米国立労働安全衛生研究所
NIOSH Science Blog 2013年3月11日
多層カーボンナノチューブに曝露させた
実験室マウスの肺腫瘍形成に関する新たな発見


情報源:NIOSH Science Blog Mar 11th, 2013
New Findings on Lung Tumor Formation in Laboratory Mice
Exposed to Multi-Walled Carbon Nanotubes
Vincent Castranova, PhD; Charles L Geraci, PhD; Paul Schulte, PhD
http://blogs.cdc.gov/niosh-science-blog/2013/03/mwcnt/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年3月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/niosh/niosh_blog_130311_mwcnt_mice_tumor.html



Alveolar Bronchiolar Carcinoma of the Lung
with Metastases in a Blood Vessel (arrow).
血管中に転移した細気管支肺胞がん(矢印)
Photo courtesy of Linda Sargent, Ph.D., NIOSH

 本日早く、米国毒科学会(Society of Toxicology)の年次総会で、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の研究者らは、吸入によりマウスに多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を曝露させた新たなラボ研究から得られた予備的な発見を報告した。この研究は、これらの微小な粒子ががんを引き起こす(initiate)又は促進する(promote)潜在能力を持っているかどうかを調べるために設計された。ここで、”引き起こす(initiate)”とは、腫瘍をもたらすことができるDNA中の突然変異を引き起こす物質の能力を意味する。”促進する(promote)”とは、そのようなDNA突然変異を既に持っている細胞を腫瘍にする物質の能力を意味する。

 ナノテクノロジーが適用されている多くの産業で、その安全な発展を確実にするための保護的な措置を開発することができるようにするために、これらの物質が示すかもしれない潜在的な健康ハザードを記述する新たなデータを持つことは非常に重要である。

 このNIOSHの研究では、実験マウスのひとつのグループは、発がん性物質であることが分かっているメチルクロルアントレン(methylcholanthrene)の注射投与を受けた。もうひとつのマウスのグループは、コントロール・グループとして塩水の注射投与を受けた。その後マウスは、空気又はある濃度のMWCNTのいずれかに吸入曝露させた。これらの手順は、MWNCTが単独でマウスにがんを引き起こすのかどうか、また、発がん性物質メチルクロルアントレンが既に投与されている場合には、MWNCTが発がんを促進するかどうかを研究者等が調べることを可能にした。

 発がん性物質及び MWCNT 曝露を受けたマウスは、腫瘍がより顕著に現われる可能性があり(90% incidence 罹患率)(訳注1)、発がん性物質だけを投与されたマウス(腫瘍を発症した50%が、肺当り平均1.4腫瘍)より、多くの腫瘍(マウスの肺当り平均3.3腫瘍)を持つ。さらに、MWCNT曝露、及びMWCNT曝露プラス発がん性物質曝露を受けたマウスは、それぞれコントロール・グループより大きな腫瘍を持っていた。MWCNTだけに曝露したマウスの腫瘍数は、コントロール・グループのマウスの腫瘍数に比べて有意に多いというわけではなかった。これらの結果は、MWCNT は既知の発がん性物質に曝露したマウスのがんリスクを増大させることができるということを示している。この研究は、 MWCNTs 単独でマウスにがんを引き起こすということを示唆していない。

 科学的文献に見られるいくつかの以前の研究は、MWCNT はがんを引き起こす又は促進することができると示していた。今回のNIOSHの新しい研究は、MWCNはラボでの実験でがん促進物質であることを初めて示し、また実験マウスは、注射、点滴、又は吸引よりもよりもむしろMWCNTへの吸入曝露が肺腫瘍の成長を促すことを報告している。吸入曝露は職場で最も懸念される曝露経路に最も近い。この研究では、実験マウスは、空気中濃度5mg/m3のあるタイプのMWCNに1日5時間の吸入曝露を15日間を受けた。

 職業的がんのリスクは、物質のがんを引き起こす又は促進する能力、濃度、及び労働者のその物質への曝露期間に依存する。この研究は、 MWCNTに関連するハザードについて我々が理解する重要なステップであるが、MWCNTが職業的がんリスクを及ぼすかどうかを決定するためには、職場で使用されているMWCNTの実際の曝露レベル、タイプと特性、そしてこの研究で使用された物質と比べてどうなのかについて、もっと多くの情報が必要である。我々はまた、どのような作業プロセス、役務、そしてMWCNTの物理的形状が曝露に関連しているか、特定する必要がある。曝露についての進んだ知識に基づき、実際の労働者の曝露についてもっとよく知り、曝露をなくすためにどのようにしてMWCNTプロセスを封じ込め、制御するかに関するガイダンスを開発するために、職場研究がNIOSHで行なわれている。さらに、その他のタイプのカーボン・ナノチューブやナノファイバーはもちろん、その他のナノ物質の潜在的な健康影響と潜在的な職業リスクを理解するために、同様な研究が必要である。

 これらの疑問に答えるのに役立てるために、NIOSH とその他の機関は研究を継続しているが、曝露を制御することは、ナノ物質の慎重な製造と職場での使用において、特に他のリスク要素がまだよく分からない、あるいはほとんど理解されていない場合には、極めて重要である。もっと多くのことが分かるまで、慎重な職場の実践のためのNIOSHの既存の勧告は、我々の現状の科学的知見に基づいて、MWCNT及びその他のナノ物質への曝露の制御に関するガイダンスを提供するものである。封じ込め、局所排気、ろ過、呼吸器防具を含む個人用保護具(PPE)の使用は、曝露を低減するのに効果的であることを証明しており、慎重な実施方法であるとして勧告されている。詳細は、Approaches to Safe Nanotechnologyで見つけることができる。

 2010年にパブリック・レビュー及びパブリック・コメントのために発表された、我々の単層及び多層カーボン・ナノチューブに関するCurrent Intelligence Bulletinの中で、我々はまた、カーボン・ナノチューブの職業的健康影響に関する利用可能な科学的証拠について広範に議論し、パブリック・コメントのための潜在的な勧告を提起した。我々は、パブリックコメントについての我々のレビューを反映して、Current Intelligence Bulletin(CIB)の最終版を発行する予定である。このドラフトCIBは、NIOSHのウェブサイトで利用可能であり、最終版は、ナノテクノロジー・トピック・ページに掲載されるであろう。

 これらのラボ研究は、この技術が研究の進展と共に責任を持って開発されるよう、そしてナノテクノロジーの社会的便益が実現できるようにするために、ナノ粒子曝露の職業的健康安全影響をよりよく理解し、曝露を制御するための信頼すべき科学的根拠に基づいた勧告を作成するために、NIOSH 研究の戦略的なプログラムの一部をなす。 NIOSHは、この画期的な技術の安全な発展のために職業的健康と安全を実際的な戦略に織り込むために、過去10年以上、多様な公衆及び民間分野パートナーと密接に作業を行なっている。さらなる情報は、NIOSHのnanotechnology topic page(ナノテクノロジー・トピック・ページ)で利用可能である。

 このラボ研究の予備的結果は、2013年3月11日(月)の米国毒科学会(Society of Toxicology)の年次総会においてポスターで発表された。この研究は、発表のためにピアレビュー・ジャーナルに提出されるであろう。


訳注1:参考(罹患率、有病率)


化学物質問題市民研究会
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