ChemSec 2020年5月5日
ある研究者らは、
ケムセックがカーボンナノチューブ類を
SIN リストに加えたことについて批判したが
それらに対する我々の見解をここに示す

情報源:ChemSec, May 5, 2020
Some researchers have criticised ChemSec
for putting carbon nanotubes on the SIN List;
here's our response
https://chemsec.org/some-researchers-have-criticised-chemsec-
for-putting-carbon-nanotubes-on-the-sin-list-heres-our-response/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2020年5月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/200505_ChemSec_Some_researchers_
have_criticised_ChemSec_for_putting_carbon_nanotubes_on_the_SIN_List.html


 昨年暮れ、 ChemSec は、ナノ物質は非常に高い懸念のある物質(Substances of Very High Concern (SVHCs))と特定されるべきことを示唆して、カーボンナノチューブ類を SIN リストに初めて加えた。

 この動きの背景にある我々の方法論を科学誌”Nature Nanotechnology”で述べた後、二つの批判的な意見記事と、ひとつの論説が同誌の次号に掲載された。

 論説のタイトル”ナノ物質のリスク評価のリスク”それ自身が、その批判が誤解に基づいていることを明らかにしており、それは自身を防御するために、一般的でしばしばみられる誤解である。

  REACH 候補リストの青写真の様な SIN リストは、もっぱら固有の特性(訳注:ハザード)だけに基づいて物質をリストしている。それはハザード・ベースであり、したがってリスク評価は実施されない。

 固有の特性に基づき化学物質を特定することから始まるハザード・ベースに基づくシステムは、 ChemSec 及びその他の多くの利害関係者らが現代的で進歩的な化学物質管理の枠組であると考えている。

 その基本的な考えは、 SVHCs は非常に有害であると定義されているので、可能な限り代替されるべき物質である。

 しかし、特定の重要な用途について、代替が利用可能となるまで、それらの継続的な使用が正当化されるかもしれない。したがって、そのような使用が最小となることを確実にするために、徹底的なリスク評価が実施されることが、このいわゆる認可プロセス(authorisation process)の間の緊急の優先事項である。(ケムセックは、化学物質管理におけるハザードとリスクの関係について、過去に大々的に書いている。例えばここをクリック

 またSIN リスト上で、全てのカーボンナノチューブ類をひとつの登録項目とする我々の決定に関して重要なコメントがあった。

 カーボンナノチューブ類には多くの種類がある。それらは、単層、二層、多層、長、短、縺れ(もつれ)などである。規制上の観点から、何がひとつのナノ物質かを特性化し同定することは非常に難しい。ハザード特性の研究は、ひとつの特定の形状、おそらくは特定の製造バッチからのものについて実施されている。我々は、他の形状について何か言うために、そのデータを使用することができるのか?

  SIN リストに追加するためにひとつの重要な理由となる発がん性の場合には、発がん性の証拠が多層カーボンナノチューブのある形状について存在する。しかし、これに加えて、多くの他の形状について肺炎症(lung inflammation)や他のメカニズムに関連したがんの証拠が存在する。

 視点を変えても、我々は疑わしい発がん性物質からどのような形状をも除外する合理的な理由を見つけることはできない。環境中での残留性は全ての形状について共通であるように見えるが、生殖毒性は主に単層カーボンナノチューブに見られる。

 物質毎の規制からグループ・アプローチの規制に移行する必要性を認める強い政治的傾向がある。約 5,000 物質を含む PFAS (パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)に最近の事例がある。現状は、それらのひとつの規制が他の PFAS の使用の増大をもたらす。我々はカーボンナノチューブの異なる形状について同じ道をたどることを望まない。

 そして全てのカーボンナノチューブをひとつの登録項目とすることは、非常に現実的であることを示す事実がある。カーボンナノチューブの大規模な工業的製造と使用において、我々は特定のひとつのカーボンナノチューブのタイプに 100%純化された製品を見ることはほとんどない。常に混合物である。

 また、 SIN リストにカーボンナノチューブを加えることにより、カーボンナノチューブの製造と使用がもっとはっきり限定され、より安全となることができるよう、そして、それらは必要なときにのみ、そして適切なリスク評価の後にのみ、使用されることができるよう、精査するのに役立つことを我々は望む。この観点から、我々は SIN リストに加えることがナノテクノロジーの革新に拍車をかけるに違いないと確信している。

 あなたは、 Nature Nanotechnology に掲載されたこの批判に対する同じジャーナルでの我々の全面的な反論をここで読むことができる。それは、カーボンナノチューブの SIN リストへの追加のために科学的作業を取りまとめたデンマーク工科大学(DTU)の准教授ステファン・フォス・ハンセンとの共著である。



化学物質問題市民研究会
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