安全センター情報2009年3月号
ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する 労働者ばく露の予防的対策に関する検討会(ナノマテリアルについて) 報告書のポイント 情報源:全国労働安全衛生センター連絡協議会のご好意により、 安全センター情報2009年3月号に掲載の本記事を転載させていただきました。 掲載日:2009年2月28日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/japan/joshrc_2009-3_mhlw_shingi.html 経 過 ○ナノマテリアルの健康影響については不明な点が多いが、予防的アプローチに基づき、本年2月7日にばく露防止対策の通知を発出している[2008年4月号52頁参照]。 検討の視点、範囲 ○ナノマテリアル等の範囲、当面のばく露防止対策及び今後の課題について検討した。 ○「予防的アプローチ」に基づいて、実効可能性のある最善の方法について検討した。 ○個別の物質毎に固有の対策を検討するのではなく、ナノマテリアル全般に対するばく露防止対策について検討した。 ナノマテリアルの範囲 ○対象は「大きさを示す3次元のうち少なくとも1つの次元が約1nm〜100nmであるナノ物質及びナノ構造体であること。」とする。 ○対象とする労働者はナノマテリアルの製造、取扱い又はナノマテリアルを含む製品の廃棄やリサイクル作業に従事する労働者とする。 (※)下線部は通知では触れられておらず、本検討会において新たに検討された内容である。(次頁「ばく露防止対策」も同様) ばく露防止対策 事業場では以下に示す個別対策の内容を参考に、材料やプロセスの実態等にあわせて、ばく露低減に努めるべきである。 【作業環境管理】 ○原材料の調査と作業環境の測定を行う。 ○製造設備等は密閉構造とする。ただし、これが困難な場合においては局所排気装置等の設置等により対処する必要がある。 ○局所排気装置の排気にはナノマテリアルの粒径、フィルターの捕集能力等を調査し、捕集が可能な適切なフィルターを選定する。 【作業管理】 ○作業規程を作成し、十分教育する。 ○床や作業台の清掃はHEPAフィルター(※1)を備えた掃除機を使用する。困難な場合には湿った布を使用する。 ○施設と外部とを区画し、除染区域を設ける。 ○呼吸用保護具については、粒子捕集効率が99.9%以上のものとする。電動ファン付き呼吸用保護具等の使用も認める。また、使用にあたってフィットチェックを実施する。 ○保護手袋、ゴーグル型保護眼鏡、作業衣を使用する。 ○作業記録の作成、保存をする。 【健康管理】 ○ナノマテリアルのヒトへの健康影響については、一般定期健康診断等により健康状況の把握に努める。 【安全衛生教育】 ○ナノマテリアルの物理的・化学的特性、健康影響の可能性、作業環境管理対策、個人用保護具の使用等の事項を教育する。 【その他】 ○発生する廃棄物は不浸透性の破れにくい袋に入れる。廃棄物処理事業場等においては、ばく露の可能性がある場合には設備対策等を講ずる。 ○非定常作業時には局所排気装置等での対策を徹底する。それが困難な場合には呼吸用保護具等の個人用保護具を使用する。 ○爆発火災防止については、取り扱うナノ材料の性状、製造・取扱設備、工程、作業内容等に応じて、粉じん濃度の抑制、静電気の発生防止、酸素濃度の抑制等を講じる。 ○緊急事態の判定基準及び対策を策定しておく。 (※1)HEPAフィルター(High EfficiencyParticulate Air Filter)とは、JIS Z 8122によって、「定格流量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」と規定されている。空気中からゴミ、塵埃などを取り除き、清浄空気にする目的で使用するエアフィルタの一種であり、原子力施設の排気フィルター等に利用されている。 更なる研究・検討課題 ○吸入による呼吸器等への長期的な影響について、小型の実験動物を用いた長期吸入試験等の実施により、有害性の情報の収集 ○有害性の調査研究結果のフォローにより職業上のばく露限界基準の策定 ○作業環境中でのナノマテリアルの挙動の研究 ○簡易に実施できるナノマテリアルの測定方法・機器の開発 ○作業別に有効な局所排気装置の型式・性能について知見の収集、提供 ○局所排気装置等からの除じんに用いられるフィルターや除じん装置の性能についての知見の収集、提供 ○ナノマテリアル用呼吸用保護具の捕集効率等についての情報の提供及び具備すべき要件の基準等についての検討 ○既に化学物質等安全データシート(以下「MSDS」という。)