Science Dailys 2011年8月23日
ニッケル・ナノ粒子は
肺がんを起こすかもしれない


情報源:Science Daily August 23, 2011
Nickel Nanoparticles May Contribute to Lung Cancer
http://www.sciencedaily.com/releases/2011/08/110823115404.htm

オリジナル論文:J. R. Pietruska, X. Liu, A. Smith, K. McNeil, P. Weston, A. Zhitkovich, R. Hurt, A. B. Kane. Bioavailability, intracellular mobilization of nickel, and HIF-1α activation in human lung epithelial cells exposed to metallic nickel and nickel oxide nanoparticles. Toxicological Sciences, 2011; DOI: 10.1093/toxsci/kfr206

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年8月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/110823_SD_Nickel_Lung_Cancer.html


ヒトの肺上皮細胞が同等量のナノサイズ(左)又はマイクロサイズ(右)の金属粒子に曝露すると、活性化されたHIF-1 α経路(緑に着色)がほとんどナノ粒子だけに現れる。(Credit: Image courtesy of Brown University)
 ナノテクノロジーについての全ての感動は結局、次のことに帰着する:10億分の1メートルというスケールの物質の構造が通常とは異なる特性を帯びる。技術者らはしばしば、これらの新たな発見の中で都合の良いことに目を向ける傾向があるが、ブラウン大学の領域を超えた科学者らのチームによる新たな研究は、ニッケルのナノ粒子がヒトの肺細胞のがんを引き起こす細胞経路を活性化ことを見つけた。

 ”ナノテクノロジーは、多くの応用分野でとてつもない可能性と有望性を持っている”と、ブラウン大学ウォーレン・アルパート医学校の病理学実験医学部議長アグネス・ケーンは述べた。”しかし、そこで学んだことは、我々はもっとうまくそれらを設計することができ、もし、潜在的な危険性を認めたなら、適切な予防を講じるべきということである”。

 ケーンは、今月、ジャーナル『Toxicological Sciences』のオンラインに発表した研究の主著者である。

 ニッケルナノ粒子は、すでに有害であることが示されていたが、がんに関してではなかった。ケーンと病理学者、技術者、科学者からなる彼女のチームは、この粒子の表面のイオンがヒトの上皮肺細胞の中で放出されて HIF-1 アルファー(訳注1)と呼ばれる経路を活性化するという証拠を見つけた。通常、この経路は、低酸素症(hypoxia)と呼ばれる酸素供給が低い障害の場合に、細胞を支える遺伝子を活性化する働きがあるが、同時に、腫瘍細胞の成長を促すことも知られている。

 ”ニッケルはこの経路を巧みに利用して、細胞をだまして低酸素症であると思わせるが、ニッケルイオン自身も実際にこの経路を活性化する”とケーンは述べた。彼女の研究は、国立健康研究所スーパーファンド研究プログラム助成金の支援を受けている。”この経路を活性化することで、前がん性腫瘍細胞の成長開始を促すかもしれない。”

サイズが問題である

 博士課程終了の研究者であり、この研究の第一著者であるジョディー・ピエトルスカに率いられた研究チームは、ヒトの肺細胞を、金属ニッケルと酸化ニッケルのナノ粒子、及び金属ニッケルのより大きなマイクロスケール粒子に曝露させた。主要な発見は、より小さい粒子は HIF-1 アルファー経路を活性化するが、より大きい金属ニッケル粒子は問題がはるかに少なかった。

 言い換えれば、サイズがナノスケールになると、金属ニッケル粒子はより有害となり、がんを引き起こす可能性があるということである。その理由は、同じ重量の金属の場合、ナノスケール粒子はより大きな表面積で曝露するので、マイクロスケールの粒子よりも化学的に反応性が高いからであろうとケーンは述べた。

 この研究からのもうひとつの重要な結果は、ニッケルナノ粒子と酸化ニッケルナノ粒子の細胞との反応の仕方の大きな違いを示すデータであると、ピエトルスカは述べた。酸化ニッケルは非常に致命的なので、これらに曝露した細胞は直ぐに死んでしまい、がんを発症させる機会がない。一方、金属ニッケル粒子は、細胞を殺す可能性が低い。

 ”興味深いことは、金属ニッケルは持続する活性化をもたらすが、細胞毒性はより低いということである”とピエトルスカは述べた。”明らかに、死んだ細胞は(がん細胞に)変換されることはない”。

 この発見はニッケルナノ粒子の取扱いについて、例えば製造時に空気浮遊曝露を避けることの必要性など、明確な懸念を提起しているが、これらはがんを引き起こすのに必要な全てではないとケーンは述べた。がんは一般的には多くの不幸な変化に依存するとケーンは述べた。また、この研究は、生体組織全体の長期的影響ではなくて、実験室でのニッケルナノ粒子の細胞曝露の短期的な影響を見たと彼女は述べた。

 もちろん、彼女の実験室では研究者の安全を確保するために十分な安全策を講じている。

 ”我々はこれら全ての物質を生物学的安全性レベル(BSL)2 (訳注2)の封じ込め条件で取り扱っている”と彼女は述べた。”私は、誰も曝露しないことを望む。我々はこれらを空中浮遊発がん性物質として取り扱っている”。


訳注1:低酸素誘導因子(Hypoxia Inducible Factor /HIF)
訳注2:生物学的安全性レベル(Biosafety Level / BSL)


化学物質問題市民研究会
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