CHEM EURPPE.com/Empa 2020年6月23日
動物実験を行わないナノ安全性研究
ナノ粒子のリスク分析

情報源:CHEM EURPPE.com/Empa 23-Jun-2020
Nanosafety research without animal experiments
Risk analyses for nanoparticles
https://www.chemeurope.com/en/news/1166810/
nanosafety-research-without-animal-experiments.html


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2020年10月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/200623_
CHEM_EUROPE_Nanosafety_research_without_animal_experiments.html


 研究における動物実験の数を減らすために、代替方法が模索されている。これは、ほとんど研究されていない物質の安全性を確保する場合、たとえば、全く新しいクラスのナノ材料の場合、特に課題である。それを達成するために、Empa (スイス連邦材料試験研究所)の研究者たちは現在、試験管実験と数学的モデルを組み合わせている。

 それらは、たとえば化粧品や繊維産業ですでに使用されている。日焼け止めのナノ粒子は日焼けから私たちを保護し、銀ナノ粒子を含む衣類は細菌の増殖を遅らせる。しかし、これらの小さな成分の使用は、健康と環境への悪影響を排除するという責任にも関連している。ナノ粒子は、サイズが 1〜100ナノメートルであり、排気ガス触媒コンバーター、外壁用塗料、プラスチック、ナノ医療など、幅広い用途を持つが、ナノ材料まだ十分に特性化されていない。ナノ材料は新奇なものであるが、それが人間や環境にリスクをもたらすかどうかはまだ十分に解明されていない。

 ここはリスク分析とライフ・サイクル・アセスメント(LCA)の出番である。これは、毒性を含む新しい物質の有害な影響を判断する際に、動物実験に強く依存していた。今日、可能な限り動物実験を減らし、置き換えるための研究が必要である。過去 30年間で、このアプローチは動物実験、特に毒物学的検査の大幅な減少につながった。しかし、従来の化学物質で得られた経験を、ナノ粒子などの新しい物質に単純に移すことはできない。Empa の科学者たちは現在、新しいアプローチを開発している。これにより、動物実験をさらに大幅に削減できると同時に、ナノ材料の安全な使用が可能になる。

 ”私たちは現在、ナノ粒子のリスクを分析し、ライフ・サイクル・アセスメントを実行するための新しい統合的アプローチを開発している”と、ザンクト・ガレン(St. Gallen)にある Empa の技術社会研究所のベアトリス・サリエリは言う。 ひとつの新しい特徴、及び従来の分析と異なることは、調査対象の物質の作用機序に加えて、人体における粒子の暴露や運命などのさらなるデータが含まれていることである。したがって、より全体的な見方がリスク評価に組み込まれている。

 これらのリスク分析は、たとえば細胞培養を用いた適切なラボ実験を開発するために、ナノ粒子の生化学的特性に基づいている。試験管内テスト(”in vitro”)の結果が人体の状態(in vivo)にも当てはまることを確認するために、研究者らは、例えば参照物質の有害性に依存するコンピュータによる数学モデル(”in silico”)を使用する。 ”銀ナノ粒子と銀イオンなどの2つの物質がまったく同じように作用する場合、ナノ粒子の潜在的な危険性はそれから逆算できる”とサリエリは言う。

 しかし、ナノ粒子に関する実験室での研究を決定的にするには、まず、ナノ粒子の種類ごとに適切なモデル・システムを開発する必要がある。 ”吸入された物質は、ヒトの肺細胞を使った実験で調べる”と、ザンクト・ガレンの「粒子-生物学的相互作用」研究室を率いる Empa の研究者ピーター・ウィックは説明する。一方、腸または肝臓の細胞は、体内の消化をシミュレートするために使用される。

 これは、細胞培養実験におけるナノ粒子の損傷量を決定するだけでなく、形状、サイズ、移動パターン、他の分子への結合(存在する場合)など、リスク分析における全ての生化学的特性も含む。たとえば、細胞培養培地中の遊離銀ナノ粒子は、タンパク質に結合した銀ナノ粒子よりも約100倍毒性がある。このような包括的な実験室分析は、いわゆる動態モデルに組み込まれている。これは、試験管内の状況のスナップ・ショットの代わりに、粒子の作用の完全なプロセスを表すことができる。

 最終的に、複雑なアルゴリズムを使用して、予想される生物学的現象をこれらのデータから計算できるであろう。 ”時々、動物実験を「混ぜる」代わりに、よく知られた物質との比較、実験室分析からの新しいデータ、及び数学モデルに基づいてナノ粒子の潜在的なリスクを判断できる”と、 Empa の研究者マティアス・ロスラインは言う。将来的には、これにより、人体のさまざまなナノ粒子との相互作用や、高齢者やいくつかの病気をもつ特定の患者グループの特性を現実的に表現できるようになるかもしれないと、ロスラインは付け加えている。

 ナノ粒子のこれらの新しいリスク分析の結果として、研究者たちはまた、新しいナノ材料の開発と市場承認を加速することを望んでいる。これらは、Empa がパートナーとして関与している EU の「グラフェンフラッグシップ」イニシアチブのプロジェクトのひとつである「セーフグラフ」プロジェクトにすでに適用されている。 新しい「不思議な材料」グラフェン(訳注1)のリスク分析とライフ・サイクル・アセスメントはまだ不足している。 Empa の研究者は最近、基本的な in vitro 研究で、グラフェン及びグラフェン関連材料の初期安全性分析を実証することができた。 このようにして、Safegraph などのプロジェクトは、グラフェンの潜在的な健康リスクと環境への影響をより適切に特定できると同時に、動物実験の数を減らすことができる。


訳注1:グラフェン関連情報


化学物質問題市民研究会
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