Horizon (訳注1)2017年8月28日
環境への影響を制限するために
ナノ物質を追跡する

情報源:Horizon, 28 August 2017
Nanomaterial tracking to limit impacts on the environment
https://horizon-magazine.eu/article/nanomaterial-tracking
-limit-impacts-environment_en.html


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2017年9月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/
170828_Horizon_Nano_tracking_to_limit_impacts_on_the_environment.html

 新たに出現しているナノ物質製品への環境的暴露を追跡することにより、潜在的に有害な化学物質による我々の土壌と水の汚染を防止することができる。

 安全な日焼け止めクリーム、エネルギー貯蔵プラスチック、こびりつかない表面、高機能肥料、制汗衣料など、小さな原子の一団の特定の特性を利用するナノテクノロジーの進展は多くの新たな製品をもたらしている。しかし、これらのナノ物質が環境中に入り込んだ時に何が起きるのかについて、あまり知られていない。

 ”現時点における主な環境的関心事は、ナノ農薬やナノ肥料に接触する植物や微生物に生じる直接的暴露のどのような影響をも理解することである”と、イギリスの生態・水文学 NERC センターの生態学者、クラウス・スヴェンセン博士は述べた。

 ”現在のところ、欧州の研究プロジェクトに導入されているリスク評価に目を引くようなリスクはないが、それらのあるものは、リスクの余地があり得るとして、評価のためのもっと多くのデータが求められ始めている”。

 スヴェンセン博士は、現状のリスク評価は主に、最悪のシナリオへのアプローチであるナノ物質の製造時の形態を見ているが、それはしばしば、環境汚染という観点からは妥当ではないと付け加えている。

 ”ナノ物質が、当初の製品に見られる形態そのままで環境中に存在するということは非常に稀であり、そのことは認可のために使用されるハザード・データは、それらのライフサイクル中の環境という段階を理解するうえで、必ずしも適切ではないことを意味する”と、スヴェンセン博士は述べた。彼は、工業ナノ物質の製造からそれらの最終到着場所までの環境的運命を追跡するEU資金提供の NanoFASE プロジェクトのプロジェクト・コーディネータでもある。

”産業側だけでは答えられない非常に難しい疑問があり、それはまだ科学的研究の下にある。”
(ピーター・ファン・ブルクハイゼン博士、NanoDiode プロジェクト・コーディネータ)

 例えば、ナノ物質を含む塗料は自浄性があり、Wi-Fi をブロックし、又は熱エネルギーを吸収するが、環境に暴露し、環境中に放出されてから数か月、又は数年経過してから、どのような変化が生じるのかについての疑問に対する答えはない。

 NanoFASE は、ナノ物質がそのライフサイクルの間にどこにたどり着き、どのように変化するのかについての理解を深めることを希望している。彼らの研究は、より安全な製品の設計に役立ち、将来のナノ物質規制を支えるであろう。

 土壌中のナノ物質沈着のテストはもちろん、NanoFASE の研究者らは、スイス連邦水圏科学技術研究所(EAWAG)に彼ら自身のパイロット・プラント(例えば、排水処理プラント、下水汚泥焼却炉)を建設し、改造している。

 スヴェンセン博士はその理由を、水処理プラントは環境に通じる道として機能しており、パイロット・プラントで何が起きるのかに加えて、そこから出る汚泥と廃水が水系や土壌にたどり着いたときに、これらの物質の形態に重要な識見を提供することができると述べている。

 ”ナノ粒子の有用な特性の多くは、その高い反応性に由来する。したがって、それらが排水処理プロセスにたどり着いては変換されると、その反応性を急速に失う”と、スヴェンセン博士は言う。

 ”我々の協力者”である EAWAG のラルフ・ケーギ博士は、パイロット・プラントを利用して、48時間、あるいはそれ以上稼働する実際の汚泥処理プラントにおける反応プロセスを模擬し、しばしば最初の5分間で起たナノ物質の変換プロセスを発見した”。

