれらに伴って発揮されうる機能が多様であるため、環境中での挙動やばく露の可能性、生じる可能性のある健康や環境に対する影響もまた多様であると考えられ、事業者ごとに各種条件を踏まえたきめ細かい対応が必要である。
- そういった柔軟な対応が可能となるよう、現時点では事業者の自主管理によって安全対策を講じながら製造・使用・廃棄を行うことが望ましい。
- 自主管理の透明性、実効性を高めるために、今後事業者と国は、ナノマテリアルの健康や環境への影響や安全性に関する科学的知見、生産量・用途情報等について積極的に情報収集、情報提供及び情報発信を行い、知見の集積に努めるべきである。
2.検討対象
- 1)検討対象とする事業者
ナノマテリアルの使用実態等を網羅的に把握することが望ましいが、現時点で使用事業者はナノマテリアルの安全性等に関する知見を十分には保有していないと考えられることから、まずはナノマテリアルに関する知見を多く持つ製造・輸入事業者及び業界団体(以下、製造事業者等という)を主な対象とする。
- 2)検討対象とする安全対策
本研究会で検討対象とする安全対策は、ナノマテリアルを構成する化学物質が持つ物理化学的性状や生物学的影響に加えて、ナノサイズの粒径等に起因した特有な有害性に関する懸念に対応するための対策とする。
VI.具体的対応
1.ナノマテリアル製造事業者等の取組
1)リスク評価・管理に関する取組
- ナノマテリアルについては、近年国内外において、事業者による自主的なばく露防止・排出防止対策が進むとともに、政府による新たな取組の開始や、有害性に関する新たな知見が得られるなど、状況は急速に変化している。
- このため、ナノマテリアル製造事業者等は、労働環境におけるばく露防止対策、環境への排出防止対策について、国内外の事業者の先進的取組や国内外の政府の取組について情報の収集・把握を行い、特に国内関係省庁による対策に係る通知や指針等が示された場合にはそれらを踏まえた上で、リスク評価に関する取組(安全性情報の収集・把握と環境測定等による作業環境でのばく露状況の調査等)やリスク管理に関する取組(密閉化や局所排気等による排出防止、保護具の着用等によるばく露防止等)について、自らの製造や使用実態を踏まえて取り組むことが期待される。
2)コミュニケーションに関する取組
@情報伝達のあり方について
- ナノマテリアルの労働者へのばく露や環境への排出については、ナノマテリアル製造事業者等だけではなく、使用事業者においても起こるおそれがある。
- ナノマテリアル製造事業者等は、使用事業者に対してナノマテリアルについての情報伝達と使用事業者との情報共有を行うべきである。
- このため、具体的には、競争上の地位を害するおそれのある情報の扱いに配慮しながら、ナノマテリアルに関する安全性情報、取扱に関する留意点、使用情報等の共有等、ナノマテリアル製造事業者等と使用事業者との間でのコミュニケーションを促進することが必要である。
- 一部のナノマテリアルについては、関係法令に基づいて、あるいは製造事業者等が自主的に、譲渡・提供時にMSDS を添付している。これらのMSDS には、物理化学性状、有害性情報、ばく露防止対策等が記載されているが、ナノマテリアルであることに着目した情報は一部の物質を除き、多くの場合は不十分である。
- このため、ナノマテリアル製造事業者等は、表3に示す項目の中から、事業者自らが、ナノマテリアルの特性、使用状況を踏まえて提供できる項目を使用事業者に提供することが期待される。
- その際には、ナノマテリアルについての科学的知見が不足していることを踏まえ、表3の全項目を網羅する必要はなく、安全性や環境への影響を評価・管理する上で重要な項目を中心に、現時点で入手・公開可能である範囲を、ナノマテリアルを構成する化学物質や製品毎の固有の性質にも留意して情報伝達することが望ましい。
A情報発信のあり方について
- ナノマテリアル製造事業者等が行う自主管理の取り組みは、法令に基づくものではないため、その透明性をどのように担保するかが重要である。
- よって、安全性に関する製造事業者等としての考え方を広く示すために、ナノマテリアル製造事業者等が持つ試験データや自主管理の取組等を積極的に発信することが期待される。
2.政策的対応について
