ノルウェー研究評議会 2012年8月15日
干草中のナノの針を探す

情報源:The Research Council of Norway, August 15, 2012
Finding the nano-needle in the haystack
http://www.forskningsradet.no/en/Newsarticle/
Finding_the_nanoneedle_in_the_haystack/1253979295951


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年9月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/institution/120815_nano-needle_in_the_haystack.html

 ノルウェーの研究者等は、世界でまっさきに実験動物及び土壌中のナノ粒子を追跡するために放射能を利用した。彼等の発見は、ナノ粒子を含む製品が増大する中で、その有害な環境影響を特定することを容易にした。

 ナノテクノロジーは、バクテリアを殺したり、臭いを消したり、その他多くのことにより商品の特性を改善するために利用することができる。しかし、これらの製品が廃棄され、非常に小さな粒子が環境中に放出されると、何が起きるのか? 運動着や洗濯機、冷蔵庫の中のバクテリアを殺すこれらの特性がまた、意図しない有害影響を健康と環境に及ぼすことがあるのではないか?

ミリメートルの数百万分の1

 ナノ粒子の使用は環境的に有害な物質を研究する研究者等に新たな疑問を提起する。ナノ粒子のサイズは実際にミリメートルの数百万分の1で測定される。それらは一般的な化学物質に使用されている検査手法には余りにも小さ過ぎる。

 最初の課題は、これらの粒子がどこに蓄積しているのかを追跡する方法を見つけることである。もしそれらが蓄積している場所を探すことができなければ、それらの影響について多くを決定することは不可能であろう。それではそれらを追跡するために何がなされなくてはならないか?

 ”もし針が放射性であれば、干草の中の針を探すのはもっと容易になる”とデボラ・オートン博士は言う。オートン博士はノルウェー大学生命科学(UMB)で放射線化学を専門にしている。UMB、ノルウェー水研究所(NIVA)、ノルウェー農業環境研究所(Bioforsk)、及び国際的な研究パートナーが参加する共同研究プロジェクトの一部として、彼女はナノ粒子に放射能を持たせてそれらを追跡する手法を開発するための取り組みを率いた。このプロジェクトは、2015年に向けてのノルウェー環境研究(MILJO2015)に関するノルウェー研究評議会のプログラムの一部である。

発見の難しさ

 ”ナノ粒子は非常に小さいので、他の環境有害物質と共通の手法を用いることは難しい。ナノ粒子汚染の潜在的な影響を調べている研究者等は、しばしば彼等の実験で非現実的に高いナノ粒子濃度を採用しがちである”とオートン博士は述べている。

 しかし、そのようなアプローチにはいくつかの欠点がある。先ず第一に、粒子の特性は濃度が高まると変化する。第二にそのような手法は、ナノ粒子の拡散パターン、時間経過による分解、又は自然界で普通に起きると推定される濃度でのナノ粒子の蓄積する能力についてほとんど何も明らかにしない。

 ”このことが、放射能を用いてナノ粒子を追跡することが可能かどうかをテストしたいと望んだ理由である”とオートン博士は説明している。

マーカーとしての放射能

 オートン博士には、放射線化学のバックグランドがあり、放射能はナノやその他の分野でマーカーとして利用することができるというアイディアを持った。関連する手法は既に医学的診断はもとより、放射性環境汚染物質の研究で既に利用されている。

 ”我々は他の分野で使用されている手法を調べ、ナノ粒子にも有効であろう方向に向けて工夫した。そのアイディアというのは、粒子が放射能を有するなら追跡できるということである。我々の試みは、非常に低濃度の粒子でも、この手法を使用すれば大量の新たな価値ある情報を入手することができることを示した”とオートン博士は述べている。

魚類に著しく有害

 オートン博士と同僚のBioforskのエリック・ジョナー博士はとりわけ、銀、コバルト及びウランの放射性ナノ粒子を含む馬糞をミミズに与える手法にたどり着いた。その結果、彼等は放射性物質がどのように分布するのかを観察し、その観察結果を生理学的発見と比較することによってナノ粒子の摂取と蓄積を研究することができた。同じプロジェクトの他の実験で、魚を様々なナノ粒子濃度で曝露させた。

 ”我々の発見のひとつは、ナノ粒子は様々な臓器中に蓄積することができるということを示した。サケでは、あるナノ粒子がエラの機能に影響を及ぼし、有害な影響をもたらしたことを観察した。あるタイプのナノ銀は驚くほどの低濃度でエラ機能を不全にして死に至らしめた”。

 この研究は、発見の関連性を最適にするために湖の水を使用した。ノルウェーの多くの湖の水は比較的カルシウム濃度が低い。我々はこのことがナノ粒子が水中に留まる時間を長くすることを発見したとオートン博士は述べている。

