IISD 2020年4月16日
ナノ銀はどのようにして我々の淡水に入り込むのか、
そして我々はそれについて何をする必要があるのか

情報源:International Institute for Sustainable Development
IISD, 16 April 2020
How Nanosilver Gets Into Our Freshwater,
and What We Need To Do About It
https://sdg.iisd.org/commentary/guest-articles/how-nanosilver-
gets-into-our-freshwater-and-what-we-need-to-do-about-it/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2021年2月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/200416_IISD_How_Nanosilver_
Gets_Into_Our_Freshwater_and_What_We_Need_To_Do_About_It.html


本記事の要約
  • その広範な使用と実験室での研究の結果にもかかわらず、ナノ銀が湖に入り込んだ場合、それが環境に与える影響を完全には理解していない。
  • IISD 実験湖地域は、銀が魚の組織、特に肝臓とと鰓(えら)、に生体内蓄積していることを発見した。これは食物摂取と呼吸の両方に毒性を及ぼすことを示唆している。
  • 政府が消費者製品中のナノ銀に対して措置をとるのを待つ間、衣料品中や素材中のナノ銀の膨大でますます拡大する範囲は、環境によい/持続可能な/スローファッション運動を受け入れる消費者によって対処可能である。
 応急包帯措置では、淡水科学研究とその結果としての政策提言に欠ける。これは、環境問題は複雑であり、多重尺度で発生し、複数のパラメーターと当事者が関与するためである。

 我々は、これらの複雑な環境問題を、実際の湖で生態系全体の実験を行うことができる唯一の場所、カナダのオンタリオ州北西部にある IISD 実験湖地域(IISD-ELA)で研究している。そこにある、小さなシールド湖(北緯49度41分46.6秒、西経93度43分22.2秒)で、淡水と魚に対するナノ銀の添加の影響について、いくつかのユニークな調査を実施した。ここでは、ナノ銀とは何か、それが水生生態系にどのように入り込むのか、我々の研究が何を発見したのか、そして将来我々の湖を保護するために何をする必要があると我々が考えるのかを説明する。

ナノ銀とは何か?

 淡水の問題に対する応急包帯の解決策はない。しかし、応急包帯にはナノ・サイズの銀の粒子が存在し、それらが不注意で複雑な環境問題を引き起こしている。「ナノ銀」とは、バクテリアや微生物に対して本質的に毒性があり、したがって優れた抗菌性を持つ、サイズが1〜100ナノメートルの銀の粒子を指す。その結果、ナノ銀は 440以上の消費者製品に広く適用され、医療および農業で使用されている。

 我々は、下着、靴下、運動器具、タオル、寝具の着用と洗浄、及び身体手入れ用品(シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、洗顔料、歯磨き粉、デオドラントなど)の使用を通じて、毎日廃水にナノ銀を排出している。包帯から洗濯機まで、あらゆるものにナノ銀が含まれている。

ナノ銀は淡水にどのような影響を及ぼすか?

 その広範な使用と実験室での研究の結果にもかかわらず、ナノ銀が湖に入り込んだ場合、それが環境に与える影響を完全にはわかっていないされていない。

 カナダでは銀は規制されているが、ナノ銀の使用の増加と普及、及びその後の水界生態系(aquatic ecosystems)への放出は現在規制されておらず、消費者にはほとんど知られておらず、認識されておらず、聞いたこともない。

生態系への影響をどのように測定したか?

 研究者らは、バクテリアを殺すナノ銀が水界生態系の健康と動態にどのような影響を与えるかを知りたいと考えて、凍結していない季節に淡水に懸濁したナノ銀を環境相当分(62.5グラム/日)継続的に添加した。湖全体へのこれらの添加は、2年間(2014年と2015年)にわたって行われ、研究者は、ナノ銀の添加前、添加中、添加後に湖を調査し、この新たな汚染物質の運命と影響を調査した。

 研究者らは、ナノ銀が最初の添加直後に湖全体と水柱(訳注:水柱は、海、川、または湖の表面から底質への水の概念的な柱。)全体に広がっていることを発見した。湖に加えられたナノ銀の約半分は、毎日堆積物に沈殿した。この沈下と沈降にもかかわらず、ナノ銀は堆積物にしっかりと結合せず、毎年春に氷が溶けた後、水柱に再導入された。

 これらのナノ銀添加の結果は、食物連鎖の各レベル(訳注:食物網で占める位置)で混合された。細菌、藻類、動物プランクトン、底生無脊椎動物などの栄養レベルの低い生物は、短期的な影響はほとんどなく、ナノ銀の添加による影響はほとんどなかったが、魚の種では細胞、個体、及び個体群で有意な長期的な結果が観察された。

ナノ銀は魚にどのような影響を与えるか?

