Nanowerk 2010年2月1日
プラズモニック・ナノバブル
診断と治療をひとつにまとめるセラノスティック手法

マイケル・バーガー

情報源:Nanowerk News, February 1, 2010
Plasmonic nanobubbles combine diagnosis and treatment in one theranostic method
By Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=14603.php

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2010年2月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/100201_Plasmonic_nanobubbles.html


 多機能ナノ粒子は、医師が疾病の診断と治療をひとつの手順で行うことが出来る技術をもたらすセラノスティックス(theranostics)(訳注: Therapy と Diagnostics の造語)と呼ばれる成長分野の中核である。セラノスティックの将来性は、診断と治療のような医療をひとつにし、治療時間を短縮し、より安全で効果的なものにすることにある。

 ”セラノスティック・アプローチには、高い多機能性と選択性をもった適切なツールが必要である”とドミトリ・ラポトコは Nanowerkに説明した。セラノスティックス開発の初期段階で既に二つの一般的な課題が明らかになった。すなわち多機能手法と作用因子の欠如、そして利用可能な作用因子の選択性と特殊性の欠如−である。これらは最終的には細胞及び分子レベルで求められる。

 ラポトコらは、A.V.Lykov熱質量変換研究所(ベラルーシ)及びM.D.Andersonがんセンター(ヒューストン/テキサス)と共同して、ライス大学基礎生物医学ナノフォトニクス米−ベラルーシ共同研究所において、プラズモニック・ナノバブル(PNB)と呼ばれる構造である金ナノ粒子生成瞬間フォトサーマルベーパーナノバブル(gold nanoparticle-generated transient photothermal vapor nanobubbles)に基づいた新規な方法を開発した。これらの動的に調整される細胞内プラズモニック・ナノバブルは細胞セラノスティックによく適しているが、その理由は、診断(光学的散乱を通じて)、治療(目標細胞の機械的、非熱的、選択的ダメージを通じて)、そして治療の光学的誘導をひとつの高速プロセスに統合するからである。

 Nanotechnology 2010年1月25日号の論文(Tunable plasmonic nanobubbles for cell theranostics/細胞セラノスティックのための調整可能なプラズモニック・ナノバブル)の中で、ラポトコらのチームは、プラズモニック・ナノバブルによるセラノスティックの原理の最初の実験室段階の証明を示した。

 ”我々は、プラズモニック・ナノ粒子のフォトサーマル特性と瞬間ベーパー・バブル特性との組み合わせは、上述したセラノスティックス・アプローチの問題のいくつかに対する主要な解決となるかもしれないという仮説を立てた”とラポトコは述べている。”我々は、ナノ粒子ではなくナノ粒子生成事象−プラズモニック・ナノバブルである調整可能なナノスケール・セラノスティックス探針(probe)の開発を通じてこれを成し遂げたが、それは高輝度と局所化された機械的効果を兼ね備えている。プラズモニック・ナノバブル(PNB)は光学的放射とナノ粒子及びその環境との相互作用の結果として得られたシステムである”。

 彼らの最近の仕事の中で、ライス大学チームは、ひとつの細胞中のナノバブル特性の調整とPNBの多機能の評価に焦点を合わせつつ、個々の生きた細胞中で金のナノ粒子の周囲のPNBsの光学的生成と検出を研究した。

 ナノ粒子ベースの低温療法(hypothermia)、診断、及びデリバリー方法と比べると、プラズモニック・ナノバブル(PNB)は分子及び細胞レベルで作用し、効果を高度に局所化した。このナノスケールアプローチは3つの明らかな長所を持っている。すなわち、1) 診断応用における改善された感度と特殊性 2) 治療応用における改善された選択性と誘導 3) 細胞レベルでの単一プロセスに統合された診断、治療、治療誘導−である。

 ラポトコらは、プラズモニック・ナノバブル(PNBs)の光学的及び機械的特性はその径に依存し、それは50nmから50μmの範囲で調整可能であり、10nsから10μsの範囲で調整可能であると説明する。PNBsのこの短いライフタイムは、要求時に存在する非常に瞬間的な現象を可能にする。

このシステムはどのように作用するか: 診断特化抗体と対をなす比較的安全な金ナノ粒子のPNBsクラスターのターゲット特化生成は、(抗体−抗原反応及び外界から物質を取り込む作用を通じて)選択的に細胞中の分子ターゲットの周囲のクラスターに凝集する。

 ”我々は、個々の生きた細胞中のそのような細胞内クラスターの周囲のPNBsの遠隔(光学的)で非侵襲的(痛みや危険を伴わない)活性化や感知を自由レーザー光線を用いて理解した”とラポトコは述べている。”レーザーパルスにより活性化されると細胞内プラズモニック・ナノ粒子は熱源として作用し、媒体の周囲に瞬間的なPNBを生成する。ナノメートル・スケールのサイズとナノ秒スケールの間隔のPNBs はプローブ・レーザーからの散乱光によって診断プローブ(探針)として作用する。もっと大きなマイクロメートル・スケールのPNBsは、急速な膨張と崩壊により細胞膜を破壊するという機械的(非熱的な)効果を通じて局所化治療作用をもたらす。”