 このことは、ナノ物質が製造時の形態で環境中に入り込むことは稀であるかもしれないことを意味し、スヴェンセン博士によれば、製品のためのもっと現実的なリスク評価をもたらすのに役立つかもしれない。

 我々は、一般的に、放出、廃棄物処理、及び環境自身中での経年変化と変換プロセスがナノ物質の有害性を低減するという証拠を見ている”と彼は述べた。

 しかし NanoFASE は、潜在的に有害なナノ物質の形態を含有する廃棄物の流れに暴露した時に、ある生物に生じたより大きな摂取又は影響をよりよく理解するための実験を実施するであろう。

 現状では放出されるナノ物質の量は非常に少ないので、環境的暴露は懸念になりそうもないと、スヴェンセン博士はいう。しかし、ナノ物質の使用が増大するにつれ、粒子がたどり着く場所、その物理的状態、そしてその量を知ることは潜在的なリスクを防ぐのに役立てであろう。

ナノ産業

 あるナノ物質の毒性は一般的に、暴露の影響より、より多く理解されている。しかし、ナノ物質を責任をもって管理するための計画を開発したEU資金支援の NanoDiode プロジェクトのコーディネータであるピーター・ファン・ブルクハイゼン博士によれば、新たなナノ製品のリスク評価は、産業によって導入されようとしているものの実際の必要性よりはるかに遅れている。

 ”産業は、新製品へのナノ物質の導入は非常に注意深く行うよう忠告されているが、他方、彼らはまた、できるだけ迅速にそれらを開発するよう”促されている”と、彼は述べた。

 ナノ物質の毒性の研究は 2000年代の初頭になって、初めて真剣に開始されたが、ナノ物質のための世界市場はすでに200億ユーロ(約2兆6,000億円)になると見積もられており、それは科学より速く成長している。

 この矛盾の中で、ファン・ブルクハイゼン博士は、産業は複雑なナノ物質の特性のために、よりよいリスク評価を行うことができないのだから、彼らを批判することは公平ではないが、同時に均衡のとれた毒性の把握なしにナノ物質を管理できない放出を許すことも公平ではないと付け加える。

 ”産業側だけでは答えられない非常に難しい疑問があり、それはまだ科学的研究の下にある”と彼は述べた。”しかし、産業はナノ物質の求められる毒性データを生成し、運用及び製品設計に予防的アプローチを導入すべき重大な義務がある”。

 潜在的な環境汚染はもちろん、ナノ物質の増大する使用はまた、より多くの労働者と消費者がナノ物質に暴露するであろうことを意味する。もし吸入されるとあるナノ物質は呼吸器系と心血管系にダメージを与える可能性がある。

 NanoDiode は、ビジネスがナノ物質を取り扱う彼らの作業者の潜在的な危険を回避することを支援するためのリスク評価手順を開発し、職場及び一般的に産業でナノ物質のより安全な使用を促進するためのいくつかの報告書を作成した。

 ファン・ブルクハイゼン博士は、この新たに出現している分野にとって重要なこの時に、全産業分野を再評価しようと試みたと言う。

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訳注1:Horizon
  • Horizon 2020とは/NCP (National Contact Point) Japan
    ・・・Horizon 2020は全欧州規模で実施される、最大規模の研究及び革新的開発を促進するためのフレームワークプログラムです。
     2014年より2020年までの7年間にわたり、約800億ユーロ(約11兆円)の公的資金が提供されます。優れた研究の着想を市場化につなげ、より多くの飛躍的進歩、発見をもたらし、また世界で初めての成果を得ることが期待されています・・・

  • ホライズン2020
    • 800億ユーロ(11兆円)規模の研究イノベーション計画(2014年〜2020年)
    • 経済危機への対応策(成長と雇用を促進する)
    • 人々の生活、安全や環境に関する課題に取り組む
    • 研究とイノベーションのカップリング:研究所から市場へ



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