Nanowerk Spotlight 2016年5月24日
表面積はナノ粒子毒性評価にとって
非常に適切な用量測定基準である

マイケル・バーガー

情報源:Nanowerk, May 24, 2016
Surface area is a highly relevant dose metric
for nanoparticle toxicity assessments
By Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=43493.php#.V03AmjohSI4.mailto

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2016年7月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/
160524_Surface_area_is_a_highly_relevant_dose_metric.html


 毒性学と生態毒性学の分野で、用量は非溶解性化合物に対しては、経験的に非常に便利なので、一般的に重量濃度で表現される。しかしナノ粒子については、ナノ物質の重量は、特に、例えば炭素や金属のような異なる種類のナノ粒子を比較することが求められる時には、それらの密度は非常に異なるので、適切なパラメーターではない。

 ”用量を表現する他の二つの方法は、粒子数と全表面積である”と、フランスのトゥールーズ大学材料工学研究所(CIRIMAT)の国立科学研究センター(CNRS)研究部長エマニュエル・フラオー博士は述べ、Nanowerk に次のように説明した。”両方のパラメータは生物学的影響という点で演繹的に、はるかに妥当である。しかし、異なるナノ粒子の比較ということになれば、我々の結果は表面積の方が妥当であることを示している。我々は、この分野での将来の研究に、ひとつのグループと他のグループとの間でより妥当な比較を可能とするであろう測定基準を用いることを勧める”。

 新たな研究で、フラオーと同僚らは重量密度に基づく通常のアプローチは、異なる工業カーボンナノ粒子(C-NPs)の毒性の比較がうまくいかないことを示している。

 彼らは研究結果を2016年4月28日のオンライン版の Nano Letters で "Surface Area of Carbon Nanoparticles: A Dose Metric for a More Realistic Ecotoxicological Assessment" (カーボンナノチューブの表面積:より現実的な生体毒性学的評価のための用量測定基準) で報告している。

 この研究の最も顕著な結果は、研究者らが表面積は異なる種類のカーボンナノ粒子の毒性を比較するために妥当な測定基準として使用することができるが、もっと重要なこととして、少なくとも同研究チームのカーボンナノチューブの実験条件、0D〜2D (訳注: 0D (点)、 1D (線)、 2D (面))の範囲で、毒性を予測するための基準としてもまた演繹的に用いることができるということを実証したことである。

 この研究で、科学者らは4つの異なる種類のカーボンナノ粒子を使用した。数層グラフェン(FLG, 2D);ナノダイヤモンド(NDs, 0D);二層カーボンナノチューブ(DWCNTs, 1D);多層カーボンナノチューブ(MWCNTs, 1D)。

 彼らは、生体外でアフリカツメガエルを異なる用量測定基準を用いて、これらすべての異なるカーボンナノチューブに 12日間暴露させ、その成長抑制を観察し比較した。

Nanowerk_growth_inhibition.jpg(9546 byte)

FLG, NDs, DWCNTs, 及び MWCNTsへの暴露12日後のアフリカツメガエルの成長抑制
正規化サイズ(%)は、3種類の異なる測定基準:重量濃度(mg/L)、粒子数濃度(pcs/L)、表面積濃度(m2/L)のそれぞれについて、その log 10 の値がプロットされている。黒の点線カーブは非線形回帰モデル予測を表しており、灰色の塗りつぶし部はこれらの 95%信頼区間(CIs)である。実験的分析から計算された平均サイズに関する95%信頼区間は垂直エラーバーとして示されている。
(アメリカ化学会の許可を得て掲載。画像クリックで拡大。)

 異なる物理化学的特性(すなわち構造及び形態)をもつカーボンナノ粒子についても、同チームは成長抑制がほとんど表面積に依存することを発見した。”カーボンナノ粒子の毒性比較を可能とするために、工業ナノ粒子の完全な特性化が、全ての生体毒性学研究に提供されなくてはならなず、それは重量濃度ではなく、表面積に基づいてなされるべきである”と、フラオーは言う。”この測定基準の使用は、水生系環境におけるカーボンベースのナノ粒子のためのもっと現実的なリスク評価戦略の定義に役立つであろう”。

 用量反応の結果を表現するための異なる測定基準を調査するという考えは、この分野では新しいことではない。しかしこれは、異なる形状をもつ異なるカーボンナノ粒子の比較をもって明確な実証が与えられ、この結果は一般化することができるという証拠となった最初のものである。

 ”この研究の動機は、異なる種類のカーボンナノチューブの環境影響を扱った以前の研究で、重量濃度に基づく我々自身の結果を真に比較することができなかったということに由来する”と、フラオーは言及する。(例えば、次を参照のこと。 2D Materials, "Examining the impact of multi-layer graphene using cellular and amphibian models" 及び Toxicological & Environmental Chemistry, "International standardized procedures for in vivo evaluation of multi-walled carbon nanotube toxicity in water")

 ”我々は、もし研究者らが彼らの結果を表現するために、現在、求められる特性化を重量ではなく表面積に対比して行うなら、異なるグループにより発表された結果との比較のために、より良い妥当性が得られるであろうことを希望する”と、フラオーは言う。

 これらの結果はまた、例えばナノ複合材料の分野で働く研究者らにとって、ナノフィラーとマトリックス(訳注1)間の界面は常に重要な役割を演じるので、役に立つかもしれない。重量又は容積比の点だけを考えるのではなく、マトリックスとロード間の表面相互作用を考慮することは、データ分析のための興味深いアプローチをもたらすかもしれない。

 このアプローチは、以前の研究を再分析し、この分野における更なる研究のための指示を与えるのに役立つかもしれない。フラオーのチームは、例えば ECOLAB と連携して、表面機能化が生体毒性に及ぼす影響を調査中であるが、それは水との界面を変更することは非常に重要な結果をもたらすにちがいないであろうからである。

 もっと大規模なナノ粒子と細胞又は組織との間の相互作用は、界面で起きていること、すなわち表面で起きていることによって大きく支配される。しかし、この表面の正確な特質は、たんぱく質のような多くの生体分子のみならず、水中に存在する塩類は非常に急速に、そしてダイナミックなやり方で蓄積する傾向があるので、評価するのが難しい。

 ”我々は現在、表面に何が起きているのかについての我々の理解を改善するために、そして我々の結論が本当に一般的なのかどうか、又はある限界があるのかどうかをチェックするために、表面機能化が生体毒性に及ぼす影響を研究している”と、フラオーは彼の研究チームの現在の仕事について述べた。


訳注1:ナノフィラーとマトリックス参考資料


化学物質問題市民研究会
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