Pi Magazine 2016年11月23日
ナノテクノロジーにおける
革新、規制、リスク評価に関する簡単な解説

スティーブ・ハンキン博士 英・労働医学研究所

”雇用者は適切な暴露抑制措置を用いて
作業者の暴露を最小にするよう努めるべきである”

情報源:A Brief Primer on Nanotechnology Innovation, Regulation and Risk Management
by Dr. Steve Hankin, Institute of Occupational Medicine
and SAFENANO's Director of Operations (UK)
http://view.publitas.com/howden/pi-november-2016/page/48-49

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2016年11月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/
161123_Pi_Magazine_Primer_on_Nanotechnology.html


■ナノテクノロジーとは何か?

 ナノテクノロジーは、食品、情報技術、エネルギー、環境、安全保障、衣料及び医療のような産業及び技術分野で広範に適用されている。
それは、個々の原子や分子又はより大きなサイズの物質に関連するものとは異なる、サイズと構造に依存する特性と現象を活用するために、ナノサイズ(大きさが約1〜100ナノメートルの範囲)で物質を操作し制御するための科学的知識の応用である。

 健康と安全の観点から、規制され従来のリスク評価の対象となるのはナノテクノロジーではなく、一般的にナノ物質(強化された強度、化学反応性、又は導電性のようなバルク物質に比べて新たな特性を開発するために作られ使用される化学物質又は材料)である。

ナノ物質はどの様に規制されているか?

 ナノ物質とナノ応用製品の規制はダイナミックで発展的な状況であるが、それは主に開発されているナノ物質、ナノ応用製品及び応用の範囲が広いこと、及びナノ物質の定義、特性化及び有効性と安全についての適切なテストに関連する不確実性に起因する。
EU、アメリカ、カナダ、オーストラリアおよび限られた数のその他の諸国の規制当局は、評価のための活動を立ち上げ、ある場合にはナノ物質を既存の物質及び製品規制の下に置いた。ヨーロッパでは、欧州委員会がナノ物質のための EU 立法の適切性と実施を評価しつつ、二つの規制的レビューを実施した[脚注1]。
ナノ物質は原則として様々な既存の規制の枠組みによってカバーされると結論付けられたが、ハザード及びリスク評価のための利用可能な安全情報が欠如しているために実施レベルでは困難があるということが認識されている。追加的な措置とガイダンスがナノ物質産業を支援するために、それなりに必要かも知れず、これらの必要性に対応するための作業は進捗している。
ナノ物質に関する特定の条項が、殺生物剤、化粧品、食品及び食品接触材料を含んで、EU におけるいくつかの消費者製品の法令に導入されており、EU 加盟諸国の中にいくつかのナノ物質のための義務的な報告制度が出現している。

国限定のナノ物質登録と規制は存在するのか?

 この記事を書いている時点でフランス、ベルギー、デンマークなどの国が、ナノ物質に関連する製品、特性、及び応用についての利用可能な情報を収集するための義務的な報告制度を導入している。これらの制度の下で、ある量以上のナノ物質の製造者及び輸入者は法令順守のために年間ベースで特定の情報を届けなくてはならない。
 フランスとベルギーの義務的報告制度は、年間 100g 以上のナノ物質の製造者及び輸入者によって届けられるべきことを求めている。デンマークの報告制度はそのような閾値を述べておらず、デンマークの一般大衆への販売を意図するナノ物質の混合物又はそれを含む成形品を製造又は輸入する全ての会社に適用する。欧州の化学物質の登録、評価、及び認可(REACH)規則は、年間1トン以上の、どのようなナノスケール物質の製造者又は輸入者、又はナノスケール物質を含む成形品の製造者又は輸入者に対して、その物質を登録し技術的文書一式を用意するよう求めている。この記事を書いている時点で REACH 規則内にナノ物質のための特定の条項は作られていない。

顧客が責任あるアプローチを示し保険リスクを最小にするために、私は彼らに何を勧告すべきか?

