The Conversation 2015年8月25日
ナノ物質のリスク評価についての大きな疑問
ジョージア・ミラー/ファーン・ウィクソン

情報源:The Conversation, Aug 25, 2015
Big questions about risk assessment of nanomaterials
By Georgia Miller and Fern Wickson
http://theconversation.com/big-questions-about-risk-assessment-of-nanomaterials-44835

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年9月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/150825_Big_questions_about_risk_assessment_of_nanomaterials.html


 ナノテクノロジーについて言えば、オーストラリ人は規制と安全テストへの強い支持を示してきた。

 ナノ物質はどのように規制されるべきかを決定するひとつの方法はリスク評価を実施することである。このことは、関連する危険(azards or dangers)と人又は環境への暴露のレベルに基づき、ある物質又は行為が及ぼすリスクを計算することを伴なう。

 しかし、我々の最近のレビューは、ナノ物質の安全性を決定するためのリスク評価についていくつかの重大な欠陥を見つけた。

 我々は、これらの欠陥は非常に著しいので、リスク評価は実際上、裸の王様(a naked emperor)であると主張している。

サイズの問題

 ナノテクノロジーは、10年間以上、”次の大きなことがら”であるとして喧伝されてきた。それはまた、塗料や表面処理、日焼け止めや化粧品、衣類や布製品、建材、台所用品、そしてスポーツ用品を含む様々な製品中にますます見いだされるようになってきた。このことはそれらはまた、我々の家で、職場で、そして環境中でますます見い出されるようになることを意味する。

 ナノスケールでは、よく知られている物質が同じ成分でもマクロスケールのものとは異なる挙動をすることがある。これらの新奇のナノ特性は有用である可能性がある一方で、ナノテクノロジーの新たに出現している科学はまた、この新奇性が人と環境にリスクをもたらすことがあるということを示唆している。

 このことは、全てのナノ物質が必ずしも危険であるということを意味しない。それが意味することは、我々は、ナノ形状におけるリスクについて信頼できる情報を提供するために、バルク形状の同じ物質について我々が知っていることに依存することはできないということである。

 我々はまた、それらの安全性を調べるために同じテスト手法に頼ることはできない。ナノ物質の新奇の特性は、専用の安全性テストとリスク評価が必要であることを意味する。

引き金に指がかかる

 リスク評価は社会が気にする重要な問いに答えていないにもかかわらず、数十年間、新たな技術に対する規制当局により用いられてきた支配的な意思援用ツール(decision-aiding tool)である。例えば、我々はこの技術を必要とするのか? その代替は何か? それは社会関係にどのように影響を及ぼすのか? 誰が意思決定に関与するのか?

 我々独自の考えではあるが、我々のレビューは、リスク評価がナノ物質に適用される時に重大なギャップと障壁がリスク評価プロセスを損なうことを見出した。

 基本的な問題は、ナノに特化した規制がないことである。分野毎のほとんどの規制はナノに特化した規制のためのリスク評価を実施すべき”引き金”を含んでいない。ある物質がすでにマクロ形状での使用が承認されている場合には、ナノ形状のでの新たな評価は求められない。

 たとえそのような引き金が存在していたとしても、何をもってナノ物質とするかの定義に関する分野横断的な又は国際的な合意は現在、存在しない。

 もうひとつの障壁は、測定能力と確認された安全性テスト手法の欠如である。我々は、最終製品の複雑な”ナノマトリクス”中の、又は環境中のナノ物質の機械的な特定を実施する手法をまだ持っていない。

 このことは、現実世界の条件下でサプライチェーの追跡と安全テストの実施を非常に難しいものにしている。現在、安全研究への投資が行われているにもかかわらず、確認された手法の欠如と異なる手法がもたらす多様な結果は、科学的な不確実性の存続を許すことになる。

裸の王様(The emperor’s new clothes)

 実際に、ナノ物質のリスクについての科学的不確実性は、信頼性ある評価に対する大きな障壁である。欧州委員会の資金援助を受けたあるレビューは次のように結論付けている。

 [・・・ナノ物質の安全性に関する規制的意思決定プロセスに求められる詳細なリスク評価を実施するために利用可能なデータはまだ不十分である。]

 政府はまた、ナノ物質の商業的使用の程度と使用されている場所についての十分な情報を持っていない。ほとんどの国では、ナノ物質の届出は義務的ではなく、自主的な情報提供への呼びかけに対する反応は低い。

 このことは、ナノ物質がどこで使用されているのかについて公衆と会社を闇に閉ざしている。ビジネス・ヨーロッパの労働安全衛生委員会の議長クリス・デミースターは、ヨーロッパの雇用者の99%は、彼らに責任あるサプライチェーン中にナノ物質が存在していることを知らないという個人的な見解を示した。

 職場での暴露を管理するための能力も不足している。ナノ物質に特化した安全データシートもまだ比較的少なく、存在しても一般的に不十分な情報しか提供せず、又は職場のリスクを管理するために不十分な計測機器と苦闘している。

 まとめると、これらの障壁は、リスク評価が事実上、裸の王様であり、事実上存在しない能力に基づいているということを意味する。

裸の王様を暴く

 我々は、ナノ物質のリスク評価に立ちはだかる難しい課題を認め、もっと公衆に説明できる代わりの意思援用ツール(decision-aiding)を探究すべき時であると考える。それらは、リスクベースではない(non-risk based)社会的価値の問題を具体化すべきであり、管理のみせかけではなく、深い不確実性があっても、行動することの必要性を真剣に考えるべきである。

 よく開発された代わりの意思援用ツールが利用可能である。ひとつは、問題に関する様々な考え方を評価することを求める多基準マッピングである。もうひとつは、問題の定式化とオプションの評価(problem formulation and options assessment)であり、これは、より広い個人と考え方を巻き込むために科学ベースのリスク評価を拡張するものである。

 科学的情報の政策プロセスへのインプットの曖昧さをより良く理解できるよう、評価プロエスの各段階で生じる骨組と選択を探究する系統評価(pedigree assessment)というのもある。  まだ十分には開発されていないが、ヨーロッパで親しまれているもうひとつのアプローチは、”責任ある研究と革新”を開発することを強調しつつ、リスクからイノベーション・ガバナンスへのシフトを伴うものである。

 これらのアプローチのそれぞれの可能性を詳細に検証することはこの記事の範囲を超える。それにもかかわらず、科学的不確実性の意味を認め、調査するための、そして異なる代案の中で暗示されているトレードオフと価値判断を探究するための、明白な試みの中で、我々は、そのような意思援用ツールは、ナノテクノロジー規制のために、リスク評価よりもっと強固なベースを提供するであろうと考える。

 


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る