2009年9 月12 日版
ナノ物質管理法(試案)の概要

安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年7月30日
更新日:2009年9月13日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/nano_kanri/nano_gaiyou.html

■段階的な導入
1. ナノ物質の管理項目の緊急度を勘案して、法の段階的な導入を行う。
   第1段階: 暫定的「ナノ物質管理法」
   第2段階: 包括的「ナノ物質管理法」を目指して段階的に着手
2. 段階的導入のスケジュールを確立する。
   第1段階: 2011年12月31日までに完了
   第2段階: 2019年12月31日までに完了

■第1段階: 暫定的「ナノ物質管理法」
1. 既に市場に出ているナノ物質及び製品
  1. 製品に含まれる全てのナノ物質成分のラベル表示義務
  2. 試験データを含む国の定める所定のデータ提出義務(義務的報告制度)
  3. 提出データに基づき、国は暫定的に安全性を評価し、暫定的管理グレード(許可、制限、禁止)を決定

2. 新規に市場に出すナノ物質及び製品
  1. 製品に含まれる全てのナノ物質成分のラベル表示義務
  2. 試験データを含む国の定める所定のデータ提出義務(義務的報告制度)
  3. 提出データに基づき、国は暫定的に安全性を評価し、暫定的管理グレード(許可、制限、禁止)を決定
  4. 暫定的管理グレードが決定されるまで当該ナノ物質の上市禁止

■第2段階:包括的「ナノ物質管理法」

1.目的

 この法律の目的は、国内の様々な産業分野で使用されているナノ物質、ナノ物質応用技術(以下ナノ応用技術)、及びナノ物質を利用した製品(以下ナノ製品)が人の健康と環境に及ぼす有害影響を最小にするために、第5項に示す管理を適切に行うことである。

2.適用範囲

 この法律は下記 1、2 のナノ物質、ナノ応用技術、又はナノ製品に適用する。
  1. この法律の制定以前に既に市場に出ていた全てのナノ物質、ナノ応用技術、又はナノ製品(以下、既存ナノ物質、既存ナノ応用技術、又は既存ナノ製品)
  2. この法律の制定以後に市場に出すことを目的として国内で製造・考案される又は輸入される全てのナノ物質、ナノ応用技術、及びナノ製品(以下、新規ナノ物質、新規ナノ応用技術、又は新規ナノ製品)
  3. 研究・開発用のナノ物質、ナノ応用技術、及びナノ製品の管理は別に定める。

3.基本理念

 この法律は下記の理念に則り作成され、運用される。
  1. 安全性の確認されていないナノ物質、ナノ応用技術、ナノ製品は市場に出さない。(ノーデータ・ノーマーケット原則)
  2. 環境中へのナノ物質放出がヒト及び全生態系へ有害影響を及ぼさないことが確認されるまで、ナノ物質の環境放出を伴う汚染土壌や汚染地下水などの環境修復は禁止する。(ナノ物質の環境放出の禁止)
  3. 有害性が科学的に完全には立証されていなくても、合理的な懸念があれば、事前に予防措置をとる。(予防原則)
  4. 有害性評価、暴露評価、リスク評価は、当該技術を最も熟知していると考えられる製造者、技術適用者、輸入者が実施し、国はその評価作業を支援する。(供給者の評価実施責任)
  5. この法律が求めるナノ物質、ナノ応用技術又はナノ製品の製造者・適用者、又は輸入者への要求は法的強制力を有する。(法的強制力)
  6. ナノ技術の安全管理に関わる策定の全ての過程に市民を含む全ての利害関係者を参加させる。(市民参加)
  7. 安全性に関わる情報は全て公開する。(情報公開)
  8. ナノ物質を含んだ製品に表示を義務付ける。(表示義務)

4.定義

 この法律が対象とするナノ物質は、「大きさを示す3次元のうち少なくとも一つの次元が約1nm〜100nmであるナノ物質、及びナノ物質により構成されるナノ構造体(内部にナノスケールの構造を持つ物体、ナノ物質の凝集したものを含む。)であること」と定義する。

5.基本的管理

 この法律の目的を達成するために、下記4 つの管理を行う。
  1. ナノ技術標準化管理
  2. ナノ物質管理 (主に有害性に基づく管理)
  3. ナノ技術応用・ナノ製品管理 (主にリスクに基づく管理)
  4. ナノ物質影響監視管理

