The Conversation 2019年1月10日
ナノ物質は世界を変えている
しかし我々はまだそれらのための
適切な安全テスト手法を持っていない

シャリーン・ドーク他
情報源:The Conversation, January 10, 2019
Nanomaterials are changing the world - but we still don't have adequate safety tests for them
By Shareen Doak, Professor of Genotoxicology and Cancer, Swansea University,
Martina G. Vijver, Professor of Ecotoxicology, Leiden University, and
Martin Clift, Senior Lecturer, Swansea University
http://theconversation.com/nanomaterials-are-changing-the-world-
but-we-still-dont-have-adequate-safety-tests-for-them-101748


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2019年2月2日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/190110_The_Conversation_Nanomaterials_are_
changing_the_world_but_we_still_do_not_have_adequate_safety_tests_for_them.html


 ナノテクノロジーは近年の産業の中で最もよく語られた分野のひとつかもしれない。2025年までに世界で 1,739.5億ドル(約19兆1,345億円)と予測されるこの速い動きの分野は、社会に対して、持続可能、健康及び福祉の重要な利益をすでにもたらしている



 ナノ物質はその名が示すように、非常に小さく、そのサイズは 1メートルの100万分の1以下である。それらは独自の物理的及び化学的特徴を持っており、それらがより高い反応性、強度、電気的特性及び機能性のような改善された特性をもたらす。これらの利点は広範な消費者製品に導入されているナノ物質によってもたらされている。自動車、コンピューター、電子機器、化粧品、スポーツ、及び健康介護などの関連産業はすべて、ナノテクノロジー革新から便益を得ている。病気を治療するための我々の将来の能力を劇的に改善することを目指すナノ医療のような新たな分野もまた出現している。

 他の全ての革新と同様にナノテクノロジーは、わくわくするように聞こえるが、我々は人間の健康と環境への影響が考慮されることを確実にしなくてはならない。そしてそのことは簡単なことではない。化学物質のような標準的なハザード評価は広範囲に入手できるが、ナノ物質は独自の特性をもっているので、全く同じ方法で評価することはできない。

環境健康と人間

 ナノ物質は低レベルではあるが、すでに我々の環境中に入り込んでいる。それらは、練り歯磨き日やけ用ローションのような製品に由来する排水の、またナノ銀ソックス(防臭用)の洗濯に由来する排水の処理施設中に見いだされている。短期間の環境安全調査もまた、藻やミジンコの表皮のような生物の表面に多くのナノ物質を吸着していることを見つけている。ナノ物質はまた、吸着と小さな生物の体を通じて広く分布している。

 広く環境中に拡散する前にナノ物質の潜在的な有害影響を理解することが極めて重要である。現在、ナノ物質の生態系への暴露の長期的影響はほとんどわかっていない。またナノ物質の食物連鎖への影響についても我々は知らない。それらは様々な生物種の行動や生存とともに摂食率にも影響を及ぼすことがあり得る。

 我々はまた、ナノ物質に少用量で長期間にわたり暴露した時に、それがどのように人間に影響を及ぼすのかについて十分には知っていない。人間にとって最も重要な曝露経路は、肺、腸、及び皮膚である。ナノ物質は、食品包装の中に組み込まれており、製造中に作業者がそれらを吸入又は飲み込むかもしれない。ナノ物質がいったん体内に入りこむと、それらは肝臓中に捕捉されることがテストにより示されているが、それらが長期的に及ぼすリスクについて知られていない。

 現在の、人の肺、腸、及び皮膚の暴露のための標準的な非動物安全性テストは非常に単純である。例えばナノ物質吸入の生物学的影響を決定するために、科学者らは単一の肺細胞システムを実験室で育て、液体中に懸濁させたナノ物質に暴露させる。しかし、人間の肺の中には 40種以上の異なる細胞のタイプがある。これらのテストではナノ物質暴露に関連する潜在的な害を正確に予測することはできない。また人間の体の複雑性又は我々がナノ物質に遭遇する仕方を正確に再現することはできない。

次の世代

 世界はすでに、”新たな革新”により生じた問題を経験している。アスベスト(数千年間使用されていたにもかかわらず、1900年代になってようやく疾病の源であることが発見された)、遺伝子組み換え食品の議論ある開発、そして今話題のマイクロプラスチック危機などの世界の経験があるのだから、ナノテクノロジーの進歩は同様な健康危機をもたらさないということが絶対に必要である。

 我々の研究チームは現在、Horizon 2020 の資金に基づくプロジェクトである PATROLS を通じて、ナノテクノロジーのテストを改善するために働いている。ナノ安全性、生体毒性、生体組織工学、及びコンピュータモデルの主導的な国際的専門家を世界中から招聘して、我々は国際的なテスト手法を構築し、現在のテスト手法の限界に目を向けることを目的としている。

 我々はすでに、ナノ物質安全性評価のための肺、腸、及び肝臓の高度な組織モデルを開発するために最先端の科学を採用している。我々は、食物連鎖に於ける位置づけに従い、環境的に関連のあるテスト体系と有機体(藻、ミジンコ、及びメダカを含む)のための安全性評価手法に関して活動している。これら次世代の非動物テストは、ナノテクノロジー産業の責任ある解発を推進しつつ、動物テストへの依存を低減することもまた目指している。

 さらに、我々はコンピュータモデルに基づき、人間と環境のナノ物質安全性を予測する方法を創造しようとしている。これは、新たなナノ物質について、更なるテストが実施される前の初期の安全性チェックとして、コンピュータ・データベースを利用するスクリーニングを可能とする。

 ナノテクノロジーのための非動物テストを改善することにより、我々は、起こり得る健康及び安全リスクから消費者、作業者、及び環境を保護することができる。ナノテクノロジーはすでに我々の生活を強化することができることを示しており、それらの安全性に関する理解を向上させることにより、我々はこの新たな技術が提供する便益をもっと自信をもって享受することができる。



化学物質問題市民研究会
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