- ナノマテリアルの適切な管理のためには、ナノマテリアル製造事業者等における自主的取組に加えて、国としても事業者における自主管理の透明性を担保するとともに、技術開発等の安全対策のためのインフラ整備についての積極的な取組が必要である。
- ナノマテリアル製造事業者等が行う自主管理の透明性を担保するためには、主に次の3つの手法が考えられる。
- (手法1)ナノマテリアル製造事業者等が自ら情報発信を行う。(具体的には、ナノマテリアル製造事業者等のホームページでの情報発信等が想定される)
- (手法2)国が情報発信を行う。(具体的には、経済産業省がナノマテリアル製造事業者等から情報提供を受け、情報発信を行うこと等が想定される)
- (手法3) 手法2とともに、第三者機関においてレビューを行う。(具体的には、審議会等の専門家が集まる機関でのレビューが想定される)
- 手法1、2及び3が全て行われることが望ましい。具体的には、一定以上のナノマテリアルを取り扱うナノマテリアル製造事業者等は自ら情報発信を行うとともに、表3に示す項目から可能な情報を国に提供し、国が関係行政機関等と連携して積極的に情報を公開する(例えば、経済産業省ホームページの活用等)
- また、提供された情報について専門家の集まる審議会等でレビューを行うことが望ましい。
- その際には、ナノマテリアル製造事業者等から提供された競争上の地位を害するおそれのある情報については、開示しないこととするべきである。
- なお、情報発信する際には、詳細な情報の発信を先行させ、一般国民に対しても、詳細な情報にアクセス可能とすること等により、情報発信に関する積極的な姿勢を示すことが必要である。
- 併せて、報道機関等が活用できる専門用語の解説等の情報を整備することも必要である。
また、安全性についての国際的な動向についても集約して発信することが必要である。
- 現在、ナノマテリアルの安全性評価が可能な研究機関は少なく、ナノマテリアル製造事業者等が安全性等に関する情報収集を行うためには、試験・評価法の確立およびその実施が可能な試験研究施設の整備が必要である。
- 各社が各々試験研究施設を整備することは、現段階では多額かつ重複投資となる懸念がある。
- したがって、例えば国がナノ試験評価施設を提供したり、試験手法の明確化を行い、ナノマテリアル製造事業者等はその施設を活用したり、当該手法を用いた評価を行う外部の試験機関等に委託する等の方法により、効率的に試験が実施できるようにすることも視野に入れるべきである。
- なお、関係省庁においてもナノマテリアルの安全性に関する予防的取組が現在行われていると
ころであり、経済産業省は、上記の取組を行う際には、関係省庁と連携して取り組むべきである。
VII.今後の検討課題
- 国は、本研究会にて検討したスキームに基づいて適切に情報収集を行うとともに、定期的に本スキームのあり方について検討を行い、自主管理による安全対策の妥当性について検討するべきである。
- ナノマテリアル製造事業者等が発信・提供する情報の項目については、ナノマテリアルに関する最新の科学的知見や、国内外の動向等を踏まえて見直していくべきである。
- 併せて、一般国民に向けた情報提供については、ナノマテリアル製造事業者等からの情報収集や専門家向けの詳細な情報についての情報発信を行うことに加え、その望ましいあり方を検討するべきである。
- 、今回対象とする6物質の製造事業者等の安全対策により、我が国のナノマテリアルの一定の部分について対応できていると考えられるが、ナノマテリアル使用事業者の安全対策等、今回の検討対象としなかった課題についても、製造事業者等から情報提供された取組状況・取扱量等や国内外での新たな知見の集積を踏まえて引き続き検討するべきである。
- 国は、本研究会にて検討したスキームに基づいて適切に情報収集を行うとともに、定期的に本スキームのあり方について検討を行い、自主管理による安全対策の妥当性について検討するべきである。
- 、今回対象とする6物質の製造事業者等の安全対策により、我が国のナノマテリアルの一定の部分について対応できていると考えられるが、ナノマテリアル使用事業者の安全対策等、今回の検討対象としなかった課題についても、製造事業者等から情報提供された取組状況・取扱量等や国内外での新たな知見の集積を踏まえて引き続き検討するべきである。
|