6.標準化管理

 この法律の目的を達成するために、国は下記の標準化管理を行う。
1.定義
ナノ物質の定義 (工業的ナノ物質、自然界ナノ物質、非意図的ナノ物質、など)、
ナノ物質の状態定義 (分散、気体中に浮遊(エアロゾル)、液体中に懸濁(コロイドまたはヒドロゾル)、基質に埋め込み(ナノコンポジット)、凝集塊/アグリゲート(aggregate)、凝集体/アグロメレート(agglomerate)、など)
用語命名、など
2,情報項目
物性情報、有害性情報、試験情報、製造・保管・輸送情報、技術適用情報、暴露情報、MSDS伝達情報など
3.計測
4.有害性試験
5.有害性評価
体内動態 (吸収、分布、代謝、排泄)解析、一般毒性、発がん性、生殖発生毒性、.神経毒性、免疫毒性、遺伝毒性、内分泌かく乱作用、生態毒性(動物、植物、微生物への毒性)、など
6.暴露評価 (製造、輸送、貯蔵、使用、消費、廃棄)
7.リスク評価 (ヒト、生態系、環境)
7.物質管理 (主に有害性に基づく管理)

 ナノ物質製造者・輸入者、及び国は下記の責務を果す。

7.1 ナノ物質製造者・輸入者の責務
1.情報収集・データ作成
情報収集、有害性試験、有害性評価、暴露評価、初期リスク評価、初期リスク管理実施案
2.データ提出
ナノ物質名称、分子構造、一般的物理化学特性、ナノ物質固有特性、有害性情報、生産量・輸入量、用途、製造工程暴露情報、川下ユーザーの予測使用を含む全ライフサイクル(製造、保管、ハンドリング、輸送、使用、消費、廃棄)にわたる暴露評価、初期リスク評価 (ヒト、生態系、環境)、初期リスク管理実施案
3.データの提出時期
新規ナノ物質のデータ提出は製造・輸入に着手する前に提出する。既存ナノ物質のデータ提出期限は別途定める。
7.2 国の責務
1.登録管理
製造者・輸入者からのデータ受付・登録管理
2.提出データの検証
提出データの検証、再試験要求、データの再提出要求、追加データ提出要求
3.評価作業支援
製造者・輸入者の有害性評価及び初期リスク評価の支援
4.管理グレードの決定
国は提出データに基づき管理グレード((許可、制限、禁止)を決定する。
製造者・輸入者は管理グレードが決定するまで、新規ナノ物質を市場に出すことを目的として製造又は輸入することはできない。
5.安全に関わるデータの公開
8.ナノ応用技術・ナノ製品管理 (主にリスクに基づく管理)

 ナノ応用技術適用者、ナノ製品製造者、それらの輸入者、及び国は下記の責務を果す。

8.1 ナノ応用技術適用者、ナノ製品製造者、及びそれらの輸入者の責務
(1) データ収集・作成
情報収集、暴露評価、リスク評価、リスク管理実施案
(2) データ提出
ナノ物質名称(既存の登録ID)、ナノ応用技術 (例えば、汚染土壌浄化、汚染地下水浄化) 又はナノ製品(例えば、ナノ銀応用製品、日焼け止め製品、健康補助食品・・・)の詳細、ナノ物質使用量又は製品中の含有量と状態(例えば自由、固定)、製品用途、製品製造量、製品製造工程暴露情報、全ライフサイクル(製造、保管、輸送、使用、消費、廃棄)にわたる暴露評価、リスク評価((ヒト、生態系、環境)、リスク管理実施案
(3) データ提出時期
新規ナノ応用技術・新規ナノ製品のデータ提出は適用・製造・輸入に着手する前に提出する。既存ナノ応用技術・既存ナノ製品のデータ提出期限は別途定める。
8.2 国の責務
(1) 登録管理
ナノ応用技術適用者、ナノ製品製造者又はそれらの輸入者からのデータ受付・登録管理
(2) 提出データの検証
提出データの検証、データの再提出要求、追加データ提出要求
(3) 評価作業支援
ナノ応用技術適用者、ナノ製品製造者又は輸入者のリスク評価の支援
(4) 管理グレードの決定
国は提出データに基づき管理グレード((許可、制限、禁止)を決定する。
ナノ応用技術適用者、ナノ製品製造者及び輸入者は、管理グレードが決定するまで、新規ナノ応用技術及び新規ナノ製品を市場に出すことはできない。
(5) 安全に関わるデータの公開
(6) 表示の義務付け
9.ナノ物質影響監視管理(モニタニリング)

9.1 国の責務
(1) ヒト影響調査
(2) 製造現場調査
(3) 生態系・環境影響調査
(4) 事業所からの排出量の監視

9.2 ナノ物質製造者、ナノ応用技術適用者、ナノ製品製造者の責務
(1) 事業所へのナノ物質搬入量の届出
(2) 事業所からの排出量(製品、大気、土壌、排水、廃棄物)の届出

(以下追加)
10. 関連する主要な法律

10.1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 (化審法)
(1) 現行化審法の下における既存化学物質の定義
 ・既存化学物質名簿に記載の化学物質(昭和48年10月16日)
 ・白公示化学物質(法第4条第3項に基づき公示された物質 )
 ・化審法規制物質(第 1 種、第 2 種特定化学物質、指定化学物質)
(2) 現行化審法の下における届出義務
 ・既存化学物質からなるナノ物質は既存化学物質であり、新たな届出義務はない。
(3) 提案するナノ物質の管理(届出/審査)
 ・ナノ物質の管理は全て「ナノ物質管理法」で行うこととし、化審法の対象から外す。

