Aol news 2010年5月28日
科学者らはメキシコ湾での
ナノ拡散剤の使用に反対

アンドリュー・シュナイダー上席公衆健康記者

情報源:Aol News May 28, 2010
Scientists Oppose Nano-Dispersant Proposed for Gulf
by Andrew Schneider
Senior Public Health Correspondent
http://www.aolnews.com:80/nation/article/
scientists-to-epa-say-no-to-nanotech-dispersant-for-gulf-oil-spill-cleanup/19495279


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2010年5月30日


 メキシコ湾での大量の原油漏れ事故で、すでに1,800万ガロン〜4,000万ガロン(7万kl〜15万kl)の油が海水中に放出されており、連邦政府及び州の緊急対策部門は拡大している原油を処理しアメリカの海岸を保護するためにあらゆる手段を求めて奔走している。

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Oil Spill Images Capture Horror, Heartache

 しかし今週、アメリカ、カナダ、南アメリカ、その他の科学者らは政府に対してあるひとつの選択肢は承認しないよう嘆願した。それは、公開されておらず、多分テストされていないナノ粒子を含む拡散剤である。

 17の環境・公益・研究団体がEPA長官リサ・ジャクソンにEPAは、米史上最悪のBP油流出事故に対応するためにグリーン・アース・テクノロジー(GET)社により製造されたナノ・ベースの拡散剤の使用の許可を拒絶するようにと手紙を出した(訳注1)。

 コネチカット州スタンフォードを拠点とする同社は、ナノテクノロジーで作り出した”完全にグリーン”な製品を販売しており、BPの海底原油採掘施設の崩壊で影響を受けた陸上及び海上にG-Marine Fuel Spill Clean-UP!と称する同製品を撒くことを望んでいるとその手紙は警告している。

 グリーン・アース・テクノロジー(GET)社の、このナノ拡散剤の使用許可を得るためのロビーイング活動は堂々としたものである。同社のグリーンロゴは両翼を広げた大きなGマークで、片方の翼には”地球を守れ”、もう一方の翼には”何も犠牲にしない”と書かれている。

 ”GET社に電話しなさい。議員はすぐに行動しなさい。GET社はすぐに行きます。”宣伝資料やウェブサイト、広告でそのように促している。

   彼らは工業用ナノ粒子はヒト、哺乳類、及び水生生物に有毒であることが示されていると言う。ジャクソン長官への手紙の中で、彼らはこれらの発見を報告しているピアレビューされた特定の研究を引用している。

 ”我々は、工業用ナノ物質を海に撒くことを提案しているのに正確な情報を公開しようとしない会社を盲目的に信じるべきではない。あなたも私も、私たちの裏庭に公開されていない化学物質を投棄しようとする見知らぬ人を信用しないであろう。EPAはこの会社を信じるべきではない”とフレンド・オブ・アースの健康・環境キャンペイナーで、この手紙をEPAに送付したイアン・イルミナトは述べた。

秘密の成分

 環境シンクタンクであるエドモンド研究所の所長であり、署名者の一人であるベス・バローズは製品中に入っているものを開示させることから製造者を守る秘密について懸念を表明した。

 このナノ拡散剤に関して、それを製造した会社は、彼らの”企業秘密情報”を保護するためにその成分を秘密にする法的権利を持っているので、我々はどのような成分なのかわからない”とバローズはAOLニュースに述べた。

 この秘密のために、公衆はこれらのナノ物質が新たに環境に放出されたときに何が起きるのか予測することができないと彼女は述べた。

 ”これらのテストされていない拡散剤を使用することによって、我々はひとつの可能性として汚染の新たな局面に入ることになるかもしれない。それは生態系、そこにすむ生物、そして最終的に生態系の産物を生計の糧としそれらを食べる人々にとって犠牲の大きなものになる。私たちすべてにとって・・・。”と彼女は付け加えた。

