ブリストル大学プレスリリース2009年11月5日
ナノ粒子は細胞バリアを越えて
DNAを損傷するかもしれない


情報源:University of Bristol Press release issued 5 November 2009
Nanoparticles may cause DNA damage across a cellular barrier
http://www.bris.ac.uk/news/2009/6639.html

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年12月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/091105_nanoparticles_DNA_damage.html


Nature Nanotechnologyで論文紹介

 科学者らは実験室で、金属ナノ粒子が細胞バリアの向こう側にある細胞中のDNAを損傷したことを示した。ナノ粒子はバリアを通過して損傷を起こしたのではなく、バリア細胞内の信号伝達分子(訳注1)を生成し、それがバリアの向こう側にある細胞中で損傷を引き起こしたものである。

 この研究はブリストル大学の研究チームとその同僚らにより実施され、今週の Nature Nanotechnology オンライン版で発表された(アブストラクト日本語訳)。

 同チームは、実験室でヒトの細胞の層(厚さで約3細胞)を培養した。そして、このバリアを使って、バリアの向こう側に置いたコバルト−クロムナノ粒子への間接的影響を検証した。

 保護バリアの向こう側にある細胞中に見られたDNA損傷の量は、このナノ粒子への細胞の直接暴露によって引き起こされるDNA損傷と類似していた。

 この研究の著者であるパトリック・ケース博士は次のように述べた。”我々は、実験が人体で行われたのではないということを明確にする必要がある。暴露を受けた細胞は培養体中に浸されたが、もし人体内であれば結合組織と血管によりバリアから分離されたかもしれない。バリア細胞は悪性腫瘍細胞株(malignant cell line)で厚さ3細胞であったが、もし人体内であれば、全てのバリアはもっと薄く、非悪性腫瘍細胞であったかもしれない。

 論文の主著者であるゲブディープ・バーブラは次のように述べている。”この研究は実験室で行われたものではあるが、我々の結果は、生物学的な影響が細胞バリアを越えて伝達されるメカニズムが存在することを示し、体内の皮膚、胎盤、脳血流関門などの体内のバリアがどのように機能するのかについての知見を我々に与えるものである”。
 ブリストロ大学整形外科のアッシュレイ・ブロム教授は次のように付け加えた。”体内のバリアがこのように作用するということは、金属片やウイルスのような小さな粒子が体内でどのように影響を及ぼすかの知見を我々に与えてくれる。それはまた、将来、我々が新奇な薬剤療法を実現することが出来る潜在的なメカニズムに光を当てている”。

 これらの発見は、ナノ粒子の細胞への直接的だけでなく間接的影響がその安全性を評価するときに重要となることを示唆している。

 このプロジェクトは、ブリストル大学病院NHS基金Trust's charity Above and Beyond から部分的に助成をうけた。

 更なる情報はCherry Lewisに連絡をいただきたい。


訳注:Nature Nanotechnology Article abstract
Published online: 5 November 2009 | doi:10.1038/nnano.2009.313
http://www.nature.com/nnano/journal/vaop/ncurrent/abs/nnano.2009.313.html

 医療におけるナノ粒子の使用増大は、体内の(バリアで保護された)特別な領域にアクセスする能力についての懸念を生じさせる。ここでは我々は、コバルト−クロムのナノ粒子(径が29.5 ± 6.3 nm)が損なわれていない細胞バリアを越えてバリアを通過することなくヒト繊維芽細胞(fibroblast cells)(訳注2)を損傷することが出来ることを示す。損傷は、ATPのようなプリンヌクレオチドの伝達やコネクシギャップ結合又はヘミチャネル及びパネキシン チャネルを通じたバリア内の細胞間信号伝達の関与する新奇なメカニズムを介して起きる。有意な細胞死なしにDNA損傷を起こすというこの結果は、ナノ粒子への直接的な暴露を受けた細胞中に見られるものとは異なる。我々の結果は、ナノ粒子の安全性を評価する時には間接的影響が重要であることを示唆している。細胞バリアの向こう側にある組織への潜在的な損傷は、患部を標的としてナノ粒子を使用するときに考慮される必要がある。


訳注1:信号分子
NEDO海外レポート NO.957, 2005. 6. 15 細胞信号伝達ネットワークをマッピング(米国)細胞内の分子間の会話を解読

訳注2:線維芽細胞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注:関連記事
ABC News Au Nov 6, 2009, More evidence nanoparticles damage DNA



化学物質問題市民研究会
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