 まとめると、これらのプラズモニック・ナノバブルは、安全で高度に効果的な要求に応じての(on-demand)治療上のナノスケール・プラットフォームを約束する、すなわち、 PNBs は特定の細胞中で選択的に生成されることができ、化学物質を使用せず、全ての生体にとって自然な光と熱のナノスケール現象だけに依存する。

 ”我々は将来、PNBsが基礎生物医学研究、診断、及び治療のための普遍的なプラットフォームを提供することが出来ると信じる”とラポトコは言う。”PNBsの潜在的な応用には下記がある”。
  1) 高感度で非侵襲的なイメージング
  2) 制御された放出、トランスフェクション(訳注:人工的な外来遺伝子を細胞内へ導入)、細胞内デリバリー
  3) 選択的及び誘導的な細胞及び組織損傷

 ”我々はがんを目標としているが、プラズモニック・ナノバブルは分子、細胞、組織レベルで使用できるので、我々の方法は汎用的であり他の病理学的症状にも適用することが出来る”。


当該報告書及び関連報告書のアブストラクト紹介
  • 当該報告書
    Tunable plasmonic nanobubbles for cell theranostics
    http://www.iop.org/EJ/abstract/0957-4484/21/8/085102/
    E Y Lukianova-Hleb et al 2010 Nanotechnology 21 085102 (10pp) doi: 10.1088/0957-4484/21/8/085102

    Abstract
     診断と治療をひとつにまとめ(セラノスティックス/theranostics)、細胞レベルでの選択性を改善することは様々な研究や疾病において著しい便益を提供するかもしれないが、現在は効果的な方法と作用因子によって支援されていない。我々は、プラズモニック・ナノバブル(PNB)と呼ぶ金ナノ粒子生成瞬間フォトサーマルベーパーナノバブルに基づく新規な手法を開発した。
     目標とする細胞へ金ナノ粒子(NP)を送り込み、金ナノ粒子をクラスター化した後、細胞内PNBsが光学的に生成され、レーザー効果を通じて制御される。PNB作用は、個々の生体細胞の中で、低fluenceでの非侵襲的高感度イメージングから、高fluenceでの細胞膜の破壊まで制御される。我々は、PNBsを用いて光学的散乱振幅の50倍の非侵襲的増幅(NPsの振幅に対して相対的に)、より大きなPNBsを用いて特定の細胞に対する選択的機械的及び高速なダメージ、ダメージ特有のバブル信号を通じてのダメージの光学的誘導(ガイサンス)を達成した。PNBs は細胞レベルで診断、治療、医療ガイダンスを支援するひとつのプロセスとして制御可能なセラノスティック作用因子として作用した。

  • 関連報告書
    Nanotech Conference & Expo 2009 May 3-7, 2009, Houston, TX
    Plasmon nanoparticle-generated photothermal bubbles as universal biomedical agents
    http://www.nsti.org/Nanotech2009/abs.html?i=1045
    A.Y. Hleb, N.A. Yakush, J.H. Hafner, R.A. Drezek, J.A. McNew, D.O. Lapotko A.V.Lykov Heat & Mass Transfer Institute

    Abstract
     我々は、新たな光学的手法と作用因子の概念と予備的な実験に基づく評価を報告する。その特徴は、生体組織と細胞中でナノスケールでの非侵襲的光学的感知から選択的機械的損傷までの調整可能な効果を提供するものである。そのような作用因子は、プラズモニックナノ粒子生成フォトサーマルベーパーバブル(PTB)としてナノスケールで光と熱のエネルギーを使用する。プラズモニックナノ粒子はレーザーパルスで活性化されると熱源として作用し、PTBを生成する。ナノサイズのPTBは光を散乱することによって光学的探針(プローブ)として、また局所的破壊的機械的衝撃によって治療上の作用因子として作用する。金ナノ粒子の生物学的安全性、オンデマンド特性、及びPTBsの空間的ナノスケールの組み合わせが、研究、治療のための診断、及び手術についての安全性、感度、選択性を著しく改善する。我々は、PTBsによってホスト細胞を傷つけることなく光学的散乱を1000倍以上増幅し、より大きなPTBsによって目標細胞に二次的ダメージは与えることなく選択的にダメージを与えることが出来ることを示したPTBsの細胞レベルでの研究を報告する。PTBはまた、動物モデルのためにマイクロ組織レベルで評価され、その作用の高い選択性を立証した。

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