AZoNano 2023年8月18日
特集 ナノ粒子は危険か?
アーズ・プリ(科学記者)
照査:メーガン・クレイグ M.Sc.
情報源:AZoNano, August 18, 2023
EDITORIAL FEATURE
Are Nanoparticles Dangerous?
By Arzoo Puri, a scientific writer
Reviewed by Megan Craig, M.Sc..
https://www.azonano.com/article.aspx?ArticleID=6528

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2023年9月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/
230818_AZoNano_Are_Nanoparticles_Dangerous.html


 ナノ粒子は、医療、宇宙探査、環境保全、エネルギーの分野で使用されている。 ナノ粒子の生成は指数関数的に増加しており、人体への暴露のリスクが増加している。本記事は、”ナノ粒子は危険か?”という疑問に答えることを目指している。

ナノ粒子を作ることは危険か?

 ナノ粒子は、合成された材料が少なくともある1次元寸法が 100 ナノメートル (nm) より小さい。 ナノ粒子は独特であり、商業用途で期待されている。 これは、電気的、物理的、化学的特性が、同一材料でサイズがより大きな粒子とは異なるためである。

 合成して危険となるナノ粒子は安全上のリスクを伴う。 これは、合成プロセス、人的エラー (流出)、研究者や作業者、環境への暴露レベルなどの要因に基づく。

 本質的に危険な一部のナノ粒子に関連するリスクは、表面積、サイズ、凝集状態、表面電荷などの生物物理化学的特性に依存する。

 危険の可能性のあるナノ粒子への暴露は、ナノ粒子の利用方法や製造方法によっては、皮膚への接触、摂取、または吸入によって発生する可能性がある。 皮膚にとって危険なナノ粒子と長時間直接接触すると、炎症、発赤、炎症を引き起こす可能性がある。 これは、人の皮膚にこぼれた場合など、製造プロセス中に発生する可能性がある。

 危険な、または安全でない可能性があるナノ粒子は、健康で無傷の皮膚に浸透し、その後さまざまな器官系に広がる可能性もある。

 ミズーリら(Najahi-Missaoui et al.)によると、ナノ粒子のサイズと巨大な表面積は、ナノ粒子の侵入様式、細胞吸収、及び全体的な健康への影響における重要な要素である。 これらの特性は、ナノ粒子の危険性の程度にも影響する。

 他の研究では、ナノ粒子のサイズ、分布、全身移行時の活性酸素種 (ROS)(訳注:活性酸素とは、呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部が、通常よりも活性化された状態になることをいいます。ヒトを含めた哺乳類では、取り込んだ酸素の数%が活性酸素に変化すると考えられています。活性酸素は、体内の代謝過程において様々な成分と反応し、過剰になると細胞傷害をもたらします。(e-ヘルスネット) の生成との関連性が実証されている。 製造が危険なこのようなナノ粒子の輸送はまた、胃腸管の健康にも影響を与える可能性がある。

 製造プロセス中に、危険な可能性があるナノ粒子が空気中に浮遊し、高濃度の粒子が周囲環境に放出される可能性がある。 これらの空中浮遊タイプのナノ粒子は、吸入すると肺 (呼吸器) の健康に危険であると考えられる。

ナノ粒子を吸い込むと危険か?

 ジャーナル ACS Nanoに掲載されたミラーら(Miller et al.)の研究は、”ナノ粒子を吸入すると危険か?”という疑問に何らかの光を当てる可能性がある。 健康なボランティアの意図的な急性暴露のためにこの研究で使用された金ナノ粒子は、侵入時に肺に酸化ストレス(訳注:酸化ストレスとは、生活習慣、病気の存在、ストレス、老化等の様々な原因により、体を傷つける活性酸素の産生が過剰となり、それを消去する抗酸化能とのバランスが崩れた状態をいいます。日本医療研究開発機構)や炎症性損傷を引き起こす可能性があるため、吸入すると危険である。

 このような種類の金属は、サイズが小さく化学構造が細胞への取り込みを増加させるため、ナノ粒子を形成するか、または危険なナノ粒子になる。

 この研究は、吸い込むと危険なナノ粒子はまた、体中を循環して複数の部位に蓄積し、血管の炎症を引き起こす可能性があることを示唆している。 頸動脈疾患を患い、脳卒中リスクのある患者から採取した手術サンプルをさらに分析したところ、意図的に吸入された金ナノ粒子が蓄積していることが判明した。

ナノ粒子は健康に危険か? - ケーススタディ 1

 ナノ粒子には、小さいサイズや治療薬との優れた生体適合性など、多くの利点があるが、潜在的な健康被害を伴う危険な性質を持つナノ粒子も存在する。 ナノ粒子を含む市販製品が増えていることを考えると、上記の危険な結果を無視することはできない。

 食品分野で食品着色料及び固結防止材料として使用される食品グレードの金属酸化物ナノ粒子は、このカテゴリーの市販製品に分類される。

 2023年、Antioxidants (抗酸化物質)誌に発表されたチェンら( Cheng J., et al.)の研究は、健康に危険な特定のナノ粒子(一般的に食品に使用される二酸化ケイ素と二酸化チタン)が腸刷子縁膜(訳注)の発達やサイトカイン(訳注)の発現、ミネラルトランスポーター(訳注)、及び腸内細菌集団の構成を変化させる可能性があると報告した。