の交付対象となっている物質については当該物質がナノマテリアルである場合の取扱い上の注意事項等をMSDSに反映させ、MSDS交付対象でない場合には、必要な情報をMSDSへの反映等により伝達される仕組みの整備 ○新規の化学物質として新たにナノマテリアルが開発される場合や既存の化学物質であってナノサイズのものが新たに開発される場合に、労働安全衛生法上の有害性の調査等について、どのように取り扱うか検討 ○ホームページの充実やリーフレットの活用、関係団体の広報誌の活用等による情報の収集及び提供、リスクアセスメントの好事例の公表 ○関係府省、関係機関等との連携によるナノマテリアルに関する試験研究の推進及び関係情報の共有 ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会参集者及び開催経過 1 参集者(五十音順) (役職等は第1回検討会開催時) 大前和幸 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室教授 小川康恭 独立行政法人労働安全衛生総合研究所研究企画調整部長 唐沢正義 労働衛生コンサルタント 小西淑人 (社)日本作業環境測定協会調査研究部長 庄野文章 ( 社)日本化学工業協会REACHタスクフォース事務局長兼化学物質管理部長 田中茂 十文字学園女子大学人間生活学部食物栄養学科衛生学公衆衛生学研究室教授 名古屋俊士 早稲田大学理工学術院教授 ○福島昭治 中央労働災害防止協会・日本バイオアッセイ研究センター所長 《座長》 (特別参集者・ナノテク関係) 小川順 ナノテクノロジービジネス推進協議会社会受容・標準化委員会委員 蒲生昌志 独立行政法人産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センターリスク管理戦略研究チーム長 菅野純 国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター毒性部長 甲田茂樹 独立行政法人労働安全衛生総合研究所有害性評価研究グループ上席研究員 高田礼子 聖マリアンナ医科大学予防医学教室講師 明星敏彦 学校法人産業医科大学産業生態科学研究所労働衛生工学研究室准教授 2 開催経過 [省略] 第1回 平成20年3月3日(月)〜第9回 平成20年10月31日(金) 「報告書」はじめに―1. 経緯 ナノマテリアルのナノとは10億分の1を表す単位で、1ナノメートルは1ミクロンの更に1000分の1の長さである。ナノマテリアルとは、その大きさがナノサイズである材料を意味するが、ナノマテリアルについては、組成単位がごく小さくなることにより、ナノマテリアル特有の物性を示すことが知られており、従来の材料にはない優れた性質を有する新素材が得られる可能性が高いことから、国際的に積極的な研究開発が進められている。既にナノマテリアルとしてカーボンブラック、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛等が生産されており、用途もタイヤ、シリコーンゴム、化粧品、医薬品等に使用されている。さらに、近年カーボンナノチューブを中心に研究開発が積極的に行われており、今後更に新しいナノマテリアルが開発され、様々な用途に用いられていくことが予想される。 一方、ナノマテリアルの生体影響に関する研究は世界各地で行われているものの、未だ十分な知見が得られていない。最近、一部の学術論文において一定の条件下でマウス等に影響を与えることを示す報告等もなされているところであるが、人の健康に影響を及ぼすとした報告はない。 今後、ナノマテリアルの生産・利用の拡大に伴い、その製造、取扱い等に従事する労働者の増加が予想されることから、厚生労働省では、当該労働者の健康障害を未然に防止する観点から、現在、化学物質管理に関する基本的な考え方として国際的に広く知られている「予防的アプローチ」に基づき、労働現場におけるナノマテリアルに対する当面のばく露防止のための予防的対応について取りまとめ、平成20年2月7日に通知「ナノマテリアル製造・取扱い作業現場における当面のばく露防止のための予防的対応について」を発出し、その周知に努めているところである。 労働現場におけるナノマテリアル対策の実効を上げるためには、作業現場の実態を踏まえた、より具体的な管理方法を示すとともに、ばく露防止対策上の現状と課題についても検討していく必要があることから、今般、学識経験者等を参集し、「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」(座長:福島昭治中央労働災害防止協会・日本バイオアッセイ研究センター所長)を開催し、ナノマテリアルのばく露防止対策について検討を行い、本報告書を取りまとめた。 「報告書」目次 第1部 はじめに 第2部 ナノマテリアルの用途、生産量及び性状について 第3部 ばく露防止対策の検討の視点、範囲等について 第4部 ばく露防止対策に係る検討結果について 第5部 おわりに ※原文入手先:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/s1126-6.html |