News Medical 2022年7月31日
ナノ粒子のマクロファージへの有害影響
プリヨム・ボース博士(インド・マドラス大学)

情報源:News Medical Jul 31 2022
Nanoparticles' toxic effects on macrophages
By Dr. Priyom Bose,
from University of Madras, India
https://www.news-medical.net/news/20220731/
Nanoparticles-toxic-effects-on-macrophages.aspx


訳:安間 武 (化学材料問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2022年8月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/2207031_
News_Medical_Nanoparticles_toxic_effects_on_macrophages.html


 ナノ粒子は広範囲に使用されているため、毒性学者も科学者も同様に、ナノ粒子の安全性プロファイルをよりよく理解することに関心を持っている。たとえば、マクロファージ(訳注1)に対するナノ粒子の毒性効果については、さらなる研究が必要である。これらの免疫細胞は、ナノ粒子が体内に入った後に最初に遭遇することが多いからである。

 ライフ サイエンス誌に発表された最近のある研究では、ナノ粒子との相互作用の後にマクロファージに生じる分子変化とその根底にあるメカニズムについて研究者らが検討している。

背景

 ナノ粒子は、少なくとも 1 つの次元が 100 ナノメートル (nm) 未満の工学的粒子又は天然粒子のいずれかである。過去数十年にわたり、ナノテクノロジーは急速に進化し、その後、二酸化チタン、酸化亜鉛、グラフェン、及びより小さな量子ドットなどのナノ粒子の需要が増加した。これらのナノ粒子は、衣料品、食品、化粧品など多くの産業で広く使用されており、サイズが小さく、優れた光学特性を備えている。

 複数経路の暴露は、ナノ粒子の広範な適用の結果である。ナノ粒子は、皮膚接触、吸入、摂取、及び静脈内注射によって人体に侵入する可能性がある。沈着後、ナノ粒子は上皮細胞、肺マクロファージ、及びその他のさまざまな種類の細胞によって吸収され、体全体に分布する。

 ナノ粒子が体内に入ると、脾臓、肝臓、腎臓などの標的臓器(訳注:ホルモンなどの作用を受ける器官)に蓄積し、心臓や脳に分布する可能性がある。最近の研究では、ほとんどのナノ粒子の 生体外(in vitro) 毒性が報告されており、これらの粒子の安全性プロファイルに取り組む緊急性が高まっている。

 免疫系と単核貪食系 (MPS)(訳注2)の両方に属するマクロファージは、侵入するナノ粒子の約 95% を貪食するため、免疫応答の必須メンバーである。ただし、マクロファージは外来ナノ粒子の影響を受けやすく、その結果、組織損傷のプロセスに部分的に関与している。

調査結果

 マクロファージ又はマクロファージの標的化によって内在化されたナノ粒子は、機能的損傷の生成と細胞生存率の低下を通じて細胞毒性を誘発する可能性がある。

 現在の 生体外(in vitro)マクロファージ モデルでは、主に肺胞マクロファージ、ミクログリア、肝臓マクロファージが考慮されている。 KUP5 及び Hepa1-6 細胞株の文脈では、両方の細胞株で銀 (Ag)、酸化銅 (CuO)、五酸化バナジウム (V2O5)、及び 酸化亜鉛(ZnO) ナノ粒子への暴露後に、重大な細胞毒性が報告されている。

 ナノ粒子暴露後のマクロファージの細胞毒性に影響を与える物理化学的要因も評価されている。この目的のために、ナノ粒子のサイズ、形状、電荷、及び表面特性は、取り込みと細胞相互作用に影響を与える可能性がある。

 サイズは、ナノ粒子の取り込みにおける重要な要因であると考えられている。一般に、サイズが小さいほど細胞毒性が高くなる。

 ナノ粒子にはまた、リングやチューブなどのさまざまな形状があり、球状のナノ粒子は細胞に最も容易に取り込まれる。特に、球状ナノ粒子は細胞毒性が低く、これは、最も毒性の高いナノ粒子は容易に体内に取り込まれるという一般的な信念に反している。

 ナノ粒子の表面修飾は、全体的な細胞毒性にも寄与する。たとえば、シリカ コーティングは酸化ガドリニウム ナノ粒子の生体適合性を大幅に改善し、その結果、細胞毒性を低減する。

 ナノ粒子媒介毒性効果は、遺伝子損傷、酸化ストレス、及び炎症反応の形で発生する。さらに、マクロファージによる内在化、DNA 損傷、細胞死、活性酸素種 (ROS) (訳注3)及びサイトカイン(訳注4)の産生など、細胞の変化と相互作用に関連する 5 つの重要な側面がある。

 細胞内在化は、異物が細胞に取り込まれるプロセスである。したがって、このプロセスは、表面分子の物理的及び化学的特性の影響を受ける。侵入するナノ粒子は、主に食作用を通じてマクロファージによって摂取される。

