米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)2016年5月 
カーボンナノチューブへの
職場での暴露についての調査研究


情報源:National Institute for Occupational Safety and Health (NIOSH) May, 2016
Research Explores Workplace Exposure to Carbon Nanotubes
http://www.cdc.gov/niosh/research-rounds/resroundsv1n11.html
#Research Explores Workplace Exposure to Carbon Nanotubes


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年7月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/niosh/
NIOSH_May_2016_Workplace_Exposure_to_Carbon_Nanotubes.html


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職場で収集された空気中浮遊カーボンナノチューブの塊
Photo from NIOSH
 1980年代以来、新たに出現したナノ物質の分野は、これらの物質を使用した製品、中でもとりわけコーティング、コンピュータ、衣類、化粧品、スポーツ用品、医療機器の製造の増大を世界的にもたらした。”ナノ”という言葉が暗示するように、これらの物質は極めて小さく、いくつかの定義によれば、そのサイズは概略 1〜100 ナノメートルの範囲にある。このサイズでは新たな化学的及び物理的特性が生じ、ナノ物質は新たな又は改善された製品を創出し製造するために理想的なものになる。最も将来性があるもののひとつは、純粋の炭素、又は微量残留金属を含有する炭素からなるカーボンナノチューブである。単層(single-walled)又は多層(multi-walled))のものが利用でき、その独自の化学的、電気的、及び機械的強度特性は、製造、研究、生物医学、及びその他の分野で、多くの材料としての用途を広げている。

 新しく急速に進展した他の技術と同様に、どのような意図しないリスクをも特定し、それらに対応できる様にするために、健康と安全についての疑問は解決される必要がある。米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、ナノ粒子の労働安全衛生への影響をよりよく理解し、知識の進展につれて作業者の暴露を制御するための慎重な戦略を勧告するために、多様なパートナーとともにしっかりした研究を実施している。下記の二つの記事は、NIOSH の研究者がロシアのカザン市にあるカザン医科大学と提携して、多層カーボンナノチューブへの職場暴露が肺疾病へのリスクを引き起こすかどうかを調査研究し、発表した二つ論文の概要を記したものである。二つの研究とも、カザンの同じ施設からの作業者が自主的に参加した。これらの研究の調査結果は多層カーボンナノチューブへの職場暴露が職業病をもたらすかどうかの疑問に答えていない。しかし、研究者らは更なる研究の必要性を支持し、予防的管理措置の重要性を強調している。

細胞増殖や細胞死の調節異常

 NIOSH とカザン大学の研究者らによれば、多層カーボンナノチューブに曝露した作業者らは、非暴露作業者らに比べて、細胞増殖や細胞死を含む、様々な細胞機能に関連する異常な変化をかなり多く持つようである。ピアレビュー誌 『 PLOS ONE 』 に発表されたこの研究は、多層カーボンナノチューブに曝露した作業者らからの血液サンプル中で、これらの細胞変化を見た初めてのものである。

 以前の動物及び細胞培養研究は、多層カーボンナノチューブへの暴露は、がんはもちろん、肺と心臓疾患への大きな潜在的リスクをもたらすかもしれない細胞変化に関連があることを示した。現在、研究者らは、彼らがラボ研究で観察した影響はまた、多層カーボンナノチューブの製造と産業使用においてこれらの物質に曝露するかもしれない作業者らの細胞中に見出されるのかどうか知りたいと望んだ。もしそうなら、これらの変化は作業関連の疾病発症のリスクを示すことができる微妙な影響を知らせるバイオマーカーとして可能性を提供するかもしれない。その影響を検証するために彼らは、細胞機能の多くの面に関わる分子であるリボ核酸(RNA)を調べた。研究者らは、ロシアの多層カーボンナノチューブ製造工場で暴露した作業者と非暴露作業者との間の RNA 発現の相違を比較した。最初に、彼らは、作業者らが空気中浮遊粒子に曝露しているかどうか、暴露していればその濃度を決定するために、ナノチューブの製造中の職場の空気を採取した。次に、彼らは、少なくとも 6か月間ナノチューブを直接取り扱っていた 8人の自主的参加者と、ナノチューブとは何ら関わりなく働いていた 7人の自主的参加者から採取した血液サンプルを試験した。血液検査は、ナノチューブ製造で働いていた人々の細胞の増殖と死を調節する RNAs 発現に著しい変化を示した。さらに、その変化は、肺疾患、心臓疾患、がんのような慢性疾患のリスクが高まることに関連があるとした以前のラボ研究におけるものと類似していた。この研究では参加者が少なかったので、観察された RNA 変化が作業者の暴露のマーカーとして有用であるかどうか決定するために、大規模な研究が必要である。また、観察された影響が多層カーボンナノチューブに特有であるかどうか、そしてこの情報が優良なリスク管理手法を開発するのに役に立つかどうかを決定するために、追加的な研究が必要である。これらの調査結果は、現在 NIOSH で行われている研究のような米国内での同様な研究からの結果と比較する時にに検討されるべきである。