 ナノ銀は以前に下水処理施設からの排水中で検出されていたので、ナノ粒子が魚に有害影響を及ぼすかもしれないという発見は懸念の根拠を与えるものである。ナノ銀はまた、衣料品中でも広く使用されており、衣類の洗濯がナノ銀を排水中に放出することを研究が示している。ナノ銀は多くの国で洗濯機自体にも使用されているが、ノルウェーでは使用は許されていない。

ナノ粒子は長期間イオンを放出することができる

 研究者等はまた、土壌中のナノ粒子の長期的な挙動についての新たな情報を発見した。

 ”ナノ粒子は、イオンをゆっくりと放出することで時間経過と共に分解する。あるナノ粒子については、これらのイオンは生物に対して有害影響を引き起こす。このイオンのゆっくりとした放出は、自由ナノ粒子が長期間にわたり環境を汚染し続けることを意味する”とオートン博士は述べている。

あるナノ粒子は他のもより有害である

 研究者等はまた、様々なナノ粒子間の相違を発見した。ナノ銀は最も毒性のあるグループのひとつであった。

 ”ある種のナノ銀は、他のものより大きな毒性影響を持つ。政府と産業が様々なタイプのナノ粒子が関わるリスクについてもっと多くを学ぶことが重要である。ナノ粒子の環境的影響に関する他の研究と共に我々の研究の発見は、環境へのダメージを防止するために、いかに使用を規制するか十分に知るようになることを意味する”とオートン博士は述べている。

成長する市場と研究活動の発展

 近年、ナノ粒子の使用は非常に増大している。適用分野は、化粧品、衣料、おもちゃ、食品などがある。抗菌用コーティングとしてのナノ銀は、冷蔵庫、運動着、絆創膏などで最も一般的に使用されている。

 健康と環境に及ぼすナノ銀やその他のナノ粒子の影響に関する非常に多くの研究がノルウェーでも他の諸国でも実施されている。

 ”我々の研究プロジェクトの結果は国際的に発表されており、多くの国から関心を寄せられている。我々は現在、放射性マーカーに基づく測定手法を開発するために、とりわけフランスの研究者らと協力関係にある。同時に、ノルウェーとEUの研究機関もまた、関心味を示した。作業はノルウェーとヨーロッパの研究機関により資金提供を受けたいくつかのプロジェクトの下に続けられている”とオートン博士は指摘している。

統合研究の取り組み

 ナノテクノロジーと新たな材料は、2002年に研究プログラム、大規模プログラム・イニシアティブにおけるナノテクノロジーとナノマテリアル(NANOMA)を確立して以来、ノルウェー研究評議会における優先分野となっている。研究活動は、新たな大規模プログラム、ナノテクノロジー と先端材料(NANO2021)の下に継続されるであろう。

 ”ナノテクノロジーは、世界の主要な課題を解決するのに役立つことができる非常にエキサイティングないくつかのドアを開くことができる。このことが、エネルギー、環境、健康、そして持続可能な天然資源の利用の分野での知識と価値の創造を作り出すために我々が新たなプログラムを確立している理由である”とノルウェー研究評議会の議長アービッド・ハレンは述べている。

 ”同時に、我々は、技術開発は全体的に個人と社会の両方に利益をもたらす方法で責任をもって実施されることを確実にするための手段を講じるであろう。ナノテクノロジーと先端的材料の使用の増大に関連するリスクはこの新たなプログラムの下における研究の重要な焦点となるであろう”と彼は付け加えた。

 他の研究評議会のプログラムもまた同じ課題であるが異なる見地から対応している。

 ”環境研究プログラム MILJO2015 の目的は、例えば、我々が使用する製品に加えられるナノ粒子とその他の物質が自然環境に及ぼす意図しない影響に目を向けることである”とハレンは説明している”。”これは、将来の革新と規制のための最良の可能性ある基盤を確実にしつつ、全体的な展望で研究を見ることを可能とする”と彼は結論付けた。


Facts about the project
  • Project title: “Development of methods for tracing nanoparticles in the environment”
  • Project period: 2008 - 2010
  • Norwegian institutions: Norwegian University of Life Sciences (UMB), Norwegian Institute for Water Research (NIVA), Bioforsk
  • Institutions in other countries: Purdue University, University of Antwerp, Catalan Institute of Nanotechnology (Barcelona).
  • Project manager: Deborah Helen Oughton, professor at UMB. Email: deborah.oughton@umb.no
  • Funding: Research Council of Norway's programme on Norwegian Environmental Research towards 2015 (MILJO2015)
  • Written by: Jon Bjartnes/Anne Ditlefsen. Translation: Glenn Wells/Carol B. Eckmann Published: 15.08.2012 Last updated: 17.08.2012


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