 活性酸素種 (ROS) 生成のメカニズムはナノ粒子によって異なり、ミトコンドリア(訳注5)が ROS 生成の主な供給源である。重要なことに、すべてのナノ粒子が ROS 生成を誘発するわけではなく、大部分の金属ナノ粒子は、フェントン型反応によるヒドロキシル反応の誘発(訳注6)を通じて毒性を生成する。

 ナノ粒子がマクロファージに細胞毒性を誘発するメカニズムは、炎症性サイトカインの産生と放出、及びその後の炎症反応であるナノ粒子の古典的な毒性メカニズムに似ている。ナノ粒子はまた、直接接触することによって、又は酸化ストレスや炎症反応を介して DNA 損傷を誘発することがある。

 細胞死(訳注7)は最も重大な細胞変化であり、プログラム死、オートファジー、ネクローシス、又は非プログラム死としても知られるアポトーシスの形をとることがある。異なる種類のナノ粒子は、異なる種類の細胞死を誘発する。

結論

 本研究では、研究者らは生体外(in vitro)でのマクロファージに対するナノ粒子の毒性効果を要約し、ナノ粒子との相互作用の後に生じる細胞の変化について説明している。まとめると、ナノ粒子によるマクロファージへの毒性は、主にナノ粒子の内在化、炎症反応、酸化ストレス、細胞死、及び DNA 損傷によって示される。

 将来的には、研究者は非古典的な毒性メカニズムを調査し、ナノ粒子の生体内マクロファージ毒性をさらに調査する必要がある。


Journal reference:
Niu, Y. and Tang, M. (2022) In vitro review of nanoparticles attacking macrophages: Interaction and cell death. Life Sciences. doi:10.1016/j.lfs.2022.120840

訳注1:マクロファージ
  • マクロファージ(ウィキペディア)
     マクロファージ(Macrophage, MΦ)は白血球の1種。生体内をアメーバ様運動する遊走性の食細胞で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす。とくに、外傷や炎症の際に活発である。また抗原提示細胞でもある。免疫系の一部を担い、免疫機能の中心的役割を担っている。
訳注2:単核貪食細胞系
  • 単核貪食細胞系(Google Arts & Culture)
     免疫学において、細網結合組織の中で食細胞を構成する免疫系の機構であり、単核貪食細胞系 と呼ばれる。日本では、今でもこのシステムを「細網内皮系」 と呼ぶことがある。各血球はそれぞれの機能を果たし老廃した血球などは、主にリンパ節や脾臓などに蓄積している単球やマクロファージといった食細胞の食作用によって破壊される。肝臓のクッパー細胞や組織球は、MPSの一部である。・・・
訳注3:活性酸素種
訳注4:サイトカイン
  • サイトカイン(cytokine)(腸内細菌学界)
     サイトカインとは主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞表面に存在する特異的受容体を介して極めて微量で生理作用を示し、細胞間の情報伝達を担う。ホルモンとの明確な区別はないが、一般的にホルモンのように特定の分泌臓器から産生されるわけではなく、比較的局所で作用することが多い。
訳注5:ミトコンドリア
  • ミトコンドリア - e-ヘルスネット - 厚生労働省
     細胞内に存在する細胞内小器官。ATPの生成やアポトーシス(細胞死)において重要な働きを担っている。
     ミトコンドリアは、細胞内に存在する細胞内小器官であり、1細胞あたり100個から2000個程度含まれます。その構造としては、外膜と内膜の二重の生体膜によって囲まれ、内部が膜間部とマトリクスという空間に分けられています。マトリクス内には、ミトコンドリアDNAが存在しています。
     このミトコンドリアDNAは、わずかではありますが、ミトコンドリアにおけるエネルギー生成に重要な遺伝情報を持っています。
     一方、機能としては細胞内におけるエネルギー(ATP)生成の役割や、アポトーシス(細胞死)に役割を担っています。
訳注6:フェントン反応とヒドロキシルラジカル
  • フェントン反応(光合成事典)
     過酸化水素が,遊離又はタンパク質に結合したFe2+, Cu+ によって還元され,ヒドロキシルラジカル(・OH)を生成する反応。活性酸素種のなかでも特に反応性の高い・OHを生体内で生成する主要反応である。 H2O2 + Fe2+(又はCu+) →・OH + OH- + Fe3+(又はCu2+)
訳注7:細胞死
  • 細胞死 (脳科学辞典)
     細胞が何らかの理由により細胞膜や核などの破綻をきたし、修復不可能となった不可逆的状態が細胞死である。物理的損傷等により一瞬のうちに細胞構造が破壊されるのを「事故的細胞死」とよぶ。一方、細胞内の遺伝的にコードされた分子機構が発動する細胞死は、「制御された細胞死」と呼ぶ。制御された細胞死には、アポトーシス、制御されたネクローシス、オートファジー細胞死等がある。・・・


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