AZoNano 2021年2月4日
プラスチック包装材に埋め込まれた銀は
食品中で有害なナノ粒子を形成する可能性がある

情報源:AZoNano Feb 4 2021
Silver Embedded Plastic Packaging can Form Harmful Nanoparticles in Foods
https://www.azonano.com/news.aspx?newsID=37760

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2021年6月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/210204_AZoNano_
Silver_Embedded_Plastic_Packaging_can_Form_Harmful_Nanoparticles_in_Foods.html


 抗菌包装材は、保存期間を延ばし、食品や飲料の安全性を確保するために作られている。 しかし、銀ナノ粒子のような有害の可能性がある物質が、この種の容器から内容物に浸出することが懸念されている。


溶解した銀を砂糖の入った清涼飲料水に加えると、銀ナノ粒子の大きな凝集体が形成される。
Image Credit: Adapted from ACS Applied Materials & Interfaces 2021, DOI: 10.1021/acsami.0c17867.
 科学者らは、ACS Applied Materials & Interfaces に発表した論文で、抗菌プラスチックに結合された銀が材料から浸出し、食品や飲料、特に甘いものや砂糖の多い食品にナノ粒子を生成させる可能性があると説明している。

 ナノコンポジット、すなわちナノ粒子を含むいくつかのポリマーは、食中毒や内容物の腐敗を引き起こす微生物の成長を遅らせることができる。

 現在アメリカでは、これらのポリマーは飲食物用包装での使用を承認されていないが、科学者らは、将来的に容器包装の素材として使用される可能性のあるナノ粒子の埋め込まれたポリマーを調査している。

 以前の研究は、これらのポリマーのいくつかが、水ベースの食品模擬物質にナノ粒子、イオン、および溶解した化合物を放出する可能性があることを示した。しかし現在まで、そのような包装材が実際の食品や飲料とどのように相互作用するかについては、あまり知られていない。

 必須の食品成分である特定の糖化合物は、銀イオンを有害な可能性のあるナノ粒子に変換するのにより効果的であり、さらに人間が摂取する可能性がある。

 したがって、ティモシー・ダンカンと共同研究者らは、砂糖の入った食品や飲料の複雑な成分が、溶解した銀に直接さらされた時に、及び銀でコーティングされた包装材中に保管された時に、そのようなナノ粒子の形成にどのように影響するかについて知りたいと思った。

 溶解した銀が複雑な食用混合物に蓄積するかどうかを調査するために、チームは、牛乳、ソーダ、ジュース、ヨーグルト、天然および人工甘味料を加えた溶液、でん粉ベースのスラリーなどの液体食品および飲料に銀を添加した。

 混合物を 104°F(40°C)で約 10 日暖め、それによって包装材料での長期保存を模擬した。ナノ構造の検出は ふたつの銀濃度で行われ、ひとつはポリマー接触浸出から予想される濃度で、もうひとつは非現実的な高濃度で行われ、チームは目の助けを借りてナノ粒子形成を追跡することができた。

 脂肪、クエン酸塩、でん粉を含む砂糖の入った液体にナノ粒子が最も多く含まれていたが、酸性の液体は最初は銀の凝集体を形成し、その後溶解した。もう ひとつの実験では、科学者らは 2 種類の砂糖の入った液体と水を、銀を加味したポリエチレン・ポリマーの小さな包みに入れて、104°F(40°C)で 15 日間保存した。

 ポリマー表面から溶解した銀が最初に放出されたが、砂糖入りの溶液だけがさらなる浸出とナノ粒子の形成を持続した。研究チームは、長期保存に典型的な条件下で、抗菌性素材で包装された甘味料入りの食品や飲料から、銀ナノ粒子の食物への曝露が可能であると結論付けた。

 この研究は、米国食品医薬品局とオークリッジ科学教育研究所の資金援助を受けた。

オリジナル論文:
Yang, T., et al. (2021) Food and Beverage Ingredients Induce the Formation of Silver Nanoparticles in Products Stored within Nanotechnology-Enabled Packaging. ACS Applied Materials & Interfaces. doi.org/10.1021/acsami.0c17867.
Center for Food Safety and Applied Nutrition, United States Food and Drug Administration, 6502 South Archer Road, Bedford Park, Illinois 60501, United States


訳注:オリジナル論文のアブストラクト紹介

Food and Beverage Ingredients Induce the Formation of Silver Nanoparticles in Products Stored within Nanotechnology-Enabled Packaging
Tianxi Yang, Teena Paulose, Benjamin W. Redan, James C. Mabon, and Timothy V. Duncan*
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.0c17867

 ナノテクノロジーに基づく包装は食品の品質と安全性を改善する可能性があるが、ポリマー ナノコンポジット (PNC) で製造された包装材は、人工ナノ物質 (ENM) への人間の飲食物暴露の原因となる可能性がある。
 以前の研究では、PNC が主に溶解した状態で食品に ENM を放出することが示されていたが、その研究のほとんどは希酢酸や水などの食品類似物質を使用していたため、実際の食品中の物質がどのように暴露に影響を与えるかについて疑問が残っていた。
 ここでは、甘味料などの還元特性を持つ食品や飲料の成分が、銀ナノテクノロジー対応の包装に接触する食品でナノ粒子の形成を誘発することにより、暴露を変化させる可能性があることを示している。
  12.8±1.4 nm の銀ナノ粒子 (AgNPs) をポリエチレンに組み込み、この材料から製造された包装に還元成分を含む媒体を、高められた室温および冷蔵条件下で保存した。
 浸出液の分析により、還元成分が PNC 包装に接触する食品に移動する銀総量を 7倍も増加させ、保存中にこの溶解銀から AgNPs の (再) 形成を誘発したことが明らかになった。
 AgNP の形成は、Ag+ を天然および人工甘味料 (グルコース、スクロース、アスパルテーム)、市販の飲料 (ソフトドリンク、ジュース、牛乳)、および液体食品 (ヨーグルト、澱粉スラリー) の溶液に導入した場合にも観察された。
 再構成された AgNP の量と形態は、成分の配合、銀濃度、保管条件、および露光に依存した。
 これらの結果は、PNC が包装用途で使用されている場合、食品および飲料の成分が飲食物によるナノ粒子への暴露に影響を与える可能性があることを意味し、実験に食品類似物質を使用するやり方は、場合によっては、これらの材料で保存されている食品に含まれる可能性のある ENM の量を過小評価する可能性がある。



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