 ナノテク会社は、”この拡散剤の成分は労働安全衛生局による取引機密によって保護されている”と認めている。

 AOL ニュースがナノテクノロジーに関する3月のシリーズで報道したように、EPA長官ジャクソンは議会での証言で、もし有害物質の適切な規制が必要なら、会社は企業秘密情報を盾に情報を隠すことを禁止されなくてはならないと熱く語った。

 今週のこの手紙は彼女がこの約束を守るよう迫るものである。

 ”末尾に署名した公益組織はEPAが、ナノスケール化学物質と300ナノメートル(nm)以下の化学物質を環境中に放出しようとする今回及びその他の同様なプロジェクトを承認しないよう要請いたします。・・・私たちはこの無責任で、非科学的で、危険な実験に完全に反対します”と手紙は続けている。

製品は安全であると会社は言うが

 グリーン・アースのウェブサイトは、同社のナノ・エマルジョン技術は、”植物由来成分、水ベース成分、最終的に生物分解性成分の独自の混合物であり、素早く乳化し、漏洩した燃料や油を包み込む”と述べている。

 ニュースリリースの中で、同社の議長でCEOであるジェフ・マーシャルは、”空中散布用飛行機は地上で待機しており、いつでも離陸できる態勢にある。我々はBP、EPA、及びFEMAの青信号を待っている”と報告した。

 ”この種の取り組みを承認する権限を誰が持つのかということについて多くの混乱があるので、できるだけ早く複雑な手続きを簡単に出来るようにすることを我々は望む”と彼は付け加えた。

 AOL ニュースは同社の広報担当に拡散剤の安全・健康テストを実施しているのかどうか、及びグリーン・アース社がどのようなナノ物質を使用しているのかということについて具体的に質問した。彼女(広報担当)はその質問にはマーシャルが答えるであろうと述べた。

 しかし火曜日になって、彼女はグリー・アース社はコメントすることを断ると述べた。

 マーシャルはウェブサイトで、同社の拡散剤の小さな粒子サイズ(1〜4ナノメートル)がオイルやグリース中の長鎖ハイドロカーボン結合に浸透してそれらを分解することができ、水と混ぜるとそれらをコロイド状懸濁液中に保持することができると説明した。さらに彼はEPAは同社の成分は有害性がないと判定したと述べている。

 EPAはこのナノ拡散剤を認めたのか又は評価したのかと問われた。EPAの広報官は、EPAの最新のリストの118種の承認済み油管理製品を示して、グリーン・アース社のナノ製品はリストにないと述べた。

 現在までの所、BPは多分、数百万ガロンの様々な拡散剤をメキシコ湾の海面、海洋石油掘削基地(ディープウオーターホライズン)の流出現場から1マイルの範囲、又は移動する油の池の中心に散布又は投入したとEPAは述べている。

 EPAの毒性学者らはAOLニュースに、”承認リスト中にある拡散剤のあるものが、環境、浄化作業員、及び海洋生物に対する有毒性と危害を及ぼす可能性について懸念している”と述べた。

 彼は、”苛立ちが増しているEPAの科学者や調査員は、承認された拡散剤の毒性データの正確さを検証し裏をとるために一日中忙しく働いているが、あるものは20年あるいはそれ以上前に承認されたものなのでしばしば挫折している”と述べた。

 ”もしナノ粒子を混合物に加えているなら、人への健康リスクがどうかは言うまでもなく、エビやカニ、魚やその他の沿岸野生生物に及ぼすリスクについても誰が知ることができるのか”とベテランのリスク評価員は述べたが、彼はEPAを代表して話す立場にはないとして名前を明かすことは望まなかった。

エビ漁者、作業者の懸念

 この数週間、マイケル・ハーブット博士と労働医学専門家らは漁業者、エビ漁者、浄化及び対策チームの作業者らが、油蒸気や拡散剤の突き刺すような悪臭を伴う化学物質に曝露していることについて声を大きくして懸念を述べている。

