ライス大学ニュースリリース 2014年12月16日
科学者ら ナノ物質を植物から芋虫まで追跡

情報源:Rice University, December 16, 2014
Scientists trace nanoparticles from plants to caterpillars
http://news.rice.edu/2014/12/16/scientists-trace-nanoparticles-from-plants-to-caterpillars-2/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2015年1月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/
141216_nanoparticles_from_plants_to_caterpillars.html


ライス大学の研究がナノ物質が食物連鎖中でどのように振る舞うかを検証

 この種の実験室での最も包括的な研究のひとつによって、ライス大学の科学者らは、水から植物の根、葉、そしてその葉を食べる芋虫までの量子ドット(訳注1)ナノ粒子の取り込みと蓄積を追跡した。

 ナノ粒子が人に関連する食物連鎖を通じてどのように移動するのかを検証する最初の研究のひとつであるこの研究は、植物と動物の両方におけるナノ粒子の蓄積は、ナノ粒子に施された表面コーティングの種類に著しく依存して変化することを発見した。この研究は米・化学会のジャーナル、Environmental Science & Technology オンライン版から入手可能である。

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シロイヌナズナの葉に蛍光性量子ドットが蓄積しているのが紫外線の下で見える。 Credit: Y. Koo/Rice University
 ”ナノ粒子の産業用途での使用が増えている中で、それらがどのように環境中を移動し、それらは人間が食べる植物や動物に高いレベルで蓄積するのかどうかについての疑問が高まっている”と、研究の共著者であり、ライス大学の生物科学部門の教授ジャネット・ブラアムは述べた。

 ブラアムと同僚らは、しばしば研究対象となる植物種であり、からし、ブロッコリ、ケールと同属のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)により、蛍光性量子ドットの取り込みを研究した。同チームは特に、どのように様々な表面コーティングが影響を及ぼし、どのように量子ドットが根から葉に移動するのか、どのように粒子が葉に蓄積するのかを調べた。同チームはまた、イラクサギンウワバ(ガの一種)の幼虫であるキャベツ尺取虫(芋虫)が量子ドットを含む葉を食べた時に、量子ドットはどのように振る舞うのかを調べた。

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キャベツ尺取虫(芋虫)
 ”ナノ粒子を取り込んだ植物自身への影響と、それらを食する草食動物への影響は未解決の問題である”と、研究の第一著者であり、ブラアム研究室の博士号取得後の研究員ヨンジョンド・クーは述べた。”この分野、特に人間の食物網の要である陸生植物の研究は非常に少ない”。

 水銀やDDTのような有害物質は、食物連鎖の中を移動するときに高濃度になって蓄積する傾向がある。ナノ粒子もまた、生物濃縮として知られるこのようなプロセスをたどるのかどうかわからない。

 使用されているナノ粒子のタイプは数百種あるが、クーは、紫外線の下で明るく発光する半導体の超顕微鏡的細片である蛍光性量子ドット(訳注2:参考)を研究対象に選んだ。カドミウム、セレン、亜鉛、硫黄を含む蛍光性粒子はテストで容易に測定し映し出すことができる。さらに、同チームは量子ドットの表面を3種類の異なるポリマーコーティング−ひとつは陽電荷、ひとつは陰電荷、ひとつは中性−で処理した。

 ”産業での応用では、ナノ粒子は溶解性を増し、安定性を改善し、特性を強化するために、さらにはその他の理由で、しばしばポリマーで表面処理される”と研究の共著者でありライス大学土木環境工学部門の議長で教授のペドラ・アルバレツは述べた。”我々は、ナノ物質が食物連鎖中で蓄積することに、表面処理が重要な役割を演じることを予期している”。

 以前の実験室研究は、中性コーティングのナノ粒子は凝集して大きな塊を形成するので、植物の根から葉には容易には移動しないであろうことを示唆していたが、今回の実験がこれを裏付けた。3種類の粒子のタイプのうち、荷電されたコーティングのものだけが容易に植物に入り込み、陰電荷粒子だけが凝集しなかった。この研究はまた、コーティングのタイプが植物の量子ドットを生物分解又は分解する能力に影響を及ぼすことを発見した。

 クーと同僚らは量子ドットを含む植物を与えられた芋虫は、それらを含まない植物を与えられた芋虫に比べて体重が少なく、成長が遅いことを発見した。芋虫の排せつ物を調べて、科学者らはまた、カドミウム、セレン、及び完全な(intact)量子ドットが動物の体内に蓄積するかどうかを推定することができた。ここでもまたコーティングが重要な役割りを果たした。

 ”我々のテストは、芋虫の体内の生物蓄積を測定するよう特に設計されていたわけではないが、我々が収集したデータは、陽電荷コーティングされた粒子は細胞内に蓄積し、生物蓄積のリスクを及ぼすかもしれないことを示唆している”と、クーは述べた。”我々の発見に基づいて、より広い生態系条件の下にこのリスクの程度を検証するために、もっと多くのテストが実施されるべきである”。

 この研究は、アメリカ国立科学財団の支援を受けた。共著者にはさらに、ライス大学の Jing Wang, Qingbo Zhang, Huiguang Zhu and Wassim Chehab 、及びブラウン大学の Vicki Colvin が含まれる。


訳注1:量子ドット
量子ドット/Wikipedia
量子ドット(Quantum dot (QD))とは、3次元全ての方向から移動方向が制限された電子の状態のこと。量子ドットは、半導体などの物質の励起子が三次元空間全方位で閉じ込められている。その結果、そのような物質はバルク半導体と離散分子系の中間的な電子物性を持つ。

訳注2:蛍光性量子ドット
参考:
蛍光性ナノ粒子で微量タンパク質の高感度検出を可能に/産総研
蛍光性量子ドットの集積で抗体によるタンパク質の検出感度を飛躍的に向上



化学物質問題市民研究会
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