さらなる情報
Integrated Analysis of Dysregulated ncRNA and mRNA Expression Profiles in Humans Exposed to Carbon Nanotubes

肺の炎症と瘢痕化に関連する細胞変化

 NIOSH とカザン大学の研究者らによる関連する研究調査で、多層カーボンナノチューブに曝露した作業者らは非暴露作業者より肺の炎症と瘢痕化(はんこんか)に関連する細胞変化をかなり多く持っているようである。ピアレビュー誌 『 Toxicology and Applied Pharmacology 』 に発表されたこれらの発見は、多層カーボンナノチューブを取り扱う作業者が暴露するのを防止するために合理的な予防として厳格な管理措置を実施することの重要性を強調している。

 動物研究は、吸入による多層カーボンナノチューブ暴露に関連する有害な肺影響を報告しているが、これらの影響が人間にまで拡張されるかどうか明らかではない。動物モデルでは、これらの健康影響は炎症、組織の瘢痕化と肥厚化、及び病変形成を含んでいた。人間に同様な影響が起きるかどうか検証するために、研究者らは多層カーボンナノチューブに曝露した作業者の炎症及び瘢痕化のためのバイオマーカーの組み合わせを用いた。自主的な研究参加者は、ロシアのある多層カーボンナノチューブ製造工場の 22人の作業者であった。参加者のほとんどは19歳から63歳の間の男性であった。研究者らは参加者を彼らの多層カーボンナノチューブへの職業暴露に基づき二つのグループに分けた。ひとつのグループは1年以上ナノチューブを取り扱った10人の作業者から構成されていた。もう一つのグループは、同じ施設で働いていたが、ナノチューブは取り扱わなかった12人の作業者から成っていた。研究者らは、職場の空気中の多層カーボンナノチューブの存在を検証するために、炭素原子テストはもちろん、高倍率透過型電子顕微鏡によるテストを実施した。電子顕微鏡の使用は研究者らが、施設内からの空気サンプル中の多層カーボンナノチューブの存在を確認することを可能にした。

 血液、鼻及び唾液のサンプルを分析することにより研究者らは、多層カーボンナノチューブに曝露した作業者らは非暴露作業者に比べて瘢痕化及び炎症の可能性を示すかなり多くの変化を持っていたことを発見した。これらの相違は、結果に影響を及ぼすであろう喫煙のような他の要素を調整した後にも存在した。これらの調査結果は、多層カーボンナノチューブへの暴露のためのバイオマーカーのテスト方法と確認が、以前のラボ調査はもちろん、作業者についても適用可能であることが示された。彼らは、将来の研究は、多層カーボンナノチューブへの職場での暴露の健康影響を評価するために観察されたバイオマーカーを使用することを考慮すべきであることを示している。加えて、研究者らによれば、生物学的サンプルの貯蔵所は将来の研究にとって貴重となるであろう。

更なる情報
Fibrosis Biomarkers in Workers Exposed to MWCNTs


訳注:関連情報
NIOSH Explores Workplace Exposure to Multi-Walled Carbon Nanotubes By Lynn L. Bergeson and Carla N. Hutton on June 23, 2016



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