10.2 労働安全衛生法
(1) 現行労働安全衛生法の下における既存化学物質の定義
 ・元素(一種類の原子で同位体の区別を問わない )
 ・天然に産出される化学物質
 ・放射性物質
 ・公表化学物質(昭和 54 年 6 月 29 日までに製造、輸入された物質)
(2) 現行労働安全衛生法の下における届出義務
 ・既存化学物質からなるナノ物質は既存化学物質であり、新たな届出義務はない。
(3) 提案するナノ物質の管理(届出/審査)
 ・ナノ物質の管理は全て「ナノ物質管理法」で行うこととし、労働安全衛生法の対象から外す。
(参考:厚労省2008年11月26日報告書「ナノマテリアルについて」は、"既存の化学物質であってナノサイズのものが新たに開発される場合に、労働安全衛生法上、どのように取り扱うべきかについて、別途検討を行っていく必要がある"と指摘している。)
(4) ナノ物質の一元管理
 ・全てのナノ物質は新規化学物質とし、届出と審査はナノ物質管理法で一元管理する。
(5) ナノ物質に関わるその他の管理  ・ナノ物質に関連する作業環境管理、作業管理、健康管理、廃棄物管理、情報伝達/MSDS等は現行どおり労働安全衛生法で管理する。

10.3 化学物質排出把握管理促進法
 ・ナノ物質の事業所からの排出管理は全てナノ物質管理法で行う。

10.4 食品衛生法
 ・ナノ食品、ナノ容器包装などナノ製品が対象。  ・ナノ物質の管理及びナノ製品としての安全評価はナノ物質管理法で行う。
 ・全てのナノ成分の表示を義務付ける。

10.5 消費者製品規正法 (新規立法)
 ・ナノ物質の管理及びナノ製品としての安全評価はナノ物質管理法で行う。
 ・全てのナノ成分の表示を義務付ける。

10.6 薬事法
(1) 医薬部外品及び化粧品
 ・ナノ物質の管理はナノ物質管理法で行う。
 ・ナノ製品としての安全評価は薬事法で行う。  ・全てのナノ成分の表示を義務付ける。
(2) ナノバイオテクノロジー関連
 ・ナノ物質の管理はナノ物質管理法で行う。
 ・下記システムを含むナノバイオテクノロジー関連応用技術の管理は薬事法で行う。

平成18年11月21日 基本政策推進専門調査会
科学技術連携施策群の成果及び今後の課題と進め方(中間報告)
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/suisin/haihu03/siryo2-8.pdf

10.7 農薬取締法
(ナノ農薬:ナノ農薬カプセル、ナノ農薬乳剤など)
 ・ナノ物質の管理はナノ物質管理法で行う。
 ・ナノ製品としての安全評価は農薬取締法で行う。
 ・登録済みの活性成分のナノ版は審査及び登録を新たに行う。
 ・全てのナノ成分の表示を義務付ける。

10.8 廃棄物処理法
 ・ナノ物質の管理はナノ物質管理法で行う。
 ・ナノ物質を含有する廃棄物の処理規定を新設する。

厚労省2008年11月26日報告書の意見(参考)
"ナノマテリアルの製造・取扱事業場で生ずる、ナノマテリアルの飛散のおそれがある廃棄物は不浸透性の破れにくい袋に入れる等によりナノマテリアルが発散しないようにした上で適切に処理する必要がある。"
"また、廃棄物処理を専ら行う事業場あるいはリサイクル処理を行う事業場においては、製品にナノマテリアルが使用されている状況や処理過程でナノマテリアルが作業環境中に発散する可能性を検討し、ばく露の可能性がある場合には、労働者がナノマテリアルにばく露しないよう設備対策を含めて適切な対策を講ずる必要がある。"
"なお、ナノマテリアルの処理については、その性状、物性に適った方法や条件で行う必要がある。例えば、カーボン・ナノチューブについては750〜850℃で熱分解することが判明している。"

10.9 土壌汚染対策法 及び水質汚濁防止法
(1) 現行法には「汚染の除去等の措置命令」及び「汚染除去等の研究の推進」が定められているが、ナノテクノロジーを利用した環境修復に関する記述はない。
(2) 環境中へのナノ物質放出がヒト及び全生態系へ有害影響を及ぼさないことが確認されるまで、ナノ物質の環境放出を伴う汚染土壌や汚染地下水などの環境修復は禁止する。(ナノ物質の環境放出の禁止)


参照:ナノ物質管理法(試案)概念図 (HTML PDF

以上


化学物質問題市民研究会
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