これは、2.0 x 10-5 mg 二酸化ケイ素 NP/mL (訳注*)を含むさまざまなナノ粒子溶液を 6つのグループのニワトリ(Gallus gallus)に投与した場合の研究で見られた。 これらの変化は、腸管の機能に影響を与える可能性がある。

訳注:刷子縁刷子縁(さっしえん、brush border)とは小腸の吸収上皮細胞及び腎臓の近位尿細管細胞の上部に存在する長さや太さが不揃いの微絨毛が密に形成されている領域。腸細胞においては頂端膜と同義語である。小腸における刷子縁の存在は表面積の拡大に寄与している。(ウィキペディア

訳注:炎症性サイトカイン(proinflammatory cytokine)とは、炎症反応を促進する働きを持つサイトカインのことである。免疫に関与し、細菌やウイルスが体に侵入した際に、それらを撃退して体を守る重要な働きをする。血管内皮、マクロファージ、リンパ球などさまざまな細胞から産生され、疼痛や腫脹、発熱など、全身性あるいは局所的な炎症反応の原因となる。(看護roo! 用語辞典

訳注:ミネラルトランスポーターミネラルを体内に吸収させるためには、細胞膜を通過しなければなりません。ところが鉄とか亜鉛など金属ミネラルイオンは、そのままでは通過できないため、膜に穴を開けてイオンを通過させる膜輸送のためのタンパク質が必要です。これをトランスポーターと言います。(みらいぶ+

訳注*:本記事の原文では ”2.0 x 105 mg Silicon oxide NP/mL”とあるが、Antioxidants 掲載のチェンら( Cheng J., et al.)によるオリジナル論文(Abstract)では”2.0 × 10-5 mg SiO2 NP/mL”とあり、こちらが正しいはずなので、これを採用した。

ナノ粒子は健康に危険か? - ケーススタディ 2

 銀ナノ粒子の毒性に関するいくつかの研究が、ラット肝臓、マウス線維芽細胞、及びヒト肝細胞がん由来の細胞株を利用して実施されている。

 活性酸素種、酸化ストレス媒介細胞死、及びアポトーシスはすべて、すべての調査で著しく増加した (濃度範囲は 2.5〜200 g/mL)。 これらの結果により、銀ナノ粒子を含む塗り薬(topical products)の使用が制限されている。

 ファンら(Fung et al.)によると、銀の摂取と局所治療は、銀ナノ粒子の沈着によってもたらされる皮膚と肝臓の灰青色の色を特徴とする良性疾患であるアルギリア(銀皮症)を引き起こす可能性があり、臓器の基底層に危険または高濃度で存在するという。

 別の調査でトロら(Trop et al.)は、銀ナノ粒子でコーティングされた包帯で治療を受けた火傷患者が、可逆的な銀毒性を経験したことを発見した。 この発見は、銀ナノ粒子の可逆的な毒性を示している。

 これらの金属ナノ粒子は危険であるか、健康に害を及ぼす可能性があり、潜在的な悪影響があり、軽減する必要がある。

ナノ粒子は健康に危険か? - ケーススタディ 3

 ポリマー・ナノ粒子ベースのドラッグデリバリーシステム(DDS)は、標的を絞った制御療法に使用できるもうひとつの潜在的なシステムであるがが、まだ開発途上である。

 グプタら(Gupta et al.)らは、静電結合は血液または非特異的細胞中のオプソニン化タンパク質との非特異的相互作用を引き起こす可能性があるため、カチオン性ポリマーナノ粒子の生体内注射後に予期せぬ細胞毒性を引き起こす可能性があることを発見した。

 いくつかの生分解性ポリマーをナノ粒子として利用した場合の安全性と、おそらく危険な影響が研究されている。 したがって、金属及びポリマーの変種は、使用前にその毒性を十分に検査しない場合、健康に危険なナノ粒子とみなされる可能性がある。

結論: ナノ粒子は危険か?

 ナノ粒子はヘルスケアなどの分野で非常に重要である。 しかし、今日のナノサイエンス分野における最大の課題は、ナノ粒子が危険かどうか、またその程度を特定し、推定することである。

 これは、ナノ粒子がさまざまな物理化学的特性を持ちながら、さまざまな用途のために絶えず製造及び実装されているからである。

 研究文献は、ナノ粒子が継続的に調査されない場合、ナノ粒子によってもたらされる害が大幅に増加する可能性があることを実証している。 潜在的に危険なナノ粒子は、体の細胞や臓器を傷つける予期せぬ反応を引き起こす可能性がある。

 したがって、合成後に本質的に危険なナノ粒子に関連する深刻な健康上の懸念を想定するには、製造から保管、流通、意図された商業用途、乱用の可能性、そして最終的に廃棄に至るライフサイクル全体を調査する必要がある。

参照および更なる文献


化学物質問題市民研究会
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