シドニー工科大学(UTS)ニュースルーム 2017年3月31日
殺菌用ナノ銀の濫用は耐性リスクをもたらす
フィオナ・マッギル

情報源:University of Technology, Sydney (UTS) Newsroom March 31, 2017
Rampant use of antibacterial nanosilver is a resistance risk
Fiona McGill
http://newsroom.uts.edu.au/content/rampant-use-antibacterial-nanosilver-resistance-risk

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年4月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/
170331_UTS_Rampant_use_of_antibacterial_nanosilver_is_a_resistance_risk.html

要約
・銀ナノ粒子は、低濃度での殺菌能力、そして一部には安全性についての不正確な認識のために、医療品及び消費者用品中で広く使用される様になってきた。
・ナノ銀の殺菌信頼性を維持するために、もっと賢明なアプローチと目標を定めた調査が緊急に求められる。


 ナノ銀の多様な殺菌効果は、医療用品および消費者用品中でのナノ銀使用の普及と不適切な使用の拡大により、リスクを招いていると、シドニー工科大学の研究者らが警告している。

 銀ナノ粒子は、その殺菌効果、さらには一般用品は微生物から”清潔”に保たれているべきであるという誤った憶説のために、創傷被覆材やカテーテル(訳注:医療用に用いられる中空の柔らかい管)のような医療用品中での使用はもちろん、歯ブラシ、歯磨き、ほ乳瓶、乳首、寝具、衣類、及び家庭用電気器具を含んで、多様な日用品中にも広く存在するようになっている。

 シドニー工科大学(UTS)アイ・スリー研究所のナノ生物学者であり、この調査の主研究者であるシンディ・グナワン博士は、人間の体内と環境中のいたる所で微生物のナノ銀への耐性が生じるであろうという現実の脅威があるので、ナノ銀使用の商業化に警告がなされるべきであると述べた。

 グナワン博士とアイ・スリー研究所のリッツ・ハリー教授は、ニューサウスウェールズ大学(UNSW)と海外の研究者らと協力して、創傷被覆材、気管及び尿道カテーテル、並びに免疫力を増進でさせるための喉や鼻からのスプレーで摂取する補助食品を含んで、商業的に入手可能な140以上の医療用品を調査した。

 ACS Nano 誌に掲載された総説論文(perspective article)は、これらの医療用品中のナノ銀の使用は、人の体内で生理活性(訳注1)な銀への長期的な暴露をもたらすと結論付けた。そのような暴露は微生物の耐性が高まる状況を生み出す。

 殺菌剤としての銀の使用は数世紀も前にさかのぼる。人間の細胞への毒性は低いが病原体は殺すという能力のために、銀は、例えば火傷の治療や純水化などに広く採用された。もっと最近では、超微小(1ミリメートルの1万分の1以下)の銀ナノ粒子が、殺菌を目的に設計されている。それらの商業的魅力は、”バルク”の銀より低濃度で優れた能力を示すことにある。

 ”ナノ銀は立証されている殺菌剤であるが、その信頼性は人々の細菌に対する恐れを商業化することにより危険にさらされている”とグナワン博士は述べた。

 ”我々のナノ銀使用は、抗生物質の使用へのアプローチに求められるものと同じように、もっと慎重であることが求められる。ナノ銀は有用なツールであるが、我々はもっと注意深く、賢く、そして便益がリスクを上回るときにだけ、それを使用しなくてはならない”。

 ”人々は、いかに広範囲にナノ銀が使用されているかについて知らされる必要があるが、もっと重要なことは、ナノ銀の存在が殺菌剤耐性を引き起こすことを彼らが知らされることである”。  さらに、どの様な耐性の発生をも監視するための目標を据えた調査戦略もまた必要であるとグナワン博士は述べた。

 ハリー教授は、この研究結果は世界の殺菌剤耐性の危機に対応することに重要な貢献をもたらすと述べた。

 ”この研究は、特に通常の家庭用品と消費者製品中の殺菌剤としての不適切なナノ銀の使用によって我々の健康と環境に及ぼされる脅威を強調するものである”と、彼女は述べた。

■ACS Nano 誌に掲載された総説論文(perspective article)
The article Widespread and Indiscriminate Nanosilver Use: Genuine Potential for Microbial Resistance


訳注1:生理活性(bioactivity)
生理活性/ウィキペディア
 生体内化学物質が生体の特定の生理的調節機能に対して作用する性質のこと



化学物質問題市民研究会
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