TAZoNano 2017年3月2日
ペグ化されたナノ物質は望ましくない
免疫応答を引き出すかもしれない


情報源:AZoNano, March 2, 2017
PEGylated Nanomaterials may Elicit Undesired Immune Responses
By Emily Nordvang
http://www.azonano.com/article.aspx?ArticleID=4414

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2017年4月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/
170302_PEGylated_Nanomaterials_may_Elicit_Undesired_Immune_Responses.html


 近年、ナノ物質は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)訳注1)、バイオセンサー訳注2)、ナノイメージング訳注3)、ティッシュエンジニアリング訳注4など、様々な生物医学の応用に利用されている。体内に残留し、選択された機能を完了するために、生物医学の応用に採用されるナノ物質は、体内での安定性、及び生体システムとの親和性が実証されなくてはならない。

 生物医学の応用に採用されるナノ物質はしばしば、特定の表面特性をもつよう設計される。しかし生体システムでは、ナノ物質はしばしば、タンパク質や脂質のような生体分子に覆われ、’コロナ’として知られる層構造を形成する(訳注5)。コロナはナノ物質の特性に干渉し、細胞がどのようにそのナノ物質を’解釈する’かに影響を及ぼし、それによって、体の生理学的応答に影響を与える。

 生体的コロナの形成を防ぎ、ナノ物質に対するもっと制御可能な応答を達成するために、生物医学用のナノ粒子、ミセル、リポソ−ム、及びポリマーのようなナノ物質を汚染していない層(non-fouling layer)でコーティング(表面処理)することが一般的である。そのような層は、典型的にはポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール、又はポリグリセリンからなる。’不動態化’表面を生成するためのナノ物質コーティングには、ナノ物質を ’見えなくし(invisible)’、その結果マクロファージ(訳注6)による取り込みの低減をもたらし、かくして免疫応答を妨げ、体内におけるナノ物質の循環半減期を増加させることが意図されている。

 新たな研究が、表面不動態化された二次元酸化ナノグラフェン(nGO)を生成することを試みている国際的な研究者のグループが、ペグ化された(PEGで表面処理された)nGO (nGO-PEG)が望ましくないマクロファージ応答を引き出し、以前に考えられていたようにペグ化がナノ物質を ’見えなくする’ ということはしないかもしれないことを、発見したと報告した。

 同研究チームは、マクロファージに nGO-PEG を暴露させ、共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞の応答を観察した。以前の調査と同じように、同チームは PEG で表面処理された nGO は、処理されていない nGO に比べてマクロファージによる取り込みが低減することを発見した。

 しかし、予想とは逆に、 nGO-PEG に暴露したマクロファージは、処理されていない nGO に暴露したマクロファージに比べてサイトカイン(訳注7)の生成が著しく高いことを示した。サイトカインは細胞間のコミュニケーションを可能にするタンパク質であり、それらの分泌はマクロファージが ’活性化された(activated)’ ことを示し、さらなる免疫応答の可能性を示唆する。さらに、 nGO-PEG の存在は、マクロファージの移動増加をもたらし、それらの ’活性化’ を確認するものである。

 nGO-PEG の存在下におけるマクロファージの活性は、計算的に調査され、それはマクロファージの細胞膜上の nGO-PEG の吸収によるものであり、信号伝達を引き起こし、サイトカイン分泌をもたらした。

 他のナノ物質に比べて二次元構造の nGO は nGO-PEG の細胞結合のための利用可能な表面積を増加させ、そのことは増加する免疫応答を説明するかもしれない。nGO-PEG はマクロファージ細胞膜に結合するが、それらは細胞を損傷しない。 nGO-PEG に暴露した細胞は高い生命力を保持し、マクロファージに取り込まれ、かなりの細胞核ダメージをもたらす処理されていない nGO に暴露した細胞より多くのサイトカインを生成することができた。

  PEG を利用する表面不活性化は、ナノ粒子の安定性と生体親和性を改善し、また免疫応答をしないようにする と広く考えられている。 nGO-PEG ナノ物質は安定で生体親和性があったが、それらはマクロファージを活性化し、サイトカインの著しい放出を引き起こした。生体での調査は、nGO-PEG.により引き起こされる炎症又は免疫反応の尺度を決定することが求められる。免疫反応は nGO-PEG の高い表面積に帰したので、同じ効果が全ての二次元ナノ物質に生じ、それによって、それらの生物医学での応用を制限するかも知れない。

 この研究の意図しない楽観的な結果は、二次元 nGO-PEG が、内部取り込み又はマクロファージの損傷なしにマクロファージを活性化したので、それらは免疫系の刺激が必要な応用に適するかもしれないということである。 かくして、nGO-PEG によって誘発された標的サイトカイン分泌は、将来の免疫療法の可能性を示しているかもしれない。

出典:
Luo N., Weber J.K., Wang S., Luan B., Yue H., Xi X., Du J., Yang Z., Wei W., Zhou R., Ma G., Nature Communications, 2017, 8, 14537.
http://www.nature.com/articles/ncomms14537


訳注1:ドラッグデリバリーシステム(DDS)関連情報
訳注2:バイオセンサー関連情報
訳注3:ナノイメージング関連情報
訳注4:ティッシュエンジニアリング(再生医療)関連情報
訳注5:コロナ関連情報
訳注6:マクロファージ関連情報
訳注7:サイトカイン関連情報



化学物質問題市民研究会
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