 銀が魚の組織、特に肝臓と鰓(えら)に生体内蓄積していることを発見した。これは食物摂取と呼吸の両方に毒性を及ぼすことを示唆している。イエローパーチ(訳注:体が黄色いパーチ類の魚、魚体重約 1kg 体長約 20cm)の摂食量と総代謝は、ナノ銀の添加中に低下し、湖全体の回復まで低いままであった。生態系規模では、パーチによる摂食量はナノ銀の添加中に減少し、湖が回復するまで抑制されたままであり、パーチの個体数は減少した。パーチ及びその捕食者であるノーザンパイク(パイク)(訳注:魚体重約 16kg, 体長約 130cm)の両方が、餌源を沿岸から沖合の獲物に移し、パイクは発育阻害をおこしたた。研究者が湖へのナノ銀の添加をやめた 4年後の 2015年にもパイクは組織に銀を持っていた。

これは、世界中のナノ銀の使用にとって何を意味するか?

 実際の環境に相当(environmentally relevant)するナノ銀の添加からわずか2か月後の魚への短期的な影響、及びナノ銀の添加が停止した後でも長期的な影響の証拠がある。

 2年後に湖へのナノ銀の添加を停止したことを記憶にとどめておくことが重要である。これは、ナノ銀が多くの場所でこれまで以上に大量に水界生態系に侵入し続ける自然環境とは異なる。

 向こうで行われた研究(IISD-ELA)は、ここ(オンライン)に要約されている。我々は、生態系全体の科学を、近距離から遠距離に及ぶ淡水問題に対処するための政策に変換するために取り組んでいる。 我々の研究は、消費者製品でのナノ銀の使用と世界中の淡水生態系の健康に影響を及ぼす。

世界中の政府はどのように行動すべきか?

 現在、環境へのナノ銀の放出を監視及び管理する責任は、各国政府に強くかかっている。現在のところ、欧州連合は健康への影響が不明な物質を含む製品を市場に出す際に予防原則に向かう傾向があるが、米国は影響が不明な製品の市場参入を許可する傾向がある。

 ナノ銀の規制に関しては、より予防的な道を取ることを勧める。

 たとえば、カナダ(IISD-ELAが所在する国)では、連邦政府は、銀を規制する際にナノ銀を規制するために、水生生態系のナノ銀の継続的で改善された監視とナノ製品の一貫した登録および報告を求めつつ、水生生物の保護に関するカナダの水質ガイドラインを改訂する必要がある。

 環境内にナノ銀に対する応急措置(包帯の解決策)はないが、ナノ銀を含む包帯やその他の消費者製品の義務的なラベル付けは、手始めに適している。ナノ銀を使用するメーカーのアクセス可能で包括的なリストと、ナノ銀を含む製品のラベル付け基準があると、消費者が環境でのナノ銀の使用と放出について情報に基づいた選択を行うのに役立つ。

そして、消費者はどうか?

 政府が消費者製品中のナノ銀に対して措置をとるのを待つ間、衣料品中や素材中のナノ銀の膨大でますます拡大する範囲は、環境によい/持続可能な/スローファッション運動を受け入れる消費者によって対処可能である。

 購入する新しい(ナノ銀処理の)衣類の量を減らし、持続可能な倫理的なブランドを研究し、衣類をリサイクルすることで、湖の魚だけでなく、社会的および環境的基準を改善する持続可能な変化を地球規模で起こすことができる。 情報に基づいた予防的な取り組みにより、この新たな汚染物質の問題を地球規模で修復するために必要な(ナノ銀を使用しない)包帯のサイズを縮小できる。

あとがき

 この記事は、IISD 実験湖地域(ELA)の水産研究生物学者であるローレン・ヘイハーストによって執筆された。

 この全生態系ナノ銀研究に参加した研究者には、トレント大学、レイクヘッド大学、及び国立デラレシェルシュ科学研究所の大学院生と主任研究者が含まれている。研究インターンシップは、マニトバ大学が調整した NSERC CREATEプログラム(CREATE H2O)のサポートを通じて提供された。湖全体の追加プロジェクトの資金は、カナダ自然科学工学研究評議会から、戦略的助成プログラム、およびカナダ環境気候変動省からのマッチング助成金を通じて提供された。 IISD-ELA はプロジェクトに現物でのサポートを提供し、バイオマーカー分析のサポートはカナダ水産海洋省の国立汚染物質諮問グループによって提供された。水銀、エネルギー密度分析、および生体エネルギーモデリングは、カナダイノベーション財団、NSERC ディスカバリー、および IISD-ELA と Mitacs Accelerate Program からのサポートによって資金提供されたインフラストラクチャによってサポートされた。

 IISD 実験湖地域(IISD-ELA )は世界の淡水研究所である。カナダのオンタリオ州北西部にある一連の 58の湖とその流域からなる IISD-ELA は、科学者が実際の湖を調査および操作して、人間の活動が淡水湖に対して行っていることをより正確かつ完全に把握できる世界で唯一の場所である。 50年以上にわたる画期的な研究の結果、アオコの緩和から水路への水銀の流入量の削減まで、世界中の環境政策が書き直され、次世代のために世界中の淡水をきれいに保つことを目指している。詳細については、https://www.iisd.org/ela をご覧ください。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る