NOETB 2015年11月11日
デンマーク環境庁
ナノ物質に関する報告書を発表

リン L. バーガソン及びカルラ・ N. ハットン

情報源:Nano and Other Emerging Technologies Blog, November 11, 2015
Denmark Posts Several Publications Concerning Nanomaterials
by Lynn L. Bergeson and Carla N. Hutton
hhttp://nanotech.lawbc.com/2015/11/denmark-posts-several-publications-concerning-nanomaterials/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2015年11月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/
151111_NOECTB_Denmark_Posts_Several_Publications_on_Nanomaterials.html


 2015年11月10日、デンマーク環境保護庁はナノ物質に関する次の報告書を発表した。

  • デンマークにおけるナノ物質の使用の環境的評価
    • これは、”ナノ物質−デンマークの環境中での発生と影響”(NanoDEN)プロジェクトの最終報告書である。NanoDEN プロジェクトは、デンマークの市場にあるナノ物質についての新たな環境的に妥当な知識を調査・生成し、環境に関連する可能性あるリスクを評価することを目指していた。
       報告書は、いくつかの下位プロジェクトの結果を概説し、ナノ物質がデーマークにける環境に影響を及ぼすかどうか、及ぼすとすればどのようにか、ということを評価している。評価は、消費量の知識又は使われ方に基づき、環境的に妥当であると推定された 9 種類のナノ物質を選択して調査された。すなわち、二酸化チタン、酸化亜鉛、銀、カーボンナノチューブ、酸化銅、ゼロ価鉄、酸化セリウム、量子ドット、及びカーボンブラックである。

  • デンマーク市場にあるナノ物質の消費者リスク
     報告書は:
    • 選択された 20 の消費者暴露/使用シナリオに関連する消費者リスクを評価し;
    • これらの評価で得られたことをプロジェクトの以前の活動から得られていた発見と統合し;
    • デンマークの消費者の全体的な暴露とリスクについて、及び他の暴露源について我々が知っている知見を検討し;
    • 消費者暴露を評価するための知識及び方法論における主要なギャップを特定している。

  • 二酸化チタン及び酸化亜鉛のナノ物質からなる日焼け止めの皮膚吸収:サイズと表面コーティングの役割
     結論は次のように述べている。
    • マウス及び人間の皮膚モデルを使用した生体外(in vitro)及び生体内(in vivo)実験の結果に基づき、我々は、二酸化チタン(TiO2)と酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子の皮膚浸透は使用した実験手法の検出限界又はそれ以上では起きなかったと結論づける。たとえ、二酸化チタン(TiO2)と酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子の吸収がここで使用した分析装置の検出限界以下で起きるとしても、全身的な量は非常に小さく(上述の実験で使用された用量よりはるかに低い)、げっ歯類での毒性学的証拠に基づく全身的な毒性を引き起こすことは極めてありそうにない。このことは、両方のナノ粒子は化粧品中において25%の濃度までなら皮膚塗布しても安全であるとするSCCS (消費者安全委員会)の結論と一致するものである。[SCCS (Scientific Committee on Consumer Safety), 2012; SCCS (Scientific Committee on Consumer Safety), 2014].

  • 工業ナノ物質の環境的影響:予測無影響濃度(PNEC)の評価
     報告書は次のような主要な発見を示している。
    • 現在、欧州の法体系内で原則として受け入れられている 予測無影響濃度(PNEC)(訳注1) 評価アプローチはナノ物質にも使用することは可能であろうことを調査が示している。これは、アセスメント係数(AF)(訳注2)及び 種の感受性分布(SSD)(訳注3)アプローチに関連している。これらの手法は、ナノ物質のテストにおいてナノ特定プロセスを考慮しておらず、したがってテストは常に自然条件の下で行われているわけではないかもしれない。今回のプロジェクトの中で実行された文献レビューを通じて、他の3つの手法が提案された。すなわち、確率的種の感受性分布(PSSD)、溶解金属イオン、及び直接無影響濃度(INEC)である。

