BBC News 2012年8月21日
ナノ粒子 食用作物へのリスク:
酸化亜鉛と酸化セリウムのナノ粒子の大豆への影響

ジョナサン・ボール BBC News

情報源:BBC News, 21 August 2012
Nanoparticle 'risk' to food crops
By Jonathan Ball, BBC News
http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-19320267

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2012年8月23日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/120821_BBC_Nanoparticle_risk_to_food_crops.html


 小さな”ナノ粒子”の形状で広く使用されている二つの化学物質が、ある作物を通じて拡散し、成長と土壌の肥沃度に影響を与えていることが示されている。

 ナノ粒子の使用は増大しているが、その環境的影響はほとんど分かっていない。
 PNASに発表された報告書は、排気ガス及びいくつかの肥料中に存在するナノ粒子は大豆の生長と周囲の土壌に有害影響を及ぼすことを示している。
 ナノ粒子は、植物が生長するために依存する微生物をそこなう。

 ナノ粒子は少なくともひとつの粒子径が100ナノメートル(nm)以下であるような粒子として定義される。
 ナノ粒子はまたナノ物質とも呼ばれ、、化粧品、コーティング材、燃料添加剤など広範な用途のために製造される。それらはドラッグデリバリーのような医療用途での使用についての開発も進んでいる。

 それらの影響の多くはよく報告されているが、それらの動作メカニズムのあるものは完全には理解されていない。ナノ粒子の広い範囲での長期的な使用が環境中に拡散し、予測できない影響を植物や動物、さらには人間にさえ及ぼすかもしれない。

 この研究では、カリフォルニア大学のパトリシア・ホールデン教授のチームが二つのよく使用されているナノ粒子の大豆の成長に及ぼす影響を調査した。

 大豆は、商業的に非常に重要な作物である。世界的には5番目の生産量であり、食用油や豆腐のような植物タンパク質の原料である。

 研究者等は酸化亜鉛と酸化セリウムのナノ粒子の影響に焦点を当てた。酸化亜鉛は化粧品の共通要素であり、最終的には汚水処理により生成される固体廃棄物の汚染物質となる。この廃棄物は広く有機肥料として使用される。

 酸化セリウムはあるディーゼル燃料の燃焼改善と粒子排出低減のために使用される。

  Environmental Science and Technology(ES&T)に発表された以前の研究が、今回と同じナノ粒子について、土壌栽培ではなく、水耕栽培された大豆への影響を調査したが、この新たな論文の研究チームはより自然な条件下での大豆の成長を分析するために今回の方が十分な状況であると示唆している。


大豆の根の中に住むバクテリアは
重要な栄養を大豆に供給する。
 研究者等は、大豆をナノ粒子の存在する温室の中で栽培し、大豆の成長を監視した。さらに、大豆の様々な部分におけるナノ粒子の蓄積もまた詳しく調査した。

 酸化亜鉛ナノ粒子の存在下での大豆は、ナノ粒子の存在しない条件下での参照(コントロール)大豆よりも実際にはわずかに成育が良かった。しかし酸化亜鉛は、葉と豆の部分を含む大豆の食用部に蓄積した。

 酸化亜鉛ナノ粒子は実験室での哺乳類細胞の成長に有害であることが示されているがヒトへの影響は十分には検証されていない。

 大豆が高濃度の酸化セリウム・ナノ粒子の存在下で栽培されると、その成長は著しく妨げられた。
 セリウムは大豆の根に入り込むことができる。大豆はマメ科の植物である。これらの植物の根はバクテリアを寄生させるが、バクテリアは空気中のチッソを植物が生育のために利用できる形(いわゆる窒素固定)で植物に与えている。
 セリウムナノ粒子はバクテリアの窒素固定の能力を完全に損なうように見える。

 ナノ粒子の広範な毒性に関してコメントしつつ、スコットランドのヘリオット・ワット大学教授ビッキ・ストーンは、”ナノ物質は’等しく有害である’わけでもないし、’等しく安全である’わけでもない”と述べた。”その影響はナノ粒子の物理的及び化学的特性に依存するように見える。このことが、科学者らがよりよい理解を目指していることであり、将来、彼等はこれらの特性に基づいて有害性又は安全性を予測することができるようになるであろう”。

 著者等は、工業ナノ物質の土壌中での蓄積は、土壌生育の作物の品質と生産高を損ない、合成肥料をもっと多く使用する必要が出てくるかもしれないと結論付けた。



化学物質問題市民研究会
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