Particle and Fibre Toxicology (pft) 2014年2月13日
酸化銅のナノ粒子及びマイクロ粒子の細胞毒性と遺伝毒性:
溶解性と細胞内の生物学的利用能の役割

アブストラクト

情報源:Particle and Fibre Toxicology, 13 February 2014
Cytotoxicity and genotoxicity of nano - and microparticulate copper oxide: role of solubility and intracellular bioavailability
Annetta Semisch1, Julia Ohle1, Barbara Witt1 and Andrea Hartwig1
1 Department of Food Chemistry and Toxicology, Karlsruhe Institute of Technology (KIT), Institute for Applied Biosciences, Adenauerring 20a, Karlsruhe 76131, Germany
http://www.particleandfibretoxicology.com/content/11/1/10/abstract

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年3月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/pft/140213_cytotoxicity_and_genotoxicity_of_CuO_NP_and_MP.html

アブストラクト

背景
 ナノ又はマイクロスケールの酸化銅粒子(CuO NP, CuO MP)は、触媒又は抗菌添加剤としてますます応用されている。このことは、銅イオンは過負荷状態では細胞毒性があるので、有害な健康影響のリスクを増大させる。

手法
  CuO NP と CuO MP の細胞外及び細胞内の生物学的利用能(訳注1)が詳しく調べられた。さらに、酸化銅及び塩化第二銅(CuCl2)の直接的及び間接的遺伝毒性はもちろん、細胞毒性に関連する異なる評価項目がを比較された。

結果
 包括的に特性化された CuO NP と CuO MP が、モデル流体中での銅イオン放出に関して分析された。調査された全ての溶媒 中で、CuO NP は CuO MP よりはるかに多くの銅イオンを放出し、人工のリソソーム(lysosomal)(訳注2)液中で最も顕著な溶解が見られた。 CuO NP と CuO MP は、A549 細胞(訳注3)及び HeLa S3 細胞(訳注4)中でのコロニー形成能力(CFA)の顕著で用量依存の減少を起こしたが、CuO MP は 50 μg/mLまでの濃度においては細胞毒性を起こさなかった。

 CuO NP により誘発される細胞死の少なくとも一部は、細胞核へのアポトーシス誘導因子(AIF)の移動を通じてはもちろん、サブ二倍体 DNA によって決定されるアポトーシス(訳注5)のためであった。同様に、CuO NP だけが、HeLa S3 細胞中で著しく多量の DNA 鎖切断を誘発したが、一方、3つ全ての化合物は過酸化水素(H2O2)誘発の DNA 鎖切断レベルを高めた。

 最終的に、全ての銅化合物は、主にポリADP-リボースポリメラーゼ-1(PARP-1)により触媒作用を及ぼされた過酸化水素(H2O2)誘発のポリ-ADP-リボシル化による細胞機能を縮小したが、ここでも再び CuO NP が最も強い影響を及ぼした。 CuO NP、CuO MP 及び CuCl2 は、A549 細胞の溶解性の細胞質核分画中に蓄積し、細胞質中に同様な濃度を生成するが、CuO NP の場合には核中の濃度が最も高かった。

結論
 得られた結果は、適用された条件の下では、CuO NP と CuCl2 の高い細胞毒性と CuO MP の細胞毒性が見当たらないことを示した。これらの細胞毒性の相違について、表面積のような粒子の物理化学的特性の相違はもちろん、粒子の溶解に起因する細胞外の銅イオンのレベルに主に関連するかもしれない。直接的及び間接的遺伝子毒性に関して、特に CuO NP による細胞処理に由来する細胞核中の銅の高い含有量が決定的であるように見える。


訳注1
ウイキペディア:生物学的利用能
 薬剤学において、服用した薬物が全身循環に到達する割合をあらわす定数である。定義上、薬物が静脈内に投与される場合、そのバイオアベイラビリティは100%となる。一方、薬物がそれ以外の経路(例えば経口摂取など)により投与される場合は、全身循環に到達するまでに不十分な吸収と初回通過効果を受けるため、そのバイオアベイラビリティは減少する事になる。静脈内投与以外の経路で投与する際、投薬量の計算にバイオアベイラビリティを考慮する必要がある事から、バイオアベイラビリティは薬物動態学において必須のツールである。

訳注2
ウイキペディア:リソソーム
 リソソーム(lysosome; ライソソーム)は、真核生物が持つ細胞小器官の一つである。生体膜につつまれた構造体で細胞内消化の場である。内部に加水分解酵素を持ち、エンドサイトーシスやオートファジーによって膜内に取り込まれた生体高分子はここで加水分解される。分解された物体のうち有用なものは、細胞質に吸収される。不用物はエキソサイトーシスによって細胞外に廃棄されるか、残余小体(residual body)として細胞内に留まる。単細胞生物においては、リソソームが消化器として働いている。

訳注3
ウイキペディア:A549細胞
 A549細胞は、ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞である。A549細胞株は、D. J. Giardらによってコーカソイド人種の58歳男性の肺がん組織から、1972年に初めて樹立された。本来はこれらの細胞は扁平上皮細胞であり、水や電解質といった物質の肺胞を越える拡散に関与している。A549細胞をin vitroで培養すると、単層細胞として成長し、培養フラスコに接着する。

訳注4
ウイキペディア:HeLa細胞
 HeLa細胞(ヒーラさいぼう)は、ヒト由来の最初の細胞株。in vitroでの細胞を用いる試験や研究に幅広く用いられている。1951年に子宮頸癌で亡くなった30代黒人女性の腫瘍病変から分離され、株化された。この細胞の名称は、原患者氏名ヘンリエッタ・ラックスから命名された。HeLa細胞は付着細胞であり、その形態は上皮様である。増殖能は高く、他の癌細胞と比較してもなお異常に急激な増殖を示す。この増殖能の高さが、ジョージ・ゲイがHeLa細胞の分離に成功した大きな理由であると考えられている。また他の樹立された培養細胞株と同様、不死化しており、細胞分裂を無制限に繰り返すことが可能である。

訳注5
ウイキペディア:アポトーシス
 アポトーシス (apoptosis) とは、多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死(狭義にはその中の、カスパーゼに依存する型)のこと。ネクローシス(necrosis)の対義語として使われる事が多い。



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