これらの懸念には十分な根拠がある

 沿岸警備隊は、水曜日遅く、100隻以上の船からなる浄化艦隊に対して母港へ帰還するよう命令したのは、4隻の船からおそらく有毒蒸気を吸い込んだためと思われる7人の病人が出たからである。5人は退院したが、他の二人は様態を観察中である。作業者らが政府承認の防護マスクを付けていたかどうかに関しては報道により食い違いがある。

 ナノ拡散剤使用の可能性についての報道は、ミシガン州カルマノスがん研究所で環境がんイニシアティブを指導しているハーブット博士を憤慨させている。

 ”メキシコ湾でナノ粒子ベースの拡散剤を使用することについては、工学的又は環境的な観点から決定するのではではなく、もっと公衆の健康と個々の患者介護の問題を考慮すべきである。アスベストがそうであったように、ナノ粒子は中皮腫と呼ばれる悪性のがんを引き起こすことが示されている”と彼は述べた。
 初期のアスベストのように、ナノ粒子の曝露、摂食、吸引のヒト健康影響は研究はいうまでもなく、まだほとんど観察されていない。

 ”このようなやり方で、数トンのナノ粒子を食物や呼吸サイクルに放出すると言うことは無責任なことである”とハーブット博士はAOLニュースに語った。

 ”EPA と OSHAは、自由にあるいは不適切な規制のために近隣や職場に浸透する発がん性物質やその他の有毒物質をよく知っているが、政治的、経済的、又はその他の理由のために、毎年数千人のアメリカ人が殺されているのを放置してきた。このことが自ら正しいことをすべき政府機関や石油会社を信頼することを正当化できない証拠である”。

 EPAと沿岸警備隊はどのような拡散剤をBPが使用しているのか監視しようと試みている。しかし環境活動家らは、どのような未承認物質や油浄化用調剤が海上及び桟橋での作業員によって使用されているのかを知ることはほとんど不可能であり、漁業者やエビやカニ漁者は彼らの重要な漁場を守るために戦っていると述べている。

 また工業用ナノ物質が小さな生物から大きな生物への食物連鎖に入り込むことを示す科学的な証拠があり、このことは工業用ナノ物質の有毒特性が動物の食物連鎖中に取り込まれることを許すことになると科学者らは言っている。

 ”拡散剤中で使用されているナノサイズ粒子が海洋生態系と海の生物に深刻な悪影響を及ぼし得るということは非常に正当な懸念である”とFood & Water Watchの執行役員であるウェノナ・ハウターは述べた。

 ”海洋でナノテクノロジーを使用することは無責任な実験をすることであり、その結果が海洋や私たちの食物系にどのような影響を及ぼすのか誰にもわからない”。

かけめぐる議論

 環境、海洋生物、ヒト健康への安全性の全体的問題は、ワシントンからメキシコ湾岸まで猛然と駆け巡っている。EPAのジャクソン長官はBPに対し、海中に放出している拡散剤の量を減らすよう伝えたがBPはこの要求を無視したとEPA長官は先週の記者会見で述べた。

 ”この事故の前例のない特性のために、BPは以前には決して見られなかった方法で拡散剤を使用している。それは、世界的な記録に達する散布量とその適用方法である”とジャクソン長官は説明した。

 彼女は、拡散剤はある程度効果があるが、”二つの非常に難しい選択のなかから最善のものであり続けなくてはならない。それらの使用は必然的に我々が環境的なトレードオフを行なっている事を意味する”と彼女は述べた。

 しかし、彼女の意見は、ジャクソン長官のEPAが、グリーン・アース社の製品のようなナノ拡散剤を承認するかどうか明確にしていない。

 ”我々はまだ、我々が知らないことについて深く懸念している”と彼女は述べた。”水生生物への長期的な影響はまだ未知であっり、使用される拡散剤は可能な限り非毒性であることを確実にしなくてはならない。これらの未知であること、及びこの危機の長期化が、先週BPに対してもっと効果的で毒性の低い、現在の拡散剤への代替を探すよう指示した理由である”。


訳注1
2010年5月21日 国際NGOsがEPA長官へ手紙 メキシコ湾の原油流出汚染の修復のためのナノ使用に反対



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