    • 今回の PNEC 評価のためのデータは、優良試験所基準(GLP)及び許容されたガイドラインに従って実施された影響調査を選択した。 溶解性化学物質のためのガイドラインに従って実施された影響調査は、工業ナノ物質(ENM)の特異性を考慮していないので信頼できないかもしれないということが、ひとつの結果であった。

    • 今回のプロジェクトで、工業ナノ物質(ENM)をテストするために、及びリスク評価のために適切な程度に、影響調査の適切性を透明性をもって評価するのためのひとつのアプローチが開発された。そのアプローチはナノ特有のパラメーターに焦点を当て、データの利用可能性と妥当性に関連して知識のギャップと限界を強調している。

    • 工業ナノ物質(ENM)の影響調査に関する1,200以上の科学論文が公開されている文献中に見いだされ、これらのうち 500 の論文が潜在的に予測無影響濃度(PNEC)を引き出すために使用することができる影響に関するデータを明らかにした。これらの調査の50%はミジンコをテスト生物として使用しており、30%が魚類、20%が藻類を使用していた。魚類による慢性毒性調査はほとんど実施されていなかった。そしてリスク評価適切性について最良スコアを得た調査はひとつもなかった。

    • 影響調査の数は多数あったにもかかわらず、リスク評価のために適切で十分な影響調査の数は非常に少なかったので、アセスメント係数(AF)アプローチに従った PNEC 評価だけが実施可能であった。

    • 利用可能なデータに基づけば、銀ナノ粒子が最も有害な工業ナノ物質(ENM)であることが判明した(予測無影響濃度(PNEC)= 12 ng/L)が、一方、二酸化チタンは最も有害性が低いことが分かった(PNEC = 18 μg/L)。適切なデータがないので、カーボンブラックと量子ドットについての予測無影響濃度(PNEC)を引き出すことはできなかった。

    • この報告書で導かれた予測無影響濃度(PNEC)値は、公開文献又は欧州連合の REACH 登録の中で見いだされる PNEC 値と比べると、一般的に同じレベルか、わずかに低かった。REACH 登録中のイオン及びバルク物質の PNEC 値と比較すると、この報告書中で導かれたナノ予測無影響濃度(PNEC)値は、同じ程度(銀)又は一桁低い(二酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化銅)ものであった。


訳注1:予測無影響量(PNEC: Predicted No Effect Concentration )
用語解説集
 化学物質の環境中でのリスク評価の際,例えば OECD の試験法により求めたその化学物質の環境生物への有害性データを使用して算出され,生態系に影響がないであろうと予測される濃度。PNEC は,実験室で得られた影響データを生態系に影響のない濃度へ外挿 することによる不確実性について,影響濃度(Effect Concentration)をアセスメント係数(AF, Assessment Factor)で除すことにより,安全性を確保している。

訳注2:アセスメント係数 (AF: Assessment Factor)
用語解説集
 得られた毒性試験結果を用いて,生態系リスク評価を行う際,十分なデータが得られていない場合、急性毒性(短期毒性)のデータから慢性毒性(長期毒性)の無影響濃度(NOEC, No Observed Effect Concentration)を性毒性 NOEC の最低値から実野外への影響を推定するのに用いられる安全係数である。通常,10,100,1000 を用いる。(日本環境毒性学会編, 2003, 生態影響試験ハンドブック)

訳注3:種の感受性分布法 (SSD: Sspecies Sensitivity Distribution)
化学物質の毒性試験と生態リスク評価(国立環境研究所)

[2] 種(しゅ)の感受性分布による評価
 同じ化学物質でも種によって影響の受けやすさ(感受性)が異なります。種の感受性分布法では,いくつかの種に対してのNOEC(または,LC50やEC50)をプロットしていき,対数正規分布などの統計分布を当てはめます。そして,95%の生物種に対して影響が出ない濃度(HC5:Hazardous Concentration)を予測無影響濃度(PNEC)として用います。この方法は,経済協力開発機構,米国環境保護庁,EUで用いられています。



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