 ナノ物質とナノ技術が可能とする製品の、成功する責任ある開発と商業化の重要な面は、規制の開発と法令順守への先を見越したアプローチの認識を向上させることである。
 規制遵守に関連する優良な実施を確実にする戦略は下記のような多くの活動を含む。
  • 優良なガバナンスを実施し、持続し、ナノ物質の安全性を効果的な健康安全管理プロセスで確実にすること。
  • 国家、地域及び国際的レベルで新たな規制の開発動向を監視すること。
  • 規制と報告制度を順守するために、文書化し、準備することはもちろん、要求を理解し、満たすこと。
  • 技術についての消費者の受容と信頼を確立するための公衆対話を持つこと。
  • ナノ物質の安全使用を支援するために自主的な取り組みに参加すること(例えば、ナノテクノロジーのための行動規範を取り入れること)。
顧客はナノ物質がプロセスから放出されるかどうかを、どのようにして調べることができるか?

 暴露評価は、排出の測定又は推定、暴露経路及び影響因子の検討、そして作業者が暴露するかもしれない濃度を得ることを伴う。
 通常の大気は、その環境が屋外、屋内に関わらず、ナノメートル範囲の多数の粒子を既に含んでいる。しかし、リアルタイム直読計器、フィルター・サンプリング、及び脈絡観察の組み合わせを用いる十分に計画された暴露監視の取組は、健康に有害な潜在的な吸入をもたらすプロセス関連の粒子の存在を特定するのに役に立つ。もちろん、これはナノサイズの粒子だけでなく、全ての吸入可能なサイズの粒子の検討を含むべきである。職場における空気中浮遊粒子の暴露監視のために、いくつかの国際的な基準がある。例えば、 ISO/TR 27628:2007 [脚注2

ナノ物質は、顧客の職場でどのように管理することができるか?

 雇用者は、ナノ物質を取り扱う作業に関連するどのようなリスクをも含んで、彼らの作業に関連するすべての面で作業者の健康と安全を確実にする一般的義務を負う。このことはリスク管理プログラムを開発し、暴露評価と管理戦略の実施結果の情報を利用する定期的なリスク評価を実施することにより達成される。
 他のどのような化学物質とも同じ様に、適切で管理の階層に矛盾しない保護措置を作業行動に適用することにより、ナノ物質への作業者の暴露を最小にしなくてはならない。
 もちろん、検証と確認は実施されたツールと戦略が計画通りに機能することを確実にするために極めて重要である。

職業暴露制限(OEL)と同様なナノ物質のための職場安全レベルは存在するか?

 工業ナノ物質のための職業暴露制限(OEL)はヨーロッパやその他の場所で検討されているが、現在まだ設定されていない。アメリカでは国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が下記についての推奨される暴露限界を提案した。
  • 吸入可能なカーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバー:作業者の暴露は、8時間加重平均で1.0μg/m3 を超えないこと。
  • 超微粒(ナノスケール)二酸化チタン:作業者の暴露は、8時間加重平均で0.3mg/m3 を超えないこと。
  • 顔料二酸化チタン(粒子サイズ 100nm 以上):作業者の暴露は、8時間加重平均で2.4mg/m3 を超えないこと。
 さらに、多くの会社が社内暴露限界を設定している。ある程度の変異があるが、それは一部にはその暴露限界が基づいたデータによるためであるが、しかしまた、どのような安全係数が適用されたのかを含んで、偏差の特性にもよる。
 それにもかかわらず、あるナノ粒子は同一材質であるがサイズがより大きな粒子に比べてより危険かもしれないことは明らかである。従って、ある物質の既存の職業暴露限界は、その物質のナノ粒子から適切に保護しないかもしれない。雇用者は適切な暴露制御措置を用いて作業者の暴露を最小にするよう努めるべきである。

どのようなガイダンスとヘルプが利用可能か?

 安全な取扱及び制御、暴露評価、ハザード評価、リスク評価、及びコントロール・バンディング(訳注1)をカバーするナノ物質の安全性に関連する多くの一般的及び特定のガイダンス、基準及び記事が発表されている。どこから始めればよいのか知るのは少し手ごわいかもしれないが、多くの情報発信サイト、例えば www.safenano.org は、安全に関わるコミュニティを支援するために重要なガイダンス、情報、及びサービスへの容易なアクセスを提供している。

脚注1:Source : http://ec.europa.eu/environment/chemicals/nanotech/index_en.htm

脚注2:Source : ISO/TR 27628:2007 Workplace atmospheres -- Ultrafine, nanoparticle and nano-structured aerosols -- Inhalation exposure characterization and assessment


訳注1:びコントロール・バンディング
リスクアセスメント実施支援システム/厚生労働省ウェブ



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