フィンランド労働衛生研究所(FIOH) 2013年
カーボンナノチューブの健康影響の評価
サマリー紹介

情報源:Finnish Institute of Occupational Health, Helsinki 2013
Evaluation of the health effects of carbon nanotubes
http://www.tsr.fi/c/document_library/get_file?folderId=13109&name=DLFE-9367.pdf

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年1月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/2013_Dec_FIOH_report_on_MWCNTs.html

サマリー


 カーボンナノチューブは最も重要なナノ物質のひとつであり、その製造と産業用途は急速に成長している。長くて 硬いカーボンナノチューブはアスベストと同様な有害影響を持つと言われてきた。

 このプロジェクトの目的はカーボンナノチューブがどの様に肺炎症(pulmonary inflammation)と繊維症(fibrosis) を誘引するか、及びこれらの現象が悪性腫瘍(malignant tumors)の形成に重要かもしれない遺伝毒性の変異を伴うかどうかを評価することである。加えて、カーボンナノチューブの細胞影響をさらに理解する為に補足的調査が生体外(in vitro)で実施された。

 マウスに、二つのタイプの(針状の、及びもつれた)長い多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)を、咽頭吸引(0-200 μg/mouse)及び4時間又は4日間(4時間/日)の吸入(8 mg/m3)により暴露させた(訳注1)。

 肺における免疫毒性と遺伝毒性の影響を、例えば異なる分子生物学的、組織学的、及び細胞遺伝学的手法と電子・光学顕微鏡を用いて調査した。

 培養されたヒトのマクロファージ−免疫防護の第一線の細胞−(訳注2)を様々なタイプのカーボンナノ物質とクロシドライト・アスベスト(青石綿)に暴露させ、免疫毒性影響を、例えば選択された炎症性サイトカインとケモカイン(訳注3)の発現を評価することにより、及びそれらのあるものを抑制することにより、検証した。

 ヒトの気管支上皮細胞を生体外(in vitro)で多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)に曝露させ、細胞毒性及び遺伝毒性の影響を蛍光顕微鏡(訳注4)により評価した。

 長い針状のMWCNTs はマウス及び培養マクロファージに炎症を引き起こした。肺の中で、この影響は、炎症細胞、あるサイトカイン、及びケモカインの明確な増加として観察された。炎症反応は、クロシドライト・アスベストに見られるより強かった。

 IL-1β(訳注5)及び炎症反応に関連する生体分子複合体(inflammasome complex)が炎症プロセスで中心的な役割を果たしているように見えた。炎症影響のタイプと程度は暴露経路に依存する。針状のMWCNTsは、咽頭吸引によるよりも吸入による方がより明確な炎症を含んでいた。

 吸入されたMWCNTs により引き起こされた炎症は、アレルギー性ぜんそくに非常に似ていたが、それは珍しい発見であった。針状のMWCNTsはまた、咽頭吸引暴露及び吸入暴露の両方の後、肺細胞中にDNA損傷が増加した。吸入実験では明確な遺伝毒性影響が、ほとんどがマクロファージからなる気管支肺胞洗浄細胞(broncho-alveolar lavage cells)の中に見られた。

 MWCNTs の遺伝毒性影響は局所的であり、血液細胞中には変異は観察されなかった。長い針状 MWCNTs は気管支上皮細胞の培養でDNA損傷を引き起こした。長いもつれた MWCNTs はマウスに遺伝毒性はなく、生体外(in vitro) で、DNA損傷のわずかな増加を引き起こしただけであった。

 我々の研究は、長い針状 MWCNTs は有害であるという従来の意見に一致し、以前には報告されていなかった肺の中のぜんそく様炎症やDNA損傷のような影響を示した。

 長い針状 MWCNTs の硬直性は健康影響を決定する中心的な特性である。径が50nm以上の硬い針状 MWCNTs は強い炎症を引き起こし、遺伝毒性があるが、径が小さい(8〜15nm)、もつれた MWCNTs は、そのような影響はもたらさなかった。長い針状 MWCNTs は特別の注意をもって扱われるべきである。


訳注1:aspirationとinhalation
aspiration は吸引、inhalation は吸入と訳したが、その定義/相違は訳者にはよくわからない。

訳注2マクロファージ/Wikipedia
マクロファージ(Macrophage, MΦ)は白血球の1種。生体内をアメーバ様運動する遊走性の食細胞で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす。とくに、外傷や炎症の際に活発である。

訳注3:サイトカインとケモカイン
  • サイトカイン - Wikipedia
    サイトカイン (cytokine) とは、 細胞から放出され、種々の細胞間情報伝達分子となる微量生理活性タンパク質で、通常低分子量(分子量は8万以下、3万以下が多数) で、 糖鎖を持つものが多い。・・・

  • ケモカイン - Wikipedia
    ケモカイン (Chemokine) は、Gタンパク質共役受容体を介してその作用を発現する塩基性タンパク質であり、サイトカインの一群である。白血球などの遊走を引き起こし炎症の形成に関与する。・・・

訳注4:蛍光顕微鏡/Wikipedia
生体または非生体資料からの蛍光・燐光現象を観察することによって、対象を観察する顕微鏡である。反射光や透過光画像と同時に観察することもある。・・・

訳注5:インターロイキンとインターロイキン-1 (IL-1)
  • インターロイキン/Wikipedia
    一群のサイトカインで、白血球(leukocyte から-leukin)によって分泌され、細胞間(inter-)コミュニケーションの機能を果たすものをいう。ILと略される。・・・

  • インターロイキン-1/Wikipedia
    インターロイキン-1 (IL-1) はサイトカインと呼ばれる生理活性物質の一種であるインターロイキンの中でも最初に同定された分子である。炎症反応に深く関与し、炎症性サイトカインと呼ばれるグループに含まれる。・・・
参考記事:
SAFENANO News, 06 Dec 2013 FIOH report provides an evaluation of the adverse effects of multi-walled carbon nanotubes

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化学物質問題市民研究会
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